第4話 りゅう
「ツチノコさん...、僕に能力をください!」
驚いた顔で、僕を見つめた。
「かばん...、もう一度言うがフレンズと戦うことになるかもしれないんだぞ?」
「僕がここに飛ばされた時、あれはジャガーさんの能力だと思います。
それで、僕達4人はバラバラになって....
ここに来て初めてそんな状況になっていることを知りました。
サーバルちゃんは何も知らないから、もしかしたらフェネックさんの様になっているかもしれない。一刻も早く見つけないといけないのに、能力が無いと危険だって言われて、どんな展開になっても能力は必要じゃないですか」
「つまり、お前の言いたい事はサーバルの身を守る為に能力がいるし、逆を言えば、サーバルがもし能力を得てしまって自分を襲って来たら、サーバルを解放する為に必要だ。そういう事だろ」
「はい」
もう一度、ツチノコはかばんを見た。
「...だが、さっきも言った通り白魔術は黒魔術と比べて劣る所がある」
「僕は...、黒魔術でも大丈夫です。覚悟は出来てます」
「わかった...、1回外に出るぞ」
ツチノコと共に外に出た。
導かれるままに来たのはスナネコが掘った洞窟だった。
「かばん、そこに立ってろ」
ツチノコは棒で地面に向かって図を描き始めた。
「...黒魔術の模様はこれでいい筈だ。後は...」
「血ですよね」
「元の身体には戻れないがいいか?」
ツチノコがもう一度尋ねた。
「ここまで来たら、前に進みます」
「わかった。腕を出せ」
かばんは右腕を真っ直ぐ伸ばした。
「少し痛いが、我慢してくれ」
「...はい」
僕が息を1回吐くとツチノコは腕に強く噛み付いた。
「痛いっ!」
数秒の事だった。
ツチノコが腕から離れると、歯の跡と
血が滲んでいる。
「血を地面につけるんだ」
左の指で血を触り、ゆっくりと足元の地面に触れた。
すると、模様の所が光出す。
僕はその眩しさに、目を閉じた。
目を開くとツチノコに付けられた傷痕は消えており、図形も消えていた。
「お疲れ様、これでかばんも能力者だ。後これ、絶対に失くすなよ」
灰色の玉を手渡された。
「これは?」
「黒魔術で能力を得ると、この“玉”が出てくる。これに向かって本に書いてある呪文を唱えるとこの玉の持ち主を完全にコントロール出来る。博士は全部暗記しているからな。心の中で唱えただけでも操ることが出来るんだ。
取り敢えず他人に渡しちゃいけない」
そうかばんに忠告した。
貰った玉を鞄の中にしまってから、
かばんはツチノコに尋ねた。
「わかりました。ところで、あの...、能力ってどういう風に決まるんですか?」
「能力はその者自身に封印されている。元からある力だ」
「僕の元からある力...」
「試しにやってみろ」
「えっ、でも、どうやって出せば...」
「適当に考えてみろ」
ツチノコにそう言われてしまったので、
とりあえず考えてやる事にした。
力を込めたり、飛び跳ねたり、腕を突き出したり...だが、何も起きない。
「ツチノコさん...、本当に僕は能力を得たんですか?」
「そのはずだ。多分特殊な能力なんだろ。自分がピンチの時だったり」
「そうですかねぇ…」
「でも、まあこれで一応サーバルを探しに行けるぞ」
「そうですね。ゆっくりしてられません。行きましょう、サーバルちゃんを探しに!」
僕とツチノコはサーバルを探しに出かけたのだった。
「かばんさん...、どこかなぁ...」
彼女は足を止めた。
「今、行くからね...」
砂と同化し、かばん達の元へと音無く近づき始めていた。
一方その頃...
