第11話 ひとりごやく
サーバル達に改めて、ツチノコから聞いた事を話した。能力発見の過程から博士が現在に至るまでを。そして、今後の事
サーバル、アードウルフは「わかった」と言ってくれた。
アライさんも「パークの外の危機なのだ!」とか言っていた。前のアライさんんに戻ろうと心掛けているのだろう。
一先ず最初の案件は片付いた。
次の問題は...
「ところで、ここはどこなの?」
アードウルフが僕の顔を見て尋ねた
「...恐らく、みずべちほーじゃないかなと」
みずべちほーは図書館の奥にあるエリア
ここでは“PPP(ペパプ)”と言うアイドルグループがライブをやっていた。
だが、ここ3年間できょうしゅうの環境が大きく変わったため今はどうなっているのか検討もつかない。
(そういえば...)
タイリクオオカミがいるロッジはこの先にある。
ここを越えなければいけない。
もちろん、無視して通ってもいいのだが、個人的にPPPがどうなっているのか気になる。
どうしようか決めかねてると
「あれ、なんか音が聞こえるよ?」
耳の良いサーバルが反応を示した。
「えっ?」
「あっちの方だよ」
サーバルが指を指した。
「行ってみよう」
僕は、サーバルを先頭にその場所へ向かった。
辿り着いた先はPPPのライブ会場。
だが、まるで嵐がここを過ぎ去ったのかの様にステージは汚れ、静寂だけが辺りを侵略していた。
「一体何が...」
もちろんその光景に僕は困惑した。
周りのみんなもそうだ。
「おやおや!かばんさんじゃないですか!!」
唐突にステージに登場したのは...
「マーゲイさん!?」
PPPのファン...とでも言っておこう。
最初はそうだったがなんやかんやで
マネージャーになった。
「お久しぶりですねぇ〜、今日はあなた達、ものすごーくラッキーですよ!」
「な、なんなのだ?」
「今日はPPPのスペシャルライブですよおおおおお!!」
僕はマーゲイの対応になにかの違和感を感じた。
「それでは、どうぞおおおっ!」
「えっ...」
僕は困惑した。
ステージ袖からは、もちろんPPPのメンバー達5人であったが、まるでオーラが違う。
ノロノロと整列して歩き、ポジションに付く。
「何あれ...、何かちょっと気味悪くない?」
アードウルフが震えた声で言った。
「それじゃあ、1曲目、大空...」
「待ってください!!」
僕は堪えきれず大声を出した。
「どうしました?」
「“能力”と言えば何かわかりますよね」
マーゲイはフッと笑い、ゆっくりとマイクを持ちながらステージ上を歩き始めた。
「私は博士さんに感謝してますよ...
ステージの設営からイベント告知から何から何までお世話になって、それでいて能力もくれて...」
「どういう事の成り行きですか」
僕は毅然とした態度でマーゲイと話す。
「PPPのメンバー達がぁ欲しかったんですよお...
みんな可愛くてねぇ...
だから私の能力を使ったんですよ~」
「“誰かを操る能力”...」
「それからの日々人生バラ色ですよぉ
私が指示したことを何でもやってくれる。
特別ライブ、握手会、添い寝、おままごと...、それだけじゃない。
あの子たちにごはんをあげたり...
