第25話「激闘!最強の聖導騎士」
本格的な登山の
先輩は前を登りながら、手を伸べてくれた。
その手を握って引っ張り上げられ、さらに上がって今度は僕が手を引く。
相棒の存在を、僕は今日ほどありがたいと思ったことはない。
タュン先輩もそう思ってくれてたら、嬉しい。
そして、突然視界が開けた。
「見ろ、ドッティ君……あれが聖地コゥ=サテンだ」
「あ、あれが……」
山頂には、古い火口が広がっている。
その
走れば5、6分という距離に、僕達は
「この場所は、信仰心が特に厚い
「た、確かに……何か、キラキラしてますね」
風雨にさらされてきたにしては、やけに手入れが行き届いている。それに、屋根に輝く
こんなにもきらびやかな宗教建築は、ちょっと見られない。
教会の総本山にある大聖堂だって、もっと質素で
そう思っていると、頭上から声が落ちてくる。
「よく
振り向き視線をあげると、冷たい風にマントを
巨岩の上に剣を突き、その柄に両手を置いて直立不動の
次期法王と
僕達の前にズシャリと着地し、装飾が施された
「今なら命までもは取らん……だが、知り過ぎたこと、
「おやおや、聖導騎士様は怖いことを言う。聞いたか? ドッティ君。命までもは取らんと言うが、私は魔女で君は共犯者だ。待ってる拷問は百や二百ではない。さて、どうしたものかね」
「タュン・タプルン! そして、ドッティ・カントン! ……ここまでだ」
だが、僕はジッテを抜き放つと一歩前へと進み出る。
寒さも恐怖も感じているが、肉体が震えて
「先輩っ! 先に行ってください。あの聖堂に真実が……なら、僕がここでガルテンさんを食い止めますっ!」
「ん、では頼む」
「……止めないんですか!? 少しは心配してください、一度くらいはよせとか言ってくださいよぉ!」
「ふむ、だが何の心配もしてないのだ。ドッティ君、君はやればできる男だ」
グイと突然、マントを引っ張られた。
そして、冷たくなった
先輩の
驚き目を見張る僕の背を、タュン先輩はバン! と
「頼むぞ、ドッティ君。全部終わったら、何か安くて美味いものをおごってやろう」
「……はいっ!」
先輩はそれだけ言うと、火口への斜面を降り始める。
走り出す背を追おうとしたガルテンさんの前に、僕は自分の
「ここは通さないっ!」
「どけっ、ドッティ・カントン!」
「どきません……どけませんよ! 絶対に!」
ヒュン、と風切る刃が振るわれる。
僕の握るジッテが、金切り声で火花を歌った。
教会の最強騎士を前に、無謀だった。
だが、無茶だと知ってさえ、無理だとは思わない。
僕の心は今、こんなにも
「くっ、この俺が苦戦だと!?」
「あなたは強い! でも……僕だって訓練は受けてる。そういう人間が守りに徹したら、ちょっとやそっとじゃ殺せないって、わかってくださいよ!」
「こんな
戦う必要はないし、倒そうとしなくてもいい。
ガルテンさんを足止めして、先に行かせなければいいのだ。
危うい剣舞に踊る僕を、何度も死が
極限の集中力の中、僕は自分でも不思議に思えるくらい、冷静だった。
「クソッ、どけぇ!」
「どきません!」
「つくづく
動揺を誘う見え
だが、僕は無言でジッテを動かし続ける。
神速で繰り出される
少しずつ下がっているのはわかっている、だが時間は稼げている。
そして……ガルテンさんにもう、言われるまでもない。
僕は
「そう、僕の両親は
「そうだ! その犯人を俺は知っている。さあ、無駄な戦いをやめろ。俺が予定通り法王になれば、その
「人に与えられた生、それは死んでいないだけだ! 生きるということは、自分で選ぶこと! 僕はタュン先輩にそう教わったんだ。それに」
――そう、それに。
既に真実は我にあり。
驚きに表情を
逆に僕は、さらなる集中の中で精神力が研ぎ澄まされてゆく。
「僕はもう知っている! 両親を殺した
「……なん、だと……お前は、それを知ってて、それで俺に!」
「そうだ……タュン先輩達が教えてくれたんだ。真実を求めるなら、それを恐れず受け止める必要がある。僕は耐えられなかった、耐え難かった! でも、耐えた!」
僕は大声で叫びながら、ジッテの枝分かれした部分を剣へと
「両親を殺した人間……それは、僕だ! 小さい頃の僕、ドッティ・カントンが両親を殺した! 僕の心と一緒に、僕が殺したんだ!」
そう、忘れ得ぬ惨劇をもたらした殺人鬼。
それは僕、ドッティ・カントンだ。
リシーテさんが封印された捜査資料を探し当ててくれて、それでわかったのだ。
幼少期の僕が、父と母を殺した。
そして、血の海に沈んだ父。
断片的な記憶がパズルのピースとなって脳裏に散らばる。
未だに絵の全貌が見出だせなくても、僕は自分の
「……そこまで、知ってしまったか。だが!」
「くっ! 知りたくはなかった! でも、真実というものは選べない。二つに一つというものじゃないんだ! 作れないし、
全身の筋肉が悲鳴をあげていた。
だが、僕は歯を食いしばってジッテを押し込む。
乾いた音が響いて、ガルテンさんの剣が根本からへし折れた。
それでガルテンさん自身も、心が折れてしまったかのように言葉を失う。
「この、俺が……負ける、だと?」
「勝ち負けじゃないっ! あるべき姿で、あるがままに……この世界、人々の暮らし、魔王と戦う勇者達……その全てのありかたを守るのが、僕達
全身が焼けるように熱い。
全身に疲労物質がくまなく行き渡り、僕も倒れそうになる。
だが、ふらつく足取りで僕はタュン先輩を追った。
背中を向けたが、既にガルテンさんの戦意は失われている。先程の鬼気迫る殺気が嘘のように、彼は
「……俺は、ただ……長らく、続いた……教会の、秘密を。世界の……秘密を、守る、ために」
僕は無視して先へと進む。
だが、思うように脚が動かない。
ヘトヘトで心身ともに
背中で聴くガルテンさんの声は、徐々に細く小さくなっていった。
「教会、の……トゥラック神の、加護……転生せし、勇者の秘密……その奇跡、そのものを……長年かけて、少しずつ……
僕は一度だけ振り返ると、叫んだ。
そこにもう、若き枢機卿の
「教会のことなんか知らない! 興味もないですよ! ただ……悪事は
それだけ言って、僕は走り出した。
それでも僕は、真っ直ぐ聖堂を見詰めて聖地へと脚を踏み入れた。
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