第18話 くもをともとして

雲の能力を使うキンシコウ。

アライさんとかばんを落とした後、

二人を拘束したまま、高度を下げる。


彼女はヒグマと共にセルリアンハンターというパークを守る仕事をしていた。

しかし、今となってはハンター仲間であったヒグマは博士の味方であり、

また、彼女もヒグマの手助けをしている事からサーバル達にとっての敵であることは違いない。


だが、彼女はサーバル達を手荒く扱わず、そっと地上へ降ろした。

彼女は地上へと、降りて来なかった。


「キンシコウ...」


サーバルが溜息と共にその名を吐く。

ただこの二人は元の性格の影響もあるかもしれないが、キンシコウが何を意図して自分達をこういう状況に立たせたのか

全くわからない。


「ごめんなさいね...」


謝罪の言葉は本心から出た物か、

はたまたサーバル達を落ち着かせる為の口実なのか。


「あっ、あのっ、えっと、わ、私達を

どうするつもりですか!!」


言葉が詰まりつつも、勇気を振り絞って

アードウルフは尋ねた。


「あなた達は...」


赤い棒を振り下げた。


「えっ!!」


彼女の体には雲が付いている。

次の瞬間サーバルは、とんでもない光景を目にしたのだ。


「あああああああっ!!!」


アードウルフが突然、大声で叫び出した。


「ア、アードウルフ!?」


サーバルも困惑する。


「寒い!!寒っ!!あああっ!!!

寒いっ!!!!!!」


アードウルフはそう叫びながら地面を

ゴロゴロとのたうち回る。

その発狂した姿はサーバルの不安を大きくさせた。


「キ、キンシコウ!やめてよ!!

どうなってるの!」


「あの子の質問に対する答えがこれよ。

アナタもすぐに似たような状況になるわ」


サーバルは獲物を狩る時の様な鋭い目でキンシコウを睨む。


「許さない!」


膝を曲げ、高く飛び上がった。

その高さは雲に乗って浮くキンシコウと同じだった。

素早い動きで爪を彼女に振り下ろした。


「みゃ...」


しかし、彼女は平然としている。

それもそのはず、サーバルが爪で切り裂いた箇所からは白いもくもくとした雲と化しているからだ。


「今のあなたは“空気”を切ったのも同然なのよね…。それに、雲があること忘れてない?」


「あっ...」


指摘された時にはもう遅かった。

雲は黒く染まり、サーバルは浮遊している。


「雲は...、様々な天候を操るの。

雨、雪、霰、雹、霙、そして」


次の瞬間、サーバルの身体に強い衝撃が走った。


「ミャゥアアアアアアアアアアッ!!」


その強い衝撃は耐えられなかった。

アードウルフのように雄叫びを上げる。


「雷...、雲が起こすもので一番恐ろしく、強いもの。私は、ヒグマに言われた通りあなた達を処分するの...

ごめんなさいね...」


もはや口癖のような彼女の謝罪のセリフ

罪悪感は中身がまるごと消え去って、

残っているのは殻だけである。


「ミャアアアアアアアッ!!」


「寒いッ!あああああ!!!」


静寂な森は一瞬にして、

阿鼻叫喚の地獄の森となった。











「...チッ、

うるさいと昼寝が落ち着いて出来ないんだよねぇ。縄張りで騒ぐのはやめて欲しいなあ...」


森の中を猛ダッシュしながら、その

場所へと向かって行った。






「あ...うあ...う...」


アードウルフは声を出す元気さえ無くなっている。


「.....」


サーバルは辛うじて息はあるもの、両手両足の感覚はない。これ以上電気を流され続ければ、命が危うくなる。


キンシコウは憐れむ様な目で二人を見続けた。



(だれか...たすけ...かば..ん...ちゃ....)


薄れゆく意識の中、声も出せない。

もう、愛すべき人の顔も見れぬまま...








パチンッ...


「こっからは、うちの“時間”だ...

大切な“ダチ”を返して貰うよ。

あんたの雲の力も、ここじゃ、役に立たない」


地面にいるアードウルフを起こし、

手で雲を払う。


「さぁ、お前ら、一仕事だ...!

そして、時は動き出す!」




パチンッ...





