第2章 学園編

第9話「初体験」

 学園生活2日目になった。

 俺はまたアイリスと共に学園へと向かう。


 が、一つだけ問題が発生した。

 それは学園に着き、教室に向かう時であった。


「あ、リュウタロウ様!」

「イルーナさん。おはよう!」


 彼女はイルーナ・ナイトメア。

 先日、男子生徒に迫られていた所を俺が助けた。


「リュウタロウ様はお早い登校なのですね」

「ま、まあ最初は遅刻とかしたくないし……」


 2人で楽しく話していると、横からなにやらオーラ的な物を察知した。


「リュウタロウ……様? いったいどういうことなのかしら?」

「あ、いや! 違うんだアイリス。決してやましい関係とかそういうのじゃないから!」


「あら、そちらはもしかするとリュウタロウ様の恋人ですの?」

「いや! 違うから……」


「どういうことなのか説明しなさいよリュウタロウ!」

「いやこれは昨日ちょっとあってさ」

「なに!?」


(アイリス顔近い! だがほんのりいい匂いが……)


 いやいやそんなこと考えている暇はない。

 とりあえず弁解を―――


「昨日、絡まれているところを助けたんだよ。男子に襲われそうになっていたからさ」

「はい、リュウタロウ様が白馬に乗った王子様のように颯爽と駆けつけてくださって……」

「いやいや、そんな壮大な感じじゃないけどね!」


「ふーん、でも昨日の今日にしてはやけに仲良しね」

「はい?」


 気がつけば俺の腕にイルーナがしがみついている。


「ちょっ! イルーナさん!?」

「どうかしました? リュウタロウ様」

「くっつきすぎだよ!」

「いいではありませんか。ワタクシは大変あなたのことを気に入りましたわ」


 イルーナはさらに体を密着させる。

 豊満なお胸が俺の腕に突き刺さる。


(で、でかい! しかも柔らかい感触が直に感じる……)


