第37話 心の冒険者とかいうパワーワード

 

 ラッカは冒険者ギルドの館に破けた壁の前に立ち、詠唱を行う。

『あらゆる力を跳ね返す石壁よ。我の眼前に立て』

 ラッカの目の前に石壁が生まれる。

 冒険者ギルドの館に簡易ではあるが、壁ができあがった。

「これでよし」

 ラッカはそういうと、冒険者ギルドの館で片付けをするナトに駆け寄った。

「終わったよ」

「こっちもだいたい終わったよ」

 ナトはそう返事し、アダン達に頭を下げた。

「すいません。皆さんまで掃除に付き合わして」

「気にするな。こっちが好きでしたことだ」

 アダンはそうぶっきらぼうに言う。

「ええでええで。床に落ちてた粗悪品も、磨けばカネになるからな」

 ビロウは現金なことを口にする。

「オーナーはん。この武器で儲けた分、館の修繕費で当ててええかな」

「それはいいけど、……儲けられるの?」

「そやで」

「呆れた。まあ、お金にしてくれるのならそれはそれで助かるからいいけど」

「毎度おおきに」

 ビロウはオーナーにそういうと武器を袋の中に詰めた。 

「ナトよ、これからどうする気じゃ?」

 ナトはアコウの質問に応える。

「……誰でもいいのでパーティーに入れてくれませんか?」

 ナトの言葉に誰も返事しない。

「……なんで黙っているんですか?」

「いや、そのな、うん……」

 アダンは視線をそらし、言葉を選ぶ。

「ニイチャン。考えて欲しいんや。冒険者協会の関係者を倒したんやで。そんなニイチャンを仲間にしたら協会がどう思うか……」

「……はぁ」

 ナトは小さくため息をつく。

「ナトよ。ワシらはお主を仲間としてパーティーを組むことができないが、協力することはできる。今日のところはそれで納得してくれないか」

「わかりましたよ……」

 ナトはやりきれない表情を浮かべ、そう妥協した。

 

「もう夜も深くなったし、俺は帰るわ。パーティーの奴らも宿屋にいるからな。ナト、今度会うときまで腕鍛えておけよ!  じゃあな!」

 アダンはそういって別れを告げる。

「ワイもこのへんで帰るわ。ええもんようけ拾えたからな。あ、カネくれとかナシな。この館を弁償するのワイやからな。――ほな、さいならー」

 ビロウは武器がパンパンになった袋を担いで、冒険者ギルドの館から出た。

「ワシも帰ることにするか。いつか合成術を解くための古代文明の遺物を探し当てるまで旅を続ける。それがワシができる唯一の罪の償いじゃからな」

 アコウはそう言いながらナトに手を振り、この場から立ち去った。

「ナト、今度はマジで戦おう」

「断るなよ」

 ブナとアカシアはそう言い残し、ここから去っていた。

「さて、ナト君。色々あったけど、今日のことは不問にすることにしたわ。多分、あなたは冒険者協会のお偉いさんから声をかけられると思うから。きっと、相手はあなたをたぶらかす言葉で誘って、あなたを利用する。そのとき、あなたはこの世界にある人間の悪意と向き合うことになる。――でも、あなたは一人じゃない。心強い協力者がいるわ。ここはそういう心の冒険者も集まる冒険者ギルドの館だからね。もちろん、ワタシもね。――さあ、今日はもう遅いから早く寝なさい。お姉さんとのやくそくよ」

 オーナーとの話をした後、ナトとラッカは冒険者ギルドの館から出ていった。


「お兄ちゃん、何処に行くの? 宿屋?」

「家に帰る、魔法お願い」

「わかった」

 ラッカは転移魔法を唱え、二人は自宅へと戻っていた。


 二人は自宅の玄関を開く。

「「ただいま」」

 いきなり帰ってきた二人に、紅茶を飲んでいたナトの父親は驚く。

「もう帰ってきたのか! オマエたち」

「宿屋代、浮かせたいからね」

「ホント、コイツは」

 ナトの父親は苦笑する。

「夕飯、クリームシチャーしかないけどそれでいい?」

 ナトの母親は二人に尋ねる。

「いいよ」

「うん」

 二人はそう返事し、テーブルについた。

「で、どうだった? ナト。オマエが望む冒険はできたか」

「全然できなかった。冒険者ギルドに行ったんだけど、なかなかパーティーに入れてもらえなくて」

「だろう。だから俺はオマエにちからのたねを渡したんだ。、と、アピールするためにな」

「そういうことで渡したの?」

「ああ、そうだが」

 ナトは途端に無口になる。

「まさか、オマエ。俺の言葉を本気にして、自分一人で食べたとかないよな」

「……うん」

「あのな! 一人で食っても食いきれない量だぞ! あれ! まったく!! どれだけ食べたんだ!」

「えっと、その……」

「100コ」

 ラッカはそう言った。

「100コ!? そんなに食ったのか!!」

「えっと、うーんとその……」

「そんなに食う必要があるのか! どんな強敵と戦うつもりで食べたんだ! おい!」

「1コ、ポケットにあるから、食べたのは99コ!」

「どっちも同じだ!!」

 ナトの父親はナトにそう言った。

「あらあら、なんだか楽しそうね」

 ナトの母親はナトとラッカの前に、パンとクリームシチューを置いた。

「おいしそう!」

 ラッカはいち早くパンをちぎって、クリームシチャーにつけた。

「おいしい!」

 ラッカはほっぺを触りながら恍惚こうこつな笑顔を浮かべた。

「あらあら、いやらしい」

 ナトの母親はやさしく言った。

「まったく、ラッカは」

 ナトはそう言いながらテーブルにあったポットからコップに紅茶を淹れると、それを口にする。

「あれ? ナト? ミルクは? いつもなら入れるのに?」

 ナトの母親は普段しないナトの行動にそう指摘する。

「今はこう飲みたいんだ」

 ナトはそう返事すると紅茶を飲む。

 冷めた紅茶は舌の上に転がり、甘さのないその味は口の中で広がっていた。


 夕食を食べ終えた二人は寝間着に着替え、ベッドの中へと入った。

「つかれたね、今日は」

「ああ、つかれた」

 ランプの火を消し、就寝する。

 しかし、目が冴えて、なかなか眠りつけない。

「眠れないね」

「眠れないな」

 二人はそう言った。

「誕生日おめでとう、お兄ちゃん」

「いきなりなに?」

「言いたかっただけ!」

「……はいはい」

 ナトはそう返事し、天井を見る。

「ホント、色々ありすぎて、一生分の冒険した気がするよ」

「でも、わたしたち、冒険者ギルドに行っただけだよ」

「あ」

「全然冒険してないよね? お兄ちゃん」

 ラッカはそう笑いかけると、ナトは小さく笑った。

「――心の冒険はしたよ」

 

 第一章 深刻なエリクサー病の両親からもらった「ちからのたね」999コで冒険するとかいうパワーワード 完

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心の冒険者とかいうパワーワード 羽根守 @haneguardian

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