第25.5話「真実」

 リュウタロウ一行がナパード公国へ向けて出発した頃、公国では……


「そのマグ使いがいきなり現れたという話は本当かプリシア」

「はいお父様。私たちがベラードの方へと出向き、調べてまいりました」

「なに!? お前1人でか?」

「いいえ、護衛としてレントナーを連れて行きました」

「そ、そうか……あまり勝手な行動は慎むようにな」


「分かっておりますお父様。ですが有力な情報は得られました。我々ナパード家と国の発展のために有効活用してはいかがでしょうか?」

「そうさせていただこう。彼らを此処に連れてくることは可能か?」

「はい、もうこちらの元へと向かうよう手配しております。5、6日後には到着するかと」

「さすがだな、我が1人娘よ」


「一応スノープリンスとやらもあなたの娘、私の妹にあたる人ではありませんか」

「ふん、あんな国を脅かす欠陥品は娘でもなんでもない」

「ではなぜ処刑をしないのです?」

「ギルドに依頼を回している以上、私の手で処刑はできん。まぁ肩書は私の娘であるからな」

「なるほど、では彼らに彼女を殺させる方針で?」

「まぁ、そうしてもらう予定だがな」

「了解いたしました。それではまた後日」


 金色の髪を靡かせながら、彼女は去っていく。

 そして後ろを振り返り彼女は不穏な笑みを浮かべる。


 ―――ナパード公国極秘囚人拘置所。


「ごめんなさいアルベルト、関係のないあなたまで巻き込んでしまって」

「いえ、お気になさらず。我々親衛隊はいつもミンスリー姫殿下のそばにおります」

「私はもう姫でもなんでも……それに親衛隊のみなさんは……」

「……確かに生き残っているのは私だけかもしれません。ですが生きている以上、私はあなたを守ると言う絶対的な義務があります! それにあなたはあの女の身代わりとなっているのですよ」

「ですが……」


 彼女は泣きそうになりながら下を俯く。


 そう。彼女、ミンスリ―・ナパードは腹違いの姉、プリシア・ナパードの手によって犯罪者として仕立て上げられたのだ。ミンスリ―を生んだ母は農村出身の貧乏家であり、対するプリシアを生んだ母は大貴族のご令嬢だった。

 そのような格差があっただけプリシアにとってあまりいいものとは思っていなかったのだ。

 上っ面だけでは仲が良さそうな2人だったが、プリシアは仄かな嫌悪感を抱いていた。


 そして月日が経ち、公国の跡取りについての議論が交わされるようになった。

 密かに公国の跡取りを狙っていたプリシアはようやく政治活動に参加するようになり、公国全土に国民投票を実施するが、結果は思わぬ方向へと進んだ。

 それは公国の跡取りに相応しいのはプリシアではなくミンスリーの方である国民投票で分かったからだ。

 政治活動を始めれば必然と人気が出ると自信を持っていた彼女にとって大きな衝撃となった。

 それもそのはずであり、当時のミンスリーはその人柄の良さと積極的な国務への参加によって人々から絶大な人気と支持があった。

 対するプリシアは今まで全くと言っていいほど国務に参加せず、毎日のように王宮に立て籠もった生活を送っており、国民の中ではその姿すら認知していないという人もいるくらいだった。


