第23話 めざめのとき

博士はいつもの通り広間の椅子に座っていた。

かばんの黒魔術の玉を手で持ち見つめる。


(しかし、彼女は黒魔術の呪文を知ってるのでしょうかね…)


「失礼します!博士さん」


「...ん、誰なのです」


「ロイヤルペンギンのプリンセスです」


「ああ、PPPのリーダーじゃないですか。どうしたのですか」


彼女が能力者でない事は博士も知っている。左手でかばんの玉を持ったまま会話を続けた。


「あの、私も能力が欲しいなと思って...」


「ほう...」


(よし...、博士は完全に油断してる。

ツチノコさん、リカオンさん、頼みますよ...)




「じょ、助手さん」


「リカオン?何故逃げ出したのですか」


怖い顔をしてこちらを見る。


「い、嫌だなあ。逃げ出すなんて。

困った声を聞いたから、助けてあげようと思って...」


「・・・・」


沈黙して何かを思い出す素振りを見せる


「まあ、博士の前なら、あなたを始末してやるですが、いいでしょう。

手伝って貰いたいこともありますしね」


「ええ、ええ!どんなオーダーでも!」


(助手の気は引きつけた...、後はツチノコさんだけ!)



博士のいる間の天井。

自身の能力の縄を工夫し、下の様子を伺う。


(へっ...、流石に無防備だな。

俺の縄で、釣ってやるか…)


慎重に縄を垂らす。


「そうですね...まず、黒魔術の本が無いといけないので...」


(まずいっ...)


直ぐに縄を引く。


(ッチ...)


再びタイミングを伺う。

先程の様子をプリンセスは確認していた。

本を懐から出した博士。

これから、思い切った作戦に出る。


本を開いた時に口を開く。


「あのー、博士?」


「なんですか?」


「その左手に持ってるのは?」


「ああ、これですか?これは黒魔術の玉なのです」


無防備にも手の平に載せて見せた。


時同じくして、


(あれは、白魔術の本!)


ツチノコに教えて貰った通りの柄だった

助手は自分の後ろで本を整頓している。

自分のすぐ近くには、踏み台。


気付かれないよう素早く行動し、白魔術の本を手に取った。そして、素早く隠す。


後はこの部屋を抜け出すだけだ。


その時だった。


「助手ッ!!」


聞いたことの無いような大声が聞こえた。

ビックリして助手は急いで、リカオンそっちのけで部屋を出る。好都合だ。


「よしっ!」




「玉と本は頂いてくぜ、あばよ博士!」


ツチノコは目にも止まらぬ素早いフットワークでその場を立ち去った。

博士が能力を使う暇も無い。


「どうしたのです博士」


「くっ...!やられたのです!

白魔術は無事ですか?」


「白魔術の本は私が...」


脳裏にリカオンとの会話が浮かぶ。


「...」


「まさか、お前までっ!」


博士の目は怒り立っていた。


「リカオンがそんなことする訳ないじゃないですか...はは...」


「役立たず」

そう言うと自身の能力で助手を床に叩きつけた。


「っ、こうなったら予定より早いですが、作戦決行です」


助手を宙に浮かせたまま連れ、地下室へと向かった。









「あわわわ!!」


「まずいっ!」


アードウルフとイワビーはただ慌てることしか出来ない。


サーバルはかばんに抱き着く様にしているがその左手は光を溜め込んでいる。


(左手は...、確か氷...、あれが発射されたらサーバルは氷の餌食に...!)


耳元でサーバルは呟いた。


「...大好きな...かばんちゃんになら....、やられてもいいや...」


諦めかけていたその時


「うっ...」


激しい頭痛が襲った。

思わず倒れこむ。


「か...、かばんちゃん...?」


サーバルもわけがわからない。


「かばん!!目を覚ませ!!」


僕は苦し紛れに振り返った。

そこに居たのはツチノコとプリンセスの姿だった。


「ツチノコ...さん...」


「博士を信じるな!

