第19話 ぐれんのもり

「うわあああああっ!!」


上空から僕は落とされた。


というか、この高さから落とされたら

サーバルの様に運動神経は良くないから大怪我を追うかもしれない。


(取り敢えず、落ち着こう...)


ふぅ、と軽く息を吐く。


(そうだ...、能力がある)


落ち着いて竜出す。

そして、自分の中に取り込む。

そうすれば、浮遊できる。


(よし...)


イメージした通りのその工程を行った。


地面との距離は15m程だ。


落ち着いて、地面に足を下ろした。

そう言えば、キンシコウは“ヒグマが会いたがっている”とかで、僕を落としたんだった。


ということはこの木々の立ち並ぶ森の中に、ヒグマが居るということになる。


「...ヒグマさん!」


僕はその名前を呼んだ。


すると、目の前の僕の背より大木が真っ二つに割れた。

それと、同時にその二つの木にオレンジと赤い炎に包まれた。

火の粉を舞い上がらせながら、木を黒くする。


「やあ、かばん。セルリアン以来だね」


肩に担いだ熊手からは、炎が燃え盛っていた。


「ヒグマさん...」


「“熱い”戦いになりそうだね...」


彼女は微笑みを浮かべた。








「うっ...うっ...、なんでっ...」


暗い図書館の地下室、石で造られた

小さな部屋の所で、膝と手を付き、冷たい石の上に涙を流していた。


「ヒグマ先輩も...、キンシコウ先輩もっ...、フェネックさんまで...」


リカオンはただ、後悔した。

あの時に、尊敬する二人を止められなかったこと...。そして、自らの力によりフェネックを復活させたこと...




「...博士っ!頼む、私達は最も強くなりたい!博士のような力を私達にも!」


「いいですよ。まあ、この島のセルリアンは私が殆ど始末しましたが、用心に越したことはありません」


そうして、博士はセルリアンハンターに

能力を授けた。


ヒグマは、火が元々苦手では無かった為か、火を操る能力を手に入れた。


キンシコウは、雲を用いて天候を操る能力


リカオンはと言うと、この時すぐに何の能力を得たのかわからなかった。


リカオンが能力に気付いたのは、

ある日、森の中で、古び、動けなくなっていた故障と思われるラッキービーストを見つけたのだ。

それに手を触れた時だった。


新品の様に新しくなり、ぴょこぴょこと

周りを動き始めたのだった。


それが、“再生能力”であった。


一方ヒグマ達は残ったセルリアンを倒し、この島から完全にセルリアンがいなくなった。


平和になったのは嬉しかったが、

博士は違った。


自らが最強と言い始めたのだ。

ヒグマ達も博士を讃え始めるようになり、ヒグマは博士の側に仕える様になった。


次第に博士はフレンズ達を押さえつけるようにし始めた。


具体的には、

自分の言ったことは絶対に従うこと。

自分を英雄として讃えること。

食べ物を自分の為に毎回作ることなど


勿論、それに反抗するフレンズもいた。

しかし、“重力”という殆どのフレンズ達が理解出来ないモノを操る博士は恐ろしく、反抗するフレンズは減っていった。

そして、ヒグマ達も能力を用いて、フレンズ達が博士に刃向かわないように監視を始めた。

先程言った様にヒグマの能力は“火を操る能力”。火は博士も震え上がる程このパークの中では恐れられている。


助手がいなければ、間違いなく、この島のナンバー2はヒグマだ。


ヒグマがパークを監視し始めた時のリカオンは、その行為に否定的であった。


「先輩...、もうやめましょうよ。

セルリアンハンターはフレンズを危険から守る事が役目... 、

フレンズを強い力で威嚇するような事じゃなかった!」


「おい...、リカオン」


厳しい目で睨みつける。


「私達は能力でちゃんと守ってるじゃないか」


「いいえ...、自分には怖がらせてる様にしか見えません」


「じゃあ、お前はどうしたい?リカオン」


「えっ?」


「セルリアンハンターを辞めるか?」


その問に対して自分は、


「ヒグマさんもキンシコウさんも、

自身の能力でフレンズを怖がらせてる!先輩達のやってる事は...、

フレンズから自由を奪う悪いことです!博士のやってることは正しくありません!」


「.....」


不穏な沈黙が訪れた。

次の瞬間、数々のセルリアンを打ち砕いて来た、その熊手が自分に向かって振りかざされた。




「...神聖な能力を与えた分際で

私を批判するとは、小生意気な」


「グハッ....」


博士の能力で、自分は何度も何度も地面と天井に叩きつけられた。

硬い石に穴が開く程。


「なんなのですか、コイツは

サンドスターの効果があるにしても

これだけのダメージを与えれば血の一滴や二滴流すはず...。気味が悪いのです」


“再生能力”は自分自身にも使えたのだ。


それから、強制的に能力の調査が始まって、博士も“再生能力”の性能について把握し始めた。


そして、私を監禁状態にした。

後にフェネックを復活させられる事になるのだ。




「自分は...本当に何も出来ない...

なにか出来れば...っ」


涙を流していると上の方から声が聞こえた。最初はがやがやしていたが、

泣くのをやめて自分の耳に全神経を傾けた。


「博士さん!本を見つけたですう!」


(...本?)


「ツチノコは砂の中に隠していました」


「さっさと場所を、言ってれば石にならずに済んだのに...」


(...石!?)


「とりあえず、博士は今お休み中

なので、私が代わりに受け取るのです」


(今の声は...助手?)


「でも、その本で一体何を...」


「白と黒の本を合わせなければ出ない

魔法陣があるのです。それをかばんに使われたら困りますからね」


「そうですか...」


リカオンは思わず身体を震わせた。


(ツチノコさんが石に...?

白と黒の本にかばんさん...)


「・・・見てるだけじゃダメだ。

何かしなきゃ...!」


リカオンは使命感に駆られたのだった。


「まずは、ここから脱出しないと...」


周囲は石で囲まれ、一つ木の扉があるが、固く閉ざされている。


両手を握り、目を光らせる。

野生解放した。


(自分だって、セルリアンハンターの

一員だ...!フレンズを、守るんだ!

この扉ごときぶっ飛ばしてやる!)


「オーダーなんてっ、キツくないです!!」


リカオンは助走をつけ、拳を突き出し扉へと突進して行った。






「はぁっ...あ、暑い...」


目の前の新緑の森は一瞬にして紅蓮の炎に包まれた。


冷気で冷やしても暑さで溶かされ、

青白い炎も火力にされ、ヒグマの勢いを

増すだけだった。

夜になるまで攻防を繰り広げたが、周りを炎の壁で囲われた事により、かばん自身も暑さで体力を削られれいた。


「それで、もう終わりかい?」


「っ...」


「私はまだ君に直接手を下してない。

暑さでくたばるのか…ヒトは弱いね」


熊手を担ぎながら、かばんを見下す。


「・・・もっと熱くなれ」


熊手をトンと地面に付くと火柱がかばんを囲った。


「あ...あつい...」


暑さで苦しむかばんの顔を見て、更に

嘲り笑う。


「まあ、かばんが居なければあの黒セルリアンは倒せなかった。その恩もあるから、私は直接倒したりしないよ…」


朦朧とする最中、僕はヒグマを見つめた。


「その代わりに...」


熊手の炎は消えていた。

黒いその棒を、僕に向かって...






ドスッ

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