第14話 さくひん
僕達は穴に落ちた。
そして...、そこから先はハッキリと覚えていない。
「...ここは」
目が覚めた。
今まで深い眠りについたかの様だった。
「おはよう、かばん」
僕が前を向くと居たのはタイリクオオカミだった。
ジャガーの話によると、彼女は博士を守るために結成された四獣守護神の1人である。大きい正方形の物に対して、必死に色の付いた筆で何かを描いている様子だった。
絶対何かあるに違いないと思い、
手を動かそうとすると、動けない。
足も動かせない。縄で縛られている。
椅子に拘束された状態だった。
「は、離してください!」
「まあ、落ち着きなって。キリン」
そう呼ぶと扉からアミメキリンが入室してくる
「はい、先生」
「キリン、かばんに例の物を差しあげなさい」
「かしこまりました」
キリンは再び外に出ていった。
「あなたが四獣守護神なのは知っています!僕をどうするんですか!それにあの3人は!」
僕がそう叫んでも、オオカミは聞く耳を持たず尚も何かを描いていた。
コンコン
「失礼します」
キリンが再度入室してくる。
手にはマグカップのようなもの。
「かばんに飲ませてあげなさい」
「はい」
以前よりもオオカミとキリンの上下関係がハッキリしたようにも思える。
キリンはオオカミの指示でカップを持って僕の目の前に来た。
彼女なりの心遣いなのだろうか3回フー、と息を吹きかけた。
「な、なんなんですか、これ...」
「先生のお気に入りの飲み物の“ココア”です」
「ウェルカムドリンクだ。剣幕な態度で始まるのは好きじゃない」
タイリクオオカミが色の違う目でこちらを見た。
澱みのない、綺麗な泉の様な瞳であった。
この島に帰って来てからというもの
元々フレンズは悪いことはしないという固定概念が崩壊して自分自身が疑心暗鬼になってしまっている。
自分としてはみんなを信じたいが、
その一方でフレンズは敵であり警戒をした方が良いという葛藤が生まれていた。
こんな飲み物如きに、悩まされるようになるなんて、思わなかった。
オオカミはウソを付いていない。
僕をまだこの時点で陥れようとはしていないという結論を出した。
「頂きます」
そう言って、キリンの持つカップに口を付けた。
ゴクッ...
お湯は熱すぎず、温すぎない、バランスのいい飲みやすい温度だった。
ココアという物はなにか甘い物の塊を溶かしたのだろうか。
喉にめったりとその甘さがくっつく。
美味しいと言えば美味しいかもしれない。ただ、二人の手前、ハッキリと白黒付けるのは難しい気もする。
「どうだ?」
「ええ、まぁ、美味しいです」
曖昧な答えだと察せられないよう、表情を柔らかくして覆い隠す。
「それは良かった」
オオカミの顔色が気になり一瞬確認したが、不審がっている様子は無かった。
心の中で大きな溜息をついた。
僕は、そのままココアを飲み干し、キリンに短く頭を下げた。そのまま、部屋から退出した。
辺りが静かになったのを確認するとオオカミが口を開き始めた。
「...君と、ひとつ話したいことがあってね」
懸命に動かしていた筆を机に置き、
再び顔を合わせた。
「話したいこと?」
「戦う理由を知りたい。君は何の為に戦うのかを」
「戦う理由...」
そんな質問をされるとは思わなかった。
正直に僕は理由と言える物を述べる。
「仲間のため、外の世界のため、ここにいるフレンズのため...です」
オオカミは真剣な面持ちでこちらの話に耳を傾けたあと、態とらしい瞬きをして口を開いた。
「指摘させてくれ。君は理由を複雑にしている。どれか一つに絞らなければ後に自分を追い詰めることになる」
指摘、というよりも忠告に聞こえた。
「だから、私は友人の為に戦うと決めた」
「友人...」
「博士とは長い間の付き合いだ。
私は博士の親友として、戦う。
博士が君を消して欲しいと願っているから」
僕は彼女の言葉の矛盾点を見つけた。
「僕も指摘していいですか?
間違えてることを間違えてるって、はっきり言うのが僕は“本当の親友”だと思います」
「ほう...」
「オオカミさんは、さっき僕に指摘をしてくれました。オオカミさんが僕のことを親友だと思ってくれてなければ、指摘なんてしません」
「...」
オオカミは黙って、深く考え込む様子だった。
もしかしたら、昔からの友人を取るのか、僕を取るのか悩んでいるのかもしれない。だが、もう結論は出ているかもしれない。一人で妄想に踊らせられる。
「かばん...、私を親友と思っていてくれて嬉しいよ。
しかし....、常に流れ始めた川の流れを止めることは...、出来ないんだ。
サーバル達はマレーバクの能力により深い眠りについている。私はあの子達を巻き込むような真似はしない。あくまでも、博士の狙いはかばんだからね。
私は、私が正しいと思った事をやる」
彼女の意志は固いようだ。
「...残念です」
僕の言葉が風のように吹き抜けて行った。
「そして、せめてもの情けだ。
私は君を倒さない。代わりの者がやってくれるだろう。
椅子に縛られたまま、ゆっくりと眠ってくれ」
オオカミは椅子から立ち上がると、
今まで描いていた物をこちらに向けた。
「どうだい?私の描いた“かばん”は?」
僕の絵だ。
絵を描くのに手慣れているのもあってか、正確に僕の特徴を捉えている。
「この“かばん”が、君を倒す」
「えっ...?」
「私の能力は、“絵を実体にする能力”
だからね。見ててごらん」
クスッと笑う。その後、指を鳴らした。
「えっ!?」
絵が動き始め、オオカミの描いた僕が狭い絵の世界から出てきた。
「残念ながら、彼女は絵の中から出れるが、“その他”は一切出来ない。
だから、彼女の能力を使うのさ。
キリン!」
「はい、先生」
何処かに隠れていたかのようにすぐに
入室した。
「キリン、かばんに君の能力を教えてやりなさい」
「わかりました!
