第32話
無垢な少年を悪者に仕立て上げて、人格攻撃をしても自分は悪いことをしていないと振る舞う冒険者シーズ。自覚がないのか、ホントに悪いと思っていないのか。もし後者であれば、それは無敵の人格を持った存在である。
吐き気を催したくなるほどの人間性を所有する青年がナトに詰め寄る。
「この場で一番偉いやつが場を収束させる。平和的解決方法って、そういうの。この中で一番ランクの高いヤツと言えば、僕。――僕が平和的解決方法を受け取らないということは、これはもう戦争。どちらかがぶちのめされるまで、戦いは終わらない」
「ボクは戦う気はありません」
「あるんだよ! 僕には! 欲しいんだ、ラッカ君と宝神具が!」
「だからもうやめてください。あなたのウソはバレた。周りの冒険者たちも怒っている」
「だから?」
シーズは周りのことなど関係ないと吐き捨てる。
「ナト君、いや、みんなさ、僕はこの冒険者ギルドの館にいる誰よりもハイスペックなんだよ。レベルマックス! 能力カンスト! 神の声が聞こえる魔法無効の冒険者! そんな自分の育成を味わい尽くした僕にさ、必要なのはただ一つ、英雄という地位だけだ」
「冒険も満足にしていないあなたが英雄になんて認められるわけが――」
「冒険なんてこの世には存在しない」
シーズは寂しそうにそう言った。
「この世界はすべて
「いや、新大陸はある。そう、今日の昼、竜に乗ったお姉さんが新大陸はあるって」
「そんなの冒険者協会が言ったデマカセだよ。世間にまだ冒険者協会が必要であることを信じさせるためのね」
「え」
「冒険者協会は単なる利害調整組織だよ。魔王を倒してから、多くの冒険者が失業しないように、国や街から依頼をもらい受ける組織だ。例えば、キミは転移魔法を知っているかな」
「聞いたことはある」
「なんか使ったあることっぽい。普通のまほうつかいでも使えるはずないんだけど。まあ、その転移魔法、商人ギルドが規制を掛けたんだよね」
ナトは商人ビロウと目を合わせる。
「ホンマや。貿易で飯食う商人が多かったからな。転移魔法が一般的に使われるようになったらワイらはおまんま食い上げ。せやから、転移魔法をランクS冒険者以上にしか伝授されてない」
「そうそう。そして、戦士ギルドは自分たちの仕事を失わないように、迷宮にある魔物の巣をすべて駆逐していない」
戦士アダンはシーズの言葉に首を左右に振る。
「魔物は自然の一部になっている。だから魔物の巣をすべて駆逐したら生態系に異常が出てくる」
「それ、確証あるの?」
「確証は……ない」
アダンは視線を落とす。
「そういうこと。戦士ギルドとか商人ギルドとかも、あらゆるギルドは冒険者協会に対抗するために存在する圧力団体、つまり、ロビー活動をメインとする組織なんだよ。まさか、スキルとかそういうのをもらえるとか思った? もうね、そういう魔王を倒すための技能は必要なくなった。お役ごめんになったんだ」
「でも、冒険……、世界を知るための旅はある」
「ナト君、気づいてよ。冒険はもうとっくの昔に役目を終わっていた。魔王が倒されて邪竜を封印したとき、この世界における冒険なんてものは失ったんだ」
シーズはそういうと気分よく笑顔を見せた。
「――冒険をなくした冒険者が求めるものは“英雄”という意味よくわかったよね? 退屈なんだよ、平和は。僕らがどんなに冒険をしたくても、世界はもうすでに先人に荒らされている。僕らはその先人の残りカスで生活するしかないんだ」
ナトは不満げなカオを浮かべる。シーズはそんな不満げなカオを納得させるように言葉を足す。
「僕が“英雄”を強く求めるのは至極普通のこと。名誉欲でもなんでもない。それしか目的がない。それしか目指す理由がない。冒険者協会はみんなに財と仕事を分配するだけではい終わり。それがこの世界における冒険は利益獲得手段の一つに過ぎない」
シーズは高笑いする。言いたいことを言い終えたようだ。
