第7話 きみにおくるれくいえむ
トキは上空に飛び上がると両手を握る。
そして、機銃掃射の様に飴の粒を僕に向かって飛ばす。
「痛っ!」
元が魔術なので、威力がある。
腕で頭上を庇いつつトキとの距離を取ろうとするが上空を飛んでいるので直ぐに追われる。
その様子をサーバルは心配そうに見つめる。能力の類を全く知らないサーバルはどうすることも出来ずあたふたするだけしかなかった。
(どうしよう...かばんちゃんがピンチなのに...)
「くっ...」
(グルルル...)
(そうだ、僕がしっかりしないと...)
1度心を落ち着つかせてから竜に指示を出す。
(まずはあの飴を止めなきゃ…。
何とかあの手を...)
そうすると竜はかばんの元を離れて
トキの元へと飛ぶ。
「何よ...!」
竜はトキにそばを旋回し始める。
「...!!」
手が白くなり始める。
手が握れない。それに冷たい。
「動かせない...」
「トキさん!聞いてください!トキさんは博士さんに騙されているんです!目を覚ましてください!」
「....」
僕がそう言うと、急に黙り始め、
彼女は、少し俯いた。
「私は...、大切な仲間を失った?
博士の言ってる事が全部ウソだとしたら、私は、ショウジョウトキやアルパカを...、この自分の手で...?」
「えっ、それは・・・」
僕は予想外だった。
まだ、完全に博士の思想に染まりきっていた訳じゃなかった。
しかし、それはトキに現実を突きつける事になる。
傷つけることになってしまう。
僕は1度考えてから、こう話した。
「トキさん、博士さんを倒しましょう」
僕はそう提案した。
「そうだよ!よくわかんないけど、
かばんちゃんをやっつけるのは間違えてるよ!」
サーバルも説得に加わる。
「その先はどうするの...」
「えっ?」
「アルパカやショウジョウトキを失くして生きる理由はどこにあるの。
私は、どうして孤独になるの...!」
その声は悲痛な叫びに聞こえた。
「トキさん、何言ってるんですか!
僕達だって...」
「あの2人は私にとって特別な存在だったのよ。あなたとサーバルだって特別な存在でしょ...。それを失った先に何があるの?」
「・・・・」
僕は3年前のあの黒セルリアンの時を思い出した。
サーバルが居なくなってしまったら、
僕はどうしたんだろう。
もしも、かばんちゃんがいなくなったらどうしたんだろう。きっと、トキと同じ様に...、思っちゃうかもしれない。
二人が想像していると、トキは一気に飛び上がった。
「生きる理由は、何も無いのよ...!」
容器を取り出し急降下した。
「あっ、何をするんですか!」
バリーンと容器が割れた。
辺りには紅白の飴が広がる。
トキは地面に座り、凍った手を無理やり動かし飴を拾った。
「これを...」
手に取った飴を口に入れた。
「トキさん!何してるんですか!」
僕は呼び止めたが、無駄だった。
「あは...ショウジョウトキって...
こんな味なのね...、甘い...」
トキは口の中で飴を転がした。
すると彼女の手の異変にサーバルが気づく。
「かばんちゃん!トキの手からなにか出ているよ!」
そう言われ確認すると、確かに白い煙が立ち上っている。
「あっ!」
僕は声を上げて気付いた。
アレは氷が溶けているのだと。
(もしや、飴は舐めると何らかの能力を得る?)
「はぁ...カラダが、あつい....」
吐息を洩らしながら、声を出した。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「ト、トキの手が!」
サーバルは声を震わせた。
「あれは...、火!?」
なんとトキは両手に火を纏っていた。
飴にこんな力があるとは思わなかった。
両手に火を纏ったトキはかばんに向かう。
「ああっ!!」
サーバルが声を上げる。
向かってきたトキを交わそうとして後ろ向きに倒れる。
「もう...何だっていい...」
「た、たべないで下さいっ!!」
そう叫んだ瞬間であった。
(グルォオ!)
