小話④ ふたりのじかん

「ライオンさん」


「なんだ、オーロックス」


「その時計って...、いつ見つけたんですか?」


オーロックスが指摘したのは片時も肌身離さず持っている古い懐中時計だった。


「これかい...?あー、そうか。君はいなかったんだね」


“アハハ”と笑って見せた。


「あれは去年の夏さ」


かばんがきょうしゅうを出てから

1年目の夏である。






「おーっす!ライオン、いるか!!」


声を張り上げ襖を乱暴に開けたのはヘラジカだ。


「どうしたんだよ...、今日はやる気無いよ?」


「いや、そういう事じゃないんだ。

どっちの度胸が強いか試そうじゃんか!」


「は?」


ライオンは顔を顰めた。


「度胸試しだよ!この間図書館で集まりがあった時、タイリクオオカミに不思議な建物があるって教えて貰ったんだ」


「そんで?」


一応話に耳を傾ける。


「夜、そこの建物へ行って一緒に探検しないか?」


「えぇ...」


少しめんどくさかった。


「嫌なのか?行かなかったら行かなかったでいいけど、その代わり合戦を連日やることになるぞ?」


「あーったよ、わかった。

んで、いつ行くんだ」


満足そうな顔をヘラジカはしていた。


「明日の夜でどうだ。私が迎えに行く」


「はいはい...」


そんなこんなで、ヘラジカと探検に行くことになった。







当日の夜、言った通りにヘラジカは迎えに来た。

オーロックス達に留守を頼んで、私とヘラジカはその建物へと向かった。


「ここだ」


そう言って立ち止まった。

古びた洋風の建物だった。


「へぇー...」


薄っぺらい感嘆の言葉を出す。


「平気そうだな?」


ヘラジカが顔をこちらへ向けた。


「別に、ただの建物でしょ」


そう。ただの人工物だ。

恐怖もしなければ興奮もしない。

なのに、ヘラジカは楽しそうだ。

それが不思議だった。


「じゃあ、入るか」


ヘラジカが先に建物へ入った。

私も続けて建物の中へ入る。

すると...


ガチャン


「えっ?」


後ろを振り向き、ドアをガチャガチャと

揺さぶる。しかし、ドアは開く気配を見せない。


「ヘラジカ、これどうなって...」


「ドアが開かなくなったのか?

ははっ、そう言えばタイリクオオカミもホラーな展開になる時はドアが勝手に閉まるとか言ってたな。早く進もう、

もしかして今のでビビったのか?」


ヘラジカがニヤけながら私を煽った。


「そんなことないよ!」


と意地を張って強めに主張した。


(オオカミから紹介された所なら

アイツが細工してても無理は無いな

どうせヘラジカもグルでウチをビビらそうとしてるに違いない...)


そう理由をこじつけた。


真っ暗な通路を出来るだけヘラジカから離れないようにして歩いた。


「...くっつきすぎじゃないか?」


「やっ、そ、そんなこと!」


「怖いなら怖いって言えばいいのに...ははっ」


「平気だよ。別に...。つーか何すんだよ」


「宝物でも見つけるか!」


なんだその子供じみた発想は。

灰色の髪のなんとかグマのフレンズか

お前は。と心中で突っ込みを入れた。

どうせ思いつきだろう。

ホントは私を驚かす為の口実だろう。


そんな物には引っかからな...


「うわっ!?」


「ん?」


「何か顔にっ...!」


「ぷっ、はっはははっ!!!クモの巣じゃないか!ははは!やっぱ怖がってるじゃないか!」


普通に恥ずかしかった。


「だ、誰だっていきなり来たら驚くに

決まってんだろ!」


「あー、オオカミがいたら喜ぶだろうな〜、今の顔!」


その笑顔が少しイラッと来た。


怒りを抑えながら探索を続けた。

月光が窓から差し込み、幻想的な雰囲気を醸し出している。


ヘラジカはこの部屋に入り、物を物色しはじめた。


「何かあるかもしれないから探ってみたらどうだ?」


古めかしい箱の中のものを順番に出しながら、そう言った。


「...なぁ、ヘラジカ」


「なんだ?」


「何が目的なんだ?タイリクオオカミに何か言われたのか?」


「いいや。純粋に面白そうだったから」


混じりっけのない答えで驚いた。


「マジか...」


頭を掻きながら今まであんだけビビっていた自分が恥ずかしいと感じた。


(扉が閉まったのはわけわからんけど...まあ、それ以外は何も起きてないしな)