「はっ・・・」


ふと我に返った時、


目の前にいたサーバルがいない。

自分は目を離していなかったはずなのに


「いったい...」


「ほら、余所見しちゃダメだよ。

何かに捕まってないと、“飛ばされるよ?”、雲乗りさん」


目の前には知らないフレンズ。

するといきなり強い突風が吹き始め、顔を庇った。


「何なのこの風...!?」


「カミカゼ...かな...」


キンシコウの乗っている雲はどんどんと

消えて行く。


「こんな風吹かれたらっ!!」


「マズい状況だよね。だけど、許すわけにはいかないんだよね。

姐さんの縄張りでうるさくしたから...」


風を巻き起こす彼女は玉を取り出した。


「じゃあ、虹の向こうへ行けるといいね。魔法の国があるらしいよ...」


“ベント ディオ フェスティバーロ”



東西南北からの風が関係なく混ざり合い

キンシコウの金色の雲をかき消した。


「ああっ...!!」


キンシコウはただ風に、揉みくちゃに

飛ばされるしかない。


「...雲は流れに乗るだけ、そんなんじゃダメだよ」


そして、風はキンシコウを捉えたまま、

移動をし始めた。

彼女はゆっくりと飛ばされるキンシコウを見つめ続けたのである。











「...ん...あ...」


サーバルはゆっくりと目を開けた。

天井は木目調、自分がいた森ではない。


「...ここって...?」


「サーバル、大丈夫ー?」


顔を覗かせたのは...


「ライ...オン...?」


「はぁ〜、

意識取り戻して良かった良かった〜」


彼女の声から安堵の表情が伺えた。


「えっと...、わたし...」


記憶が飛んでいる。

キンシコウが雲で攻撃した所までは

覚えている。

横向きになり、ライオンの顔を見た。


「あっ、アードウルフは...」


「あの白い子でしょ?大丈夫だよ

うちのオーロックスとオリックスが

面倒見てるから...。それより、身体に変な所は無い?」


少しまだ、手先の痺れは残っている。

それ以外は、大丈夫そうだ。


「少し...、しびれが残ってるけど、

それ以外は大丈夫だよ」


「そうか...、ま、今は夜で暗いし、

ここは多少安全だから、休むといいよ」


気遣ってかそう言ってくれた。

しかし、気になっている事がある。

サーバルは聞かずにはいられなかった。


「ありがとう。ところで、何があったの?」


「ん...?」


「キンシコウの戦いに巻き込まれて、

私達がここに来るまで...」


ライオンは左膝に左肘を付けて、自身の顎を触り始めた。そのまま口を開く。


「あー、簡単な話だよ。

昼寝してたらさあ、森の方で悲鳴が聞こえて目が覚めて、仲間を連れて行ったのさ」


「どうやって、キンシコウを倒したの?」


そう尋ねると得意気に鼻を鳴らした。


「部下達にそれぞれ指示を出して

配置させた。そして、うちの“能力”を

使って君たちを助けだしたんだよ」


「ライオンの能力...?」


「ふふん、うちね、“時間を止められる”んだよね。すごくない?」


ニヤけたその顔を、少し前に出した。


「時間を...止める?」


サーバルは“時間”という概念がよくわからなかった。その言い方で察したのか

ライオンはすぐに言葉を言い換えた。


「周りの動きを止めるんだよ。

自分の周りをね。範囲とかわかんないんだけど」


「でも、そんな強い能力だったら博士が気に入るんじゃないの?」


かばんに聞かされた事と繋ぎ合わせて質問した。


「いやあ、そうでもないんだ。

ヘラジカに誘われて能力を得に行ったんだ。博士んところへ。そしたらさぁ、

ヘラジカはすぐに能力がわかったんだけど、うちは違くてねー。能力を発動するのに条件があったんだよ」


「条件?」


「うちの能力、寝て起きた後じゃないと使えないんだ」


その返答で、思わず困惑してしまった。


「ど、どういう事なの?」


「今はもう1回起きて使ったから使えないんだ。また、寝ればいいだけの話だけど。それに1分間しか時間を止められないからね〜」


能力が強い反面扱いにくさが目立ってる。そう感じた。


「キンシコウもその能力で?」


ライオンは素直に首を横に振った。


「いや、うちの部下だよ。君らがごこくに行ってる間に新しく部下になったフレンズがいるんだ。そいつがキンシコウを

倒したのさ」


「へぇ...、後で会ったら、お礼しなきゃ」


微かに笑みを浮かべた。


「まあ、ゆっくり休もう。焦ってもしょうがないし。ここにはジャパリまんもあるから、詳しい話は明日でもいいだろう?」


そっと肯いて見せた。


自分とアードウルフは取り敢えず助かったが、かばんとアライさんが気がかりであった。


(...二人は強い能力を持ってるから、きっと大丈夫だよね)


不安になりそうな自分に言い聞かせた。




翌朝...


