第10話 てんそう
じゃんぐるちほーの地面は大雨が降り終わった後のように、酷くぬかるんでいた。竜を出すにしても、先程から連続して使っているので、流石に疲れてしまった。
ひたすら真っ直ぐ歩き続け、川に出た。
その時に日はもうすっかり日は西に傾き落ちていた。
前に、ジャガーさんと再会し、彼女の能力によって飛ばれて今に至る。
「もう、暗いからここで休もう」
僕はみんなにそれを伝えた。
アードウルフとサーバル、アライさんに、木と葉っぱを持ってくるように指示した。
数十分して、戻ってきた3人
僕はごこくで覚えた新しい火の起こし方を行う。
自分の鞄の中から石を取り出す。
そして、河原で拾った石とその石を擦り合わせる。
カチッ、カチッ、という独特な音が森の中に響く。サーバルとアライさんは共に旅をしていたので知っているが、アードウルフは不思議そうにそれを見つめていた。
少しづつ、石からオレンジ色の火花が散り始める。
僕はその火花を集めて来て貰った葉に着火させて、火を起こした。
妙な事に、アードウルフは初めて火を見るはずなのに、最初の頃の博士やサーバルのように怯えるような素振りを見せなかったのが不思議であった。
逆にその火の中にある“何か”を必死になって確認しようという感じであった。
もちろん僕は人間なので夜に眠りにつく。アライさんやサーバルも僕と長く付き合ってきたせいか僕の生活リズムに合わせるようになった。
だが、僕は安眠出来なかった。
「...フェネッ...ク、どこなのだ...」
時折吹く風の様に耳に届くアライさんの寝言。夜が明けるまで僕の心を刺し続けた。
(ヘラジカさんも、フェネックさんみたいに倒さないといけないのかな...)
しかし、“かつてのフレンズと戦う事になる”というツチノコの忠告を承諾した上で、僕は能力を得たのだ。
今更、後には引けなかった。
朝になり、起きた。
図書館に向かいたいのだが、
目の前は大きな川。
少し考えてから渡る方法を思い付いた。
僕とサーバルとアードウルフは竜で渡り水の能力を持つアライさんは自力で渡ってもらう。
僕は竜を出し、背中に起きてきたサーバルとアードウルフに乗るよう指示した。
アライさんは川を普通に渡る。
難なく川を越えて対岸に着く。
あそこには、“バス”がある筈だ。
けど、ジャガーさんもいる。
(...怖がっちゃダメだ)
自分に言い聞かせ、ごこくで入手したパークの全体地図を広げそれを目安に歩いた。
もちろん、方角の見方はフェネックから教えてもらった。
ごこくにてフェネックは暇があれば地図を夢中になるほど眺めていた。時折アライさんに
「この線がいっぱい引いてある所が、高い山なんだよー」とか、教えていた。
ある日、彼女はこんな事を言っていた。
「昔の人間はこんな大きな広さの大地の絵を正確に描かいたんだよ。凄いよね」
僕達はその“大きな広さの大地”の一部しか見ていないとなると、感慨深い物を感じた。
「人間っていると思いますか?」
そんな話も彼女とした。
「私は絶対いると思うよ。
だって世界はジャパリパークだけじゃないんだから」
「やっぱり、そう思いますか?」
「うん、だってさ...」
フェネックは地図を開き、パークの全体像が書かれているページ開いた。
中央部の所から海に向かって描かれている点線を指でなぞった。
その端っこで指を止めた。
「ここ、矢印と文字で何か書いてあるでしょ?」
その文字は漢字で書かれていた。
なんて読むかは、僕にもわからなかった。
「ひがし...?」
前の文字は読めたが横に書いてある『京』という字が読めなかった。
「ほら、パークの外の世界は本当にあるんだよ」
一瞬僕に向けた彼女の瞳は、輝いていた
「いつか...、見に行きたいですね。
“パークの外”」
「私もだよ。この世界の“本当の地図”を見てみたいな~。アライさんやサーバルとかと一緒に...
