第6話 あめだま
トキはカフェの屋根で足を組みながら、
話を始めた。
「私が能力を得たのは、2年前...」
あの日は、陽射しがとても眩しかった。
「・・・はい、あなたも能力を得ました」
博士は表情を一切変えずにそう言い切った。
「この“玉”は持っておくように」
と言って、赤みがかった玉を渡した。
「ありがとう...」
「これで歌が上手くなりますよ」
「そうだといいけど。ねぇ、私の能力って何なの?」
「知らないのです。自分で色々と試してみてください」
少し博士の反応が冷たい様な気がした。
(博士は歌が上手くなったり、アルパカの役に立つとか言っていたけど...)
その数日後、能力がわかった。
何気なく手を握っていると、手の中に違和感を覚えた。
「これは...?」
手の平をそっと開くとそこにあったのは透明な固形物
「何だろう...これ。食べ物?」
口の中に入れる。
微かに、甘い味がした。
「これなんて言うのかしら...」
気になって図書館に行った。
何故か博士たちはその固形物を食べようとはしなかった。
「これは“飴”なのです」
「飴...」
「それが、あなたの能力でしょう」
「これを作るのが?」
「はい」
また博士の対応はあっさりしていた。
カフェに戻ると、ショウジョウトキがいた。
「あれ、アルパカは?」
「あなたが帰ってくる前に、用事があるって言って、出掛けて行ったんですけど…」
「あら、そうなの」
トキはふと自身の能力を思い出した。
軽く片手を握って飴を出す。
「ねぇ、これ、食べてみて」
「なにこれ」
「飴っていうらしいの」
「ふーん...」
ショウジョウトキはそう言うとトキの手から飴を受け取った。
透明な飴を光を通し中を見つめるようにしながら、見つめた後ゆっくりと口の中に入れた。
「...甘いね....あれ...ん...」
「どうしたの?」
ショウジョウトキは唐突に黙り始める。
「えっ...」
その眼で見たのは信じられない光景であった。
バタリと、その場に倒れると口から大きめの飴玉を吐き出す。
その後、彼女の身体は徐々に小粒の飴へと変わっていく。
トキは黙ってその姿を見つめる事しか出来なかった。
「そんな...」
紅色に光る飴を闇雲に手で寄せ集める。
それは、宝石の様でもあったが、
トキにとっては美しいとは思えなかった。
急いで飴玉をかき集めカフェにあった透明な容器に入れた。
今はこれしかない。
テーブルの下にそっと隠した。
「あぁ〜、トキちゃん!来てたんだねぇ〜」
「こ、こんにちは...」
「あれぇ、ショウジョウトキちゃんはぁ?」
「先に帰ったわよ…」
「ああ、そうなんだぁ」
何とかその場をやり切った。
後でアルパカに差し出された紅茶は素直に喉を通らなかった。
その後、再び図書館に行った。
「博士...!どうすればいいの!」
博士に容器に入った赤い飴を突きつける。
博士は興味深そうにそれを見つめた。
「飴ですよね。これがどうしたのですか」
「ただの飴じゃない、ショウジョウトキよ!」
「どういうことなのです」
トキはその時の状況を詳しく伝えた。
「なるほど...。これは元に戻りませんね」
「えっ...そんな...」
「飴に変えるのがあなたの能力でしょう。やってしまった物は仕方ないのです」
「何とかして、能力を失くして!」
トキは冷静さを失い、博士の襟元を持ち強く揺さぶった。
「落ち着くのです。能力を失くすことは出来ません」
「じゃあ、死んでやるわ!」
「待つのですよ。よくよく考えて見てください」
トキが手を離した。
「だいたい、その飴を食べなければいいだけの話です。ですが、最初はその性能を知らなかった。つまり、事故なのです。あなたが責任を負うことはないのです」
博士はトキは悪くないと正当化した。
それから博士は徐に透明容器の蓋を開け、ショウジョウトキだった飴を摘む。
「それに...」
躊躇すること無く、飴を口へと入れた。
「美味しいですよ。この飴。あなたも舐めてみるのです」
