第2話 まほうつかいの妹とかいうヒロインの女のコ
冒険者ナトが苦しみながらちからのたねを食べていると、自宅の奥の部屋から女のコがやってきた。
まほうつかいの少女ラッカ。14才。ナトの妹である。
「お兄ちゃん、もう冒険に出かけてたんじゃないの?」
「ラッカ。実は――」
「お兄ちゃんは病気にかかったから治療中なの」
「母さん、ボクは病気じゃないし」
「病気!? それってものすごくヤバい?」
「ヤバいというか性格的なもの。というか、半笑いで言うなよ、ラッカ」
ナトは頭を抱えつつ、テーブルの上にあるちからのたねを口に入れていく。
「ママ、こんだけ、ちからのたねを食べたら別に意味で病気にならない?」
「だいじょうぶよ、ラッカちゃん。ドーピングアイテムで身体を悪くした冒険者は居ないはずよ」
多分、ボクが始めて体調を崩した冒険者になると、ナトは思った。
「実は、兄さんはエリクサー病でね、仲間の命よりもアイテムをケチるカワイソウなコになったの」
「お兄ちゃん、最低」
「ボクだって回復アイテムの使い方ぐらいわかってるって」
「敵からダメージ受けたらどうする? お兄ちゃん」
「瀕死になるまで攻撃」
「ね、ヒドイでしょう、ラッカちゃん」
「うんママ。これ、脳筋かも」
「脳筋じゃないって、それよりもう冒険に出てもいい? 母さん」
「残り45コ食べてから」
「きっちり数えてる母さんがすごいよ……」
ナトは再びちからのたねを口にし、じっくりと
「そうだ! ママ、わたしも冒険に出ていい?」
「え? ラッカが?」
「お兄ちゃんはもう食べるのに飽きてるから、冒険の旅をしながらたねを食べた方が効率良くない?」
「そうね……」
「ちからのたねを完食できるようにわたしが見張ってあげるから」
「あのな、ラッカ。いくら家の中にいるのがヒマだからって、ボクと一緒に冒険に出かけるなんて母さんが許すはずが――」
「いいわよ」
「母さん!?」
「ラッカだっていい年でお母さんがうらやむぐらいの美少女と思うし、稼ぎのいいお婿さんは早いとこ見つけて欲しいし」
「冒険は婚活じゃないって……」
「父さんもそう思うでしょう?」
「うーん、ラッカ」
「なにー」
「体力減ったら」
「
「毒を受けたら」
「
「仲間が死んだら」
「
「よし行って来い!」
「わ~い」
「わーいじゃない!! 全然解決策になってじゃない!」
「お兄ちゃん。わたしが得意なのは攻撃魔法だよ」
「余計まずいだろう。余計!」
「お兄ちゃん、パーティーのひとりにまほうつかいがいた方がいいと思わない?」
「そりゃそうだけど」
「わたしは攻撃役、補助役、回復役なんでもできるよ」
「なんでそこまで魔法を覚えているんだよ!」
「私がしっかり教え込みました」
ナトの母親はピースサインをする。
「教えて込まれました」
ラッカも同じようにピースサインをした。
「はぁ……、まあ、いつも母さんから魔法の指導をしてもらっていたから知っていたけど」
「ふつつかな妹ですがよろしくお願いします」
「なんかおかしいあいさつだな」
「いいじゃない。お兄ちゃんの冒険を効率的にしてあげるから」
「はぁ~、わかったよ」
ナトは諦め半分で妹のラッカと一緒に冒険の旅に出ることになった。
ナトとラッカは自宅の前に出て、両親と別れのあいさつをする。
「ラッカ、あなたに渡せるものは何もないけど、これを上げるわ」
ナトの母親はラッカに杖のようなものを渡す。
「これは?」
「私が現役の時に使っていた賢者の杖と呼ばれるものよ」
「へぇー」
「魔王に会う手前で拾った貴重な武器だから大事にしなさい」
「はーい」
「――ちょっと待った、母さん」
「何よ、ナト。ラッカともう二度と会えないかもしれないのに」
「いや、まず、魔王に会ったことがあることを聞きたいし、最強クラスの武器をまだ冒険をしたことない娘に渡していいの?」
「ナト……。親はね、バカなの。こどもには幸せになって欲しいから自分の最強武器を惜しげもなくあげちゃいたいくらいに親バカなの」
「息子のために、ちからのたねを999コ渡した時点で十分バカなのは知っています。というか、賢者の杖を娘に渡すのなら、ボクにもそれと同じぐらいの武器もくれてもいいでしょう?」
「それもそうね……、お父さん、ナトにも最強武器あげたら?」
「うん……」
「父さん? だいじょうぶ? 腹をくだしたようなカオをして」
「ナト。すまないが渡せない」
「え? どうして?」
「邪竜を封印するために使ったんだ」
「……マジで?」
「マジ」
「邪竜封印ってなんだよ。というか邪竜と戦ったことあるの? いや、二人は魔王と邪竜と戦った経験があるの!?」
「オレは魔王と戦うことができなかったぞ」
「私だって邪竜と会ってみたかった」
「オレが戦った邪竜は呪いの毒霧を吐いてきてな、それを避けようとしたらマントが溶けてな――」
「私が戦った魔王は魔法結界を張ってきて、魔法を無力化して、いきなりピンチになったんだけど――」
……ボクはどんな家族の下で生まれてきたのだろうかと、不安に思うナトであった。
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