第3話 さんねんまえ
ツチノコと共に、かばんは暗い迷宮へ足を運んだ。
「入れ」
扉を開けて入る。
ツチノコは、少し奥へ入るとこちらを向き、地面に座った。
「かばんも座っていいぞ」
そう言われ、恐る恐るかばんも座った。
「改めて、随分と久しぶりだなぁ...、元気にしてたか?」
「はい」
僕は肯く。
「ごこくはどうだった?」
「ヒトは見つかりませんでしたが色々な発見が出来ました。
新しいフレンズであったり、新しい料理だったり、前にここのパークにいた人間が書き残したものとか色々あって...、夢中になってたらこんなに間が空いちゃってましたよ」
「そうかそうかぁ...、良い旅になったんだなあ」
目を閉じて、大きく首を縦に動かしていた。
「...所で、さっきの竜巻を封じ込めたのは何ですか?フェネックさんにいったい何が?」
ツチノコは1回こちらを見てから、話を始めた。
「話すと長くなるが、お前達がごこくに行ってから帰ってくるまでの、およそ3年の間。このきょうしゅうでは大きな変化があった。それを話そう。
事の始まりは、かばんがごこくに出発してから少し経った時の事だ...」
---
かばんが出発してから数ヶ月後、オレの元に博士がやって来た。
「ツチノコ!もの凄い物を発見したのです!」
博士は興奮した様子でそれを見せてきた。1冊の本だった。
「これのどこが凄いんだ?」
「この模様!何か感じないですか?」
「うーん、言われてみれば不思議な模様をしてるな」
「きっと、何かすごい事を秘めているハズです。一緒にこの本について調べませんか?」
珍しい物好きだったオレは、役に立てるかわからないがと言って、協力することにしたんだ。
---
「そこまでは普通の話ですね」
「だが、オレは後に後悔することになる。話を続けよう。
博士は、オレの他にもきょうしゅう中の知識が多少あるフレンズたちと共にその本の研究を進めた。それには半年もの時間を費やしたんだ。そして、やっと本の内容がわかった。その本が遥か昔の人間によって書かれた“魔術書”ってことがな」
「何ですか?その魔術書って」
「オレも初め聞いた時はちんぷんかんぷんだったさ。後で調べたら、“人間の封印された能力を解除する方法”が書いてあったんだ」
「能力...」
「本にはこう書いてあった。
“人間は本来恐ろしい力を生まれながらに持っているが、それは神によって封印されている。
おおよその人間は自分の真の力を見ずして死んでゆく。
だが、私は魔術でその封印を解く方法を見つけた”と。
本の内容はそれだった。
博士はすぐに飛びつき、その本に書かれていた通りに行動を行った。
本人がその時の様子をこう言っていた」
「試しに本を見ながら手順通りに図形を書いてみたのです。
最初はなにも起こらなかったのですが、本のページで指を切っちゃいましてね、血がでてしまったのですよ。
滲んでくる血を見ていたらふと思いつきましてね。血が出ている指で図形書かれている中の地面を触ったら突然光出して、
凄い力を得てしまったのですよ」
「....ってね。結局、それが彼女を変えてしまった。彼女はその力で大型のセルリアンを倒し続け、時には困ってる者も助けた。長としての活躍っぷりは瞬く間にきょうしゅう中で噂になった。
博士は能力を求めたフレンズにも力を分け与え、博士を守ると言い始めるフレンズも出た。例えていうなら王様になった訳だ。力で下の者を従わせる。
そういうことに快感を覚えていったんだろうな。同じ時期に、ヒトがどこに存在しているのかもわかった」
「えっ!?ヒトがいる場所?」
僕は思わず耳を疑った。
「ああ。このジャパリパークの外だ」
「外って...」
「遠い遠い、ごこくよりもずーっと先だ」
「このパークに、外の世界があったんですね」
「それが問題だったんだ。
外の世界を見つけ、能力を手に入れた博士は、そこを狙い始めた」
「狙いはじめたって、まるで...」
「我が物にしようとしているみたい」
かばんは無意識にツチノコの顔を見つめていた。
「それじゃあ、博士さんは能力を使って外にいるヒトを傷つけようとしているんですか!?」
「彼女は、絶滅したフレンズにお前の種が絶滅したのは人間のせいだとなど言って自分の行為を正しい物としている。
それがおかしいと思ったオレはすぐにやめるように言った。それでも彼女は計画をやめることは無かった。
そして、大切なヤツを失ってしまった...」
「大切なヤツ?」
ツチノコは下を向いたまま、呟いた。
「スナネコだ」
「そんな...」
思わず口を手で覆った。
「オレは能力を得る事に抵抗があった。何も持たぬまま博士に歯向かった」
---
「...博士!あんたのやろうとしている事は間違ってる!ヒトを傷つけるんじゃない!」
「力のない者が何を言うのですか。私が何をしようが私の勝手なのです。」
「最悪、お前を...」
「セルリアンの様に倒すとでも?倒せるものなら倒すのです。助手!」
「お呼びですか?」
「スナネコを連れてくるのです」
「おい!!ヤツに手出したらタダじゃおかないぞ!!」
「煩いですね。私の能力で...」
「やめるのです。助手。今はスナネコを連れてくるのが優先なのです」
「わかりました」
「待てっ!」
「無駄ですよ」
「グアッ!」
(ク、クソッ....、動けねぇ...)
