第16話「王都」
俺たちは今、ベラード王国王都に来ている。
そして今、俺は女性陣の買い物に振り回されていた。
「さ、次いくわよ!」
「ま、まだいくのか!?」
「当たり前よ。まだ4件しか行っていないじゃない」
「いやもう……4件も行ったじゃないか」
女性の買い物がいちいち長いのはどの世界でも同じなのか……
ホントに骨が折れる。
「リュウタロウ様は買い物とかされないのですか?」
「え?まあ……」
これは異世界に限ったことではないが、買い物は基本的にしない男だった。
というか外に出ない。部活とか学校がある以外は。
いつも部屋で異世界ラノベばかり読んでいるインドア野郎だった。
だって外行くと疲れるじゃんか……
だからこういう体験は下手したら今回が初めてかもしれない。
しかも異性と買い物なんて最初で最後なんじゃないかってぐらいだ。
「今日は王宮に出向かないといけないからほどほどにね」
「あ、そうだった」
「大事なことを忘れるなよ……」
そうだ。今回王都に来た目的はショッピング以外に2つある。
1つは『
2つ目は王宮訪問だ。これはベラード国王きっての願いらしく、まだ詳細は聞いていない。
そしてもうすぐ王宮訪問の時間帯だ。
「そろそろ王宮に行く時間だな……」
「ねぇ、リュウタロウ! 私今度はあれを食べてみたい!」
「え? ああ」
ああいう風に子供みたいにはしゃぐアイリスは新鮮だった。
プライドが高く、気が強い所もあるが中身は女の子って感じだった。
「ま、たまにはこういうのもいいか……」
俺はその後ろをすぐに追いかける。
* * *
王宮訪問の時間となった。
俺たち3人は白基調で装飾されたベラード城の前にいた。
そこにはレーナ会長の姿もあった。
「れ、レーナ会長も呼ばれていたのですか?」
「ああ、言うのを忘れたが私も御供することになっている」
監視兵が城の正門を開城する。
「いよいよ国王様とご面会か」
「緊張するわね」
「こんな光栄なことはないですわ」
「緊張で身体が震えています……」
ベラード城の正門を抜け、王宮入りをする。
もちろん俺は王宮内には入ったことはない。
またアイリスたちも初めての王宮入りだそうだ。
広く長い廊下を抜け、全体までにゴージャスな装飾で彩られた扉の前まで案内された。
この先にベラード国王がいるらしい。
案内人のベラード兵がゆっくりと扉を開ける。
(いよいよか……)
中にはいると、とてつもなく天井の高い玉座の間であった。
奥行が広く、サイドには火の灯が俺たちを歓迎しているようにも思えた。
そしてその最奥の玉座に身を委ねているのはベラード国王そのひとであった。
俺たちは陛下の前でゆっくりと身を縮める。
「国王陛下、セントバーナー魔術学園の生徒一同をご案内いたしました」
「うむ。下がれ」
「はっ」
ベラード国王は間を少し開け、口を開いた。
「顔を上げよ。生徒諸君」
俺たちはゆっくりと顔を上げる。
(うわっすげぇ、ガチの王様やん! いかにも異世界物に出てきそうな感じの。これは興奮するわぁ)
表情こそ変えない努力をしたが、頭の中ではオーバーヒート寸前だった。
「よくぞ、来てくれた、礼を申し上げるぞ。大きくなったなレーナよ」
「お久しぶりです。陛下」
レーナ会長が俺たちに代わって返答する。
さすがレーナ会長だ。抜け目ない堂々とした姿だ。
レーナ会長はどうやら過去にも陛下と会ったことがあるみたいだった。
「頼もしくなったな。小さかったあの頃とは大違いだ」
「ありがたきお言葉。ところで陛下、本日は何用でございますか?」
「ああそうだった。君たちに礼を申し上げたくここに呼んだのだ。例の
「いえ、民を守るため当然のことをしたまでです。苦戦を強いられましたが此処にいる4人のおかげで討伐することができました」
すると陛下が俺の方に目を合わせてきた。
「時に、レーナよ。ザイゼン・リュウタロウというものはそこの若造のことか?」
「左様で御座います陛下。彼がザイゼン・リュウタロウであります」
「おお、そうか。君がザイゼン君か」
話しかけられた! なのに声が出ない。
話そうとするも緊張のあまり声が出なかった。
「ん? どうかしたかね」
「あ、あの、ら、ラーメンはお好きでしょうか!?」
アイリスたちが「何言ってんだお前」みたいな表情で見てくる。
いやホントに何言ってんだ俺。咄嗟に出た言葉がそれかよ。
恐らくさっきの買い物中にラーメンのことを考えていたのが悪かった。
やらかした。
恐らく俺の中で人生最大級といっても過言ではない黒歴史を刻んでしまった気がする。
頭の中が混沌とし始めた時、陛下が質問をしてきた。
「む? ラーメンとはなにかね?」
もういいや。どうとでもなれ。
「あ、はい! ラーメンとは我が国に伝わる麺を使った料理でございます」
「ほう……聞いたことのない料理であるな。実に興味深い」
お? なんか反応が思っていたより違うぞ?
