第22話 うごきだしたじかん

「かばん、だよ」


その一言を聞いた瞬間、ライオンは口を開けて唖然とした。


「ウソだろ...なんで...」


「ここに来る途中に出会ってね。

博士に従うってさ」


ヒグマは笑みを浮かべた。


「さあ、私の仕事はこれからだ...」


担いだ熊手に炎を纏いそして、突きの姿勢でライオンに向かって...


「ダメだっ...」


ライオンを庇い前に出たはヘラジカだった。

彼女は直撃を受けると後ろ側に倒れ込みそうになる。ライオンはそれを受け止めた。


「お前っ、どうして!」


「...わ、私も悪どい事を...したのは事実だ...、せめての罪滅ぼしだ...」


「何言ってんだよ!!」


「...あと...20秒を皆のために...」


「おいっ!てめえ...!!」


ライオンの目は怒りに満ちていた。


「私もさっさとかばんに合流しないと

精々燃えて尽きるんだな」


ヒグマそう言うと熊手を振って炎を出した。


「...許せねぇ。ダチを傷つけやがってよ...!アイツらの元へは行かせない...」


「お、おい...ラ、ライオン...それは...」


ライオンは薄紫の玉を取り出しこう言い放った。


“テンポ ポル コン ヴェールギ”...!


そう言うと、辺りの景色が灰色になる。

しかし赤色の炎は揺らいでいた。


「...何だこれは」


「時間を切り離したのさ。

この空間はじきに、今のこの空間と

分離する」


「意味がわからん、逃げてやる」


そう言って逃げようとするヒグマだったが、


「...!!」


「無駄だよ。この空間はウチが指を鳴らさない限り、永遠に抜け出せない」


そうしている間にも草地に炎は広がり続ける。


そうするとライオンはヘラジカに寄り添う様に横になった。


「つまり、炎が出ているこの状況じゃ、皆焼け死ぬのさ」


「道連れって事か?だが、私の作った炎は消せる。その理屈は成り立たない」


パチッ...


(あれ...)


パチッ、パチッ


指を鳴らすも、炎は消えない。


「どうなってるんだ!!」


「この空間はウチの空間だから...

主導権はウチにある。ウチ以外の能力は使えない。ヒグマもゆっくりしなよ...残された時間を」


「..どうしてこうなるんだっ!」


悔しそうにヒグマは地面を思いっ切り踏みつけた。


「ラ...イオン...」


腹を抑え苦しそうに呼吸するヘラジカ。


「...これで、よかったのか…?」


「アイツはどのみち、止めなきゃいけない。遅かれ早かれ手を打たないとダメだ。部下達に何も言えずこうなるのは残念だけど、仕方ない。

まあ、ヘラジカと一緒に過ごせるんなら、寂しくはないよ」


迫りつつある消失の中で笑顔を見せた。


「そう...思ってくれて...嬉しいよ...ライオンが...、側に居てくれて...、

幸せだよ...」







「っ...、ここは...、ってぇ、何でこんなに俺の服がベトベトなんだよっ!」


「良かった!ツチノコさああん!!」


泣きながら抱きつくリカオンに戸惑いを隠せない。


「ちょ、おい、待てよ!リカオン、どうなってんだよいったい!!」


「ああ...、ごめんなさい、えっと、

ツチノコさんは石に変えられてしまって...、白魔術の書も博士さんに取られて...」


「なに!?」


「だから、私が助けたんです!」


「ま、まぁ礼を言っとくぜ。ありがとな。さて、何をすべきか…」


腕を組んで考え始める。


「あの、かばんさんがこちらへ向かってるそうです。協力してあげませんか?」


「かばん、もうこんな所まで...、

よし、わかった。じゃあさっさと行くぞ!」


「はい!」














「あっ...あわわ....」


木の影で怯えた声を出すのはラッキービーストではなくアードウルフだった。


あれはほんの数秒の出来事。

簡単に言うと、かばんが全員を倒した。

風の能力を持ったテングコウモリでさえも、かばんに打ち勝つ事は出来なかった。

その攻撃は容赦なく、サーバルにも浴びせられた。

サーバル地面にうつ伏せに倒れ、か細い声を出した。


「か....ばん...ちゃ....」


倒れ込んだサーバルを見るかばんの目は

冷たい物だった。




一方アードウルフは恐怖のあまり木の影に隠れていた。

(どうしよ...、あのままじゃ...、

皆が危ない...、誰かに助けを...)


ただ大声を出せば見つかるし、下手に動けば、物音で気付かれる可能性が高い。


(あああ...、誰かこの前を通ってくれたら...)


そう思った矢先、見覚えある人物がアードウルフの前の森の中を通り過ぎた。


(あれは!!)


咄嗟にアードウルフはその人物を呼び止めた。かばんにバレる覚悟で


「あのっ!」


「はっ!?」


「た、助けてください!」


「あ、あんたは...、えっと...」


「アードウルフです!そんな事はいいから、大変なんですよ!イワビーさん!」


「一体どうしたんだよ?」


「かばんさんが...」


そう言った瞬間、背後に気配をいち早く察知した。


「あぶなっ!」


「あっ!」


アードウルフはイワビーを庇いつつ地面に伏す。警戒心の強さが功を奏した。


「....」


かばんは黙って、自身の青白い炎で包まれる森を見つめた。


「こ、これ...」


状況を察したのか小さな声で話し始める。


「かばんさんが博士側に寝返っちゃったんですよ!っていうかなんで来てるんですか!」


「それは...」











「うわあっ...、いてて...」


「お、お前っ!」


「あなたは!!」


リカオンとツチノコも目を疑った。


「あっ...、二人は...」


「おい、お前、PPPのプリンセスだよな、なんでこんな、しかも地下にいるんだよ…」


「いや、その、かばんさんの力になろうと思って、メンバーで作戦を練ってて...」


『プリンセス...、聞こえるか?』


耳元に届いたのはイワビーの声だった。


『イワビー?どうしたの?』


『かばんが、博士の部下になって、大変なんだ!応援に来てくれ!』


「かばんが!?」


「ええっ!?」


ツチノコとリカオンも驚く。


『わかった、今行くから、何とか時間を稼いで!!』


『りょ、了解だぜ』


「...かばんは博士に操られてるかもしれん。けど、玉さえ奪い返せばこっちのもんだ」


「じゃ、じゃあ...、どうすれば」


「こっちには3人いるんだ。

誰かが博士と助手の気を引いてるうちに、俺が玉を奪い返しに行く。どうだ」


「わかった...、やれるかどうかわからないけど、緊急事態なら全力でやるしかないわね...」


「ところでその耳のやつは...」


リカオンが指摘したのは黒い装置であった。


「これは“無線機” 、ライブで使ってたの。メンバーとこれで連絡が取れる」


『いい、みんな。私の指示があるまで

絶対にその場から動かないで!』


『はい!』


『了解』


『わかったよ~』


先程時間稼ぎを願ったイワビー以外の返事が聞こえた。


「さて...、作戦はこうだ...」


ツチノコとリカオン、プリンセスの3人は協力して、玉の奪還作戦を開始したのだ。







「ごめんね...、サーバルちゃん...

でも、君には博士さんの作る世界の素晴らしさがわからないみたいだ」


そう言い残し立ち去ろうとするかばんに

サーバルは力を出して右腕をを伸ばして、彼女の足を掴んだ。


「かばん...ちゃん...

苦しかったんだよね....

わかるよ...、私だって、お友達を失うのはイヤだよ。だけど....、

博士の言う理想の世界になったって...失われたモノは元に戻らないんだよ?」


「.....」


「私は...、かばんちゃんを...、失いたくない...」


眩しい太陽を見つめるような目でサーバルを見つめた。


「お願い...、元に戻ってよ...」


その顔には涙が浮かんでいた。


茂みの中からそれの様子を観察していたのはあの二人だった。


「時間稼げって言われてもなぁ...」


「どうしよう...どうしよう...」


頭を悩ますイワビーとあたふたするアードウルフ。

玉を取り戻すまで、かばんを引き止める事が出来るのだろうか...

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