第21話 とまったじかん

「...さあ、始めようか」


ヘラジカは笑みを浮かべた。

ライオンは目を細め彼女を見つめた。


刀を地に突き刺す。

草が急成長しながらライオンに向かう。


「雑草伸ばしてどうすんだよ...」


(さっさとケリをつけねえとな…)


パチンッ...


ライオンは指を鳴らし能力で時を止める

そして素早く、野生解放をし両手を光らせて、伸びた草を爪で刈り分けヘラジカへ向かう。


(10秒ッ...)


彼女の能力は1分しか使えない。

1秒たりと無駄に出来ない。

鍛えた体内時計で正確に10秒カウントし、再び時を動かす。


パチンッ


能力を解いた瞬間、目前のヘラジカ向けて輝かせた右手を振り下ろす。


「ああ、あんたの能力はそんなだったか


余裕の表情を浮かべ、ライオンの右手を

刀で防いでいる。


「...秒以下の世界で素早く行動するとは、流石だ」


「野生の勘だよ...、アンタみたいな枠に囚われてるのとは違って、反射神経が良いんだ」


「博士に色々入れ知恵してもらったようだな」


「そうだな...、賢くなれたよ」


ライオンは手を引くと後ろに下がった。


「時間に縛られて生きるのは、楽しいか?」


そんな質問をヘラジカは投げかけた。


「悪くないよ...、そっちはどうなんだ。他人に縛られて生きるのは」


目を閉じて、空気を吸い込む。


「...悪くない」


そう答えると、キリッとした目をライオンに向けた。


「博士は...、悪いヤツじゃない。

自分の信念を貫き通そうとしている。

長として知識を得て、尊敬するよ」


「アイツが悪いヤツじゃないのは

ウチもよく知ってるさ...

ただ...

好奇心の強さが、普通のヤツと比べて

異常だったんだ」


ヘラジカは唇を噛み締める。


「それで、全体がズレ始めた…

一度ズレた物を、元に戻すのは難しい」


そう言うと古びた懐中時計を、胸のポケットから取り出した。


「...まだそんなの持ってたのか」


「ウチらの“大切な宝物”だからね...」


その時計をじっと見つめる。

時計の針は動こうとしない。


「ウチらの...、止まった“時間”を動かさないか」


「....」


その問には答えようとしない。


「時計は一度ズレると、その後が大きく変わる。だけど、合わせれば...」


「...悪いな、ライオン。

あんたの“時間”と私の“時間”は、違うんだ。“時差”が生まれる」


ヘラジカは首元を片手で確かめるように触る。

そして、ライオンに見せたのは緑色の

玉であった。


「あの頃には、戻れないのか」


寂しげな声で言った。


「“時間”に逆らうのは、ルール違反だ」


玉を握り、そして、呪文を唱えた。


“シンフォニオ デ ラ アルバーロ”


持っていた方が変化し、細く長い棒になる。

沈黙したまま、それを振り上げた。


地中から木々が生え急成長する。

しかも、広範囲に渡って。


ライオンは避けつつ能力発動のタイミングを伺う。


(これだっ)


木に登って、枝から枝へを飛び移る。


(タイムリミットは30秒...)


指を鳴らし、時間を止める。

木の上から地上のヘラジカを狙う作戦だ。


(どこだ...)


時間との戦い、見逃す訳にはいかない。

飛び移りながら探す。

木の影に隠れていたら見つけにくい。

だが、時間ピッタリに行動することには自信がある。


(20秒経過...)


時が経つのは早い。一瞬だ。

しかし、ライオンはその一瞬を見逃さなかった。


(白い角...!)


木の影から見えた。


枝からダイナミックに降り、ヘラジカ出来るだけ近づく。


そして30秒、指を鳴らし、時を動かす。


背後から狙おうとしたその時だった。


「んっ!?」


足が木の根に絡み付いている。

そのまま、ライオンの身体を空中に

持ち上げる。


そして横の木々も枝を伸ばしてライオンを縛り付けた。


「どうやら、本当にあんたの時間と

私の時間は違ったようだね」


ヘラジカがそう言いながら振り向いた。


「まさか、時間を調節したのか」


「私も時間通りに動いただけさ...」


身動きが出来ないライオンは万事休すとも言える状態だが、一つ疑問があった。


「...ヘラジカ、何であの刀でウチを

斬らなかった?あれで斬ったら、一瞬で花になるんだろ?」


「...あんたの花は見たくないんだよ」


その返答にライオンは、驚きを隠せなかった。


「それはどういう意味なんだ。

まだ、心残りでもあるのか」


「...フェアじゃないだろ?」


その言葉でふと、かつての記憶を思い出した。


「そう言えば、昔はどっちが勝ったか負けたかで争ってたよね」


ヘラジカは見上げたまま、口は開かない


「かばんと出会って、

勝ちでも負けでもないモノを見つけたじゃないか」


合戦と称して、彼女達は幾度となくどちらが最強かを決めて遊んでいた。

しかし、危なっかしい遊びだった為

どうにかする事が出来ないか考えていた

その最中かばんと出会い平和的な合戦を

考え、それを行った結果、

勝ちでも負けでもない“引き分け”となった。


その事をライオンは引き合いに出した。


「...ウチたちは大事なことを忘れていたよ。勝ちか、負けかじゃない。

その間が、重要だったんだ」


「間...」


「あんたがウチを刀で斬らないのは、

博士に従ってきりじゃないし、

かつ、反抗する側でもない...

気持ちが丁度真ん中だったんだろ」


ライオンは息を吐いた。


「勝ち負けを付けるのは、やめようぜ。

引き分けで、いいじゃん」


明るい声でそう言った。


「んで、ズレた時間も合わせればいい

丸く収まるじゃないか」


ヘラジカは力無く、棒を振った。


「おわっと...!」


ライオンはなんとか、地上に降りることが出来た。


「わかってくれるって、思ってたよ」


そう言うとヘラジカは地面に崩れ落ちる様に座った。


「はぁ...、すまない。

私は時間を無駄にしたみたいだ...」


疲れきった声を出した。


「長らく、話し合ってないからね。

色々聞かせてよ」


ライオンはその場に腰を下ろした。


「能力で色々なことが起こると思った私は、博士の下にいれば部下を守る事が出来ると思って、博士と行動を共にした。そのうち四獣守護神と呼ばれるようになった。博士の命令を守って行動していた」


「とういう事は、ウチも消すつもりだったの?」


「博士の元に行くなら...

けど、あんたとは、友達だったから、

斬ることが出来なかった...

気持ちが真ん中だったてこともあるけど」


「まだ、友達だと思ってて良かったよ」


あははと軽い笑いを飛ばした。


「けど、博士の命令を守って

トキを斬った。それに、博士が消して欲しいって言ってたアライさんも...」


一旦、言葉を考えてから口を開いた。


「やっちゃったものは仕方ないよ

問題はその先だ。

博士は何を企んでるの」


「“東京侵略作戦”だ」


ヘラジカの言葉にライオンは思わず首を傾げた。


「とうきょうしんりゃく....って何それ」


「博士によると、遥か遠くにある、

ヒトが住む“東京”ってところに行って

能力で暴れ回って、力を思い知らせ、

人間を従わせるとか何とかって...」


「壮大だなあ...」


「それが、実行に移されようとしている」


「じゃあウチたちは、それを食い止めないとね。他人が巻き添えを喰らうのは好きじゃない」


ライオンはそう言うと立ち上がった。


「勝ちでも負けでもない、方法で」


と付け足して言った。


「...そんなことできるか?」


ヘラジカは立ち上がるも自信なさげな

ことを言った。

その様子を見てライオンはヘラジカの肩に腕を回し、愉快げに話した。


「ウチらなら、いけるって!

なんとかなるよね!

百獣の王と森の王だよ!」


「ふっ...、お前らしい」


ヘラジカも表情を和らげた。


そうして、止まっていた二人の時計はゆっくりと動き始めた。






「私情に流されるなんて、情けない」


その声で二人は前を向いた。


「ヒグマ!?なんでここに!」


ヘラジカが驚き声を出す。


「この世界で、一番必要なのは“力”

ここのフレンズはそれが失われてる。

前々から、ヘラジカは怪しいと思ったよ」


「こっそりヘラジカの後を付けてきてたのか?」


ライオンはヒグマを睨みつける。


「まあね...」


「てか待てよ、ヒグマがここに居るとしたらサーバル達は...」


ライオンの疑問に対し、跳ね返って来たヒグマの答えは驚くべきものだった。


「かばん、だよ」















「かばんちゃん...、なんで...」


「....サーバルちゃん、

君を倒さなくちゃいけないんだ」


竜と合体したかばんは、右腕を伸ばして、その標準をサーバルに合わせた。

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