という声と共にかばんの全身が光に包まれる。
それに驚き、トキは一旦身を引く。
「なんなの!?」
「えっ!?どうなってるの!?」
サーバルも状況がわからない。
「えっ...これは...」
僕も自分の姿に驚く。
両手の黒い手袋や靴は白色で金色のラインが入っている金属質の様な物になり、
身体はやはり白を基調とした重々しい格好。
衣服が肌と密着し、動きやすいと言えばそうかもしれない。
首には下に長い布、頭が少し重く感じた。
「まさか、白い奴と合体したの...」
「こんな力もあるだなんて...」
僕は立ち上がった。
そして、両手に火を纏っているトキに向かって話し始めた。
「僕、トキさんの歌が、大好きでしたよ。一緒に歌ったりも、しましたよね」
僕は一瞬目を閉じて柱の上で“じゃぱりまんの歌”を歌った時の記憶を思い出した。
「すごく、楽しかったですよ!」
僕は微笑み、歌い始めた。
“柱の〜、上で食べる〜、じゃぱりまんは〜♪”
「...うっ...。もう、やめて!私はもう、終わったの!」
その言葉を聞きトキを見た。
両手が紅蓮に包まれているのがわかった。
僕は右手が冷たくなるのを感じた。
トキは空中に飛んでから、急降下し、
炎に包まれた鳥の様になって、此方へと突っ込む。
右手を彼女に向けると白い空気が塊となって行く。
タイミングを見て、僕はその右手から冷たい冷気を放った。
「...ハァッ!」
冷気はトキに命中し、彼女の両手は凍結していた。地面にズサっと滑り込む様な形になっている。
僕がその姿を見ていると、
トキは弱々しく座ったまま体を起こした。
「...倒さ、ないの?」
「トキさんの玉は自分で持ってますよね」
彼女は首を下に少し動かした。
「なら、博士さんに操られることはありませんし、僕はフレンズさんを倒したりなんかしたくありません」
「じゃあ...、どうやって博士を?」
「説得します。トキさん。安心してください。今からでも、僕に協力してくれませんか?あなたはひとりじゃないんです」
「...ほんとう?」
「はい、僕達は仲間ですから!」
トキは今にも泣き出しそうな顔をした。
サーバルも僕の側による。
僕が凍ったトキの手を触れ、一体化した竜に心で溶かす様に命じる。
凍ったのは溶けていき、やがて彼女の手が自由になる。
「...ありがとう」
「大丈夫ですよ!」
そして、僕が座ったまま彼女を立たせようと改めて手を握った。その刹那であった。
「あっ」
トキが声を上げた。
「えっ?」
僕は何故トキが声をあげたかわからなかった。
その瞬間、サーバルに「危ないっ!」と言われ引き離された。
その勢いで僕は後ろに飛んだ。
「ええっ!?何!?」
直ぐに僕が飛ばされた方へとサーバルが駆け寄った。
「ごめんねかばんちゃん!でも、あれ...」
サーバルが指差した先を見ると倒れた
トキと...
「あれはっ...ヘラジカさん!?」
ヘラジカが腰に手を当て、倒れ込むトキを見つめていた。
僕は気が動転して大声で叫んだ。
「ヘラジカさん!トキさんに何をしたんですか!」
「かばん...、おかえりと、近くで言いたかったが、タイミングが悪かったな。博士の命令でトキを消すことになった」
「け、消すって!どうしてそんな酷い事を!」
「博士がトキの能力を危険と判断した為だ。無論、君らの仲間になるのは都合が悪いからなぁ」
「かばんちゃん!トキが!」
サーバルに言われトキを見ると、
体が白くなり始めていた。
「彼女は、“花”になるんだ」
「は、花...」
僕は意味がわからなかったが、
すぐにその意味を理解する事となった。
トキが倒れていた場所が、花畑と化していたのだ。
「私の能力は、
“切った植物以外を花にする能力”だ」
ヘラジカはスカートを持ち上げると、
銀色に光る縦長の物を出現させた。
「また...」
すると、銀色に光る縦長の物を左手から右手に持ち替えると僕達の方向に向かい振り下ろす。
風が吹き抜けるようにこうざんの雑草が揺れた。
「か、かばんちゃん!」
サーバルは僕と共に横へ避けた。
雑草が急激に伸び始める。
あっという間に木のほどの高さへとなる
「“植物を急激に成長させる事”が出来る。あのままあそこにいたら葉で切られて皮膚が血だらけになっていたぞ」
そう言って、鼻で笑った。
「だが、今は倒すつもりは無い。それは指示されていないからな」
「さっきから指示とかって...、何なの!?」
サーバルが珍しく自分から尋ねた。
「私は博士を守る為に結成された、
“四獣守護神”の一人だ。博士に認められた能力者が4人だけ選ばれる。それが私だ」
「し、しじゅうしゅごしんとか、のうりょくしゃとか、難しすぎてわかんないよ!」
サーバルが突っ込みを入れた。
僕は意識的に構えた。
「ヘラジカさん...、フレンズを傷つけるなんて...」
僕は怒りが湧き上がって来ていた。
「そんなにムキになるんじゃない。冷静さを欠くのは良くない。それを教えてくれたのもかばんじゃないか。私はただ有意義な情報を持っている。君の仲間に関係することだ。知りたいだろう」
僕には心当たりがあった。
「仲間...、アライさん!!」
「そうだ。彼女は今さばんなちほーに居る。助手が見つけた」
「何も能力を付けさせたりしてませんか?」
「私が聞いたところではそう言った話は無い」
「サーバルちゃん!アライさんの所へ早く行くよ!」
僕は竜との合体を解いた。
「ど、どうやって!?」
「この竜に乗るんだよ!」
僕はサーバルを竜の背中に乗せて、こうざんから離れた。
(何としても、アライさんだけはっ...
仲間を失いたくない!)
ヘラジカはその様子を見送った。
「さて、博士に報告するか...」
こうざんを後にした。
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