第9話 みずをせいすもの

カバは、僕をそっと地面に降ろすと左手の甲を右手で撫でるようにした。


「カ、カバさん...」


「あなた、博士に変なこと吹き込まれたのね」


カバは僕の言葉を無視してアライさんに話を始める。


「いいこと?そうやって他者を傷つける事は良くないのよ?」


「だって、かばんさんがフェネックを!」


「なら、あなたが逆の立場だったらどうしたの?」


「逆の立場?」


「そう。もしあなたの友達が苦しんでいたらあなたはどうする訳?仕方なかったのよ」


「かばんさんの味方をするのだ?」


「しちゃ、いけない?」


アライさんは目を少し長く閉じてから、再度開けた。


「アライさんはフェネックの味方をするのだ!フェネックは死にたくなかったのだあっ!」


自暴自棄に声を上げた。

水を吸い寄せ、両手に水を纏う。


「あら...、意外と頑固ですのね」


一旦腕を引いてから水を圧縮し、物凄い水圧を掛ける。勢い良く放たれた水は

カバへ一直線になり向かっていった。


「あ、あぶな...」


僕が言う前にカバはその攻撃を避けていた。

一気にアライさんとの間合いを詰める。

それを見たアライさんも後ろに一歩下がり、再度両手に水を纏う。

向かって来たカバに対し、連続して拳を突き出すがその動きの差は歴然だった。


元々戦闘慣れしていないアライさんは

接近戦に持ち込まれ、動きが乱れる。


「こうなったら…!」


水で全身を覆う。

溺れさせようとしたのだろう。

しかし、その行為がカバにとって無駄な行為とは知らなかったようだ。


「私...、溺れませんわよ?」


そう言った途端に、カバはアライさんの

腹に拳を突刺す。


「ぐっ!?」


最後に首筋のところを勢い良くチョップし、アライさんはバシャンと水音を立て倒れた。


「...す、すごい」


木の上で見ていたサーバルは子供の様な感想を口にする。


「つ、つよい...」


アードウルフもサーバルと似たような感想を口にした。


「カバさん、アライさんは・・・」


「気を失わせただけよ。

無益な殺生はしたくないから」


「あの、水面に突っ伏したままでいいんですか?」


「彼女は自身の能力によって水中でも普通に呼吸できる様になったみたいだから、大丈夫なはずよ。

ところで、怪我はない?」


「はい...いえ、大丈夫です。

でも、どうしてここが?」


「あんな大きい水の壁が迫る音が聞こえるんですもの無視できる訳ないじゃない」


僕とカバが会話していると木に避難していた二人も降りてきた。


「カバ!久しぶりだね!」


「もう、サーバル...。帰ってきたら真っ先に顔でも見せてよ!」


「あはは...、ごめんごめん」


サーバルは頭を掻きながら言った。

するとカバは、アードウルフに目を向けた。


「あら、アードウルフ。あなたもいたの?」


「まぁ...、はい」


「かばん達は覚えているかしら。

3年前にこの場所にセルリアンがいたこと」


「ええ、ちゃんと覚えてますよ。

あの時の事は忘れたくても忘れられませんから」


「あの時、セルリアンに食べられたフレンズがいたんだけど…」


「あっ、確かに声を聞いた!」

サーバルが思う出したようだ。


「それが、アードウルフなのよ。

1年前にサンドスターが当たってね。

またフレンズになれたの」


カバから名指しされたアードウルフは照れくさそうな仕草をしていた。


「いや...、記憶はあんまり無いんですけど...」


「そうだ。カバさんは何かの能力があるんですか?」


「いいえ。さっきのは殆ど野生で鍛えられた自然の力よ」


「本当にすごいですね...」


僕はただただ、感心するしかなかった。


「私の所にも博士から能力を得ないかという誘いが来たけど、断ったの。

それ以降博士とは関わらない様にしていたけど…、あなた達のお友達がこんなことをして来るとなると黙って見過ごせないわね…」


「僕は、博士さんの企みを知って阻止しようと思ってます。力になってくれますか?」


僕は単刀直入に尋ねた。


「そうしたいのは山々だけど、博士はもっと強力な力を持っているんでしょう?能力を持たない私がいた所で足でまといよ」