「...信じられない。例え飴であったとしても、フレンズじゃないの!」
博士は飴を舐めながら、反論をした。
「カッカするなです。先ほども言った通り、コレは仕方ない事なのです。
現実を受け入れるのです」
「...もう知らない」
トキは容器を手に取り、再びカフェに戻って行った。
それから数週間、数ヶ月能力を封じていた。
ショウジョウトキが来ないねなどとアルパカは言っていたがその際は何とか言い訳をしてはぐらかした。
そんな嘘を貫き通す日々を過ごした。
その最中、博士と出会った。
「お久しぶりですね、トキ」
彼女の顔を見た瞬間、あの時の苦い記憶が舞い戻って来た。
「なによ」
「ひとつ、あなたにお伝えしなければいけない事があるのです。心して聞いてください」
「だからなに...」
「アルパカの事なのです。彼女は重い病気を患っています」
「...えっ?」
「このままでは彼女は近いうちに死んでしまうのです」
博士は冷静に言った。
トキにはそのような知識は一切無かった
もし、本当なら大問題だ。
「どうしてそんなことが...」
「そういう能力を持つフレンズを利用したんです。彼女に自覚症状はありませんが、病魔は確実に彼女の身体を蝕んでいるのです」
彼女の言ってることは、真実味があった。
「どうすればいいの?」
「残念ながら、病魔に対抗する薬も能力も今は無いのです。ただ、残された時間を謳歌するだけしかありません。
と言いたい所ですが、病気は苦痛を伴う物に変わるかもしれないのです。
想像してみてください、彼女が苦しむ姿を...」
「...かわいそう」
「残念ながら、手の打ちようが無いのです。ですが、苦痛を緩和する方法はあります。あなたの能力を使うのです」
「私の...能力?」
「ええ。あなたの飴を舐めさせれば彼女は痛みも感じません。それに、永遠にあなたの傍に居ることが出来ます。
これを人のことわざで“一石二鳥”というのですよ」
「....」
私は、その言葉を信じた。
「ねぇ、アルパカ...、この飴を舐めて...」
「飴?何それぇ、食べ物なのぉ?」
「そう...」
彼女の飴は、純白だった。
高級な白い布のような、濁りっけの無い。
美しいという言葉に相応しかった。
「ずっと一緒よ...永遠に...」
僕はトキの話を聞き、アルパカがああなった理由は理解出来た。しかし、何故サーバルにそんな飴を食べさせようとしたのかがわからなかった。
トキを見つめ直し、単刀直入に疑問を投げかけた。
「なんで、サーバルちゃんに飴をあげようとしたんですか?」
「“かばん達は恐ろしい能力を持って危機に追いやっている。これはパークの為だ”って、ハカセに言われたから」
(そうか、博士さんはトキさんの能力が強いと思って、利用したんだ...
自分の夢の実現の為に...)
にしても、博士たちが伝達する速度が早い。ここに来て1日は立っている。
それなのに、もう僕達を狙って来ている。
博士に唆されたトキは立ち上がった。
「かばん、サーバル...、久しぶりに会って悪いけど、あなたには私の飴になってもらう...。」
僕はサーバルを庇いつつ、後ろに下がる
「い、一体どうしちゃったの...」
サーバルは声を震わしながら言った。
「あなたの為に、歌を贈るわ...」
“わたぁ〜しわぁ〜、ト〜キ〜、仲間を探して〜る〜”
(トキさんの...仲間を奪ったのは博士だ...。無知のフレンズを利用して、騙して...、絶対に、許さない)
「サーバルちゃん、口は絶対に開かないでよ」
「わ、わかった」
心を落ち着かせて、一旦息を吐いた。
(落ち着いていくよ...、出てきてください。僕の竜!)
「な、なにこれ!?」
サーバルは突如出てきた白い竜に目を真ん丸にして驚く。
「トキさん、博士さんの言ってることは間違ってます!」
「そんな恐ろしいモノを出してるあなたが言えること?さっさと飴を舐めなさい」
トキは上空に飛び立った。
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