第17話 ランクAAとかいう戦闘単位

 

 話は少し前にさかのぼる。


 日が沈みかけの夕方の時、ナトは冒険者ギルドの館の前で冒険者ランクAAの傭兵、ブナとアカシアと対面したときのことだ。

 

 ナトはブナとアカシアの前に立つと軽く会釈する。

「えっと、本当にやりますか?」

 二人は笑うことなく、首を縦に振った。

「すまないな少年、仕事なんだ。少し痛いかもしれないがすぐに終わる。ただ、しばらくの間、立つのが困難になるかもしれないが」

 アカシアは手持ちの槍をナトへと向けた。

「そういうことだ。俺達はあまり気が乗らないがこれも仕事だからな」

 ブナは自慢の両腕をバンバンと叩いた。

「少しぐらい話をしてもいいと思うけど……」

「話ならもうしたはずだ。俺らは雇い主の話でここにいる」

 アカシアの言葉にナトは残念な表情をする。

「でも、ボクはいつでも話していいよ。窓口は開けてるから」

「俺達と話をしたいのは嬉しいが、そういうおしゃべりは苦手なんだよ」

 ブナはナトの返事にそう応える。

「話下手でも別にいいけどね」

 ナトは戦いの構えを取らず、彼らからの言葉を待った。

「……やりにくいな、ああいうの。戦う意志が見えないのは」

「プロ意識あるなら耳を傾けるな、ブナ。心が曲がる」

「そうだな。心を鬼にするか」

 ブナとアカシアは目で合図する。

「アカシア公、まずは俺が突っ込む。もし、ヤツがオレの一撃を交わしたら――」

「その槍で刺してくれ」

「わかっているじゃないか」

「わかってはいる。ただな、槍は加減ができない武器だ。運悪く心臓なんかに刺さってしまったら気分が悪い」

「俺達は傭兵だ。雇う側の命令で動いている。納得できないこともやり通さないとな」

 二人の戦略はまとまった。


 ブナとアカシアの視線が外れ、二人ともナトを見る。

 ナトはそれに気づくと、さっきまでの無防備な体勢から一変、戦いの構えを取る。

 それを見たブナは心の中で、できるじゃねぇか、と、思い、一歩前に出た。

 そして、ブナは空を飛んだ。巨体の身体が空を駆け、ナトの斜め上まで跳躍した。

「スレッジハンマー! 脳天はビックリだ!」

 ブナが両手をハンマーのごとく振るい、ナトの眼前へと落ちる。

 ナトはその両腕から逃れるように、横にずれた。

 その瞬間、ブナの両腕は地面を叩き割り、水の飛沫のように土石が飛び散った。

「おじさん! 横だよ!」

 ナトはすかさず片腕に蹴りを与える。

「ぉっと!」 

 ブナはその蹴りを狙われた片腕で防御する。

 ナトとブナが目を交差する。

 ――後ろに下がらねぇのか! おもしれえ! と、楽しんだブナであったが、急に旗色が悪くなる。

 ……痺れた。腕がジーンと痺れてきたのだ。

 動きを大事にする戦いをするブナにとって、この痺れは予想外だった。

 パンパン張り詰めた両腕の筋肉を持つブナ、彼が片腕を回せば大きな風が巻き起こし、その腕にある握力は手のひらサイズの岩石を簡単に握りつぶすことができるほどの力を持つ。

 ところが、片腕に当てられた蹴りはいい具合に痺れた。防御していたとはいえ、剥き出しの腕に蹴りを入れられた。痛さよりも痺れが来た。遊び半分で与えられるダメージではなかった。

 ――まさか、俺の戦いを知っているのか?

 そんな疑念がよぎる。

 その雑念に引きずられたのか、ブナはナトの姿を見失った。

 ――表にはいない、横にもいない。ならば!

 ブナは一歩前に踏み込み、後ろを振り向く。

 すると、ナトは片腕を引き、ブナの背中を狙おうとしていた。

 ――そいつは甘い。

 ブナは腰を引き、せいけんづきの構えにはいった。

 ――まっすぐ、俺の腹に来い。そしたら、入れてやるよ。一発を。

 ナトは片腕を引いたまま、正面に出る。

 ――さあ、入った!