「はぁ、もういいわ。私、先行っているから」


 アイリスは少しふて腐った様子で教室へと行ってしまった。


「あ、アイリスまっ―――」


 俺の叫びは途中で切り裂くように遮られた。


「リュウタロウ様」

「ど、どうしたの?」

「あの女性の方は本当にリュウタロウ様の婚約者ではないのですね?」

「……は? 婚約者?」


 なぜかさっきよりグレードが上がっている。

 だが、彼女の眼差しは真剣でふざけて聞いているわけでもなさそうだった。


「い、いや違うよ。まあ一緒にいることは多いけど」

「親戚かなにかで?」

「いや、恩人というか家主というか……」

「まぁ! リュウタロウ様の恩人の方だったのですね! それなら安心ですわ」


 何が安心なのかさっぱりだが、とりあえず恋人ではないことを理解させることはできたようだ。


「あら、もうそろそろHRが始まってしまいますわ。それではリュウタロウ様、良い1日を」

「ふう……やっと解放された」


 とりあえず急いで教室へと駆け込む。


「あ、やべ! 今日はHRから外で魔術実習があったんだ!」


 誰もいない教室を後に、すぐさま訓練場へ。


「はぁーはぁーはぁー。す、すみません。遅れました」


 時刻を見ると集合予定時間よりも5分遅刻だった。


「遅いですよ。リュウタロウさん」

「すみません……エリカ先生」

「特別に最初だけは許します。次からは許しませんよ?」

「あ、はい! ありがとうございます」


 エリカ先生にご慈悲を頂いた俺はなんとか遅刻扱いにならずに済んだ。


「はあ……朝から疲れた……」


「まるで恋人のようにくっつき合っていたわね」


 アイリスがじーっと俺のほうを見る。


「いや、くっつき合ってないから! あれはいわゆる事故だ!」

「へぇ~まんざらでもなさそうだったけど?」

「うっ……!」


 確かにドキッとはしたがそれ以上までは達していない。

 というかむしろあそこまで積極的にやられて無反応でいろというのがまず無理である。


「とにかく! 誤解だから」

「はいはい、わかりましたよ……もう」


 アイリスの頬がプクッと膨れ上がる。


「それでは皆さんに今からマグを扱っての実践練習をしていただきます」


 エリカ先生が訓練内容を説明する。

 今回の訓練はあらかじめ用意されたターゲットにマグを使った遠隔魔術によって破壊することだ。

 つまり物理的に、ではなくて魔術を使ってターゲットを破壊しろということだ。


「最初にやってもらうのは……リュウタロウさんからやってもらおうかな?」

「え? 俺?」

「今日遅刻したペナルティとしてやっていただきます」

「わ、わかりました」


 さ、最初か……


 人の見られているところでマグを使うのは結構緊張する。


 ターゲットから数百メートルはなれた場所にスタンバイする。

 腰にさしたわが相棒、ヘッズナイトを抜いて構える。


「なんだあのマグは……みたことないぞ?」

「ものすごい熱気を感じる……」


 所々ヘッズナイトに対しての意見がクラスメートたちの間でちらほらでた。

 それもそのはずこのマグは、ベラード王国が誇る『祇王騎士団』団長、バルク・リーベンバッハのために特注で作られカスタマイズされた世界で一本しか存在しないマグだからだ。


 そこらで大量生産された市販のマグとはわけが違う。


 俺は深く深呼吸し、魔力を高める。

 自身の周りには地鳴りがし、魔力の高まりを感じる。


 そして一声。


呼応コンコード!」


 魔力の放流が起こり、力の渦を形成していく。


「はああああああああああ!」


 雄叫びとともにマグから鋭い一閃が光を帯びながら的めがけて飛んでいく。


 ドカーン! という大きな爆音と共にターゲットが全て一掃される。


「な……たった一発であの威力かよ……」

「化け物級だな……」

「あの魔術L5(ランクフュンフ)レベルはあるわよ」


 俺の放った猛烈な一撃に一同騒然。

 エリカ先生もこれには驚いたようだった。


「すごい魔力ね。合格よ」

「あ、ありがとうございます!」


 定位置に戻り、ハンカチで汗をぬぐう。


「だんだんマグの扱いになれてきたじゃない。すごい進歩ね」


 アイリスは俺に水の入ったボトルを渡してきた。


「ありがとう。でもまだまだ足りないところあるけどね。魔力の制御とか」

「まだこれからよ」


 * * *


「……」

「ん? どうかしたかレーネ」

「いや……なんでもない……ちょっと気になる奴がいただけだ」

「お前が興味を示すなんて珍しいな。どんな奴なんだ?」

「……いや忘れてくれ」


 長く一つに縛った黄金に輝く髪を背に1人の猛者は去っていった。


(ザイゼン・リュウタロウ……ふっ、なかなか面白そうな奴だ)


 残りの実習は午後にまわることとなり、俺たちは昼休憩をとっていた。


 しかし、またもやここにも大きな壁があった。


「さ~て今日もまた食堂かな」


 セントバーナーの学食はどの料理もとんでもないほどクオリティが高い。しかもその上リーズナブルでお金が全くない俺にとっては嬉しい限りだった


 ちなみに転移した当初はこの国の通貨なんてもっていなかったため、魔獣ビースト事件の時の礼金で今はなんとか生活している。

 この世界でお金を稼ぐ方法は2種類ある。


 まずは農業や漁業といったもので、現実世界でいう第1次産業の事を指す。

 この世界での第2次産業は鍛冶師などの職人業が入るため、いまからじゃ到底生活できる水準にまで満たない。


 そして最後の第3次産業。この国ではハンターの事を指すらしい。

 おおまかにいえばギルドにクエストを申請して達成した依頼数に応じて報酬が手に入るみたいなシステムだ。

 とまあ、とりあえず俺はギルドにハンター登録を申請してハンター業をするつもりでいる。

 そうでもしないと生活ができないからな。


 俺が学食へと向かっていると、


「リュウタロウ様~」


 この声はイルーナの声だ。


「やっと見つけましたわ」

「どうしたの? そんなに急いで」

「これを!」

「これってお弁当……?」

「はい! 昨日のお礼にと作ってきましたの」

「ま、まじか……」


 ああ、神よ。これは現実なのだろうか。

 俺は生まれて初めて女の子から手作り弁当をもらった。

 現実世界じゃ1周まわってもあり得ないことだったのに……


(はっ! これは何かの陰謀なのか!? 本当は違う目的で……)


「あ、あの……ご迷惑でしたか?」


 ―――んなわけないか。

 今まで歩んできた人生がまともではなかったから余計こんなことを考えてしまう。


「ありがとう、イルーナさん。ありがたく受け取るよ」

「お口に合うかわかりませんけど……」


 もじもじしたイルーナはとても可愛かった。いやもう処刑レベル!

 でも受け取った時のあの笑顔はとても印象的で心の底から俺に感謝しているのだと実感した。


 なんだよ異世界……こんなの聞いてないぞ。


 俺は初めての体験に動揺するも気分は最高だった。

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