私の能力はズバリ“編集”!」
「へ、編集...?」
「編集とは、何かを切ったり、貼ったり、何か物に加工を施すことを言うんだ」
オオカミが解説を入れた。
「今から“編集”の能力を見せてあげますからね!瞬き禁止ですよ!」
“トランチ・カイ・パーチ”
キリンは真っ青な玉を取り出すと、
驚くべき事に呪文を唱えた。
「どうして、呪文を...」
「四獣守護神には呪文の唱え方が伝わってるからね。キリンは違うけど、私の能力の性質上、彼女の能力が無いと何も出来ないから」
「つまり、私はオオカミさんにとって無くてはならない、重要な右腕なの!」
「それじゃあ、“この子”と楽しんでくれ」
オオカミとキリンは部屋を出ていった。
偽かばんは、ゆっくりとこちらに近づく。
しかし、そこで本物のかばんは、弱点を見抜いたのだった。
遠目では確認出来なかった、それに。
(紙で...、出来ている!)
「イヤ!イヤです!そんなオーダー受け入れられないです!」
リカオンは涙ながらに、必死に地面を掴み、引っ張るヘラジカに抵抗していた。
「お前の能力を使えと博士に命令された!おとなしく来るんだ!」
「私の“再生能力”を博士に使う気はありません!」
そうハッキリと宣言するとヘラジカは引っ張るのをやめる。
すると、スカートを軽く持ち上げて
刀を出現させる。
「...お前を花にしてやろうか?」
険しい目付きで脅しを掛けた。
「ひっ...(は、花にはなりたくない...ま、まだやりたいことだって沢山あるのに...)」
「私達に協力するんだ」
フレンズ化する前を彷彿とさせる、低い声で、さらにプレッシャーを掛けた。
「...ん?なんか騒がしいな。キリン、様子を見てくれ」
「わかりました」
「はぁ...はぁ...」
かばんの目の前には巨大な穴が空いていた。
「な、なんなの!?」
異変に気付き、扉を開けて入って来た
キリンは驚愕した。
かばんはキリンの方を向いて、事情を
話し始めた。
「オオカミさんの描いた僕...
アレは単なる子供騙しです。
彼女の身体は“紙”で出来てました。
だから、燃やしたんです」
「よくも、先生の貴重な作品をっ!」
「ついでに、竜と合体して縄もほどかせて頂きました」
キリンは再び玉を取り出した。
「あなたの動き、切り取って...」
「まあ待て。君は私がいないと何も出来ないだろう?」
背後から、そう言いながらキリンの肩を叩いた。
「先生!」
片手にカップを持ち余裕そうだ。
口の中へ最後の残りを流し込んだ。
「やっぱりココアは美味しいね」
ふぅ、と息を吐いたあと、手に持っていたカップを遠くへ投げた。
ガシャンと音を立てて、割れた。
「キリン、どうやら本気を出さないとダメみたいだね」
「そうですね...」
タイリクオオカミは小さいスケッチブックを取り出す。
僕は左手を彼女達に構えた。
「狭い空間なら、私達の方が有利だ」
スケッチブックを捲り黒く尖った絵をこちらに飛ばす。
きっとキリンの能力も加わっている。
それを咄嗟に姿勢を低くし交わす。
所詮ただの紙だと思っていたが、
速さが加わると恐怖を感じる。
針のような黒い物体を乱射する。
僕がそれを避けようと、飛び上がった時だった。
(あれっ...!?)
飛び上がれない。
何とか横移動で避けた。
「な、なにこれ!?どうなって...」
「私の能力です!」
キリンは自らネタバレをする。
「既にキリンは君の前後移動を切り取った。そしてさっき乱射した時に一度飛び跳ねたから、それも切り取ったんだ」
「横移動の動きも切り取りましたからね!」
「全ての動作を切り取られるがいい」
悪戯に笑う。
「あっ、そうだ。先生、かばんも切り取って良いですかね?」
「良いだろう。ブルーバックの世界に閉じ込めてやれ」
先程、彼女は僕の前後左右とジャンプの動作を封じ込めた。という事は僕は普通に歩く事が出来ない。
もう出来ることは無いのかと思った時、
一つのアイデアが浮かぶ。
(前後左右がダメなら...、斜めなら!)
左斜めに向きを変え、ジグザグに素早く動き2人へ近付く。
「...キリン」
「はい」
「はっ!?」
体が急に重くなる。
「まさか...!そんなっ!」
僕は、“編集”の能力を甘く見ていた。
「どうですか〜、スローモーションは」
恐らく、僕の俊敏な動きを能力で遅くしたのだ。
「では、早速切り取りますか!」
キリンの掛け声で僕の身体に点線が引かれる。
縄で括りつけられたかの様に、動けない。そして....
「うわあああっ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます