第4話 空から女のコが落ちてこないかなとかいうよくある呟き
サイクロプスおじさんは山のふもとへと着いた。
サイクロプスおじさんのそれぞれの肩にいたナトとラッカは地面へと降りた。
「巨人族って、足速いんだね……」
ナトとラッカはまだ冒険もしていないのにヘトヘトに疲れていた。
「少しハシャギすぎたかな」
サイクロプスおじさんは腕組みしながら笑った。
「お兄ちゃん。確か、町はこっちにあったよね」
「ああ、そうだ」
「今から歩いたらどれくらいで着くかな?」
「ざっと、一日はかかるな」
「ええ!? わたしそこまで歩いていられないよ!」
「ボクの付き添いなんだから、黙って付いて来い」
「もう」
ラッカはぷくっとほほをふくらます。
「まあまあ、二人とも、ケンカはやめなさい」
サイクロプスおじさんはしゃがみ、二人の会話に割って入った。
「二人はワシの肩から見えた町まで行ってみたいんだよね。だけど、そこまで歩くのはイヤだとラッカちゃんは言うんだね」
「町が見えたんだからもう着いたようなもんだから」
「それって世界地図を手にしたら、すべての土地を見たというのと同じことだぞ、ラッカ」
「ガハハハ」
おじさんはつまらないことで笑う生き物である。
「まあ、ラッカちゃんが言うのも一つあるな。あの町まではだいぶ遠いし、モンスターなんかが、うようよいるからな。旅慣れしている冒険者ならまだしも、二人はまだまだひよっこ。旅の途中でシカバネになんて欲しくない」
「何か秘策があるんですか?」
「おぅ! サイクロプス一族の秘技を見せてあげよう」
そういうと、サイクロプスおじさんは何処からともなく鉄の玉を取り出した。
その鉄の玉はナトの身体よりも数倍大きかった。ラッカは触ると「ヒヤッとしている。ヒヤって」と、驚いていた。
「サイクロプスにとって最大の敵は遠距離攻撃だ。近距離攻撃だと最大の攻撃を誇るワシらも弓矢や遠くからの魔法は苦手だ。その遠距離攻撃をどうにかするために編み出されたのが砲丸術だ」
「その鉄の玉を人間に投げつけていたの?」
「ご名答。矢を構えた弓兵や詠唱途中の魔法使いに、こいつを投げつけたら面白い具合に当ったんだ」
「そういえば、おじさんがスゴいモンスターだと言うことを忘れていたよ」
「ガハハハ。でもな、それだけではないぞ。こいつのスゴイ所は攻城戦にある」
「攻城戦って、あの城を攻めるあの攻城戦?」
「そうだ。さあ、これを見てみろ」
サイクロプスおじさんが鉄の玉をクイッと横に回すと、鉄の玉が真っ二つに割れた。
「この鉄の玉の中に、モンスターを入れて、これを城の中へと投げる。鉄の玉が城の中に入ったら、モンスターはそこから出ていて、城の内部を破壊させるんだ」
「すごく実践的な兵器ですね」
「まあ、残念ながら使ったことはないが」
「ないの!?」
「モンスターを統治力できる魔王がいなくなったからな。……まったく、一体、誰が倒したんだが」
「多分、お母さんに心当……」
「ラッカ。話がややこしくなるから黙ろうな」
ナトの手はラッカの口を
「それでこの鉄の玉とボク達がこれから向かう町とどのような関係が」
「入れ」
「……はい?」
「入れ」
……うん。うすうす気づいていたけど、気づいていないフリをしていたよ。
ナトは心の中で静かにそう
ナトとラッカは鉄の玉の中に入った。
鉄の玉の中は二人の身体が折り重ならないといけないほどに狭かった。
「お兄ちゃん、近い」
「仕方ないだろう。――というか、ラッカ、香水でも付けてきたのか?」
「旅の祈願として、ちょっと柑橘系を。……お兄ちゃん嫌い?」
「鉄の匂いよりかはマシだからいいよ」
「よかった~」
「二人とも準備はいいか?」
「サイクロプスおじさん、ちからのたねが入った袋を真ん中にするからちょっとまてて」
「わかった」
ナトはちからのたねが入ったふくろを自分とラッカの間に置く。
「お兄ちゃん、全部食べてよ」
「そんなに食えないって」
「だったら、一つだけでも食べといてよ」
「わかったよ」
ナトは嫌々ながらもちからのたねを食べた。
ナトのちからはあがった。
「サイクロプスおじさん! 中からはどうやって開けるの?」
「そこにレバーがあるだろう? そのレバーを引けば開ける仕組みになっている」
ナトとラッカはレバーを探す。
すると、サイクロプスおじさんの言うレバーがナトの頭上にあった。
「ボタンじゃないの?」
「ボタンだと間違えて押してしまったヤツが居てな。そいつが乗った鉄の玉は空中分解してしまったんだ」
「お兄ちゃん、いい。絶対引かないでね」
「イヤな前フリはやめろって」
ナトの心の中で『面白い所で空中分解しろ』と悪魔の声が聞こえるのであった。
「さて、準備はいいかな? お二人さん」
「ボクはいいよ」
「わたしも!」
「じゃあ、いくゾ」
サイクロプスおじさんは鉄の玉を握りしめ、廻りだす。
――回転力を加え、腕の力を合わして、鉄の玉を思いっきりぶん投げる。
「ホゥーガァアン! フーリーーマァアアーンァ!!」