 この結果に満足のいかなかったプリシアは様々な策を講じるがことごとく失敗に終わる。

 そして最終的に行き着いた結論が『スノープリンス』という殺戮姫の完成だった。

 集団殺戮による噂は彼女が秘密裏に行っていたものであり、裏ではドール大陸でも名を馳せる殺人組織『ベラルーナ』も関与していた。

 彼女が作った改造型ギガンテスは公国の外れにある生物兵器研究所で作られたものであり、人体実験や死体を保管しているという噂もここから来ていた。


 そして次第に悪い噂が広まってくると国民の間で不穏な空気が流れ始めた。だが、これこそ彼女が望んだ結末であって本題はここからだった。


 そう……プリシアはこの一連の噂の疑いを真っ先にミンスリ―へ擦り付けたのだ。


 * * *


 疑いを掛けられたミンスリーは国民も参加できる大裁判所に連れてこられた。

 そして民衆が見守る中、裁判が行われた。


「私はやっておりません、どうして信じてくれないのですか!?」

「……プリシア、私も信じたくないのですがこれが死体放棄の現場に落ちていたのです」


 それは緑色に煌めく1つのペンダントだった。


「そ、それは……」


 ミンスリーは胸元を見る。だが、ペンダントはなかった。


「そう……これは死んだお母様が形見としてあなたに送ってくれたものでしょう?」

「……そ、それはそうですが……」


 すると裁判官は、


「ではこれはあなたのペンダントで間違いないと?」

「はい……ですが私は人殺しなんて断じてしておりません! 信じてください!」


 訴えかけるも証拠としてその場にあったものを覆すにはそれなりの理由が必要だった。

 だが、彼女にはその理由がなくただただ訴えかけるだけになってしまったのだ。


「ミンスリ―様、申し訳ございませんが決定的な証拠がこちらにございます。選別魔術による考査も行ってみましたがなにをやってもあなたの名が出てきました」

「そ、そんな……」


 すると今まで絶大な信頼を受けてきた民衆は手のひらを反すかのようにミンスリ―に襲い掛かった。


「―――殺戮姫を殺せ!」

「―――ミンスリー・ナパードはもはや国家の敵。早急に処分すべきだ!」

「―――今までお前に信頼を寄せて投資してきた奴らに謝れ!」


 これは1部に過ぎない。もっと残酷な罵声が彼女の心を突き刺していった。

 言葉の暴力。まるで空から次々と槍が飛んでくるような勢いだった。


「……やめて……私は……」


 そして判決として処刑が言い渡された。しかしプリシアの願いによって処刑日時はプリシアの戴冠式の日までに延期された。

 この時、既に次期公国の主導者はプリシアに自動的に決定した。

 今までミンスリ―を支持していた者は皆、プリシアへ。

 これも彼女の計算の内だった。


 裁判後、ミンスリ―に関わった全ての者は父である国王以外、容赦なく処刑された。それが誰であってもだ。彼女の母代わりであり、彼女にとっては心の拠り所であったおばさんもその日の内に処刑された。


 残ったのはミンスリ―本人とアルベルトのみだった。アルベルトはミンスリー親衛隊の隊長であったが、公国屈指の強さを誇り、公国では軍の柱となる人物であったため処刑はされず、生かされた。


 これが『スノープリンス』事件の裏の真相だった。


「姫様、とりあえず此処から出ましょう」


 こう提案するのはアルベルトだ。


「ですが、この城から出るのはたとえあなたでも……」

「いえ、お任せください。私は剣術以外も使えるんですよ」

「でも、此処はL4(ランクフュンフ)以下の魔術は無効化される結界が張られています。たとえ魔術も使えるとはいえL6(ランクゼックス)以上の魔術が使えないと……」

「私の物は魔術ではなく超能力ですよ」

「超能力?」

「はい、一時的なマインドコントロールが私にはできます、恐らくこれなら結界を抜けられるでしょう」

「でも……」

「私を信じてください姫様!」


 彼の眼差しは本物だ。嘘偽りがなく真っ直ぐだった。

 するとミンスリ―は笑顔で、


「わかりました。アルベルト、あなたを信じます。あなたはこんな私を全力で守ろうとしてくれる……それだけで嬉しかったのですが……」

「まだこの世界に未練を感じると?」

「そうかもしれませんね。私はまだ死にたくありません」

「承知いたしました。では本日の深夜に脱出作戦を決行いたしましょう」

「ええ、分かったわ!」


 そしてその日の深夜、ミンスリ―とアルベルトは城を脱出することに成功したのだった。

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