あの子たちの身体を洗ってあげたり...アイドルとしてふさわしくないあんなことやこんなことまで....おほおお!!」
マーゲイの鼻から、鼻血垂れる。
「PPPはあなただけのアイドルじゃない!みんなのためのアイドルです!」
僕は正論を突きつける。
「そうだよ!」
サーバルも便乗する。
マーゲイは鼻を拭いてから、
「私からPPPちゃん達を奪い取るつもりですかぁ?」
と言った。
「自由にしてあげるだけですよ!」
「怖いですよお...、全く...」
マーゲイは不気味に眼鏡を上げた。
「私を守ってくださいねえ!」
その声と共に、PPPのメンバー達は身構える。
「ま、まずいのだ!」
アライさんの言葉通り、まずい状況だ。
6対4、数でも向こうが有利である。
そして、PPPの人達を傷つけず彼女達を
束縛しているマーゲイをなんとかしなければいけない。
能力を持ってないサーバルとアードウルフを庇いつつ、と言うのは難しい。
そんな不安が顔にも出ていたのだろうか
「かばんちゃん、カバが言ってたんだ。
出来ることなら率先してやりなさいって...。私、かばんちゃんの気持ちを優先するよ。心配しないで!能力無いけど、無いなりにやってみる!」
「ありがとう...、心強いよ。サーバルちゃん」
僕はサーバルに礼を述べた。
「アライさん」
「かばんさん...」
「僕と、協力してくれますか?」
「....お任せなのだ!」
「あっ、わっ、私も出来ることやるから!」
アードウルフはオドオドしていたが、サーバルがいるから、大丈夫であろう。
「ほほーん。
自信満々って感じですね~。だけど私が手塩にかけてプロデュースしたアイドルには勝てませんよ?
さあ、PPPのプレミアム生ライブスタートです!」
僕は竜と一体化する。
アライさんは水を操る能力。
ここは幸運なことに水辺。地の利を活かせばなんとか乗り切れるかもしれない。
その為には...
「サーバルちゃん、アードウルフさん!PPP達を引きつけて!この会場の外に!」
「了解っ!」
「わわわっ!はい!」
ステージ場からは、勢い良くPPPのメンバー達が飛び降りる。
「早っ!!」
アードウルフの声が聞こえる。
「感心してる場合じゃないよ!
2人から引き離さないと!」
そう言っている、サーバルに向かってくるのはジェンツーペンギン。
サーバルは、得意のジャンプで間合いを適当に取る。
「うわっ!」
一方アードウルフはフンボルトペンギンとの追いかけっこを始めていた。
子供っぽいかもしれないが、アードウルフにしてみれば必死の対応であった。
ステージから離れつつ、早く事が片付くまで耐える。
残ったコウテイ、ロイヤル、イワトビ達が一斉に僕とアライさんの所に突っ込んでくる。アイドルらしからない大胆な事をしてくる。
「まずは、こっちを何とかしないと...」
コウテイペンギンとロイヤルペンギンの足元を狙った。
右腕を構え...、そして冷気を放った。
一瞬にして床が凍り、二人は足を滑らす。狙い通りそしてもう一度、滑った隙に彼女達の足を凍らせて動きを封じてみせる。
アライさんは水を手に吸収した後、水圧で迫って来たイワトビペンギンを飛ばした。
(思ったより楽勝なのだっ!)
僕はマーゲイを狙おうと
ステージ側に振り返ろうとしたその矢先だった。
「みゃっ!?」
サーバルの声が聞こえた。
急いで顔を向ける位置を方向転換させた。
「えっ!?」
僕も声をあげてしまった。
視界に入って来たのは、天に伸びる白い線であった。
「これは一体...」
「私は何で操っていると思いますか?
PPP達を...」
僕はハッとした。確かに他者を操る所までは聞いていたが、“何で”操っているかは聞いていない。
「これは、“糸”ですよお!
そう、PPP達は私の“あやつり人形”なんですよぉ!ホントこんな素晴らしいモノをさずけてくれた博士さん!もうホント大好きですよ~!」
真ん中に突如として登場したマーゲイは
大袈裟に博士を褒めたたえた。
「でも、PPP達からはあんな白いのは見えてなかったのだっ!」
「当たり前じゃないですかぁ...
だって彼女達とは“赤い糸”で結ばれてるんですからぁ...、目に見えないのは当たり前ですよ。
ところで、“糸”ってモノを切ることが出来るんですよ~。博士が言ってました!」
マーゲイは左手を動かすと一斉にPPPの5人を無理矢理真ん中に招集させた。
コウテイやロイヤルペンギンもバリバリと信じられない力で氷から抜け出し、
マーゲイの周りに集まり始める。
「えーっと、確かこういう時は...