サイクロプスおじさんの気合が最高潮となる。
「ァ嗚呼ァああアア! ナァアアンバァー! ワン!!」
サイクロプスおじさんの掛け声ともに鉄の玉が投げられた。
「……」
「……」
対して、鉄の玉の中はサイレントだった。
「ホントに飛んでいるのかな?」
「舞い上がった感じがしたよ、ビューと」
「まだまだ上がっているね」
「……うん」
二人の間で会話が止まった。
「……落ちる時ってどうなるの?」
「すごいことになりそう。もしかすると、ボクらはぺちゃんこに」
「……お兄ちゃん、転移魔法、唱えてもいいかな」
「……信じようよ、おじさんのことを」
「そうだね」
鉄の玉の上昇は止まり、そして落下しだす。
「落ちてきたね」
「落ちてきたな」
落下のスピードは想像よりも速い。
そして、それはこれ以上のスピードで地面に叩きつけられたらヤバイと本能に語りかける。
「これまずい、これまずい、これまずい」
「お兄ちゃん、やっぱり転移魔法!」
「それだ! 早く、早く!」
「時空の神クロノスよ。次元を歪ませ、我らを転移せよ……」
ラッカは詠唱を口にすると、しばらく黙った。
「……ラッカ、どう?」
「お兄ちゃん、ゴメン」
「え?」
「クロノス様が、『キミ、少し止まってから詠唱してくれない? 次元うまく歪められないから』って、言われた」
「転移魔法って少しでも動いていたら使えないの!?」
「……そうみたい」
「ああ、どうしようどうしよう! ちからのたねをバリボリ食べれば!」
「お兄ちゃん、力でどうにかなる問題!?」
「じゃあ! どうしろと!」
「うーん……、そうだ!」
「なんだ!」
「えい!」
ラッカは鉄の玉の内部にあったレバーを引いた。
鉄の玉がパカっと二つに割れた。
「お兄ちゃんつかまって!!」
「ああ!!」
ラッカはナトの手を握りしめると、詠唱を始める。
「風の精霊シルフよ、我らに風の加護を与えよ。その風は鳥の翼のように、空から落ちる我らをやさしく、たおやかに、包み込んでくれ」
ラッカの詠唱の応えるように、賢者の杖は風を呼び、二人に風の加護を与えた。
風の加護によって、二人の地面への落下スピードは遅くなる。
「すごいな! ラッカ!」
「えへへへ」
「これで空を飛び放題だな」
「お兄ちゃん、これは元々風の
「そうか、残念。でも、あいかわらず、機転が効くな」
「魔法は効率良くね」
ラッカはニキっと口端を上げて笑った。
ところかわって、ここはサイゴの町。ナトとラッカが目にした町である。
町の前にいる門番があくびをする。
「ああ、空から女のコが落ちてこないかな」
「昼間から何言ってるんだよ、オマエ」
もうひとりの門番がそう言った。
「だってよ。門番と言っても、ただの置物だろう? 俺ら。モンスターが侵入することもないし、盗賊とかが来ることもない」
「それはそうだが」
「でも、もし、もし空から何かが落ちてきたら面白いと思わないか? 竜とか天使とか」
「そういう絵空事ばかり言うからこんな場所に配属されるんだぞ」
「へいへい。ああ、空から女のコが振ってきたら、俺にも春が来るんだろう――」
門番がそう言うと、地面がドゴォォォ、と、おたけびを上げた。
地面が響いたその音に、門番は血の気を失せた。
「……オマエが空から女のコが降ってこいと言ったから、何かが落ちてきたぞ」
「いやいや、俺は確かに女のコが降ってこいとは言ったけど、ホントに何かが落ちてこいと言ったわけじゃ――」
「女のコがマジで降ってきたら」
「……うわぁぁ、想像したくねえ」
「でも、近くに降りたんだから行くしかないだろう?」
「わかったわかった。行くよ」
門番達は嫌々ながらも落下物の所まで駆け足へと向かっていた。
風の加護をまとったナトとラッカは地面へとゆっくりと降りた。
二人が降りた先はサイゴの町の門であった。
「ここがサイゴの町か」
「なんでも、この近くには魔王城や邪竜の山とかがあるんだって」
「そりゃ、ヤケになって付けた名前だな」
そう言いながら、二人は門をくくり抜ける。
「しかし、不用心だな。門があるのに誰もいない」
「みんな、あそこで集まっているよ」
「ふーん、どれどれ」
二人はヒトが集まっている場所へと向かった。
「皆さん、危ないですから近寄らないでください」
軽装の鎧を身に着けた男性が野次馬たちを遠ざける。
「何かあったんですか?」
「ええっと、実は。空から何かが降ってきたみたいでして」
「空?」
「ええ……」
ナトはラッカと目を合わせ、お互い頷く。
「すいません」
二人は男性のそばを通り抜け、男性のいう何かを見る。
――そこにはぐちゃぐちゃに潰れた鉄の塊があった。
サイクロプスおじさんは自分の投げた鉄の玉をずっと眺めていた。
「そういえば、攻城戦で使う予定のモンスターはスライムだったな」
サイクロプスおじさんはこめかみのあたりをポリポリとかいていた。
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