「さて、ナト君。わかったら、僕を英雄にさせてよ。キミにもそれなりのポジションをあげるよ。世界の半分なんて与えることできないけど、世界にキミの名前を広げるぐらいはしてあげるよ。なんたって、キミは宝神具を目覚めさせたもう一つの鍵穴だったんだからさ! 感謝ぐらいしてあげないとね!」
「シーズ」
「怒っている? あ、男のコだからカギの方が良かったかな?」
「ボクはあなたを英雄にさせたくない」
「キミさ、わかってないのかな。キミこそピンチなんだよ。バルムンクはここにはない。つまり、キミはボクに傷一つ付けることもできない」
「ボクはあなたを英雄にさせたくない!」
「ホントわかっていないな。ああいいよ、相手になっていいよ。でも、ナト君。キミ、勝ち目あるの?」
「勝ち目?」
「決定打だよ。あって言ったんだろう?」
ナトの口から言葉が止まる。
「やっぱり駆け引きが下手だね、キミは。すべての策を見破ったと思い込んで、つい口に出しちゃう。普通さ、それを黙りながら、カードをチラ見せしながら、僕はわかっているよと相手の弱い所をつくのがかしこいやり方だろう?」
「あれが最良の手だった。巻き返しはあそこが一番だった」
「キミは黙って僕の意見を丸呑みにして戦いを切り上げるべきだった。ラッカ君を僕にくれたら、すべて丸く収まっていた」
「ボクのプライドを傷つけられたまま終わるものか」
「……終わってよ。パンくずのくずにもならないチンケなクズが」
二人の緊張がピークに達した。
「ナト君、戦いの終わらせ方について熱く語っていたけど、キミの言うとおり、大勝しかないみたいだ」
シーズがそう言うと、ナトは戦いの構えを取る。
「ナトくん、大変! ラッカちゃんが――」
唐突に、踊りコのマングローブの声が聞こえ、ナトはそっちを見てしまう。
「――はい、残念」
ナトと視線が合うと、ナトの構えが崩れ、マングローブと同じような格好を取る。
「わかっているじゃない、マングローブ。僕のために、さそうおどりをしてくれるなんて」
シーズは動きを封じられたナトの顔面をつかみとり、壁際まで押し込む。
「クッ!」
壁にぶつかったナトは肺から声を出した。
「忘れていないよね、キミが僕に腹パンしたの。だったら、僕もお返しないとおあいこにならないよね?」
シーズはずっとポケットの中に入れていた片手を出す。
「壁ドン腹パン! しっかりドンと味わえよ!」
シーズはナトの腹から臓物を取り出すように、強烈なパンチを放つ。
すると、ナトはとてもイヤらしい表情を浮かべると、さっと、そのパンチを避けた。
力が加わった行き場のないシーズの腕は壁をぶち壊し、その中へと入り込む。
それは彼を動けなくせるトラバサミのような罠であった。
マヌケに腕が壁に飲まれたシーズは頬をみにくいまでに歪ませる。
「……いつからだ」
「何が?」
「いつから、いつから、いつから! 簡単に逃げられた!?」
「とっくの昔にだよ」
「マングローブと視線が合えば、その動きは封じられる。その視線はそれることなんてできない! 現に、キミは壁にぶつかったときも、ずっと!」
「エッチィマングローブ姉さんを見たかった。ボクも一応健全な男のコだから」
「ナト!!」
ナトの挑発に立腹するが、壁にめりこんだ腕はなかなか出せない。
「ほら、見てよ」
ナトが目でマングローブを見るように示唆する。シーズはその目線を追うと、そこには自分の両腕をさするマングローブの姿があった。
「なにがあった! マングローブ!」
「やけどが、手にやけどが」
必死に両腕をふぅーふぅーと息を吹きかける。
「ラッカの罠に引っ掛かったんだ。マングローブさんはあなたが背にしたとき、ちょうど踊るのをやめていたんだよ」
ラッカがした小さな約束を思い出す。腕に施された魔法の印、あれはラッカが仕掛けた罠だっと今更に気づく。
「お兄ちゃん。詠唱、間に合った!」
ラッカはナトに呼びかける。
「ありがとう!」
「傭兵二人も無事だよ!」
「……よかった」
「よくないよ」
シーズは二人の会話に割り込むように、そう言った。
「……マングローブ」
シーズは静かに怒気の込めた声でカノジョの名前を呼ぶ。すると、マングローブは怯えながら後ろに下がる。
