第一章 銃と少年

第2話 銃と少年①

 西暦一九九九年。世界に危機が訪れた。

 全世界の至る場所に、あり得ない姿をした怪物達が突如出現したのだ。

 それら怪物達は、神話や伝説に登場する怪物と酷似した姿をしており、ゴブリン、オーガ、果ては巨大なドラゴンまでいる、まさに多種多様な群体であった。


 ――《幻想種》。怪物達を統べる七体の王は、自らをそう呼んだ。

 さらに幻想種は、妖精族、獣魔族、悪魔族などといった能力・形態に沿った七種族に分類されるらしく、七体の王とはすなわち各種族の頂点に立つ怪物の事だった。


 その異形の七王は困惑する人類にこう告げる。



 ――神はお怒りだ。害悪種よ。汝ら、すべて滅びたまへ――



 一方的な宣戦布告――否、殲滅告知に、人類は恐怖した。

 すぐさま世界各国の首脳間では緊急会議が行われ――そして明確な人類の敵に対し、国家の垣根を越えた史上初の全世界連合が結成されることになった。

 人類はこの偉業に歓喜した。これで負けるはずがない、と。


 しかし結果は、あまりにも無残なものだった。


 人類の敵――幻想種には、一切の近代兵器が通用しなかったのだ。

 銃器、ミサイル、BC兵器、戦車による体当たりから、最終手段たる核兵器に至るまで、すべての兵器が完全に通じなかったのだ。――そう。完全にだ。


 後に、その戦場に立ち会った兵士はこう語る。

 まるでルール違反だと言わんばかりに、光の障壁が弾くのだ、と。


 その障壁の正体は未だ分からない。が、いずれにせよ攻撃手段を失った人類は一気に劣勢に立たされることになった。

 そして一方的な侵略に犠牲者は増えていくばかり。

 しかも、幻想種は侵略した地域に、不可解な儀式まで行った。


 ――《森神の苗》。奴らがそう呼ぶ不可解な道具を、侵略した地域の中央に植え、半径数百キロメートルを、人の住めない樹海へと変貌させたのだ。

 まるで世界を塗り替えるような行為。奴らは、それを《神域帰化》と呼んだ。 

 そうして同胞達は次々と殺され、世界は塗り替えられていき、人類はどんどん疲弊していった。死の恐怖に怯え、逃げ隠れする日々が数ヶ月に渡り続いたのである。


 ――が、そんなある日のこと。

 奇跡にも等しい一報が世界中に轟いた。

 それは、とある一般人が幻想種の一体を倒したというものだった。


 人類の初勝利に世界は歓喜で震える。――が、同時に疑問も浮かび上がった。

 銃も効かない怪物を一体どうやって倒したのか……?

 その答えは、あまりにも意外なものだった。


『いや、ゴブリンを苦し紛れに石で殴ったら、死んだんすよ』


 初勝利を飾った英雄の台詞である。

 人類はその事実に一筋の活路を見出し、命がけの調査を行った。

 その結果、分かった事実とは――。

 幻想種には、原始的な武器ならば通じるということだった。

 石を手始めに、剣、刀、槍、斧、鎚、弓を試した結果、そのすべてが通用した。

 核の炎さえ歯牙にもかけない怪物が、何故、剣や槍で倒せるのか。

 その理由も未だ不明ではあるが、それでも人類は死の脅威に立ち向かうための武器を遂に手に入れたのだ。


 かくして人類の反撃が始まり、熾烈な闘争の日々は瞬く間に過ぎ去っていき――……。


 西暦二〇三九年、現在へと至るのである。

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