「はぁ...、かばんちゃんとはぐれちゃったし...ここは、湖畔かなぁ...」
水の音が流れる森の小道を歩いていた。
「フェネックーっ!!どこにいるのだー!!かばんさーんっ!!」
サバンナのど真ん中で、叫びながら走っていた。
「砂漠って...、こんなに歩くの大変なんですね...」
「仕方ないだろ...」
僕とツチノコはサーバルを探しに平原の方面へ向かう。方向は僕のカンで決めた。
ここも安全とは言えない。
「...止まれ」
突然ツチノコが足を止めた。
僕は黙って、それに従う。
なんとなく心の中で嫌な予感がした。
ツチノコは目を左右に鋭く光らせる。
(姿は見えない...だが、気配がある)
「そこかっ!」
突然声を上げ、砂漠に縄を伸ばす。
僕の目の前に砂の竜巻が現れる。
ツチノコさんと僕に間が出来ていたのがまずかった。
砂の竜巻から出てきたのは、
以前の雰囲気ではない、明るさを吸い取られたようなオーラを放つフェネックだった。
「やっほー...、かばんさーん...」
「た、た、食べないでくださいっ!!」
その時だった。
ズドーンという大きな音響いた。
僕は顔を前に向けた。
ツチノコさんが口を開けて、驚愕している。
さっきより右側に立ち位置を変えている。
そして正面には、砂の上に仰向けになっているフェネック。
意味がわからない。
僕も黙っていると、ツチノコが声を上げた。
「あっ...あれは...本で見たことがある...。空想上の生き物とされた...」
フェネックが目を開き、言った
「・・・なんで竜がいるのさ...!」
「り、りゅう?」
後ろを振り返ると、そこにいたのは
僕の身長の倍ほどの大きな生き物
体は白い。
「あっ...えっ...」
僕が驚いていると、その生物は顔を僕に近づける。まるで、挨拶をするかのように。
「...それが、かばんの能力なんだ」
ツチノコが顔を戻し言った。
「かばんさんまで能力を....」
フェネックはそう呟いた。
「僕の能力...」
その竜は鳴き声も発さず、ただ黙っていた。
「“竜を出す能力”だなんて...」
フェネックはそう言いながら片方の膝を立てた。
「くだらないっ...」
フェネックは砂を右手に集め始める。
僕はどうすればいいのかわからなかった。
「かばん!その竜はお前の心だ!」
「かばんを倒せればいいんだよ...!」
フェネックとツチノコが同時に言う。
黒い細かい物がこちらに飛んでくる。
僕は思わず目を閉じた。
(グルルル)
竜が唸る声が聞こえた。
再度目を開けると、辺りが真白くなっている。まるで“ゆきやま”の様に。
ツチノコは僕のそばに来ていた。
「これはいったい...」
「あの竜が雪を出してここを銀世界にしやがった」
「・・・フェネックさんは!?」
僕はフェネックが立っていた位置を思い出しその地点を確認した。
雪が服に付いて白くなっている。
彼女は小刻みに震えながらも、息を荒くし、立っていた。
「こんなこと...やめましょうよ」
僕は左側の竜を見つめる。
白い吐息を吐きながら、フェネックが細々と声を上げた。
「...ハカセのために」
その声を聞いたツチノコは顔を歪ませた。
「アイツ...、博士に玉を操られてるな」
先程、ツチノコが僕に渡してきた大事だと言っていた玉。本に書いてある呪文を唱えるとコントロール出来ると言っていた。
僕は今にも凍えて死にそうなフェネックを再び見つめた。すると、彼女の口から驚くべき言葉が出てきた。
「かばんさん...私を、倒してよ...。アライさんも傷つけちゃうかも...だからさ...」
その言葉は、彼女の“本心”と言える言葉だった。
博士はフェネックの玉を通じてその場の状況を見ていた。これも呪文の力だ。
「...もうアイツは使い物にならないのです。かばんがあんな怪物を操れる能力を得たのならそれに備えるべきなのです」
「総動員させる気ですか?」
「もちろん。アレは我々にとっても大きな脅威になります」
「それで、フェネックは...」
「適当に処理するのです。助手、サーバルとアライさんを探すのです!」
「...はい」
「フェネックさん...」
ツチノコ曰く、黒魔術で得た能力は元に戻らないと言っていた。
そして今、彼女の操作しているのは博士たちだ。
一時的にフェネックを取り押さえた所で後に博士の手によって操られれば今の状況と変わりはない。
(この竜が、自分の心だとしたら…)
フゥーと深い息をついて、心を落ち着かせた。
それと同時に、フェネックの様子が変になったのにも気付いた。
彼女は雪を振り払うと、再び砂を巻き上げ始める。
「おい、どうする気だ!」
「ここは、僕がやります」
(それが、彼女の気持ちに応える方法...)