「ワタシ、アナタのためにちゃんとやった! アナタがこれ一番だと思う方法をしただけ!」
「そうだね。こういうこともあるよね」
「そうでしょう? ねっ? ねっ? だからワタシは――」
「何もするな、調子が崩れる」
「え」
「役立たずとか使えないとか思っていない。でも、つまらないことで足引っ張ったら同じこと。パーティーの入れ替えも考えないとな」
マングローブは彼の元から離れ、壁際でポツンと
「つまらないミスが命取りなのはよくわかった」
シーズは壁にハマった腕を引っ張り出し、自由となる。
「その腕……」
「何?」
シーズはナトが突然気配りしたことに疑問を投げかける。
「その腕のケガ、……絶対ヤバいケガだよね」
「おかしなことを言うね、キミ」
「いやだから、そのケガは普通の――」
「そりゃ壁に拳をぶつけたら、ケガの一つや二つぐらいするさ」
そういうとシーズは壁にドンとパンチした腕をポケットの中に隠す。
「余裕だよ。ホント余裕。なんたって、僕は神の声が聞こえる英雄なんだからさ」
「そういう盛った設定、余計自分を苦しめる」
「設定なんかじゃない。冒険者協会はちゃんと僕に神の声について説明してくれた。頭によぎる声は神からのギフト。……病気でも何でもない。現に僕はその声が聞こえたおかげで能力カンストのレベルマックスになったのだからね」
「じゃあ、本気見せてよ。あなたの本気を――」
ナトがそう挑発した瞬間、シーズはナトの懐に入り、掌底を腹に食らわせる。しかし、ナトはその掌底を受け流す。
「……見えなかった。まったく見えなかった」
ナトはグッと足を踏ん張りながらそう言った。
「本能で攻撃を交わしたか。でも、これでわかったよね。実のところ、キミは初めから行き詰まりだったって」
ナトは何も言い返せない。彼の頭はまっしろになっていた。
「ナト君、最後の警告だ。ラッカ君を渡せ、さもないとキミは死ぬ」
ナトは後ろに下がり、ラッカにささやくように小声で言う。
「……時間を稼ぐ。転移魔法で逃げろ」
「お兄ちゃんも早く」
「僕は逃げる。逃げる中で宝神具バルムンクを探す。そうすれば、勝つ可能性は……」
「あるわけないよ。可能性なんて」
シーズはナトの真正面に現れ、蹴りを放つ。ナトはシーズの蹴りを防御しつつ、その威力を借りてバックステップを踏む。
「能力値カンストは伊達じゃないだろう?」
「そうだね」
「あと、何ターン持つかな。いや、順番が回ってくるかな?」
「回ってくるよ。必ず」
「防御一択で?」
ナトは何も言わない。
「駆け引き上手なキミならわかっていたはずだよ。最高に切り上げるべきタイミングはさっきだったって――」
シーズの言葉をさえぎるように、ナトは口を開ける。
「――何、焦っているの」
「焦ってる?」
「そう焦っている。絶対焦ってる」
「ナト君、下手な駆け引きはいけないな。もっとうまくやろうよ――」
「なんで腕を出さないの? こういう全力出してやりたいときに限って」
ポケットの中にあるシーズの片手が無意識に動いた。
「僕の“気づき”に怖がっているんでしょう? その“気づき”が、この冒険者ギルドの館にいるみんなに伝わることを怯えてるんでしょう?」
シーズの片手はまたも動いた。
「神の声の正体はその腕に関係している?」
ナトの追及に、シーズは動き出した。
「ナト君!」
シーズは大きく振り上げた片手でナトの頭を粉砕しようと振り下ろす。
勢い良く降ろされるシーズの手刀はナトの両手につかまると、ナトの肩が支点となり、シーズの身体が投げ出される。
「一本背負い――格闘術の投げ技の一つ」
空に飛んだシーズは床に叩きつけられようとする。しかし、シーズは無意識に受け身を取った。
「ナト君。気持ちいい投げ方だ。でも、ダメージはないね」
シーズはつまらないと言わんばかりに立ち上がろうとする。
「一本背負いって花形に見えるけど、思ったよりもダメージはないし、あまり戦いに使えるものじゃない。でも、身体が動く冒険者なら、地面にぶつかるダメージを軽減しようと受け身を取る」