「ふぁ〜...」


大きな欠伸をして目覚めた。


「ん、おっはー」


目覚めたサーバルを見てライオンが

挨拶した。彼女らしい、軽いノリだった。


「おはよう...」


「今日は、“作戦会議”をしようか」


単刀直入に今日やることを述べた。

すると、タイミングよく、トントンと襖を開ける音がした。


「失礼します」


そう断って入って来たのはオーロックスだった。


そして、アラビアオリックス

その次に、お初にお目にかかるフレンズ、アードウルフが入って来た。


「アードウルフ!無事でよかった!」


「サーバル...」


彼女は安堵の表情を見せた。


二人が顔を見合わせている間に、

ライオン達とその3人の部下は入って来た順に並んだ。


「さーてと...、まずこの子を紹介しないとね」


ライオンが言ったのは、うすい緑色をしたフレンズだった。


「はじめまして。テングコウモリです、よろしく」


語尾が微妙に伸びる、特徴ある言い方であった。


「よろしくね!テングコウモリ!」


昨日あれだけダメージを負ったのが嘘であるかのような明るい表情だ。


「よ、よろしく」


アードウルフの言葉はまだ、凍えていた。


「さて、何から話すか...」


少し上を向きつつライオンは言った。


「私の身の上話でもしますか?」


そう言ったのはテングコウモリだった。


「いきなり作戦どうこう言ってもねぇ

まずは親密を深めようか!」


ライオンも賛同した。

元からいた部下二人も頷く。

二人に関しては自分の意志でなく、便乗してるだけかも知れないが。


「私は元々きょうしゅうのフレンズじゃないんだよね。ごこくでパトロール隊みたいなのを組んでて、それでパトロールしてたら、きょうしゅうに来ちゃってて。あれ、ここ何処だってなったら

ライオンさんが偶々通りかかって、助けてくれたんですよ」


「へぇ...」


サーバルは適当に相槌を打った。


「んー、でも不思議なんですよねぇー

コウモリっていうのは超音波っていう目に見えない音で自分の居場所を判断するんですけど...」


首を傾げつつ、話した。


(何か能力が関わっているのかな...)


サーバルは一瞬そう考えたものの、結論は出せなかった。


「まぁ、これも何かの“運命”かもしれませんけどね!」


テングコウモリは笑顔を見せた。


「運命...?」


小声でアードウルフが呟いた。

サーバルも耳の良さに自信がある。

彼女の方をチラッと見たが、何かを言おうとすることは無かった。


「さてと、サーバル、アードウルフ」


ライオンの声で二人はライオンの顔を見た。


「君たちを見つけた時の状況から察するに...、博士が絡んでるんだろ?

詳しく説明してくれないか?」


「あっ...、うん」


サーバルはあの手この手でかばんを止めようとして来た博士たちとの激しい戦いを赤裸々に語った。

そして、自分たちがこうなった経緯も。


「博士を止めるね...」


ライオンは腕を組んで目を閉じる。

深く考えが込んでいるのが一目でわかった。


「ウチとしても、ヘラジカをどうにかしたいんだ。アイツも能力を得てから“変わっちまった”一人だからね。協力しよう。

ウチらはチームだ」


ライオンから右手が差し出された。

サーバルも手を出して、握った。


「まずは、かばんちゃんを助けないと」


「だね。ヒグマの事はよく知ってるよ

アイツはセルリアンとの戦いで戦闘慣れしているし、“火炎の能力”は恐ろしい力だ。槍だけ持って突っ込んでいっちゃ勝ち目は無い。あんま得意じゃないけど、頭脳戦で行かないとな」


ライオンはテングコウモリに視線を送った。


「考えるのは任せてください。得意なんで」


アイコンタクトを送られた彼女は

そう、ハッキリと宣言した。


(かばんちゃん...、絶対に...、会おうね...)

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