一番信じられる奴は目の前にいる、

“サーバル”だけだ!!」


「...サーバル...ちゃん...」


その声でサーバルはハッとしたのか、

僕の頭を撫で、こう言い聞かせた。


「かばんちゃん...!!私を信じてっ!!」


その声で僕は目を覚ました。


「サーバル...ちゃん...うっ...」


早起きした訳じゃないのに涙が溢れた。


「ごめんね...」


「大丈夫だよ...」


サーバルはそう優しく言ってくれた。


「リーダー!!」


イワビーはプリンセスに駆け寄る。


「無事でよかった!」


「取り込み中の所申し訳ないが

かばん、幾つか聞きたい事がある

まず、なんで博士の言う事を?」


僕はサーバルに肩を持たれながら話した。


「アライさんがっ...ヘラジカさんの能力で花になって...」


僕は鞄の中にしまった萎れかけたスミレの花を見せた。


「そのオーダーなら、何とか出来るかもしれません」


そう言って来たのはリカオンだった。


「リカオンさん...?」


「私の能力はそのものを元に戻す再生能力です。その花を、元のアライさんに戻す事が出来るかも知れません」


「本当に...?」


「やってみないとわかりませんけど...」


僕はその花をリカオンに差し出した。

リカオンが触れると緑色に光出す。


「少し、時間掛かりますから...」



「後もう一点、黒魔術の玉の呪文のやり方をお前に言い忘れていた」


「呪文のやり方...?」


「この島の奴らの殆どは玉の扱いを知ってる。さっき、頭が痛くなったのは

呪文を放ったからだ。まず、呪文って言うのは“エスペラント語”じゃなきゃ反応しない」


「え、えすぺらんと...?」


「ああ。魔術書に一つ一つ書いてあるわけじゃねーけど、みんなかっこいい技名を付けてな。俺も博士に習って、その

辞典を作ったんだ」


薄い、手帳な様なものを取り出した。


「これを使ってくれて」


「ありがとうございます...」


「あっ、そうでした!」

リカオンが声を上げる。


「白魔術の本、持ってきました」


「あ、黒の方もあるわよ」


リカオンが白魔術、プリンセスが黒魔術の本をツチノコに渡した。


それを見比べる様に見つめた。


「なんか、黒と白の本を合わせると、

強い能力が手に入るみたいですけど」


リカオンからそれを聞き、ツチノコは

ペラペラと捲り始めた。


「...」


「何が書いてあるんですか?」


思わず質問した。


「エスペラントで書かれてるのはわかるがなんて読むのか...」


ツチノコも頭を悩ませている。


「けど、強い能力なら後に役立つかもしれん」


2冊の本も僕の前に置かれた。


「あの...僕は、どうすれば...」


「当たり前だろ、人間 、救ってこい」

ツチノコは僕を見下ろしながらそう言った。


「私も、かばんちゃんの傍にいる!」


サーバルが僕の腕をがっちりと握った。


「あ、あの、わ、私も、あ、足を引っ張るかもしれないけど、せ、精一杯力になりたいです!」


アードウルフも意志だけは硬いようだ。


「あっと、プリンセス、オーロックス達の...」

イワビーが思い出したように言った。


「あっ、そうね!」


すぐに無線機で呼びかけた。


『みんな!イワビーの待機位置まで来て!』


これで一応大丈夫なはずだ。


「かばんさん、アライさんには戻りそうだけど、流石に1本じゃ、時間かかるよ」


「そうですか...、でも、戻るなら本当に良かった...」


ウィイイイイイン


僕が安堵した瞬間、図書館の方から聞いたことのない不気味な音がした。


「...!?なんだあれは!」


ツチノコが声を出すのも無理はない。

銀色の物体が浮遊している。


「ふふふっ...、人間ども、待っているのですよ。我々賢い“フレンズ”があなた達の土地を支配するのです」


「我々の生活源となるサンドスターを空気と混ざる様に粒子状化したサンドスターバイオも沢山ありますから、この島から離れても充分活動出来るのです」


「助手、計画通り、まずは“ヨコハマ”から行くのです。ある程度の人間を弱らせてから、最終的に人間の島の長がいる“コッカイ”を乗っ取るのです」


「了解です博士、私は助手として、お付き合いさせて頂くのです!」


銀色の物体は海へ向けて、発進を始めた。


「ありゃ...、海の外に行く気だぞ!」


「...僕が、止めないと!」


僕は立ち上がった。


「待ってください!」


僕はリカオンにそう言われた。


「前、ヒグマ先輩が言ってました。

フレンズはサンドスターを体内に取り入れて生活をしてるって...

そのままサンドスターの無い所へ行ったら身体が持ちませんよ」


「じゃあ、どうすれば...」


「多分、図書館の中に、それ関係の装置かなんかがあったはずです。それを探せば...」


「わかりました!行こうサーバルちゃん」


「うん!」


「あっ!待って、待って、待って!」


僕とサーバルとアードウルフは図書館へと駆けて行った。

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