 ブナは腰を低く下ろし、せいけんを放つ。

 しかし、ナトはそれをかわした。

 ――なに!

 相手が一撃を入れるのなら今しかなかった。無防備な腹を見せたのだ。そんな腹を見たら誰しもが一発拳を入れたくなる。そこが人間の弱さとあなどるからだ。

 ブナはその機会を逆手に取り、相手に一撃を入れる好機と見た。

 しかし、来なかった。見逃したのだ。一発ノックアウトのチャンスを無視したのだ。

 ――となると……!

 ブナは横に居るであろう何かに自分の背中でぶつけた。本能だった。手では遅く、足では間に合わない。となると、わずかに自由が利くのは背中しかなかった。

 動物めいた殺気はだった。横にいた何かは吹き飛び、地面に体重をかけながら後ろに下がった。

「そういうのあり? 背中だなんて」

 ナトは冗談口調で言った。

「それはこっちの台詞だ。今、お前、俺の後頭部入れるつもりだったろ!?」

 ブナは興奮気味に思いっきり叫ぶ。

「そんなと思う?」

「できる。いや、やろうとしたな。俺がそれを避けるのを待ったな!」

「そんなことできたらおじさんはここに立っていないよ」

 ブナにはナトの言葉が信じられなかった。

 ……一瞬があった。絶命がそこにはあった。生きる者が感じてはいけない死のスキマに入り込んだ。ブナはそんな時わずかの間を迎えたのだ。


 ブナが一歩も前に踏み込めず、ナトは彼と向かい合っていると、背中から一点、鋭い痛みが現れた。

「少年、俺のことを忘れたか?」

 アカシアの声がナトの背後から聞こえてくる。そう、アカシアの槍がナトの背中を捉えたのだ。

「二人同時ってズルくない?」

「個人戦なんて言ったか?」

 ナトは口を閉じ、軽くそうだね、と頷いた。

「少年の心臓はすでに我が槍の延長上にある。もし、少年が右心臓であるならば例外なんだが、まあ、そこまでに運は持ってはいないようだな」

「……負けてないよ」

「ほぅ」

 アカシアは脅しに屈しないナトに素直に驚いた。

「あなたもこれで勝ちだなんて思っていないはずだ。どうせやるならまっすぐ勝ちたい」

「どうしてそんなことを思えるんだ?」

「槍は眼前の相手の守りを崩して穿うがつもの。それを後ろからサクッと騙し討ちで刺したなんてみんなに知れたら名が泣くでしょう?」

「武人との戦いならそうだと思うが、君みたいなコならなんとも思わないが――」

「それなら余計にダメだと思うよ。おじさんの雇い主のは喜んで広めちゃうよ」

 アカシアは雇い主であるシーズの性格について考察してみた。

 ――確かにやるな。あの男は。

 後ろから少年の心臓を貫通したことを自分の手柄のように広めるだろう。

 ――醜聞しゅうぶんだな。これでは。

 アカシアは悪名が広がることを恐れ、ナトの心臓を向けていた自分の槍をそっと下ろした。

「これでブナの分はナシだ」

「ナシ?」

「ああ」

「だろうね。あのヒトはきっとやるよ」

 ナトは二歩三歩下がってからアカシアの方を見る。アカシアの攻撃範囲から自然と離れた。

「しかし少年、キミは武人ではない。俺はこれから戦うであろう武人に対する礼儀を忘れていたのだ」

「まったく……、ボクには礼儀の一つもないんだな」

「あたりまえだ。ブナの横を取ったくせに何もしなかった。まったく、礼儀がない」

「礼儀って言われても、……ね」

「――一本を取れるのならすぐに取れ、時間を掛けて手の内を見る余裕なんて作るものじゃない」

