第13話 げーむ

僕達は温泉に入った後、布団に入り4人同じ部屋で寝ていた。


僕の右側からはサーバルの可愛い寝息

左側からはアライさんが僕を蹴ってくる。すごく寝相が悪い。

アードウルフは比較的静かにしていたと思う。


僕は、アライさんに蹴られながら何も起こらずに朝を迎えられるように願っていた。


サーッ...


「....ごめんね」










「....んー」


もう朝になったのだろうか。

僕は自然に目を覚ました。


「あれ....」


1発でその不自然さに気付く。

ここは自分の部屋じゃない。


「ここは...」


なんで自分がこんな石で出来た床の上にいるのだろうか。

困惑していると...


「かばん・・・」


寂しげに僕の名前を呼んだのはギンギツネだった。


「ギンギツネさん!?」


もしかしてこれは夢なのだろうか。

そう思うも判別が出来なかった。


「これは、現実」


ギンギツネは落ち着いたトーンで話した。

ふと、僕の目の前に入ったのは体を氷漬けにされて身動きが取れない状態で目を閉じて眠っている3人だった。


「...!!サーバルちゃん!アライさん!アードウルフさん!」


「彼女達は生きている。私が“冷凍”しただけ...」


「れ、れいとう...」


「昔のヒトは食べ物が悪くならない様に“冷凍”してたみたいね。それと同じ」


「サーバルちゃん達を返してください」


真剣な眼差しでギンギツネを見る。


「あなたが、“ゲームオーバー”になればね…」


と彼女は一旦間を置いて、更に口を開いた。


「キタキツネ、説明してあげて」


そう言うと、ギンギツネの右にラッキービーストが以前映してくれた様な画面が現れた。


「えっ!?」


「かばん...、ここはボクの能力によって作り出されたゲームの世界だよ...」


少しノイズが混じる声に耳を傾けた。


「ここにいると、自分自身の体力が目に見えるようになる。そして、能力を使うにも制限がある。それがMP(マナポイント)ゲージ。青いヤツだね。それがゼロになると能力は使えなくなるよ」


ふと見ると左腕に装着されている上に赤いゲージ、下に青いゲージ。


「そ、それがこれ...」


「そう。そしてそれは私にもある」

ギンギツネも腕を見せた。


「お互い同じ条件だから、公平だよね」

キタキツネが言った。


「...あなた達も博士さんに...」


僕が言いかけると、ギンギツネは一瞬顔を険しくしてみせた。


「いい...?ここから出るには私を

倒すか、あなたが負けるか。そういう設定だから」


(サーバルちゃん...、助けるよ)

眠るサーバルを見ながら、意思を固めた

竜を出し、一体化する。


「ゲームスタート...」

外側でキタキツネが呟いた。










一方、ゆきやまを超えた先のロッジでは…


「なんで四獣守護神の集まりに出なかった」


ヒグマが険しい顔つきで、タイリクオオカミを見つめた。


「いやぁ、悪かったね。“大作”を作ろうと思っててさ」


心無しか、オオカミの目が輝いているように見えた。


「...大作?」


「それにはキミの能力も少し使う必要がある。頼む!一生のお願いだからさ!」


手を合わせて、目の前に突き出される。


「どんな事を考えてるんだ?」











ギンギツネは真っ先に動き出す。

地面を左手で“凍結”させる。


しかし、かばんは浮遊出来る。

この一見意味無いような行動には大きな作戦が仕掛けられていた。


凍結された地面を華麗に滑り、こちらへと近付く。


「...フッ」


短く息を吐き、右手を僕の上半身の位置に狙いを定める。

僕はそれを見て避けようと上に上がる。


「...え?!」


上がれない。

一瞬何があったか理解できなかったが、

右足に異様な冷たさを感じる。


「こ、これっ!」


右足に霜が付いたようになっている。


「...いい事?能力を使うことにMPが消費されるってこと、忘れてない?」


指摘され、ふと左腕を見ると青いゲージが徐々に減り続けている。


(しまった、この合体も能力に...)


誤算であった。

ギンギツネは“凍結させる”能力。

僕の場合、“竜を操る”能力。

竜を出した時点でMPが減り続けるのだ。


「終わりよ」


両腕を掴まれる。


「離してっ!」


「すごい最短クリアね、キタキツネ。

ヒトだから賢いとは思ったけど…」


(まずい、このままじゃ...)