自分に向かって来る二つの大きな竜巻に向かって、竜を突入させる。
ぐるぐるその周りを囲うように旋回し、竜巻を打ち消した。
「あ、ありゃ、どういう仕組みでああなってるんだ...」
ツチノコは驚いていた。
竜巻を消した後僕は竜に心の声で指示をする。
ちゃんと聞いてくれるハズだ。
竜は地上で立ち尽くすフェネックを抱え上空へと真っ直ぐ登る。
「...本当に、かばんさんの、竜なんだね...。わかるよ。だってさ、温もりが同じだもん...」
「かばん、どうしてあんな事を...」
「ごこくにいる時、フェネックさんが、アライさんと喧嘩したことがあったんです。アライさんがその時、一人で何処かに行ってしまって。
フェネックさん、“自分がいけなかった”って、自分を責めこんで...、あの時は初めてフェネックさんの泣き顔を見ました。
だから、僕が一晩中慰めたんです。フェネックさんを抱いて...
そしたら、“かばんさんといると落ち着く”と、言ってました。僕はそれを思い出して、今ああやってるんです…」
かなり上空まで来た。
ここの景色を見るのも最初で最後だ。
(アライさんに見せてあげたかったな...)
そう思っていると、竜はフェネックを放す。そして、下に落下していく。
(...かばんさんと旅が出来て良かった。もう少し、一緒にいたかったけど...)
竜は空気を大きく吸い込み、落ちて行くフェネックに狙いを定める。
(・・・私のこんな姿を見せなくて良かった。ありがとう。
絶対に、博士を倒してね。かばんさん)
竜は、青白い光線を放射したのだった。
その光線は、地上にいるツチノコと僕の目にも飛び込んだ。
「・・・・」
ツチノコは言葉を失っていた。
僕も暫くは言葉が出せなかった。
“能力を得る”とは引き換えにこういう事でもある。それを重く感じた。
竜が空から舞い降りると、
霧のようなものが立ち込めて竜は消えていった。
「・・・早く、サーバルちゃんを探しましょう。そして、博士さんを止めるんです。これ以上、犠牲が増えない為に!」
僕は泣き顔を見せずに、砂漠の中を歩き始めた。
「・・・あっ、待てよ!」
ツチノコは慌てて僕の後ろを追いかけた。
(どうして...、どうしてこんなに不安になるんだろう...。
もし、かばんちゃんが死んじゃったら...何処にいるの...?かばんちゃん...)
サーバルは顔面蒼白になり部屋の片隅で体育座りをして怯えていた。
「プレーリー、サーバルは見かけていませんか?」
「助手殿!」
プレーリードックは、やって来た助手に向かって挨拶をしようと顔を近付ける。
「や、やめるのです!」
助手は、プレーリーを必死で抑えた。
「あっ、失礼しました!ついクセで・・・」
「全く・・・」
プレーリーは一度咳払いをして、本題に入った。
「ちょうど良かったのであります!森の中でたまたま出会ったのでありますよ。ビーバー殿の能力で今はああやって震えていますが...」
「でかしたのです。では、ここにかばんが来た場合は、彼女を盾に使ってください」
「...久しぶりの再会がそんな出会い方になるとは...、複雑な思いになりますが...」
「気持ちはわかります。ですが、これは“博士のため”です。あなた方だって生きたいでしょう?弱肉強食なのですよ。世の中は。それで、かばんは能力を得ました」
「なんの能力でありますか?」
「“竜を操る能力”です。因みに竜は巨大なヘビみたいなものです。その竜はかばんの心と一体みたいです」
「サーバル殿がいれば手出し出来ないと思うでありますが、でも、流石に私の能力だけでは対処しきれないと...」
「そこまでは望みません。
出来れば図書館から遠ざけて頂きたいのです」
「・・・まあやってみるであります」
「よろしくお願いします、では...」
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