「私は、生粋の食通でな。世界中の料理を食べ歩くのが趣味なのだ。そのラーメンとかいう料理は是非味わってみたいものだ」
「わ、わかりました! 今度お作りいたしましょう!」
「本当かっ? 楽しみにしておるぞ」
「はい!」
もう俺たちが此処に何をしにきたのかすら分からなくなってしまった。
これじゃあただ単にラーメンを布教しにきただけになってしまう。
するといきなり陛下が大声で笑いだす。
「はっはっはっ! ザイゼン殿。お主は中々面白いやつよの。気に入ったぞ」
「え、あ、ありがとうございます」
「うむ。ところで一つ聞きたいことがあるがよいかね?」
「あ、はい! 何なりと」
ようやく喋られるようになってきた。
身体が段々と柔らかくなっていくような感じがした。
「君のマグについてなんだが……そこにいるのがそうかね?」
(ん? そこに?)
『お、おっさん! 私の姿が見えているのか!?』
「なに!? 喋るのか!?」
国王陛下はかなり驚いているようだ。
それにしてもなぜ見えているんだ?
ここに入る前に、ヴィーレには他人から完全に見えなくする迷彩魔術をかけていたはず。
陛下はいきなり立ち上がり、俺の所へ寄ってくる。
そしていきなり詠唱を始めた。
「
陛下が唱えた瞬間、ヴィーレにかけた迷彩魔術が解けていく。
「ほう、やっぱりそうか。武器の持ち込みに関して気を使っていたようだが、気にせんでいい」
「あ……そうですか」
というかこの魔術はレーナ会長が万が一のために施してくれた魔術でL6(ランクゼックス)級の難関魔術であるらしいのにあっさりと陛下は解読した。
「まさか本当にマグが喋りだすとは。さすがの私も驚きだ」
「陛下、紹介が遅れました。私のマグ、ヴィーレでございます」
『よろしくな! おっさん!』
(いやだから陛下に向かっておっさんはやめろって!)
「うむ。君はマグでありながら自制心を持っているのかね?」
『まぁ主様の魔力の供給で動けてるってのはあるけどな』
「なるほど……実に興味深いな」
陛下はその場で何かを考え込む。
「ザイゼン殿。君の大事なこのマグを私に預けてはくれまいか?」
「えっ……?」
陛下は自身でマグの起源や原理を研究している学者でもあるらしい。
学者の性か知らないが、研究してみたいそうだ。
俺自身も何が起こったのか知りたいというのもあったので預けることには賛成だった。
だが、ヴィーレ自身はあまり乗り気ではなかった。
『や、やだっすよ。解剖されたりするんでしょ?』
「いや少しだけ話を聞きたいだけだ」
『本当か……? おっさん」
「ああ、本当だとも」
しばらくヴィーレと陛下のにらめっこが続く。
まぁ、ヴィーレには顔という概念がないので見ている側としては凄くシュールなのだが……
『分かった……おっさんを信じよう』
「ありがたい。というわけでザイゼン殿。すまないが預けてはもらえないだろうか?」
「あ、はい。分かりました。ヴィーレを頼みます」
「すまないの。褒美は後日、君の口から聞こう」
俺は王都に滞在する間だけ、ヴィーレを預けることにした。
そしてまた後日、陛下と会うことになった。
そして俺たちは明日に迫った水舞祭に向けて練習するべく、王宮を後にしたのであった。
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