ナトはポケットから出てきた片手に視線を送る。
「そう、腕を出して普通に受け身を取るよね?」
ナトの狙い、それはずっとシーズが隠してきた片手をポケットから出すこと。そしてその狙いどおり、シーズは自分の手をポケットから出し、受け身を取ってしまった。
「キャァ!」
「なんだ! あれは!」
「マジか……」
冒険者の間で悲鳴が上がっていく。
無理もない。彼らがそう声を出すのも不思議ではない。
「シーズさん、やっぱりその腕――」
ナトの記憶と視線の先にあるモノが一致する。
「――割れているね」
ナトの言葉どおり、シーズの片腕はガラス割れのようなヒビが入っていた。
「やっぱり効いていたみたいだ。ボクの一撃、食事用のナイフで投てきしたその一撃はちゃんと効いていた。――だけど、一つ考え違いしていた。彼の身体が鉄だったことを読みきれなかった」
ナトはシーズとの戦いの中、彼の身体は鉄のような硬みだと気づいていた。ただそれは鍛え上げた筋肉が作り上げたものだと思っていた。……ナトは彼が人間だと信じていたからだ。
しかし、ひび割れの腕を見た冒険者達は彼をそうは思わない。
「割れているぞ。あんな人間いるのか?」
「血の流れ? いや、血ならポケットの中は血だらけになるはず」
「まさか……あいつ……人間じゃ……」
シーズはその言葉にいち早く反応する。
「うるさい」
「いや、シーズ! 人間だったらそんな腕のケガなんてするわけが……」
「黙れって言うのがわからないのか!!」
今までに見せたことない鬼の形相に、冒険者は次々と口を閉じる。けれども、それが、彼の見せた腕のキズは彼が人間であるのかという不信をもたらすこととなる。
「すまなかったね。ナト君」
いきなり謝りだしたシーズの行動に、ナトは困惑する。
「ナト君。こんなことを言うのも恥ずかしいんだけど、僕はね、天使なんだよ」
ナトは軽口を言うべきか言わないべきかと迷う中、シーズは彼の反応を待たずに話を続ける。
「神の声が聞こえるのは天使。そう僕は
シーズはそう自分のことを説明すると、にっこと笑った。
「さあ、ナト君。これでスッキリしただろう? 腕にヒビ入ったのはキミとの戦いで傷ついたもの。僕はこれを見せるのが恥ずかしかったから隠していた。それだけだよ」
「……違う」
「違う?」
「あなたが冒険者協会からもらったのは天使の力じゃない――」
「問答はいらない。もう僕は戦わないと口にしたんだ。ラッカ君のことは今日のところは諦めよう。だから、ここで戦いは終わりにしよう」
「ここで戦いをやめたら、きっと、ボクもあなたも不幸になる」
「なんで、そんなこと言うのかな?」
「真実」
「真実?」
「冒険者協会があなたにしたこと」
「僕にチートをくれたことかい」
「違う! あなたは冒険者協会にムチャクチャにされたこと!」
「よしてほしいな。僕は冒険者協会には感謝している。神の声が聞こえた僕に色々と力をくれて、宝神具まで与えてくれた。そして、僕は冒険者協会に色々と貢献して、英雄まであと一歩のところまで来た」
「あなただって、冒険者協会がおかしいと思っているでしょう?」
「おかしい? 何処が?」
「何か実験されたとか、何かいじくられたとか!」
「ホントに怒るよ、ナト君。ヒトのキズを見て、そういう発想するのはとても良くない」
「もし、あなたが神の力を得た存在なら、ボクはそれを受け入れる。でも、それはきっと違う。だって、あなたはボクとの戦い中でもずっとその腕のキズを隠そうとしていた」
シーズは自然とひび割れの腕をつかむ。
「あなただって気づいている。冒険者協会が自分に何をされたのか。でも、それを考えてしまったら、自分の存在が失うことに怖がっている」
「僕は怖がっていない!」
「あなたは誰かに与えられた自分でいいのか!」
「僕は誰にも与えられていない。僕に何かを与えた存在が居るのなら神! 才能だけ! 冒険者協会は僕に環境を用意してくれただけだ!」
シーズは信じている。冒険者協会が自分のすべてだと信じている。
ナトは、彼のことを知れば知るほど、少しずつ悲しくなる自分に気づいてきた。
「――ナト君、読めてきた。キミも僕と同じ見えない戦いを仕掛けているんだ」
「ネジ曲がった考えはやめろ」
「じゃあ、認めろ! 僕は英雄だと! 僕を英雄にしろ! キミならそれを与えることができるだろう! それで僕の苦しみは解放できる! 神の声の正体に決着つけられるんだ!」
ナトは彼の心に触れるたびに、自分の心が締め付けられる気がしていた。
――自分の身体の秘密を社会に適応させおうとする。自分が普通の人間だと正当化できる理由を求めている。
彼の心が求めるモノの正体を追いかければ追いかけるほど、ナトが気づくのは心を持っていかれそうになる寂しさだであった。
「ナトよ。こやつの言うとおりにしろ」
まほうつかいアコウがナトのそばで話しかけてきた。
「浮遊陣の巻物はそこに転がっている。早く回収してくれないか?」
「あとでやるわ。でもその前に、ナトに話をしてやらんとな」
アコウはシーズにそう言うと、再び、ナトと話を交わす。
「こやつと戦っても勝ち目などない。それどころか、こやつのチート過ぎる力の存在に自分の無力さを感じだけじゃ」
ナトは無力という言葉に少し頷く。
「
「ほぅ、わかっているじゃないか」
シーズはアコウのアシストに喜ぶ。
「一応、この館の年長者じゃからな。一番上の人間に逆らうことはどうなるかぐらいはよくわかっているつもりじゃ」
アコウはそう返事し、再度ナトの説得を試みる。
「ナトよ。お主が持っているものをすべてこやつに寄進してくれないか?」
「すべてを受け渡せってこと」
「そうじゃ」
「そんなことできない!」
「するのじゃ。それが戦う者の責務というものじゃ。現に、お主はこやつに勝ち目がないではないか。そんなので戦いに挑むなど自殺行為。ならば、生き残るために、あらゆるものを手放した方がよいではないか」
「……ボクはまだ負けてはいない。道具にしただけで、認めてはいない」
「仕方がないのぅ。ならば、シーズに冒険者協会からもらった力の証明をしてやろう」
「力の証明?」
「そうじゃ、神の声の正体ってヤツをな」
アコウはシーズの視線を向ける。
「シーズよ。ワシの魔法を受け入れよ。浮遊陣で空を飛んだように、心で魔法を受け入れることだ」
「いいよ。それで僕が神の力を持っていることのホントの証明になるのなら」
シーズは快く了承し、目を閉じ、両手を広げる。魔法を受け入れる態勢だ。
アコウはシーズの下へ向かう前に、ナトの耳元でささやいた。
「……ナトよ、熱くなるでないぞ」
それはアコウがこれからすることの覚悟をナトに知らせるメッセージであった。
アコウはシーズの腹に手を置く。
「魔王が送り込んだ魔物の中には人間と似た姿カタチを持った者がいた。そいつを識別するには大変苦労したわ。そこで編み出されたのが“識別魔法”と呼ばれる鑑別方法じゃった。簡単に言えば、この魔法で青光れば人間、赤く光れば魔物、緑に光ればアイテムというモノじゃな」
「神の色は」
「何色じゃろうな」
「もったいぶるなよ。わかってるくせに」
「さあのぅ。これでも歳だからの」
アコウは詠唱を行う。
「我に示せ、眼前の者の正体を」
アコウの手のひらから光が放たれ、シーズの身体を包み込んだ。
「ハハハ」
アコウは笑った。
「ハハハハハ」
相手をだましてやったわと言わんばかりに笑いに笑う。
「何がおかしい? 何――」
シーズは信じていた。天使の色が白か、はたまた無色透明か。それとも、身体が鉄だから緑じゃないかと、気持ちに保険を掛けていた。
だが、そうじゃなかった。彼の身体は淡く光るルビーの光沢、身体の中心はわずかに黒紫がよぎるだけだ。
識別魔法が示したのは赤。すなわち、魔物。
「ハハハハハハハハハハハ」
アコウは笑った。腹から、してやったり、と、笑ってやった。
「
第32話 神の声とかいうオールドメイド
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