第26話「背徳の裏切り」
どうにか僕は、聖堂へと
教会の聖地コゥ=サテンは、
中へ入ると、数人の聖職者が
高い天井の礼拝堂へと入り、僕は首を
「普通の教会と変わらないような……何が違うんだ? この聖地に何の意味が」
だが、その時だった。
反響するような声が、僕を呼ぶ。
「ドッティ君か? こっちに来たまえ。地下だ」
先輩の声が奥から響いた。
見れば、神父が立つ
すぐに駆け寄ってみると、隠された下り階段が姿を現していた。
この祭壇をどけて、先輩は地下へと進んだらしい。
奥には等間隔に
迷わず僕は、地下への階段を降り始めた。
「この音……かなり深いぞ? これが、教会の……聖地コゥ=サテンの秘密なのか!?」
走る僕の足音が、遠く長く響いてゆく。
地下空間はどうやらかなりの広さがあるようだ。
そして、壁に反射して膨らむタュン先輩の声が響く。
「なるほど……これを教会は隠していたのか。こんな形で私の夢と対面することになろうとはね」
先輩の、夢?
それはもしかしたら……そう思っていた時、視界が開ける。
聖堂の地下には、想像もしなかったものが広がっていた。
「こ、これは……
そう、かなり大規模な魔法陣がそこにはあった。
地下空間は天井が高く、周囲をぐるりと
円形に呪文を並べるタイプと異なり、四角い。
10m四方程の魔法陣には、その
四つの角には、奇妙な柱が
どの柱にも、三つの光が……赤、黄色、青の丸い円が並んでいる。
そして、その魔法陣の中央でタュン先輩が振り向いた。
「やあ、ドッティ君。無事だね?」
「は、はいっ! 先輩、これは」
「これが教会の秘密さ……それとも、
「……教会の、秘密」
僕は、ある一つの結論を思い描いて
教会はトゥラック神を
人は皆、怪我や病気の治癒を祈り、勉学を学び、地域の交流の場として活用してきた。
教会は一方で、
「……これは、先輩。教会が」
「そう、この魔方陣は見たことがないタイプのものだ。そして、冒険者ギルドに正式に登録された魔法使いや魔導師、一般的な召喚の儀式に使われるものとも全く学術体系が違う。つまり」
「つまり、教会が密かに地下で異端の研究をしていたということですか!?」
驚くべき真実だ。
異端、異教、
こうしたものを公の場で
そして、タュン先輩は怪しげに目を細める。
「教会の聖職者、僧侶達が使う
「……以前、冒険者ギルドで聞いたことがあります。魔法陣を用いる儀式によって、異界から……異世界からの魔神や高位存在を召喚することができると」
「その通りだ、ドッティ君。そして詳しくは……彼に説明してもらおうか」
タュン先輩の視線に
そこには、先程僕が倒したガルテンさんが立っていた。
彼はふらふらと、僕達の立つ魔法陣の中に入ってくる。
「知ってしまったか……そう、これが教会の秘密。何十年もかけて、転生せし勇者達から情報を引き出し生み出したものだ」
「ガルテンさん!」
「大丈夫だ、ドッティ君。もう彼は戦えない……戦わない。全ては終わったことなんだ」
ガルテンさんの目にはもう、光はなかった。
「教会は以前より、唯一神トゥラックを
だが、その奇跡が百年続いても、魔王は倒されていない。
そればかりか、転生してくる勇者達によってこの世界は大きく変化した。文化は多様化して、多くの民に広がった。一方で昔ながらの風俗や暮らしが姿を消してゆく。便利な文明の利器が出回り、それに頼った生活が日常化し始めた。
そんな中で……教会の連中は誘惑に負けたのだ。
ガルテンさんは奥の暗がりを見やって、
「あれが発見されたことで、教会の上層部は決意した……それは、外では異端と言われている行為。こちらの世界から、勇者達がいた異世界へと転生するという計画だ」
僕は思い出した。
タュン先輩の夢……幼い王女が胸に秘めた願い。
そう、それを実際に教会は計画していたのだ。
皮肉を込めてタュン先輩は、辛辣とも言える言葉を突きつけた。
「異端審問によって多くの罪なき人間を殺しておきながら、教会は自ら
「俺には……選択肢はなかった。先代、先々代から受け継がれたこの秘密を……次の法王になる者として、守るしかなかった」
「己のなしてることが罪だという自覚がありながらかい?」
「……教会の罪を背負える人間でなければ、法王として民を導けない」
「
ガルテンさんは否定しなかった。
だが、僕を見ると小さく
「ドッティ君、君が両親を殺した……これは正確ではない」
「えっ!? だ、だって、リシーテさんは」
「正確には……勇者だった母親を殺したのは、父親だ。そして君は……母親へ非道な冒涜を働いた父親を殺した。何故なら」
その続きは、聞くまでもなかった。
聞きたくなかった。
もう、真実の残酷さは十分だと思ったんだ。
「何故なら、熱烈な信者だった君の父親に、聴取済みの勇者……転生前の具体的な記憶を聴き取った母親を殺させたのは……教会だからだ」
「……どうして」
「教会は勇者達の世界への道を
「死んでもらうしかないなんて、言うなっ! ……あ、ああ……そうだ、僕は……あの時、僕は」
僕はその場に崩れ落ちた。
凍っていた記憶の奥底から、幼少期の
死んだ母に
本当に全ての記憶を取り戻し、僕は込み上げる
タュン先輩はそっと僕に歩み寄り、背を抱いてくれる。
「さて、ガルテン枢機卿。
「……物証? それは」
「勇者ケネディの死を銃による犯行とし、その犯人を魔女アナスタシアにするため……君はこの銃弾を用意し、意図的にウエッジ氏が捜査で見つけるように仕組んだ。違うかい?」
先輩は懐から、あのビニール袋に入った弾丸を取り出した。
そして、語る……何故これが、ビニール袋に包まれているのかを。
「ガルテン枢機卿、勇者達の異世界では……私達のこの世界より何倍も、うんと警察の捜査が発達している。それだけ、凶悪な犯罪、
「……何が言いたい」
「ウエッジ氏は異世界の捜査法についても、勉強していたようだ。だから、この弾丸にダイイングメッセージを込めたのだ。……ガルテン枢機卿、指紋というものを知ってるかい?」
タュン先輩はハッキリと言い放つ。
異世界からもたらされた知識で戦う彼女が、僕には勇者に見えた。
「人の指は皆、それぞれ固有の指紋というものを持っている。指の小さなしわの形は、一人一人違うのだ。そして、指紋は触れたものに残る。……この弾丸から、君の指紋が出てくる
「……ふ、ふっ! ふははははっ! 参ったね……俺の完敗だ。だがっ!」
不意に、部屋の奥で明かりが灯った。
部屋の奥で不気味な
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