そして、永遠に皆と旅してみたいよ」
無限に広がる大地を仲間と共に巡る。
それが、彼女の夢でもあった。
しかし、個人的な思惑にその夢は丸呑みされてしまったのだ。
「ねぇ、かばんちゃん」
無心で歩き続けていた僕をサーバルの声が目覚めさせてくれた。
「えっ、何?」
「あれ、“あんいんばし”じゃない?」
目線を前に向けると、僕の掛けた橋があった。
僕達は、そこへ向かったのだった。
「ジャガーちゃん!」
「どうしたんだい?」
「...、わかった」
「あっ...」
僕達一行の目の前に現れたのは、
ジャガーだった。
「・・・かばん、ごめんよ」
ジャガーは膝と手を地面に付き深々と
頭を下げた。
「え...」
思わず当惑した。
「私の能力のせいで...、皆を危険な目に合わせてしまって...」
「博士に脅されていたなら、ジャガーさんに非はありませんよ」
僕はそう言ってジャガーを慰めた。
「申し訳ない事をした...。
お詫びに博士の情報を教えるよ。
秘密の隠れ家がある。付いてきてくれ」
「わ、わかりました」
僕はジャガーの後を付いて行く事にした。
こうざんの崖の所に、目立たない洞穴があった。
僕達はそこへ入っていった。
中にはコツメカワウソもおり、6人入った洞窟の中はかなりぎゅうぎゅうだった。
「...まず、かばん。黒魔術と白魔術があるのは知っているね?」
ジャガーに言われ、僕は肯いた。
「博士は白魔術のやり方も知っている」
僕にとっては衝撃の事実だった。
しかし、能力を知らないサーバルと
アードウルフ。半ば強制的に能力を得た思われるアライさんもなんだか良く分かっていない様子だった。
「白魔術の実験体が私なんだ...。
この能力はコツメカワウソの血によって得たんだ」
「そうなんだよねぇ...」
小さな声でカワウソがそう言った。
「という事は、つまり?」
「コツメカワウソが死なない限りこの私の触れた物が転送する能力が続くという事さ...」
「でも、何故あの時...」
「助手から脅されてたんだ。
彼女は博士の側近中の側近だからね
コツメカワウソが狙われると思って命令に従った」
「それで、コツメカワウソさんを守るためにこの洞穴も見つけたんですね」
ジャガーは静かに肯いた。
「博士は今、外を狙っている」
「外と言うと...、パークの」
「ああ」
フェネックも僕も夢を抱いた土地だ。
外に住む人達に、危機が迫っている。
「博士はそんな悪い事を企んでいるなんて知らなかったのだっ...」
アライさんは息を呑んだ。
「僕は、博士さんを止めに行きたいんですけど...」
ジャガーは大きく息を吐いた。
「私も止めようと思ったけど、モノを飛ばす能力じゃ勝てないからね…
もし、本気で行くとしたら博士の周りを守っているフレンズをどうにかしないとダメだね」
「四獣守護神でしたっけ」
「助手、ヘラジカ、タイリクオオカミ、ヒグマがそれだ」
「やっぱり...、
倒さなきゃ、ダメなんですか?」
「そのフレンズを“どうにか”しないと、博士を止めるのは無理だ」
念を押すように2度言った。
「後、ふつーに能力が欲しいって言ったフレンズもいるんだよね」
コツメカワウソが補足をした。
「僕としては、大切なフレンズさん達なんで戦いは避けて行きたいんですけど...」
「私の様に脅されて能力を使う者もいれば、既に能力の力に溺れている子もいる。状況次第って、とこかな...」
現実から目を逸らす事は、不可能であった。腹を括り受け入れるしかない。
「じゃあ、ジャガーさん。ひとつ、お願いがあるんですけど...」
「なんだい?」
「僕達4人を四獣守護神の所へ連れてってくれませんか?」
ジャガーは驚いた顔をした。
「かばん、私の能力はランダムでこの島内のどこかに飛ばすんだよ?流石にまたバラバラに...」
「ジャガーさんなら、絶対に全員同じ場所に転送する事が出来るはずです」
「もし、失敗したら...」
「その時は、その時で、また考えれば大丈夫です。僕達には時間がありません」
「....わかったよ。やってみる」
「お願いします」
僕達は外に出た。
「みんな一斉に飛ばしてみたら?」
コツメカワウソが提案した。
「そうか、それなら、全員同じ場所に送る事が出来るかもしれない!
どうして、全然わからなかったんだろう…」
「一つという事は...」
僕達4人はお互いに手を繋いで一つのわになった。
これなら、上手くいく筈だ。
「じゃあ、行くよ...」
ジャガーが僕の耳元で囁いた。
「はい」
「博士を....、頼んだよ」
「外の人達も守ってみせます」
そして、ジャガーは僕の肩にそっと手を置いたのだった。
瞬間的に閉じた目を開くと、森の中だった。
ただ、ジャングルとも湖畔と違った。
周りにはちゃんと4人いる。
転送作戦は成功だった。
「サーバルちゃん!アライさん!
アードウルフさん!」
「よかった!」
「本当に別の場所なのだ...」
「どこですか...?」
「取り敢えずみんなバラバラにならなくて良かった!」
僕はホッと一息ついた。
「ところでさ、かばんちゃん」
「何?サーバルちゃん」
「能力って何?博士の事とかよくわからなくて...、私何が何だか...」
「私なんか博士が誰だか知らないんですけど…」
サバンナ住みの二人には事情を詳しく説明していなかった。
僕は一旦ここで、まだ早いが休む事にし、サーバル達に3年前にあったことをゆっくり伝える事にした。
でも、それを伝えた時に、特にサーバルが能力を欲しがるかもしれない。
それだけは避けたい。
能力を使わない、
ただただ純粋なサーバルが僕は好き
だから。
そして、何としても、守り抜くんだ。
僕の力で...
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