第8話 なかま

白い竜に乗って、僕はさばんなちほー

の上空まで辿り着いた。

上空からアライさんの探索を試みるが、

木の影などの死角が多い。

仕方なく地上に降りた。


さばんなちほー。

3年前、ここで彼女と出会った。

闇雲に草原を歩き、狩りごっこをし、

振り返ればまるで昨日の事の様だった。


「ねぇ!私の家に行こうよ!」

サーバルにそう提案された。


ふと、サーバルの住処はどこにあるのだろうと思う。


「僕も、見てみたいな」

そう言って、僕は肯いた。


(道中でアライさんを見つければいいか

...)


数十分程歩き、木が立ち並ぶエリアに来た。道中アライさんは見つけられなかった。


「ここが私の家の近くだよ!」


サーバルは嗅覚を頼りに自分の家まで向かった。


「ほら着いたよ!ここが私の家!」


僕はサーバルのいう家を見て、一つ、指摘をした。


「ねえ、誰かいるよ?」


「え?」


木の根元の空洞近付いて見ると...


「うわああああ!家を取られてる!」

大声を発するサーバル

確かに、3年も間を空けてしまえば誰も住んでないと勘違いされるかもしれない。


「ふぁ...?」


その大声で中にいたフレンズが目を覚ました。


「あなた達は...?」


「ねぇ君!ここ私の家なんだけど!」


「え?そうなの?」


「だって、ほら!奥の方にかばんちゃんの紙飛行機があるもん!」


かなりボロボロにはなっているが、

紙飛行機は確かに僕の作った物で間違いは無い。


「ところで...、あなたは何のフレンズさんですか?」


「私は、アードウルフ」


「僕はかばんって言います。

アードウルフさんは、なにか能力を持ってたりしますか?」


「能力?なにそれ」


(能力を知らない...。一先ず、安心だ)


僕はアードウルフにこれまでの旅のこと、今自分たちがしている事を説明した。


「・・・じゃあ、今仲間を探してるんだ」


「そうなんです」


「じゃあ手伝うよ」


「ありがとうございます」


能力は無いものの探す人が増えれば効率も上がる。それに僕は期待をしていた。


「ねぇねぇ!少し休もうよ!」


サーバルが住処の中から呼ぶ。


「だけど...アライさんをみつけないと」


「あっ!そうだったね!完全に忘れてた!」


(天然だなぁ...)

僕は微笑した。


「でも、ここのエリアは広いですよ?」


アードウルフが言う。


「きっと、このエリアにいる絶対居るハズなんですが...」


「じゃあさ、じゃんぐるちほーに向かって歩こうよ!」


「まだそこは見てないね」


僕はその案に賛同した。


少し休んだ後、僕、サーバル、アードウルフの3人で一路じゃんぐるちほーに向けて歩き始めた。


再び数十分程歩いたが、まだアライさんの姿は見られなかった。


「もうすぐさばんなちほー終わっちゃうよ?」


「やっぱり...、ヘラジカさんに騙されちゃったのかな...」


そう思っていたが、さばんなちほーと

じゃんぐるちほーの間を隔てるゲートに立ち背中を見せている。


僕達は足を止めた。


「サーバルちゃん...、あの後ろ姿って...」


「間違いないね!」


「ええ... 、なんか危ない気が...」


「アードウルフさん。

アライさんは僕達の...、仲間ですから。無理して近付かなくても大丈夫ですよ」


僕とサーバルは、ゆっくりとアライさんの元へと近付いた。


ここは昔、巨大なセルリアンがおり、通せんぼうをしていた。しかし、僕とサーバル、そしてカバの協力プレーにより、やっつけた。確かこの時、セルリアンの犠牲になってしまったフレンズがいた気がするが…


僕達は何も遮る物がない広い場所で、

立ち止まり、彼女に話しかけた。


「アライさん!」


僕が呼ぶと彼女はゆっくりと振り返った。


「無事で良かったです」


そう言うと彼女は不自然に視線を僕から逸らした。


「・・・・」


彼女は黙ったままだ。

不穏な空気を感じ取ったのか、サーバルの尻尾の毛が逆立つ。

その空気は僕も何となく察する。


「どうしたんですか」


と、息を飲み発言した。


「...かばんさん、フェネックはどこなのだ」


その問に僕が逆に言葉を詰まらせてしまった。


「あっ...、フェネック...」


サーバルもこの時、彼女が一切の話題に出なかった不自然さに気付いたのだった。


「それは...」


苦渋の決断だが、明かさなければいけない。能力を強制的に得られてしまって、苦しんでいる彼女自身が自ら倒せと言い、僕がその要望に答えたこと。


「アライさんは知ってるのだ。フェネックは...、フェネックは...」


声を震わせながら出す。


「かばんさんに殺されたのだ」


「えっ...」


「かばんさんは、能力に溺れて、暴走して...、止めようとしたフェネックを!」


アライさんの握っている拳が震えていた。

僕はそのセリフを聞き、もしやと思いこう尋ねたのである。


「その話は誰から聞いたんですか?」


「・・・博士からなのだ」


(また博士か...)