「おじさんにとって、それが戦い?」

「そうだ」

 アカシアはコクンと頷いた。

「戦いは苦痛だ、誰もが勝機を得ようと模索して、そしてそれに飲み込まれる。息苦しい戦いをするくらいなら、さっさと敗北を認めた方がラクになる」

「だからボクはまだ負けを認めていない」

「認めろ、と言っても聞かないだろうな。まあ、いい」

 アカシアはナトに向けて槍を差し出す。

「もう一度我が槍が少年の心臓をこづいたら負けと認めろ」

「それはできない」

「俺は最低限の譲歩を申し出ているんだぞ。それを受け取るのが礼儀と言うものだろう?」

「そんなの礼儀じゃない、敗北勧告だよ、喜んで負けると言うヤツはいないよ」

「俺との戦いは息が苦しいぞ。俺の槍の長さは少年の腕の数倍はあるぞ」

「それは知っている。おじさんに踏み込める場所は何処にもない」

「ならば、どうする? どう戦う?」

「簡単だよ」

 ナトは一歩、また一歩下がった。

「逃げるとは愚策だな」

 ナトは後ろに下がると、アカシアは間合いを取らせないと近づいてくる。

「愚策なんて思わない方がいいよ。策は多い方が何かと余裕を持てるし――」

 ナトの靴のかかとが大きな石にぶつかるとそれをわしずかみする。

「使えるモノがすぐに見つかるからね」

 ナトはそういうとその石をアカシアに向けて投げつけた。

「くだらぬ」

 アカシアはナトの行動がわかっていた。何処かから石を手にしてそれを投げつけて、それで逃げる時間を稼ぐのだと考えていた。

 ――逃げるために石ころひとつ探すくらいなら、その時間を逃げることに使え。

 アカシアは少年の行動にガッカリしつつ、刺突の態勢を構えた。すると、ナトが投げた石がアカシアのカオのそばを通り過ぎた。

 耳元でざわめいた風切り音。ビューンとも、シューンとも違う鈍みのある音。それが加速をつけて勢い良く通り過ぎた。その鈍い音を鳴り響かせていたモノはドン! と木にぶつかり、グシシシっと幹が折れ、バタンと倒れた。

「マジかよ……、折れやがった」

 二人の戦いを遠目で見ていたブナはナトの投げた石が木を折ったことを目撃していた。

 そして、それはアカシアの耳に、具体性を持つ情報として入ってきた。脳響いた音を理解したのだ。

 ――信じない。

 アカシアは目の前にいる少年がバケモノだと怖気づく。

 ――投石が凶器でない。

 しかし、不埒にチラつく恐怖が、こどもの皮を被った何かだと思い始まる。

 ――少年が投げる石の距離はどれくらいだ? 速さは? 強さは? は? 

 冷静沈着。一点刺殺。串刺公アカシアの由来はそこにある。しかし、今、アカシアの脳裏には持ち前の冷徹さは何処にもなく、戦いで得た経験のみで戦っている。

 ――石を使わせないならば? ならば!

 アカシアはわかっていた。ただ、それが醜聞として広まるのがイヤであり、他の方法で戦いに勝ちたかった。

 ところが、身の危険を感じだすと優先順位を変えたくなるのが人間である。……残されたアカシアにあった答えは、『自身の槍で少年の心臓をエグり取る』ことだった。


 アカシアは止めていた足を動かし、ナトの元へと向かう。そして、寸分の狂いもなくナトの心臓へと自身の槍で差す。

 しかし、ナトはさっと、その槍を回避する。

 すかさず、アカシアは振り向き、少年の心臓に目掛け、槍を突出する。だが、一度目とは違い、狙いのぶれたその槍では心臓はおろか、少年の身体すら捉えることはできずにいた。

 ――平穏しろ! 俺!

