第27話「氷の国」
「あなたは何者なんです?」
俺はいきなり現れた謎の男に問いかける。
「俺はナパード公国、ミンスリー親衛隊隊長のアルベルトというものだ」
「ミンスリー……だと?」
そのワードで頭をよぎったのは集会所でのギルド掲示板だった。
「『スノープリンス』の親衛隊ですって……? まさかさっき襲ってきたアンデッドの集団は……」
「ご、誤解だ! 俺はそんなことはしない」
「怪しいですわね」
殺戮姫のこともあってか皆、疑いをかける。
しかし、なんとなくだがこの人は悪いようには見えない。
あくまで俺の直感だがそんな気がした。
「みんな、この人を話を聞いてみないか?」
「リュウタロウ? 何言っているの?」
「そうですリュウタロウ様。この男はあのミンスリーの親衛隊なのですよ?」
「それでもだ。俺はこの人が悪いようには見えない。何も聞かずに斬るのはあんまりじゃないか?」
するとミルも俺の意見に賛同する。
「私も賛成です。今の私たちには情報が必要です。これは良い機会かもしれません」
それにナパード公国を脅かしているスノープリンスの親衛隊がこんな所にいるのも気になる。
見た感じ鎧以外は武装をしている気配もない。なんだか丸腰で逃げてきた、みたいな。
俺とミルの説得で2人も仕方なく話を聞くことに。
「すまない……では我々の隠れ家に案内しよう」
こう言って連れてこられたのはゴーストタウンから少し離れた小屋だった。
「私以外にももう1人おります。どうぞ中へ」
アルベルトに誘わられ、中に入る。
マリーさんは外の監視と馬車の管理の為、外に残った。
「ミンスリー様、客人を連れてまいりました」
(ミンスリ―って……)
「客人……ですか?」
振り返ったその美少女の姿は俺の目に焼き付いた。
金髪のショートに澄んだ蒼い瞳。見た目の可愛さは残しつつ凛々しさも感じる。
俺の目は彼女に釘付けになっていた。
「あ、あの……何か?」
(あっ……やべ)
前も同じことをしたような気がするのに学習しない俺。
疑問的表情を見せるミンスリ―とあまり快く思っていない3人の女性陣。
「りゅうーたろー?」
「初対面の方をあまり凝視するのはよくないですわよ」
「リュウタロウさん、いくら美人さんだからって見すぎです……」
3人の視線が怖い。特にアイリスとイルーナ。
この2人は女性絡みとなるとなぜか俺に殺気を飛ばしてくる。
「あの、ごめんね。ちょっと気になったことがあって」
「い、いえ。大丈夫です。恐らくあのことでしょうから」
(あのこと……? 自身がスノープリンスだということか?)
「と、とにかく俺たちはアルベルトさんに話があってここに来たんだ」
「そうなのですか? アルベルト」
「はい。その通りでございます」
「あ、そういえば」
自己紹介がまだであった。
俺たちはそれぞれ自己紹介をし、ベラード王国から物資を運んできたということを言った。
もちろんこれは本当の任務をカモフラージュさせるための嘘である。
監視の任務については極秘のため、関係者以外に知られてはならなかった。
「そうですか……ベラードからわざわざ。あっ……私も自己紹介がまだでしたね。私の名前はミンスリー・ナパードと申します」
「ミンスリ―ですって?」
やはりこの人だ。いま世間を騒がしている殺戮姫というのは。
イルーナもすぐに反応した。
だが、見る限りだとそんなことをするようには到底思えなかった。
それになんか元気がなく、無気力だった。
「ミンスリ―って……あなた『スノープリンス』なの?」
アイリスが放った言葉にも動揺せず淡々と答えていく。
「はい……でも現実は姉の身代わりです」
「身代わり……?」
ここでアルベルトが割って入るように話を切り出してきた。
「リュウタロウ殿、聞いてほしいことがある」
それから俺たちは本当のスノープリンスはミンスリ―姉のプリシアであるということ、そして今、この国で起ころうとしていること、現在まで起こってきた出来事などアルベルトから事細かく聞いた。
