第2話 ふぇねっく

能力なんて、ばからしい・・・


あの苦しい状況を打開する為にはいささか、仕方のなかったこと。

私は、かばんさんを苦しめたりしない・・・。


アライさんも、守るんだ。


このことをかばんさんに言うべきかな...


ふと、この前の博士の能力が脳裏に過ぎる。


(・・・・、ダメだ)





「あれ?博士じゃないか。どうしたんだい?」


「ちょっとあなたに頼みたい事があるのです。モノを運ぶ仕事なんですが...」


「いいよ、で、何を運ぶんだい?」


「・・・かばん達を。恐らく、ここを通ると思います」


「帰ってきてたのかい。いいね。わかったよ」




かばん達は図書館からさばんなの方へバスで向かっていた。

もうすぐ、じゃんぐるちほーに差し掛かろうとしていた。

だが、ここは3年前に橋が崩れていて、それをかばんがフレンズと協力して直していた。


「ここで止めますよ。ラッキーさん」


僕の腕のラッキーさんからは、もう音は聞こえない。

僕らは、“モーター”というモノが付いた船でやって来た。

代わりにこのエリアで見つけたラッキービーストを利用した。

"了解ダヨ"


バスを止めてから、4人で川岸に来た。

すると、待ち構えていたかのように彼女が川上から来たのである。


「やあ、久しぶりだね」


「ジャガーさん!」


「久しぶりー!」


かばんとサーバルは挨拶した。


「ああ、それに橋に感動していた子までいるじゃないか」


ジャガーはアライさんにも気づいて、そう言った。


「ジャガーっていうのか!アライさんなのだ!」


3年振りにして、お互いに名前を知ったのである。


「フェネック!ジャガーさんに挨拶したのだ?」


アライさんの声でふと目が覚めた様に顔をジャガーに向けた。


「ああ、えっと...」


「フェネックでしょ?さっきアライさんが言ってたよ」


と笑って答えた。


「あははは...、そうかそうか...」


その場しのぎの作り笑いを見せた。


「あれ!?かばんじゃん!」


もう一人懐かしい人物が川から顔を出したのである。


「カワウソさんじゃないですか!」


「久しぶりー!」


かばんとサーバルはカワウソと出会い3年ぶりの挨拶をしている間に

ジャガーは行動へと移る。


「ところでさ、二人とも」


アライさんとフェネックに声を掛け、自ら近寄る。


「何なのだ?」


「・・・?」


その瞬間、ジャガーは二人に触れた。


(フフッ...)




カワウソに気を取られている二人にも、そっと気配を消してジャガーは近づいた。

そして、二人の肩にそっと触れたのである。


二人は・・・、消失した。




「博士から頼まれたんでしょ?」


「ああ。申し訳ないとも思ったが...、博士に歯向かったらどうなるか。

それに、私の“転送能力”じゃあの博士には勝てないからね」


アハハと笑いながら返答した。


「んで、どこに飛ばしたの?」


「前にも言ったでしょ?私は飛ばす所は、指定できないって」





「あれ・・・、アライさん?」


辺りを見回すと、そこは砂漠。

自分は今までじゃんぐるにいたはず。

戸惑っていると、唐突に体に異変が訪れた。


「...なに...これ?」






「博士、そういえば彼女が能力を得た時の"アレ"はお持ちなんですか?」


「もちろんです。彼女に持たせといて、自ら使うとは考えられませんから。

だから、こちらで彼女を操るのです」


博士は黄土色の玉を取り出し、呪文を唱え始めたのである。


"クン ラ カパプレーソ..."







「・・・あれ?ここは・・・」


僕は目を覚ました。

辺りは・・・、さばくちほーだ。


(あれ、今までじゃんぐるちほーにいた筈なのになんで・・・)


「サーバルちゃん?」


そう呼んだが、返答は無かった。


「どうして...」


スススス....


異様な音を聞き、かばんは足元をふと見る。


「えっ?」


自分の足が砂に飲み込まれ始めている。


「えええっ!?なんで!?」


這い上がろうと試みるも、砂で足場が悪く上へ上がれない。

段々下へと引きずられる。


「誰か!助けてっ!」




(これが・・・私の能力・・・、なんで、身体が勝手に・・・

・・・ごめんね、かばんさん・・・)




体は半分が砂に飲み込まれていた。


「だれか・・・」


その時であった。


「これに捕まれ!」


かばんはその時差し出された一本の縄に必死でしがみ付いた。


「おらよっ!」


「わっ!」


かばんは引き上げられ、なんとか地上へ戻る事が出来た。




「た、助かった...。ありがとうございます!」


顔を見上げると


「あれ、ツチノコさん!?」


「久しぶりだな...。かばん。だが、喜ぶのはまだ早い」


「えっ?どういう...」


「どういう経緯でああなったかは知らないが、アイツは危険だ・・・。」


ツチノコが前を見ていたので、僕も振り返る。

そこには...、見覚えのあるフレンズ。


「フェネック・・・さん?」





「かばん、ここにいろ」


ツチノコに言われ、そっと肯いた。


僕は今物凄く混乱していた。

フェネックが危険?


(でも、さっき僕を砂の中に引きづり込もうとしていたのは・・・)


ツチノコは、思いっ切り踏み込み、砂の穴を飛び超えた。


それを見計らったかのように、砂の穴を突然、竜巻へと変化させる。

砂を巻き込んだ竜巻は天まで届くほどに高い。


「そ、そんなまさか・・・」


砂の中に飛び込んで行くツチノコを見つめた。


「へっ...」


持っていた縄を伸ばす。

すると、竜巻に巻き付き始める。


「えぇ!!」


次の瞬間、ツチノコの縄は竜巻の動きを封じ込めたのだ。

その様子を、唖然としてかばんは見つめた。


「ふん!動かなきゃ意味ねえんだよ!」


動きを封じ込めた竜巻の中に入り向こう側に出る。

驚いた様子でツチノコを見つめるフェネックの姿があった。

上空から地面に降りると睨むような顔をして問い詰めた。


「おい、どこで黒魔術を知った?」


「・・・・」


その質問にフェネックは答える事は無かった。

ただ、虚構の物を見つめるかのような目で見つめ返した。


「お前は傷つけたくない...。」









「ツチノコが出しゃばって来ましたか。運が悪いですね。

彼女がやられても困るので、退散させるのです」


そっと、掌に載せていた玉を指でなぞった。





フェネックが後ろに1、2歩後ずさりをして見せる。


「・・・どこに逃げる気だ。話さないなら...」


縄を伸ばしフェネックの動きを止める。


「・・・・・」


それでも、彼女は表情を変えず一言も発しなかった。


「俺の能力は"束縛"...、その縄で縛られたヤツは動くことも逃げる事も出来ねえ。

フェネック、一体何があったんだ」


「・・・・」


まだ発さない。

それどころか、フェネックは自身の体を能力によって砂化させ始めた。


風が吹いて飛んでゆくように、細かい粒子になって彼女の体は消えてゆく。



「いいか、お前のその体、“元には戻らない”」


そう、冷たくフェネックに告げた。


最終的に残ったのはツチノコの縄だけだった。




「あれ?フェネックさんは?」


かばんが尋ねた。


「いいか、かばん。話したい事がある。俺の迷路まで来い」


「は、はぁ...」


状況が良く分からなかったが、かばんはツチノコにそう言われたので

付いて行く事にしたのだった。


(サーバルちゃん・・・、今頃どこにいるんだろう・・・)

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