第2話「マウストラップ」
僕の名は、ドッティ・カントン。
転生勇者達が異世界と呼ぶ、生まれ育ったこの世界を守る
今日も今日とて、異世界警察は法と秩序のために働いている。
いまは
だから、そうした価値観を
「はーい、ちょっと立ち止まってください! 異世界警察です!」
僕はジッテと呼ばれる
ここは、冒険者達に人気の
僕の制止に、
「ああ? くっそ、ここにきて
「急いでんのよ、早くしてよね! 他の連中に下層の宝箱を取られちゃうわ!」
「
まだ捕まえてはいない。
けど、下へと向かう階段前で、僕は全ての冒険者を
チラリと横目に上司を見れば……タュン・タプルン
相変わらずの水着みたいな鎧で、はちきれんばかりのダイナマイトボディをギリギリのギリで
僕は上司の協力を
「申し訳ありません、全員
冒険者はすべからく、全員が冒険者ギルドに所属している。
異世界から転生してきた勇者も、魔王打倒を目指す限り同じだ。
僕が足止めした三人組は、心底面倒くさそうに
それを検分して、その一つ一つを精査した。
一つを除いて、問題はない。
その一つを手に、僕は三人組のリーダーらしき男へと語りかけた。
なるべく
「えっと、そちらの方……冒険者証の更新期限が切れてます。
「あぁ!? そりゃお前っ、ちょっとだろうが!
「しかし、冒険者ギルドで更新手続きを取ってもらわないと」
「それじゃ、何か? その間、仕事を休めってのか!」
「正規の冒険者証を持たない冒険者は、迷宮の探索等ができない規則でして」
リーダー格の男は、恐らく戦士だ。その横で、
規則は規則だし、何かあったら責任問題だ。
それに、冒険者ギルドが発行する冒険者証には意味がある。
定期的に冒険者を公的機関に出頭させ、その能力を調べるのだ。人間、歳を取れば
「すみません、他の二人の方は大丈夫ですが……そちらの方は」
「急いでるんだよ、おまわりさんよぉ!?
「横取りもなにも、迷宮の宝箱は誰のものでもなくてですね」
「じゃあ何か? たかが冒険者証の更新を忘れてただけで、俺の
どうしてくれんだ、と言いたいのはこっちの方だ。
よくもまあ、冒険者証が失効してるのにも気付かず、危険な迷宮にノコノコ来てくれたものだ。
でも、僕は
つもりだった。
その瞬間までは。
「ね、ねっ! 待って! ほら……後! モンスターが! 湧いてる、ごっついのが湧いてる!」
「ホントだ! とりあえず、応戦しなきゃ! 宝箱の回収もなにもあったもんじゃない! こんな所で検問に引っかかるから、もぉ!」
突然、迷宮内に
僕が足止めしてた冒険者達の背後に、ゆらりと
狭い通路内を密閉するようなプレッシャーは、巨大なモンスターだ。
思わず僕は、ジッテを抜きつつ叫ぶ。
「クッ、こんな浅い階層でサイクロプスだって!? ちょ、ちょっとタュン先輩! サイクロプスです、サイクロプス!」
サイクロプス、それは一つ目の巨人だ。
知能は低いが、人間の倍以上の
ジッテを持つ手が震える。
基本的に、異世界警察の特務捜査官はモンスターとの戦闘を前提としていない。
ちらりと視線を走らせれば、タュン先輩はようやく書類の束を
だが、先程の冒険者三人組の、そのリーダーは
「俺ぁ戦わんぜ? 何せ、冒険者証を失効してるからなあ? 冒険者として戦ったら、違法だよなあ?」
うわっ、馬鹿がちょっと頭を使ってみせた、その実自分の馬鹿を
だが、法的な手続きの意味では彼の言う通りだ。
冒険者としての探索、戦闘には冒険者証がいる。
冒険者ギルドに認可された者しか、冒険者として活動してはいけない。
そのことを脳裏に再確認していると……面倒くさそうにタュン先輩が歩み出た。
「
「あ、あのっ! 先輩!」
「何、気にするな。サイクロプス程度ならば、私の敵でもあるまい」
意味不明な余裕で、タュン先輩はフンと鼻を鳴らす。
そして、彼女がすっと
「えっ、タュン先輩……魔法、使えるんですか!?」
「私とて以前は一国の王女だ。これくらいは……たまには、久しぶりに、うん、時々は……おろ? おっかしいな」
シュボン! と、タュン先輩が構築していた魔法の呪文が
だが、絶叫を張り上げるサイクロプスにとっては関係ない。
いつも通り
だが、全てを
まあ、ムチムチとした全てをいつでも
彼女が小首を傾げる中、サイクロプスの絶叫が響いた。
そして、
「御無事ですか? 同業者の皆様。そして、異世界警察の皆様」
そう、冒険者証を見ずとも騎士だとわかった。教会の紋章が刻まれた盾と、ほのかに光る剣……攻防一体の装備に身を包んだ
「事情は知りませんが、
いかにも紳士といった言動、そして表情……男は背にタュン先輩を
だが、先輩はその直後、思い出したように手を
そして、先程溶け消えた魔法の力が彼女に戻ってきた。
「そうそう、間違えていたよ。さて……今、私達は公務中だ。邪魔してくれるな、サイクロプス君」
先程失敗したかに見えた呪文が、あっという間に
強力な電撃に襲われたサイクロプスは、まるで骨が透けて見えると錯覚する程のダメージに絶叫した。そして、それが断末魔になる。
そして、冒険者証を失効していた男も、
ただ、救援に駆けつけてくれた騎士だけが、笑顔でタュン先輩に向き直る。
「ありがとう、レディ。俺が割って入るまでもなかったようだな」
「ん、まあ……助かったことには礼を言おう。それと」
「それと?」
「冒険者証の提示を。私は異世界警察の特務捜査官、タュン・タプルンだ」
今までのサボりっぷりはどこ吹く風、しれっとタュン先輩が手を出す。
苦笑しつつ、騎士様は名乗りながらポーチから冒険者証を出した。
「俺は
「の、ようだな。しかし、武器は剣のようだが?」
「法の改正で、今は聖導騎士も皆が剣や槍を武器にしている。
「……そのようだな、ガルテン
「まいったな、俺は肩書とは別に腕っ節だけで冒険してるつもりだが」
タュン先輩の言葉で思い出した。
この
知る人ぞ知る有名人、それがガルテン
「さて、俺に違法性はないな? 教会の人間だって、調理にはナイフを使うし、手紙が届けばハサミを使う。刃物は道具であって、道具に善悪はないからね」
白い歯を
これぞ騎士の中の騎士、神罰の代行者たる聖導騎士だ。
彼は仲間も連れず一人で、階段を下へと降りてゆく。
こういう仕事には全くやる気を見せないタュン先輩は、不思議とその背を見えなくなるまで見送っていた。
その時は僕は、タュン先輩もイケメンには弱いんだなあ、なんて
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