異世界警察24時
ながやん
第1話「違法な異世界、逮捕します」
魔王の支配が始まって、
しかし、勇者達が持ち込んだ文化と文明が、本来の世界のありかたを
これは、清く正しくいやらしく、をモットーに、異世界の秩序を守る者達の物語である!
「タュン先輩! タュン・タプルン先輩!」
僕は
僕の名はドッティ・カントン。異世界警察の
呼びかける声を二度三度と繰り返し、捜査対象となった店を進む。
すえた
そして、遠巻きに見守る
「遅いぞ、ドッティ君。遅刻だ」
「すみません、タュン先輩」
直属の上司にしてバディ、それがタュン・タプルン警部。年の頃は二十代
彼女は見事な胸の実りを強調するように、己の
僕の使い古した
「で、今日の
「こっちだ、ドッティ君」
タュン先輩は通りの良い声で、胸をゆさゆさと
どうやらこの娼館は、違法な営業をしていたらしい。
そして、タュン先輩は客が最後に汗を流す風呂場へ踏み入った。
広い浴場は、一度に十人程度が入浴できるだろうか? 娼館で商売女としっぽりと過ごして、最後は一緒に風呂に入る。僕は経験がないが、それは危険な仕事を
だが、タュン先輩は奥の娼婦達が使う浴室へと進む。
「見ろ、ドッティ君」
「えっと……客の使う風呂より、随分と質素ですね。
「仕切られたスペースの上を見たまえ」
言われて僕は、並ぶ個室の一つに
1
「
「シャワーだよ、ドッティ君」
「シャワー? 何です、それ」
「ちょっと下がっていたまえ。外套を頼む」
そう言って突然、タュン先輩は外套を脱いで放ってくる。顔を先輩の匂いで
だが、その頃にはもうタュン先輩は鎧も剣も床に寄せている。
「よく見たまえ、シャワーとはこうして使う」
「みっ、みみ、見れませんよ! 何でいつも
だが、思い出した。
タュン先輩はたしか、さる王国の姫君だった人だ。その王国は、大量の転生勇者を
むっちりとボリューミーでグラマラスな、それでいて見事な
タュン先輩が壁の配管にあるバルブを回すと、不思議なことが起こった。
「ああ、なるほど……上から湯を浴びる仕組みなんですね」
「そうだ。……
湯気の中で濡れたまま、裸のタュン先輩が再びバルブを閉じる。
彼女が視線で
だが、
あらゆる術が消費する、マナと呼ばれる生命力の無駄遣いである。
僕が二階へあがってドアを開くと……ローブ姿の男が振り返る。
「チィ、サツが来てたか!」
「抵抗しないでください! 異世界警察です! 動かないで!」
「動かないでと言われて、はいそうですかって奴が、いるか、よっ!」
ローブの男は
それを確認してから、こちらも武器を手に取る。捜査権を持っていても、基本的に異世界警察は武力による行動が
僕も腰から
これはジッテとか言われているもので、東洋の島国で実用化されているものだ。
ちょっとしたソードブレイカーみたいなもので、手元で小さく枝分かれしている。金属製で、長い本流で敵を叩き、小さな支流との
「おとなしく、して、うわっ! と、とにかく、話を聞いて、くだ、さいっ!」
「うるせぇ! チート能力があっても、それで魔王と戦うだけが勇者じゃねえだろ!」
「ですが、おっと! とと……神が授けた力を、違法な行為に使うのは……いけません!」
口では強気だったが、僕は苦戦に汗をかく。
勇者は先程口にした、ちーと? とかいう能力をそれぞれ持っている。そして、肉体的にも頑強な上に、戦いを経験する
しかも、死んでも神の加護があるので、教会にて蘇生してもらえる。
で、鉄火場での荒事は、僕は苦手だった。
あくまでも、僕は。
「ドッティ君、どいていたまえ」
不意に背後で声がして、全裸のタュン先輩が躍り出る。
今にもはちきれんばかりの裸体美が、手にしたジッテを踊らせる。警棒を振るっていても、まるで
でも、お願いですから服を着てください。
切れ者だが世間知らずで
同期はみんな
やんごとなき身分だったからか、身分の違う者への
「よし、ここまでだ。観念したまえ」
あっという間にタュン先輩は、敵の凶器を叩き落とした。
そして、罪状を読み上げる。
「転生勇者番号1052770。
腕を
当然だ、真顔で彼を組み伏せたタュン先輩は、片膝を付いて彼の顔の前に
「ドッティ君、この男は精霊使い……神の奇跡によって、ノーコストで地水火風の四大精霊を使役する力を与えられてるようだ。そして、サラマンダーを召喚し続けた」
「それで湯を大量に沸かしてたんですね」
「そうだ。だが、精霊の召喚には術者のマナが支払わなければならない。それをノーコストで行えるから、転生勇者の力というのは恐ろしいな。……それを魔王から世界を解放するためならばと、神は許したのだが」
どうやらタュン先輩の言う通りらしい。
この世界では、精霊達の力を借りる際には、厳格な
魔王が現れ、それを討伐するために勇者が流入してくるまで。
今までの
「さて……ドッティ君。地元の
「タュン先輩……」
「我慢せずともいいぞ、素直に笑いたまえ。それから」
「それから?」
「私の着替えを手伝ってくれ。
「だったら脱がないでくださいよ!」
「……以前、王宮にいた頃、出入りしてる勇者から聞いたことがあってな。ふむ、シャワーというのは確かに便利かもしれない。なに、ただの好奇心だ。気にしないでくれたまえ」
そうして彼女は、堂々と立ち上がってこちらを振り向く。
それを見上げるガンズには、抵抗する意志がなさそうだった。むしろ、床にへばり付くようにしてベストアングルを視線で探している。
彼もまた、魔王討伐のための
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