「さぁ...、永遠に凍結しなさい」


段々と体が寒さを襲う。

両腕が固まり、動かせない。

僕の体は思ったより、強くは無い。


「...っ、ギンギツネさん、

負けました 、僕の負けです。だから...」


元の姿に戻る


「ふーん...、そんなあっさりと...」


ギンギツネは顔を僕近づける。

気付かれないように唾を飲み込んだ。


「いい事教えてあげる。“弱肉強食”って言葉知ってる?」


「...いいえ」


「博士から、教えてもらった。

弱い肉は強い者に食べられるってこと

力の有る者がこの世で一番強い...」


ギンギツネは右手で僕の顎に軽く触れ、少し上にあげる。

その目は、“喰らう者”


僕は無防備である。


「僕を、どうする気ですか...」


「凍らせちゃおうかな、それとも...

食べちゃおう...かな?」


ふざけて言っているのだろうか

昔だったら、“食べないでください”と

言って、済まされそうな気はするが...

MPというシステムがある以上僕の能力は意味が無い。


(もう...、僕は...約束を...)


その時であった。


「アツっ!?」


ギンギツネが湯気の立つ水柱に包まれる。

僕の顔にもその熱い水が掛かる。


「熱いっ!でもこれ...」



「・・・まだ、まだ、

ゲームオーバーじゃないのだ!」


水柱の向こうから現れたのは、アライさんであった。


ギンギツネは水流に流され、強く凍結した地面に体を打ち付けた。


「なにっ!?」


「氷を溶かすのに苦労したのだ...

青いゲージが半分くらい減ってしまったのだ」


「アライさんっ...!」


「かばんさん...、このゲームはアライさんにおまかせなのだ!」


腕を腰に当てて、自信満々に言った。


「夢の中でフェネックが教えてくれたのだ...。この言葉をっ」


アライさんはポケットから自身の玉を取り出す。そして、こう唱えたのだった。


“グランバ・スーバ・マールシャス!”


玉が光だし、今まで凍結していた地面から水の足場となる。


「水浸しにしたって何も変わらないのよ...。凍結してあげるっ!」


左手で水面を凍らせようとする。


水面がカチカチという音を立てながら凍ってゆく。ただ、アライさんは余裕そうだった。


唐突に右手を上げて振り下ろした。


徐々に凍りゆく水面から黒い影が数体、天に向かって飛び出す。

そして空中で方向を変えて、ギンギツネ

の方に向かっていったのだ。


「...!」


その素早い動きに、ギンギツネは一瞬の戸惑いを見せた。それが命取りになったのだ。


ボカーン!


着氷したそれは、勢いそのままに爆発

氷の粒と白煙が舞う。

その攻撃をギンギツネは受けてしまった。


「...っく!?なんなのっ!?」


僕はその飛翔体の姿を一瞬ではあったが捉えていた。アレは“魚”だ。

ごこくの図書館で図鑑を見つけた。

その時に見た写真と爆発した魚を脳内で

比較していく。


「...マグロだ」


簡単に口から出た答えはそれだった。

おかしな話だがアライさんは水中から“爆発するマグロ”を召喚したのだ。


ギンギツネは左腕を確認する。


(HPが削れてる...、なんとか防がないと)


再び右腕を横に構えて上にあげてから、

下に振り下ろす。

次は“マグロ”ではない。

幾千もの星の輝きのような光が見える。

空中で停止すると、真っ直ぐギンギツネに向かっていったのだ。


「ええっと、アレはイワシかな...?」


ギンギツネはあの爆発で相当ムキになっている様だった。


「魚?見たことあるわよそんなの!