 アカシアは一度、地面を踏んづけ、自身の足を痛める。はぁはぁ、と、激しい息づかいの後、ふぅーと深い深呼吸をした。

「おじさん、いきなりは怖いよ」

 ナトの言葉に、アカシアは小さく笑った。

「そうだな、いきなりは怖いよな」

 アカシアは自分の言葉に笑った。

「心臓をこづくんじゃなかったの?」

「どうやら俺もじゃないみたいでな」

 戦いとは頭の中で描いたどおりの模擬戦の延長にある。勿論、実際にやってみないとわからないことは多々あるが、基本、頭の中で収まるものである。それが彼、アカシアが戦いに関する考え方であった。

 しかし、アカシアと今、戦っている目の前の少年は、彼の頭の中にはいないタイプの人間であり、器用に戦えない相手であった。

「やっぱり、だよね」

「ああ、だ」

 二人は走った。

 お互い、この一戦で終わりにするつもりだ。

 

 アカシアは槍を伸ばした。

 槍の穂先はまっすぐ少年の胸に向かった。

 ――狂いはない。――避けられない。

 腕と槍のリーチ差を考えても確実にこれで心臓に入った。

 槍で胸をこづくことはない、……貫かれるのだ。

 アカシアは心の中で勝利の確信を得るのと同時に、ナトに対する謝罪をする。

 ――少年、終わりだ。すまない……。

 穂先が少年の胸に近づく。

 すると、ナトの下唇が動いた。それと同じように左手から何かを取り出した。……岩石だった。


 ブナが最初に放ったスレッジハンマーによって現れた岩の飛沫の一部に、その岩石があった。ナトはその岩石を見て、何かに使えないかな、と、思いながら二人と戦いをしていた。

 そして、今、その岩石でアカシアの攻撃を避ける防具にしたのだ。


 ナトは自分の胸元へと近づく槍の穂先を岩石に当てた。

 岩石は激しくハジけ、穂先の狙いがズレた。

 アカシアの槍は斜め上に伸びてしまい、彼もまた無様に斜めになってしまった。

 ――ガラ空き!

 アカシアは急いで槍を引き戻そうとしたがそれをやめた。アカシアの真横にはナトが立っていたからだ。


「……離れてくれ」

 ナトは言われるがまま、アカシアから距離を取る。アカシアはナトが動いたことを確認すると、槍を手元に戻した。

 槍がまっすぐ天に向くように置くと、アカシアはブナに向かって話しかけた。

「オマエが感じたのはこの距離か?」

 ブナは、そうだ、と頷いた。

「ああ、その距離だ。のがその距離だ」

「俺にもわかる、俺にもな」

 アカシアはブナの言う距離をじっくりと理解した。

「……少年、戦いは終わりだ」

「え?」

 ナトはいきなりの停戦宣言に納得がいかないようだ。

「ボクはまだ距離に入っただけだよ。手合わせもしていない」

「なら、いいこと教えてやろう。お前が入り込んだその距離が俺の距離、つまり――」

「――戦う者にとって一番踏み込まれたくない場所、死角なんだ」

 二人は少年に死角に入られたことで戦うことをやめた。いや、厳密には、死角に入られたのに何もしてこなかった少年に対して、負けを認めたのだ。


「冒険者、いや、人間の戦い方には必ずセオリーがある。戦士は自分の武器で相手をどのように倒すか、まほうつかいなら得意の魔法で相手の弱点を当てるように、戦いには何らかのセオリーが存在する」

 ナトはブナの言葉にうんうんと頷く。

「へえー、そうなんだ」

「少年。キミの戦いにはセオリーがあるが、残念ながら俺にはそれが見えない。」

「そうそう、相手をぶっ倒すのが基本だ。言い方は悪いが、戦いというのは半分殺しあいみたいなものだ。しかし、お前のは人殺しの戦いから大きくズレている」

 ナトはブナの言葉に眉をひそませる。

「心外だな、それ」

「いや、俺は褒めているんだよ」

 アカシアは静かに笑みをこぼす。

「人間から戦意を失わす戦いのセオリー、なんだそれは。本能的に勝ち目がないとうずくのはなぜだ?」

「別段、そんなことを考えて戦っていない。ただ――」

「ただ?」

「――誰しもが持っている入っちゃいけないスペースに立てば、それだけで勝ちだって、父さんは言っていた」

 アカシアは苦笑した。

「本当にそれだけか?」

「そうだよ。そこに立てば、人間は目の前の相手を倒すことを忘れて、自分を守ることに躍起になるって」

 二人はナトの言葉に合点がいった。少年の言葉の通り、二人は戦いの途中から、戦うよりも自分の身を守ることを優先とした。彼が何をしでかすかわからず、自分の身を守ってしまった。