「姉が本当のスノープリンス……」
「はい、私たちはプリシア姉さんの罠にまんまとはまったのです。自身が国の実権を握るために……」
「なんてことを……無実の人が罪に問われるなんて」
彼女の瞳は澄んでいて美しいのだが、その先には暗い現実があったのだと話を聞いて痛感した。
そこでアルベルトは俺たちにこんな提案をしてきた。
「リュウタロウ殿、皆さん。無礼を承知で言わせていただく。我々に協力していただきたい」
「協力……ですか?」
「この国は滅びの一途を辿っている。プリシア様は間違った方向へと進もうとしておられる」
「ということはこのままいけば……」
「国が……滅ぶ」
ここまで聞くと協力したいのではあるが、今回の任務はナパードにある実験施設の監視だ。ここまで関与するとなると王都に許可を取らなければならない。
だが、こんな暗い話を聞いておいて断るわけにもいかなかった。
「リュウタロウ様、ちょっとこっちへ」
こういうのは外にいた戦闘メイドマリーさんだ。
「どうしました?」
「任務の話で決断を迷われているのではないかと思いまして」
「聞いていたんですか……」
「はい、私はこう見えて地獄耳なので。その件に関しては私がなんとかいたしましょう」
「大丈夫……ですか?」
「はい、お任せください」
そんなわけでマリーさんの提案により、俺たちはアルベルトの要件を受け入れることにした。
「ありがたい。恩にきるぞリュウタロウ殿」
「ありがとうございます……リュウタロウ様」
彼女の目には少しばかりの涙が。
そしてじっと俺の方を見る。
「あ、あの……姫様?」
「あっ……申し訳ありません」
涙を拭いながら謝罪をする。
予想はしていたが案の定後ろから殺気のオーラが。
振り返るのが怖かったため、見ないことにした。
「それで……最初は何からなさるのですか?」
「まずは研究施設の停止だ。これは最優先で止めなければ被害が増える一方だ」
これに関しては皆、賛成だった。
まぁ元々この施設の監視であったため、自分たちで見つける手間が省けた。
「出発は早朝で大丈夫か?」
「私は大丈夫ですよ」
「大丈夫ですわ」
「はい、問題ありません」
どうやら他の人たちもOKなようだ。
「入国する時は私がなんとかしますのでご安心ください」
ミンスリ―姫も気合い十分だ。
さっきより目の色に魂が入っている気がした。
そして時は流れ、次の日の早朝。
「よし、行くぞ!」
俺たちはナパード公国へ向けて再出発した。
ここから先はあまり時間はかからないため、予定より早く着きそうだった。
次第に草原一色だった世界から一面の銀世界に変わっていく。
そしてもう1つの変化、それは気温である。
とにかく寒い。防寒具を持ってきていなかったら今頃どうなっていたか。
「氷の国というだけあって寒いな……冷凍庫にぶち込まれている気分だ」
「こんなのは想定内よ。この辺は氷のスピリットが封印されている場所なんですもの」
「スピリット? 精霊のことか」
「ええ、世界にはこんな風な場所から溢れているわ」
精霊の力ねぇ……さすが異世界だ。
一度でもいいから精霊なるものを拝んでみたいものだ。
寒さに耐え、ようやく公国の入口へとたどり着くことができた。
ミンスリーは1枚のカードらしきものを入国審査官に見せ、難なく入国することができた。
それを見ると当時異世界に来たばかりだった頃のことを思い出す。
犬の真似をするという恥辱に耐えながらも入国することができた黒歴史だ。
ある意味忘れられない記憶だホントに。
「皆さん、ここからは隠密行動です。くれぐれも身元がばれないようにお願いします」
とまあこんなわけで俺たちのナパード公国での任務が始まったのである。
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