僕は心の中で舌打ちをする。

トキと同じ様に変な理屈を付けて、アライさんを唆したのに違いない。

となると、そこから導き出される答えはアライさんも何かしらの能力を得ているという事だ。断言してもいいだろう。


「アライさんは...、仲間でもあり、

大切なフレンズでもあり、大親友だったフェネックを殺したかばんさんを許さないのだ!」


正義感の強い彼女の目的地は“あさっての方向”ではなく、“復讐”に向いていた。


皮肉にもこの場所でまた、戦う事になるとは思わなかった。

前回はセルリアン、完全な悪だったが、

今回はアライさん。フレンズだ。

無駄だとは思うが、僕も自分の考えをアライさんに伝える。


「アライさん、僕はフェネックさんを殺したりなんかしてません。フェネックさんは博士さんによって能力を得てしまって、それで苦しんでいたんです」


「ちりょーほーはそれしかなかったのだ?フェネックが能力に苦しんでいたから倒した。結果かばんさんがフェネックを殺した事に変わりないのだ」


「そ、それは....」


今回ばかりは彼女の言う事が正しい。

ぐうの音も出ない。


「いくら綺麗事を並べても無駄なのだ。フェネックがいなくなった事実は変わらないのだ!!」


アライさんは右手を胸の前まで持ち上げる。


「サーバルちゃん、アードウルフさん!下がって!」


「・・・アライさん」


小さい声でサーバルが彼女の名を呼ぶ。

しかし、その声は届かない。


「ど、どうなるの...」

単なる人探しだと思っていたアードウルフは厄介事に巻き込まれてしまい内心後悔していた。


「そっちが抵抗する気なら、こっちも徹底的に抵抗してやるのだ...!」


両手を突き合わせる。


僕は竜を出現させる。もうこの行動に慣れてきた。そして、


(心を解放する...)


本能的に竜を受け入れることであの姿になると予想でやってみる。

すると、見事に的中した。


竜と合体した姿になる。


「何が来ようとアライさんの能力がこの世で一番最強なのだ!」


というと、地面に向かって右の拳を打ち付ける。彼女が普段見せない姿だった。

次の瞬間、サーバルが耳をヒクッとさせ、大声で叫んだ。


「かばんちゃん!足元!」


僕はその声に反応し退く。

竜と合体した姿は移動速度も気持ち上がっている気がする。


突如として、地面から巨大な水柱が噴出した。


「これはっ...!」


「アライさんの能力は“水を操る”能力なのだ。だからこんな事も出来るのだ!」


ゴゴゴゴという音が遠くから聞こえる。


「この音は!アードウルフ!来て!」


サーバルはアードウルフを抱え木の上に一気に飛び上がった。


僕はというと、アライさんが“呼び出した物”に呆気を取られていた。

茶色く濁っている川の水が壁の様にこちらに迫ってくる。


僕は一旦息を吐いてから、竜の口のようになっている右手を向ける。


(全部はダメでも、一部だけ凍らせる事が出来れば...!)


水の中央上部に狙いを定め、凍らせた。

両サイドの水は僕を避けるように、左右に流れていく。


だが、アライさんは“ふははは”と強気に笑っている。

次の瞬間、自身の真下に拳を打ち付け、アライさんは水の中へと入る。


「えっ!?」


水の中にいるアライさんは魚の様に泳いで上に行き氷の壁をそのまま打ち砕いてしまった。


「氷を水で打ち破る!?」


僕は信じられなかった。


勢い良く水の中から飛び出したアライさんは太陽と自分の姿を重ねる。


「かばんさんは一つ勘違いしているのだ!これは水じゃなく...」


重力に引っ張られ透明な水と氷が溶け自由になった濁った水の中へとダイブする。

着地と同時に拳を地面に叩きつけ、再度水を纏う。

そのまま、アライさんは水の中に入ったまま、まるで流れに乗るようにして僕へと近付いた。


勿論、僕は右手を構えもう1度凍らせようとする。

白い冷気が放たれ、アライさんの纏う水を凍らせた。と、思ったが、彼女は再びその氷を打ち砕く。


「な、何で!?」


「ふははは!

これは水じゃなくて“お湯”なのだ!!」


一瞬見えたアライさんの手からは白い気体が立ち上っていた。

そして、磁石の様に拳に吸い寄せられた水は僕の身体に向かって放たれた。


「うぐっ!?」


熱い上に水圧が物凄く、真っ直ぐ飛ばされる。


「かばんちゃん!!」


「うわあああ....」


「まだ終わらないのだ!」


アライさんはそのまま地面に手を付け、バク転をする。


そうすると、また地中から水が吹き出し飛ばされた僕を受け止める様に飲み込んだ。


「ゴホッ...!」

(溺れる!)


その瞬間、黒セルリアンに飲み込まれた時の事をふと思い出す。

能力の無い彼女に頼むのもどうかとは思うが、それほどピンチだった。


(サーバルちゃん・・・、たすけ・・・)


バシャッ...


水を切り裂く音が聞こえた。


(だ...だれ...)


僕は水の中から助け出され、息が出来るようになった。


「ガハァ...ハァ一...ッ、ハァ...」


「な、な、なんなのだ!?」


「あら...?水の中で暮らせる動物がこの“さばんな”にいたこと、忘れてらっしゃったの?」


(その声は...!)


アライさんの能力によって辺りは水浸し。まるで池のようになっている。

水を掻き分ける音を立て一歩前に出た。


「悪い子には...、お説教しなきゃね」


目を開き、アライさんを見つめる。


サーバルとアードウルフは木の上で、声を出したのだった。


「あ、あれは...!」


「カバ!!」

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