第25話 とうきょう(中編)

アライさんは両脇にサバンナ出身の二人を抱え、近くの無傷で佇むビルの屋上に避難する。

水の力で二人を抱えても重くは無かった


「取り敢えず...、様子を見るのだ...」


サーバルは対峙する二人を見つめ、

沈黙したまま手を合わせ願うようにしていた。


アードウルフも固唾を飲んで見守る。





微かに風が吹く。


「容赦はしませんから。博士の脅威は私が取り除くのです」


僕は白黒のオーラ放つ助手の手を見る。

鼻から息を吐く。


睨み合いが少し続いた。

どちらが先に行動をするか。


最初に動きを見せたのは助手の方だ。


黒いオーラを放つ側の手から

黒い穴を出現させる。

中くらいの穴だが、吸い込む力はとても強い。

すかさず上へと避ける。

しかし、手から出現しているので上に

向けられれば意味は無い。


我武者羅に高速で移動して、タイミングを見計らうしかない。


だが、一筋縄で行かないのが島の長の右腕、実質のナンバー2。

それなりの賢い策を用いる。


動き回るかばんに対して助手はそれを無視し、別の方向へと直線的に移動を始めたのだ。


僕は咄嗟の助手の行動に驚かされる。

急いで自分も後を追尾する。


「どこ行くのだっ!?」


「アライさん、突っ立ってないで追いかけるよ!」


サーバルに急かされる。


「ふぇぇー...」






「おわっ...」


黒い穴を次々に後方へ飛ばす。

それを避けつつ、僕も応戦した。

蒼白い炎を飛ばす。

しかし、助手も劣らず、避けるか吸い込むかする。


「私に能力で勝とうなんて10年早いのです。賢い我々のレベルになると

ぶっつけ本番でも強力な技を使えるのですよ」


玉を取り出した。


“ヴォジャルゴ アル デュオールノ”


急にかばんの方へ向くと白い穴を出現させる。


「なっ...!?」


白い穴からかばん目掛けて出てきたのは

水色の帯を巻いた“電車”


ただその名称はかばんは知らない。


物凄い勢いで流星の如くそれが何本も

襲いかかる。


(早いっ...!)


避けている最中、助手は卑劣な手を使う

何と黒い穴も出現させたのだ。


「吸い込まれる...!」


空気の流れに逆らおうとするので

動きが鈍る。それこそが助手の思惑だった。


「えっ!?」


ズドーーーンッ


唐突に出てきた“電車”の攻撃を喰らう。

そのまま、ビルに突っ込んだ。


助手は冷たい眼差しでその崩壊した所を見つめた。


「憐れですね。全く」





「...うっ...」


ゆっくりと上体を起こす。

辺は灰色の土煙が未だに漂っている。


(ダメだ...、こんな所で...

なにか...、助手さんの弱点を見つけないと...)




かばんはこの街の上空の映像を思い浮かべる。


(森....、そうだ)


かばんは立ち上がると、地上の方を少し浮遊しながら、早めに移動しはじめる。

もちろん、その一部始終を助手は見逃していない。


「まだ息が有るのですか…!?

しぶとい奴なのです…

しかしその元気がいつまで保つやら」


助手は上空から地上で逃げるかばんをマークする。


「逃がしませんよ」


そしてまた白い穴を出現させる。

今度は電車ではない。

地上に物凄い爆音が響き渡る。


もちろん、僕はそれを理解している。

助手さんの視界から外れるよう建物の影を利用する。

この作戦が功を奏す。


「ちょこまかと...」


いつの間にか助手の攻撃は止んでいた。


助手を撒けたのだ。

今度は僕の思惑通り。

僕は森へと猪突猛進した。




都心の中にある森。

そこは、かばん達がやって来た

ジャパリパークの森を彷彿とさせるものだった。


僕は限られた時間である物を探した。


(急いで探さないと...)


知識もそれなりにある。

僕は覚えていた。彼女の弱点を。


(...いた)


「...君の力を、貸してね」








「くっ、どこに消えやがったのですか」


僕は森から一気に上空へと上がる。

そして、助手を捉えた。


猛スピードで助手に向かう。

後は僕の命中率の問題だ。


「なっ、どこから来やがったのです!?」


(....!行けっ!)


僕は“それ”を助手に向かって投げた。


(頼むっ....!!くっ付いてくれ!!)


「...はい?」


助手は何が起こったか理解出来ない様子だった。

だが次の瞬間、顔色が一変した。


「....えっ、なっ、な....ああっ!!

ああああああああぁぁぁっ!!!!」


突然大声を上げた。


「やめるのですっ!汚らわしいっ!」


何をしたかというと彼女は黒いオーラを放つ右手を自分の方へと向けた。


そして...、自分に向かって黒い穴を出したのだ。


「なぜっ!!離れるのです!!」


徐々に彼女はその暗黒の世界に飲み込まれる。だが、賢いと自負するだけあって

必死にその吸い込まれるのを拒もうとしている。


「嫌だっ!消えるのはお前だけでいいのですよ!」


羽を荒ぶるようにばたつかせる。


僕はその行為からは目を逸らしていた。

そして、僕は...


蒼白い炎を助手へと放った。


「アッ!?」


その断末魔は、闇に飲まれた。


こうせざるを得なかった。


そして、空は平穏な夕暮れに戻った。






3年前の船出のちょっと前の日...

僕は図書館である騒動に遭遇した。

図書館で“虫”が出たのだ。


「あああっ!!」


「ど、どうしたんですか?助手さん」


助手が震えて指を指す先にいたのは毛虫だった。

図鑑で何度か目にしたので僕は何とも思わなかったが。


「虫が...、嫌いなんですか?」


「き、嫌いな、嫌いって、こ、事じゃないですが、に、苦手なだけです」


明らかにあれは、怖がっている素振りだった。


だから、僕は虫を森で見つけて、助手に投げた。左腕にくっついた。

小さい吸い込み口だったらこの作戦は上手くいかなかったが、うまい具合に

取り乱してくれた。


少し、心が痛む。

しかし、助手はもっと残虐な行為をした


(…もうやめよう)


こんな事考えるのは、僕らしくない。


「はぁ...はぁ...、早すぎるのだ...」


水圧で浮上しているアライさんが二人を連れてやって来た。


「ごめんなさい、アライさん...

行きましょう...、博士さんを止めに。博士さんはおそらく...」


銀色の物体がある場所を指す。







国会議事堂のてっぺん


辺りには倒れ込む者達。


「これで...、これで...

私はこの世界の長になるのです!!!

お前らは我々の下僕なのです!!!

ふふっ!!ふははははっ!!!!」

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