あなた達は袋のネズミ!」
「どうするんですかあ!!」
アードウルフが叫ぶ。
(周りからは糸、外には出れない...
残された空間は...)
まさに四面楚歌の状況、僕はふと足元を見た。そして、閃いた。
(地下だ!)
「アライさん!
このステージを湖にしちゃってください!!」
「のだっ!」
アライさんはそう返事をすると、
両手を地に突き、片膝を立てる。
思いっ切り力を込めた。
(かばんさんの危機なのだ...!
行ってくれなのだ!)
「湖にする?そんな水はいったい何処から入手するんですかねぇ~?」
マーゲイはまだ、半信半疑であった。
(アライさんに....、お任せなのだ!)
次の瞬間、太い水柱が次々と地下から噴出し、辺りはすぐに水浸しになり始める。
「ペンギンは水の中でも泳げるんですよ。こんな事したって無駄です!」
「アライさん、PPPの人達に無駄じゃないって事を証明してください!」
僕はその文言が意味する指示をアライさんが理解できるか不安であった。
「...了解なのだっ!」
そういうと、マーゲイを挑発する行動に出た。
「水の中で泳ぐペンギンを見てみたいのだ!」
「後悔しないでくださいよ!」
水はあっという間にアライさんの肩ほどまで水位を上げた。マーゲイは高い台の上に登っているので直接被害は受けていない。
ペンギン達は野生の姿そのままに、水の中へと潜る。
アライさんも同じ水中へ潜った。
僕はアライさんが気を引いている内に
飛び上がり、サーバル、アードウルフを救出に向かう。
僕は飛べると信じて、飛び上がった。
(やっぱ、竜と合体したら飛べるんだ)
まさか自分が鳥のフレンズと同じ目線に立てるとは思ってもいなかった。
僕は急いで陸地にいるサーバルと
アードウルフの元へ行く。
「サーバルちゃん、捕まって!」
左手を伸ばす。
「うみゃ!」
得意のジャンプで、簡単に僕の腕を掴んだ。
「アードウルフ!私に掴まって!!」
サーバルが手を伸ばす。僕もそれに合わせ、高さを調節する。
「わ、わかった!」
サーバルの声から遅れて返答し、腕に掴まった。
「二人共、しっかり掴まってて!」
僕はそう注意を促し、ステージの上空で浮遊する。
空いている右手を水面に構えた後、こう叫んだ。
「アライさん!!」
その声と共に勢いよく水中からアライさんが飛び出した。それを見て、僕は右手から冷気を出し水面を凍らせた。
これで水中にPPP達を閉じ込める事が出来た筈だ。
僕は氷上におり、サーバルとアードウルフを後ろへやる。
アライさんも僕の元に寄った。
「何なんですかこれは!!
私のPPPちゃんをっ!」
右手を動かして僕達を閉じ込めている壁を此方へと寄せる。
「アライさん...、行くよ」
「準備はオッケーなのだっ!」
「切り裂かれなさい!」
僕は左手を、アライさんは右手をマーゲイに向け、息を合わせ同時に技を放った。
かばんの左手からは青白い炎
アライさんの右手からは勢いのある水
うまい具合に混ざり合い、マーゲイへと向かって行った。
「ハアッ!?そんなっ、まさか...!」
マーゲイは“その中”に呑まれて行った。
スススッ...
彼女は飲み物を啜り、カップを置いた。
「いやあ、博士に教えて貰ったこの
飲み物、最高に美味しいよ。ココアだっけか」
「お気に召したのなら、良かったのです。博士に伝えておきます」
「ところで、助手がここに来るって事は何か“まずい事”でも起きたのかい?」
「お察しが良くて助かるのです。
簡単に言うと、かばんが戻って来ました」
「ほう...」
再び、ココアを一口飲んだ。
「博士はそれがお気に召さないようです」
「フフッ、悪戯心に火がつくな。
久しぶりに“いい顔”が見れそうだよ」
「それは良かったのです。“準備”は
しっかりと行ってください」
「もちろんだ」
そして、再度カップを持ち上げ、ココアを飲み干したのだった。
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