ふぅ、と息を吐いてその部屋を見回し始めた。


目に入ったのは古い棚。

そして、これを見つけた。


「なにこれ...」


手に取って見つけたのが、あの懐中時計であった。


その名称は後に図書館で博士に調べて貰って判明した。


「いいの見つかったか?」


「ああ...まあ...」


懐中時計をヘラジカに見せた。


「いいね」


そう、ヘラジカは呟いた。


「ヘラジカはどうなの?」


「あまりしっくり来る物がない」


そう口にした。


「まあいいや、そろそろ帰るか」


「えっ?もういいの?」


「実はもう見つけてる」


(いつの間に...)


「よし、出よう」


部屋を出て、再度暗い廊下をゆっくり歩き始めた。


ミシミシと不気味な音が聞こえた。


(何かやな予感するなぁ...)


その予感は唐突に的中することになる。


バキッ


「ん?っあ!?」


「えっ!?」


ドスッ






「ったあー...、大丈夫か、ヘラジカ?」


「ああっ...、ここは?」


天井を見上げると穴が空いているのにわかった。


「床が抜けて落ちたのかっ...?」

ヘラジカは自分の状況がいまいち理解出来ていない様子だった。


「...!お、おいアレ...!!」


私は直ぐにヘラジカの肩を叩いて振り向かせた。


「あの白いのって...」


「骨...?」


ヘラジカの唾を飲み込む音が微かに聞こえた。


「こ、こっから出れんのか!?」


「...見た感じ、扉らしき物がないね」


「ど、どうすんだよ...!こんな森の中だし、助けくるかわかんないし...」


「何とかなるよ」


ヘラジカはそんな呑気な事を言った。


「何言ってんの?状況わかってんの?」


「勘でわかる」


「勘...!?」


(なんでこんな時にそんな事を言うんだよ...)


「なあ、怖いのか?」


そんな事を言う。

思わずムキになってこう言い放った。


「怖いよ!」


逆にこの状況で恐怖心を感じない奴の方がおかしい。


「大丈夫だって!私を信じろっ!」


いきなり肩に手を回された。


「えっ...」


「私はお前と居る...、二人っきりの

時間が欲しかったんだ。だから探検に誘ったんだ」


「二人っきりの...、時間?」


「今この状況は、私の望んだ通りの状況だよ」


「....」


「お前とダチで良かったよ」


その言葉で、私は胸が熱くなった。


「骨にはならないから、安心しろ」


笑顔で語りかけてくる。

不思議と恐怖心が湧かない。


「...ヘラジカ、友達で良かった」


「ふっ...、いい宝物だよ」


ヘラジカは私の頭を撫でた。


「...少し疲れたか?」


「あぁ...、そうだね」


「眠ってていいよ。明日目が覚めてれば、私達は元の場所にいる」


そんな魔法の様な事が起きるのだろうか。確固たる証拠は無いが、

ヘラジカを信じようと決めた。

最高の“ダチ”の言うことを。










私は、ヘラジカと一緒に寝ていた。

ギュッと抱きしめられながら。


目を覚まして、私は驚いた。

本当に地上にいる。


ヘラジカを起こし、周りを見た。

そして、不思議な出来事に昨日彼女と

探索した館が消失している事に気が付いた。


ヘラジカは伸びをして、


「部下のヤツらを心配させたな。

急いで帰るか!」


と言った。


「き、昨日どうやって...」


「んー...、わからん!けど、楽しかった。また、行こうな!はははっ!」


呑気な笑いを見せた。

いつも通りの彼女だった。


「ったく...、待ってよ!」


半ば呆れながら、私は彼女の後を追ったのであった。








「...っていう出来事があったんだ」


「すごい不思議な話ですね...」


「だろ?タイリクオオカミに話したら悔しがってたよ。はは...」


「おーい!ライオン!!」


「あっ、噂をすれば...」


オーロックスが襖の方をを振り向いた。


スーッ、バン!





「一緒に鬼ごっこしないか!?」




この懐中時計は、動いていなくても二人の時間を刻み続けている。

その大切な時計をしまって、よいしょと

立ち上がった。





「いいよ!今日はウチらが勝つからね!」

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けものフレンズ~Story of three years after~ みずかん @Yanato383

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