凍らせれば意味無い!」


手を伸ばし凍らせる。

先頭の数十匹を凍らせると奇怪な現象が起きた。後続の魚が先頭集団に次々とぶつかり、段々とその姿は大きくなる。


「さっき弱肉強食と、ギンギツネは言っていたのだ。確かに弱いものは強いものには勝てないのだ。けれど、弱いものが集まれば、強さは...同じになるのだ」


魚の塊は、その大きさから他者を圧倒する。

ギンギツネは凍らせようとしたが全体を凍結させることが出来ない。

巨大な塊はそのまま、ドスンと落ち、

前方へ星離雨散した。


「きゃっ!?痛っ!」


凝視して見ると、一匹一匹は水に包まれている。


「アライさんと同じで、自身を水の中に取り込むことが出来るんだ...。凄まじい水圧で相手を圧倒する...」


勢いよくヌメっとした物が顔にぶつかるため目が開けない。


「くっ...」


「もうアライさんの青いゲージは空っぽなのだ。これで終わりなのだあっ!」


終わりと言って出て来たのは、

黒と白の生き物。アライさんはその上に乗りギンギツネへと向かう。


片目を開けるとこちらに迫ってくる黒い生物。


「何なのよ!」


「これはっ、シャチなのだ!」


シャチとそれに乗ったアライさんは水に包まれる。


水に包まれたまま体当たりするのかと僕は思ったが、実際は違った。


シャチはギンギツネの前で飛び跳ね、頭上を飛んだのだが、後ろの水は真っ直ぐ

ギンギツネを飲み込む。


「ゴボッ...!」


しかし、長い間拘束するものではなく

数十秒で、通り抜けた。


「がはあ...はあ...は、は、はずしてるじゃない...」


「体を見るのだ...」


アライさんに言われて、体を見ると、

星型の物が張り付いている。


「なん...なの...」


次の瞬間、パシャンと激しく爆発した。

中から出てきたのは水だったが、ものすごく冷たい水だった。


「ああっ!」


ずぶ濡れになったギンギツネは呼吸を荒くして仰向けに倒れた。力なく左腕を見ると赤いゲージは後1メモリ程残ってる


「かばんさんは、フレンズを傷つくのを見るのはイヤなのだ。だから、キタキツネ。早くここから出すのだ」


アライさんが頼もしい様に、僕の目に映る。どことなく、その姿は“彼女”の面影を匂わせていた。


「...ボクたちの負けだよ。ギンギツネ」


キタキツネが語りかける。


「あなたは...いいの?」


「ギンギツネがいてくれればそれで...」


キタキツネの目は今にも泣きそうだった。


「...ん」


「どうしたの?」


キタキツネが映像から消える。


「まずい!早くそこから出す!」


(まさかっ...)


ギンギツネは立ち上がった。


「あの、一体何が...」

僕はキタキツネの焦燥とした声を聞き、

不安に思った。


「かばん、アライさん...、後の二人も悪かったわ。ごめんなさい。あなた達を外の世界へ戻す...。キタキツネ、戻してあげて」


「...うん」


次の瞬間、僕達は光に包まれた。







「...あっ」


間違いない。ここは宿だ。

急いでアライさん達を起こした。


「うーん、あれ...わたし...」


サーバルは寝ぼけている。

その時であった。


「かばん!早くここから逃げてっ!」

キタキツネが普段口にしないような強い口調で迫る。


「ど、どうしたんですか?」


「ヤツが来た!早くしないと、焼かれる!」


「や、焼かれる?」


「うん?何この...変な匂いは?」

鼻のきくアードウルフが違和感を口にした。

僕もその変な匂いがわかってくる。

(これは...何かが燃えている匂いだっ!)


「キタキツネさんっ....」


「いいから早くっ!裏口から逃げるんだよ!」


「でも、まだギンギツネさんが!」


「ボク達はかばん達を傷つけてしまった。せめてもの償いだよ...」


「....」


償い。

その言葉の意味すること僕の心に重くのしかかった。


「アライさん、サーバルちゃん、アードウルフさん、ここから逃げましょう…」


「えっ?」


「のだっ?」


「いいから早く!」


僕は3人を連れて急いで裏口から宿を出た。






「やあ、元気かい?約束だからね。

博士からもオッケーを頂いた」


紅に燃え上がる熊手を担ぎ、キタキツネの前に現れたのはヒグマだった。


「...そう簡単には、燃やさせない」


キタキツネは自身の能力によって、ヒグマをゲームの世界に取り込む。

抵抗することも無く、逆に自分からその中へと入っていった。


「...ごきげんよう。ヒグマ」


「ギンギツネ、びしょ濡れじゃないか」

その姿を見て嘲笑する。


「キタキツネ、“チート”使える?」


「もちろん」


「かばん達に“本気”でやらなかったのはそれが“本心”だからだろう?」


「だから、何?」


「本来ならば完全に凍結をさせて徐々に体力を減らすが、さっきのは不完全だった」


「どうしてそれを知ってるのかしら」


「それは内緒だ」


「...ゲームで遊んでいかない?」


「ふっ、いいよ。ちょうど暇してたんだ。宿が完全に燃え尽きてキタキツネがゲームオーバーになるのが先か、

あんたが私に倒されてゲームオーバーか、または、私がゲームオーバーか」


「望むところよ…」






宿の裏口から、屋根を見ると灰色の煙が立ち上っている。


(キタキツネさん...)


僕は彼女達が作ってくれたチャンスを無駄にする訳にはいかなかった。


「早くここから離れないと!」


3人にそれを伝え二三歩前に踏み出した時だった。


「え!?」


「のだあっ?」


「なに?」


「わっ!」


4人全員、バラバラの声を上げた。

僕達は、“落とし穴”に落ちてしまった。


その様子を遠くから見つめる者がいた。


「...フフッ、いい顔頂きました」


不敵に笑みを浮かべたのである。

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