「お前、もったいないと思わないのか? 一発を入れてやろうとする気はないのか?」

 ナトはブナの質問にこめかみの辺りをポリポリしながら答える。

「それはあるけど」

「じゃあ、そうしろよ。殴れよ、蹴り入れろ、それだけで勝てるから」

「うーん」

 ナトは色々と考えたが何も思いつかなかった。

「ゴメン、そういうのは苦手です」

 思いもよらないナトの返事に、二人は笑い出した。

「ホント、いい具合に戦いのセオリーを崩してくれる」

「同感」

「まあ、この辺でいいだろう」

「そうだな」

 アカシアとブナの言葉に、ナトは首をかしげる。

「何が?」

「もうカネの分、働いたからだ。これ以上戦ってもこっちが損するだけだ」

「そうそう」

 アカシアとブナは納得した表情を見せる。一方、ナトは二人のその満足げなカオを理解できずにいた。

「俺ら傭兵はカネで動く。勝ち目ある戦いは最後までやりとおすが、勝機の見えない戦いは適当な所で上がる」

「要するに、損する戦いだと思ったら引き上げるわけだ」

 ナトはアカシアとブナの説明にますます困惑する。

「でも、カネをもらっている以上、最後までやりませんか?」

「誰がやるか」

 ブナはメンドくそうにそう言った。

「戦いは心身共にすりへるモノだ。無意味に疲れる戦いはしたくない」

「絶対、バカにしてますよね!? ボクのこと!」

「バカになんてしていない。キミの戦いのセオリーを見極めるだけの労力がカネと釣り合わないからやめるというだけだ」

「別に俺らは戦ってもいい。ただ、戦ってもお互いが無意味に傷つく。勝つなら勝つ、中途半端になるならやらない。それだけの話だ」

 ナトはブナの言葉にため息をつく。

「それでよく傭兵ができますね」

「まあな、雇い主を戦いから逃すのが傭兵の役割なんだが」

「シーズさんは傭兵を自分のおもちゃみたいに扱っている。俺らのことを単なる便利屋だと見ているようだ」

 ブナとアカシアからそれぞれ不満の声が上がる。

「傭兵の仕事は基本戦いだが、あくまでそれは戦いをするだけで勝利やなんかは興味はない。勿論、勝った方がはくがつくが、自分の命を落とすまでのモノじゃない」

 ブナはアカシアの言葉にうんうんと頷く

「傭兵は雇い主のケンカを代行するわけじゃねぇ」

「ずいぶん、不満がたまっていますね」

「まあ、そういうものだ。冒険パーティーで雇われるってこういうもんだ。お前もあんなヤツの下で働くなよ」

 三人は穏やかに笑った。


 日が暮れた。サイショの街に灯りがついた。

 冒険者ギルドの館にも灯がついた。

 その灯の下、ブナとアカシア、そしてナトがいた。

「さて、行くか。ブナ」

「何かいい言い訳はあるのか?」

「ない」

「アカシア公、こういうときの頭脳係はお前だろう?」

「あいにく俺は頭よりも身体で決めるタイプなんだ」

「だろうな、へへ」

 ブナとアカシアは冒険者ギルドの館へと戻ろうとする。

「待って!」

「なんだ、少年」

「まだやる気か? それならカンベンしてくれ」

 アカシアはまいった、と言わんばかりに頭を抱える。

「いやそれより、あのヒト、ボクを倒してもいないのに、雇ってくれるの?」

 ブナとアカシアは立ち止まると首をかしげた。

「どうだろうな、アカシア公」

「さあ、俺にもわからん。気に入らないモノは消す性格だからな」

「でも、まあ、性格お坊っちゃんだから、なだめれば?」

「そううまくはいかないだろう、転職考えるか」

 ブナとアカシアはガハハハと笑い出す。

「わかった。ボクが二人を雇うよ」

 ブナとアカシアは目をまんまると丸くした。

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