第15話 ぶるーばっく

サーバル達はマレーバクの能力によってロッジの外にある地面の深い穴の中で眠っていた。


「ふぁ〜...」


大きなあくびをするマレーバク。

タイリクオオカミに頼まれ3人の監視をしていた。しかし、何も起こらず退屈していたのだ。


しかし、穴の中で異変は徐々に起こり始めていた。


「んんッ...」


サーバルは深い眠りと浅い眠りの境界線を行ったり来たりしていた。

何故ならば...


「おまか...せな...のだ...」


寝言を言いながら背中を蹴り続ける。

痛くて痛くて仕方ない。

ちなみにアードウルフは寝返りを打つサーバルの下敷きになったりならなかったりしていた。


神様の悪戯なのか。

サーバルはグルグルと回転し、腹部をアライさんに向けてしまった。


「ふぇねっくぅ〜...」


「ウッ!」

と、野太い声を出した。

何が起きたかもう、説明しなくてもいいだろう。


「イタタタタ...」

腹を擦りながら、目を覚ましたのだ。


「...はっ!ここは...」


辺りを見回すと茶色の壁、そしてアライさんとアードウルフが寝ている。


「起きて!アライさん!」


「あと5時間寝かせてほしいのだ...」


「かばんちゃんがいないよ!きっと大変な事になってるはずだよ!」


「ふぁ...?かはんさんがどうしたのだぁ...?」


「私、やな予感がするから、助けに行ってくる!!」


アライさんに言い残して、サーバルは思い切り膝を曲げて渾身のジャンプをした。


「...ん?」


地上にいたマレーバクはその姿を捉えた。


「あえ?」


間の抜けた声を出したが、サーバルはそんなのを無視して高くジャンプをしながら、猪突猛進、かばんの元へと向かったのだ。









「いい顔頂きました!」


嬉しそうな声を出した。


「オオカミさんが気に入ってくれて嬉しいです!」


こちらも嬉しそうな声を出す。


「...っ」


僕は嬉しくない。

何があったかというとキリンの編集能力で僕は“切り取られて”しまった。

ブルーバックと呼ばれる空間に“貼り付け”られて、身動きが取れない。


手足が勝手にキリンが指示した方向へ

動くのだ。


「かばんはどうするんですか、先生」


「ヒグマがもうひと仕事終えて戻ってくるだろう。彼女に任せるのも悪くない」


僕は頑張っても抜け出せない。

ただこの真っ青な世界で、僕の命が終わってしまうのか...


(せめて...、サーバルちゃんだけにも、会いたかったな...)






「うみゃみゃみゃみゃあっー!!」


背後から突然、聞き覚えのある声がした。


僕はその瞬間、自由に動けるようになった。


「なにっ!?」


「ブ、ブルーバックスペースが切り裂かれた!?」


2人は息の合った様に驚きを見せる。


「いい顔頂き!」


サーバルがオオカミのセリフを言った。


「サーバルちゃん!」


「かばんちゃん!ケガはない?」


手や足も元通り、自分の意思で動かせる様になっている。


「何故だっ!?マレーバクの能力は

相手を深い眠りに落として永遠に起こさない筈なのに!」


気持ちが焦っているのか、オオカミは

若干早口で言った。


「蹴られたら誰だって寝てられないよ!」


(蹴られた...?あっ...、アライさん寝相が悪いから...)


今回は彼女の寝相が悪かったおかげで

僕が助けられたのだった。毎回何かしらアライさんには助けられる。


「こ、こうなったら先生、サーバル

も“編集”でっ!」


「させないっ!私はかばんちゃんを守る!」


そう言った後、チラッと僕の方を向いて目を合わせた。すると、サーバルは機敏な動きでオオカミ達へと向かう。

だが、キリンの編集能力によってその動きはスローモーションに...


(...あっ)


空白の答えがわかった。

たった今、サーバルが僕と“目を合わせた”理由。


「いくら早くなった所で、私の能力にかかればっ!」


素早い動きで真っ直ぐに立ち向かうサーバルに対しスローモーションの能力を使う。

僕の目にもその光景が映る。


サーバルはこの時、微かに笑い垂直に飛び跳ねた。

僕は右腕を、構えて放ったのだ。

右腕から出されるのは、冷気。


「...なっ!?」


オオカミがそれに真っ先に気付く。


「えっ?」


それに反応する様にキリンも声を出す。

竜の生み出す冷気の能力で彼女達の身体は氷に包まれ始めたのだ。


「これは、一体!?」


キリンがそう大きな声で言うと、僕はゆっくりと立ち上がった。


「キリンさんの能力は...、一人にしか効果が無い。だから、サーバルちゃんは能力を封じ込める為に囮になったんです!」


「くっ...」


苦い物でも食べたような顔をオオカミは浮かべた。

彼女の能力も僕が冷気を放ったことにより、身動きが取れず封じられたのと変わりない。

チームプレーにより、一転攻勢を成し遂げた。


僕は黙って左腕を構えた。

こちらから出されるのは、青白い炎。


“四獣守護神のフレンズを“どうにか”