「えぇ...、そうですか?」


「それに、仲間がここにいるじゃない」

と、カバが指差したのはアライさんであった。


「かばん、あなたは広い心を持っているでしょう?彼女を受け入れてあげなさい。フェネックもそれを望んでるハズよ」


「...わかりました。目を覚ましたら

話をしてみます」


僕はサーバルと共にアライさんを木の下まで運んで、目が覚めるまで様子を見た。


「...ふぁ、アライさんは今まで何を...」


目を擦りながら意識を取り戻した。


「アライさん、大丈夫ですか?」


僕が心配して声を掛ける。


「たぶん...、なんか頭がよくわからないのだ...」


「あの、アライさん。よく聞いてくれますか?」


「....?」


僕はアライさんに能力のこと、博士のこと、そして、辛いであろうがフェネックのことを正直に全て話した。


「...ということなんです」


「アライさんも、思い出したのだ。

助手に図書館に来いって言われて、

博士にフェネックの話を聞かされて...動揺したアライさんは博士の言うままにかばんさんを襲ってしまったのだ...

ごめんなさいなのだ...」


「アライさんは悪くありません。

アライさんを騙した博士さんが悪いんですよ。だから、僕は博士さんの行いを正したいんです。アライさん、もう一度力になってくれますか?」


「アライさんは、アライさんにしかできないことをやりたいのだ。...フェネックのためにも。

あと、お詫びの代わりにかばんさんに協力するのだ」


「ありがとうございます!

仲間が増えて、心強いです。

ところで、アライさんは、コレを持ってますか?」


僕が見せたのは黒魔術を得る時に出る玉だ。


「あっ、えーっと...、これなのだ」


アライさんは自身のポケットからそれを取り出した。


「博士さんに取られなかったんですか?」


「最初は助手に取られたのだ。

だけど、お宝みたいに輝いてて綺麗だったから、目を盗んで取り返したのだ」


「この“玉”は他の人に絶対に渡さないようにしてくださいね?」


「わかったのだ」


こうして、僕とサーバル、アライさんが

再び揃ったのだった。


「カバさん、ありがとうございました。これから僕達は、図書館へ向かって、博士さんを止めに行ってきます」


「気を付けるんですのよ?」


「はい!」


「サーバル」


「なに?」


「かばんの側に居ることが多いのだから、自分に出来ることがあれば率先してやりなさい」


「うん!」

大きく肯いた。


「それから...、アライさん?」


「のだ...」


「あなたの能力は強いわ。でももっと

鍛えれば更に強くなってかばんの役に立つわよ」


「わかったのだ!アライさんなりに頑張ってみるのだ!」


3人は、カバに頭を下げて、再度じゃんぐるちほーへの歩みを進めた。その時だった。


「あの!待ってください!」


「アードウルフさん?」

息を切らしながら、かばん達の元へと追いついた。


「あの、私、考えたんです。

もし私がセルリアンに飲まれたのだとしたら、何故あの場所にいたのかを...

それで思ったんです。あそこにいたのはきっと外のちほーを見に行きたかったんじゃないかって。本当の事はわからないけど...、私もあなた達と一緒に旅がしたいんです!」


僕はその話を聞いて笑いながらその答えを返した。


「いいですよ」


「本当ですか!?」


「一緒に来ちゃ行けない理由なんて無いですから!」


「足を引っ張るかもしれませんが...

お願いします!」


「もしもの時は僕とアライさんが守りますから!」


「ちょっと!私もみんなを守るんだから!」

サーバルが少し頬を膨らませながら言った。


そんなこんなで、色々ハプニングもあったが無事にアライさんと合流し、アードウルフという仲間も加わった。


僕達はフェネックのためにも、外の世界の人達のためにも、博士の元へと辿り着かなければいけない。重い使命を胸にしっかりと刻み、しっかりと大地を踏みしめ、一行は図書館へと再度歩き始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る