第3話 サイクロプスおじさんとかいうレベルの高いモンスター
ナトはちからのたねを口にする。
ナトのちからは上がった。
「お兄ちゃん、わたしの見ている所でちからのたねを食べてね」
「はいはい」
ナトは返事をし、ラッカと共に山の中を進んでいく。
ナトの自宅は人里離れた山の奥にあった。
ナトにとってこの山は自宅の庭みたいなもので、あらゆる冒険術をここから学んだ。
だからか、ナトの目は著しく動いていた。この山の風景をまぶたの中に閉じ込めようとしているのだろう。
「この山ともお別れなんて少しさびしいな」
「だったら、家に帰ったら?」
「家に帰っても家の手伝いだろう? だったら、自分のしたいことをしたい」
「お兄ちゃんのしたいことって?」
「こことは別の場所、色んな場所に行きたいんだ」
「そんなのお母さんの転移魔法でルラルラと行けない?」
「ルラルラって、すごい擬音語だな……」
「お母さんの転移魔法ならお兄ちゃんが行きたい所へ行けるのに」
「わかっていないな、ラッカ。転移魔法だと脳内マップで村や町が何処にあるかわかるか?」
「う~ん、わからないな」
「だろう? ボク達の脳内マップは真っ白なんだ。白紙なんだ」
「頭空っぽなんだ」
「それは悪口!」
ナトのツッコミに、二人は笑みを浮かべた。
「ハハハ」
「ははは」
「ガハハハ」
山の森を揺れ動くほどの大きな笑い声が響き渡る。
「誰!」
ラッカは賢者の杖を手にし、戦いの準備に入る。
「いや、待て」
ナトは空を見上げる。
一つ目の巨人、サイクロプスと目が合った。
「――サイクロプスおじさん!」
ナトはサイクロプスおじさんに向けて、手を振る。
「おおぅ」
サイクロプスおじさんも同じように手を振った。
「もう、おじさん、わたし達の話に聞き耳立てて……」
「いや、盗み聞きするつもりはなかったんだよ。いや、ホント」
「まったく……」
「そんなに怒るなよ、ラッカ。それより、サイクロプスおじさんはどうしてここにいるの?」
「ここにいるのって、ここはワシの生活圏なんだが」
「生活剣? 何かの剣術?」
「ラッカちゃん、モンスターには生息地があってな、その範囲内で生活しないといけない決まりがある」
「どうして?」
「例えば、キミの家にモンスターがやってきたらどうする?」
「友だちになる」
「うーん……」
「ラッカ、オマエのベッドの中にそいつが入ってきたら?」
「物言えないおもちゃにする」
「……ラッカちゃん。モンスターがそんなことしたら身を守るために攻撃するだろう? モンスターも別のモンスターが自分の縄張りの中に入ってたら攻撃するんだ」
「そうなんだ。じゃあ、ここがサイクロプスおじさんのベッドなんだ?」
「いや、そういうことじゃないんだけど」
「モンスターは自分の縄張りに入ったモンスターや人間に対して戦闘を仕掛ける性質を持っている。相手は自分の安全をおびやかす敵だと認識するから」
「へぇ~。さすが、お兄ちゃん。よく知っている~」
「父さんの冒険知識だよ」
「なんだ~。でも、わたし、山の中で歩く回っているけど、一度もケンカとかふっかけられたことないけど」
「キミ達の両親とは戦いたくないからね。そういえば、二人はこれから何処に行くんだ?」
「これからボク達、旅に出ます」
「両親とケンカでもしたかいの? おじさんは力になれないかもしれないけど、二人の味方になってあげるよ」
「ちがいます。ボクは冒険者として旅に出るんです」
「ほぅ」
「わたしはお兄ちゃんの付き添いで一緒に冒険します」
「そうか。さびしくなるな。まあ、二人ならできるかな」
「そんなに過信しないでくださいよ。強敵とか出会ったらうまく戦えるか不安です」
「いや、大丈夫だろう。おじさんが稽古を付けたときも、キミのお父さん直伝の冒険術にやられてしまったからね」
「ま~た。サイクロプスおじさんはそんなウソばかりなんだから」
「ウソってなんだよ、ラッカ」
「だって、ちからのたねを999コ食べないといけないんでしょう? 普通の冒険者ならそんなに必要ないし」
「ボクだって食べたくないよ! でも、エリクサー病だから食べないと」
「エリクサー病とは聞いたことないが、よほど深刻な病にかかっているようだね。……そうか、その病気を治すための旅なんだね」
なんか、サイクロプスおじさんはちょっとズレて理解しているぞと、ナトは思いつつも、「はい、そうです」と、返事をした。
「よし、ワシが力になってやろう」
サイクロプスおじさんは木の幹をつかみ取れるぐらいの大きい両手で二人をつかんだ。
「おおお」
「おおお」
二人は目を丸くして驚いていると、二人はサイクロプスおじさんのそれぞれの肩の上にちょこんと座った。
「ひさしぶりに見るな、この景色」
「こどものころ、ここから世界を見ていたからね」
サイクロプスおじさんの肩から見る世界の色は緑だった。
緑の草原がさらさらと、川は緩やかに流れる。
二人はしばらく鮮やかな景色と古ぼけた思い出を重ね、少し笑顔になった。
「二人はこの山から降りたら何処に行くんだい?」
「考えていなかった」
「うん、わたしも」
「じゃあ、ここから世界をじっくりと見るがいい。きっと、キミ達が行く世界が見えるはずだ」
サイクロプスおじさんの言われるがまま、二人は目を見開き、周囲を見渡す。
すると、草原の向こう側には豆粒ぐらいの町が見えた。
「あそこに町があるよ」
「そうだね! あそこに行こう!」
「行き先も決まったようだね。じゃあ、山のふもとまで連れて行ってあげよう」
そういうとサイクロプスおじさんは走り出し、山を降りていく。
ナトとラッカの二人はサイクロプスおじさんの首にしがみつき、肩の上から落ちないように身体を支える。
「お兄ちゃん! すごく揺れるね!」
「サイクロプスおじさん、少しスピード落として!」
「ガハハハハ」
「ダメ! おじさん、話聞いていない!」
「ほれ、二人共! こっちが近道だぞ!」
サイクロプスおじさんは崖からはみ出たデッパリを足場にしながら、軽快に山を下る。
「これ! 近道じゃないよ!!」
「落ちている! 落ちてるよ!!」
「ガハハハ」
サイクロプスおじさんはラッカとナトの声を無視し、楽しげに山の中を走り抜けた。
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