しないと、博士を止めるのは無理だ”


ジャガーが言っていたこと。

僕は、“指摘”してくれた親友を倒さなければならない。

しかし、それは同時に親友であるタイリクオオカミを“指摘”することに値する。

3年間の間違えを...、正すために。







「...君が私のアシスタントで良かったよ」


「私も...、先生のお側にいられたのが幸せでしたよ」


アミメキリンはオオカミの顔を見る。


「君の顔はいい顔だ」


にこやかにそう答えた。


「「アハハハッ...」」


二人の笑い声は白炎の中に包まれて行った。








サーバルは横に避けていた。

僕の放った青白い炎の痕は、何も残ってない。

“そこだけ”切り取られたように、消失していた。


「サーバルちゃん...、大丈夫?」


横に避けていたサーバルに僕は声を掛けた。


「あ...、うん」


「ありがとう、さっきは」


「出来ることをしただけだよ!」


彼女は笑って見せたが、その殻の奥にまた何か別の感情が湧き出ているのかもしれない。


「そうだ、アライさんとアードウルフさんは...」


丁度その時、

背中に眠っているアードウルフをおぶったアライさんが水のベールを纏いながら、窓から入って来た。


「アライさん!」


「マレーバクの能力で眠らされていたのだ...。アライさんは水の能力でアードウルフと一緒にここまで上がって来たのだ。一瞬だったけど、疲れたのだ...」


「マレーバクはどうしたの?」


サーバルが尋ねる。


「なんか、居眠りをしていたのだ...」


「は、はぁ...」


「ところで、これからどうするの?」


サーバルの問いに対して即答は出来なかった。四獣守護神は、ヘラジカとヒグマ、助手がいる。助手に関しては博士と共に図書館にいる事は間違いない。

しかし、ヒグマとヘラジカは...


「ふぁ〜あ〜」


あくびをして、アードウルフが目を覚ました。


「あっ...、ごめんね、アライさん」


自分がアライさんに背負われているのに気付き、そう言ってから降りた。


「べ、別に気にしなくていいのだ」


アライさんは何時もの調子で、気を遣うアードウルフに対応した。


それはさておき、僕は次の目標を決めなければいけないが、いい考えが浮かばない。


「うーん...」


その僕の“思考”を妨げるように

唐突に背後から声が聞こえた。


「みなさん、お久しぶりですね」


僕らはその方向を一斉に向いた。

“雲“に乗り、赤い棒を持った...


「キンシコウ...、お迎えに参りましたよ」


風に吹かれ彼女の金色の髪が揺れる。


「お、お迎えってどういう意味ですか!」


僕が尋ねると彼女は笑った。


「ところで...、ロッジにこんなキレイな穴が開くなんてねぇ…。よっぽど凄い事をしたようですね...」


「僕の質問を無視しないでくださいよ!」


そう言った時であった。

キンシコウは片手でクルクルと赤い棒を回し始める。

すると雲が出現しはじめたのだ。


「はえっ?」


「雲が出てきたのだ!?」


「かばんちゃん!!」


雲が何処からともなく出現し、僕らを追い詰める。


「こんなのっ、自慢のツメで!」


サーバルがその雲に対し、自身のツメを振り下ろす。しかし...


「あれっ?!おかしいな...、手にくっついて取れないよ!」


激しくぶんぶんと雲を取ろうとするサーバルだが、一向に取れる気配は無い。


「うわっ!」


アードウルフの体にも雲がくっつく。

そして、信じ難い事にそのまま浮上する。


「やめてくださいっ!」


僕はキンシコウに向けてオオカミを吹き飛ばしたあの青白い炎をヤケになって放った。


「あらら...」


「えっ...」


キンシコウは確かにあの炎を喰らった。

しかし、彼女の体からは白い気体がもくもくと立ち上っているだけだ。


「その雲は、消えることのない雲...

抵抗はやめて大人しくした方が身のためですよ?」


上品さ漂う言葉の中に脅迫を盛り込む。


「僕達を...、どうするんですか!」


「かばんさん、ヒグマがあなたの事を呼んでおりますの。そちらへご案内致します」


「ヒグマさんが....?」


彼女は四獣守護神の一人だ。


「他の方達も、ご案内致します。大人しくして頂ければ」


僕はみんなの方を向いた。


「今はこの雲の取り方もわからないですから、ここはキンシコウさんに乗りましょう」


もちろん、罠という事も重々承知だ。

ただ、サーバルが助けてくれたように

姿が見えなくても仲間との意思疎通が出来ている。

こちらには脅しで出来た偽りの絆ではない本物の絆がある...。

それを信じるしかなかった。


「...そうしてくださるのなら、

有難いです。感謝申し上げます」


僕らの体にはいつの間にか雲が付着し、地面に足が付いていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る