暫くしてスナネコが連れれこられた。
「なにするんですかー...ってあっ!」
スナネコも博士の能力により動きが封じられる。
「助手、準備を」
「はい」
「おい!やめろッ!能力を与えるんじゃない!!」
「あっ...痛い...」
後ろの方で光が見えた。
「博士!」
助手は博士に玉を投げつけた。
受け取ると親指で触れた。
それと同時に、能力も解除される。
「ってめえ!」
「ツチノコ...」
後ろを振り向くとそこに居たのは
“背中から翼が生えた”スナネコだった。
「ハカセには...指1本触れさせない...」
彼女は、洗脳されていた。
---
「それで...ツチノコさんはどうしたんですか?」
「もちろん、手も足も出せなかった。
それは、オレが彼女を傷つけたくなかったのもあるし、能力のせいでもある」
---
スナネコはその神々しい白い翼でオレに向かって来た。
「うわっ!」
姿勢を低くして回避する。
すると、彼女は目を瞑った。
地面から半透明なフレンズではない羽の生えた猫を出す。
「な、何だ!?」
それが一斉に自分の方へと向かって来て身体の中へ入り込んだ。
「っ...」
(何だこの感じは...、身体が重いし、ダルい...もう何もしたくねぇ...)
ドサッっと床に倒れ込んだ。
「助手、ツチノコはどうしたのですか」
「恐らくスナネコの能力でしょう。推測するに“脱力”が彼女の能力でしょうね」
「面倒臭いですね...」
博士たちの方にもその自由に動き回る猫は向かって来た。
「助手、あなたの出番です。私の能力は生物以外に使えないので」
「お任せ下さい」
助手は空中に浮遊している猫達を処理した。
「さて、スナネコは...」
ズドン!という大きな音と共に空から引きずり落とされた。
「私にお任せを」
そのまま、助手の能力で吸い込まれていった…
---
「彼女は一生戻って来なかった。アイツが生きているかもわからない」
「助手さんまで能力を...、ツチノコさんはその後...」
「彼女を助ける為にそして仇討ちの為に能力を得る事にした。だが、博士たちとは違う、白魔術でな」
「白魔術?博士さん達とどう違うんですか?」
「オレはあの本の下巻を見つけた。それが白魔術専用の方だった。
黒魔術は血液と引き換えに能力を得る。それは身体に能力を埋め込むのと一緒だ。
白魔術は髪の毛かツメと引き換えに能力を得る。こちらは能力を身体に身に纏うという感覚で、使用出来る期間が決まっている。威力も低い。そんなかんじだ。
フェネックは黒魔術で能力を得ている。あんな強力な竜巻を出せるのは黒魔術でしかない」
「...僕はフェネックさんを助けたいです。黒魔術を解く方法は無いんですか?」
「残念ながら黒魔術は一度能力を得てしまったらずっとそのままなんだ」
「そんな...、僕はどうすれば...」
「ところで、サーバルはどうしたんだ」
「サーバルちゃん!」
ツチノコに言われて思い出した。
そんな危ない能力を持ったフレンズがいるこの島で、しかも一人だ。何も知らない彼女がどうなるかわからない。
「僕、サーバルちゃんと離れ離れになって...早くサーバルちゃんを探さないと...」
「ダメだ。さっきも言った通り能力が無いと危険だ。お前を危険な目に合わせたくないし辛い思いもさせたくない。
親しかったフレンズ達と戦うことになるかもしれん」
「僕は、サーバルちゃんを、外の世界を守りたいんです」
少し震えた声で、そう言った。
「ツチノコさん...、僕に能力をください!」
「はぁ...はぁ...博士!」
「帰ってこれましたか。どうでしたか?あなたの“砂の能力”は」
「私は私の友達を危ない目に合わせてしまった。それはあなたのせいでしょ...許せない!」
フェネックは博士の足元に砂場を出現させ引きずり込もうとする。
「全く、協力すると言ったのはあなたの方なのに...
良いですか?あなたは砂で出来た身体を得たのと何ら変わりありません。
水をかけられたら、どうなるかくらいわかりますよね?ドロドロに溶けて無くなりますよ。助手!」
「フェネック、やめるのです」
後ろを向くと、助手がバケツを持って立っている。
「消えたっていいさ。そうすればかばんさんは助かる」
強気な態度で言い返した。
博士は身体の半分程が砂で埋まっている。
「・・・はぁ。あなたを脅しましたが無駄だったようですね。
しかし、あなたの命、そして身体は私の手の内にある。あやつり人形なのですよ」
玉を再び、指でなぞった。
「グハァッ!」
身体に激痛が走る。
「無様なものです。私に盾突くとは」
博士は腕を振り上げフェネックを天井に思いっ切り叩きつける。
「ガハッ....」
天井から、2人を睨むように見つめた。
「仕方ないです。お前にはもう少し生きてもらおうと思ったのですが...」
そして、黄土色の玉に向かって呪文を唱えたのだ
“マギア マルシャールト”
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