第21話 ダンジョン攻略の思考術とかいう冒険家の武器
シーズは宝神具バルムンクの異能力、“約束”を使い、勝利一歩手前まで来た。
しかし、ナトは機転を利かし、その異能力を逆手に取り、シーズの攻撃を制限させた。それどころか、場の空気を自分のモノにし、一方的な攻撃を仕掛けた。
ところが、ナトはシーズからの攻撃を食らい、異能力を解除させ、勝負は五分に戻った。いや、体力の消費分、ナトが劣勢か。
「もういいんじゃない? 飽きてきたでしょ」
ナトは息を整えながらシーズに会話を試みる。しかし、会話の相手であるシーズはただただニヤニヤする。
「けっこう盛り上がっているよ、僕自身」
「ボクはいい加減切り上げたい」
「でもね、もう誓ったんだよ。宝神具に“僕はコイツを必ず倒す”ってね」
「そういう記憶力はいいな。もっと忘れてくれたら、いいのに」
「他の誰かに倒される前に僕が倒しておきたい。――憂いはね、断ち切りたい」
「お願いだから、そういう約束、
「悪いけど、知らないんだ。宝神具との“約束”の破り方を!」
シーズは宝神具バルムンクで両手で振り上げ、それを振り落とす。
「意識しなきゃ破れるよ!」
ナトはスキが生まれた側部に目掛けて蹴りを入れる。――が、シーズは片腕でその攻撃を受け切る。
「まるで僕が約束破り常習犯みたいじゃないか!」
シーズは宝神具バルムンクを放し、自由になった方の腕でパンチを放つ。しかし、ナトはそのパンチを両手で受け止めた。
「違うの?」
シーズは面白くないと頬を歪ませる。
「キミはホントに腹が立つ」
「じゃあ、もうやめようよ。だいぶ疲れが貯まったはずだよ」
「エリクサー飲んだから疲れは吹き飛んだ」
「クスリは健康の前借り。いっぺんに負債はやってくる」
「エリクサーならそれぐらいすべて支払ってくれるさ」
シーズは片腕で宝神具バルムンクを手にし、ナトに向けて突き刺す。さすがのナトもそれを受け止める気にはならず、横にずれる。
しかし、ナトはあざとく大きく前に踏み込んだシーズの背中に対して、後ろ蹴りを放つ。
「ッ!!」
シーズはそれを背中でモロ受けてしまうが少しも動じない。パンパンと砂ぼこりを払うと、ハァとあきれた表情を浮かべた。
「少しお喋りが過ぎたね」
「けっこう話し上手だと思うよ、ボクは」
「そういうヤツに限って、話が面白かった試しはない」
「……心外だ」
シーズは宝神具バルムンクを構えた。
「誓いその4、必ずキミを倒す。それまで、他の敵、人間、魔物は傷一つつけない」
宝神具バルムンクの
「約束守れる?」
「守るに決まっている! だからこそ宝神具から力を貸してもらった!」
シーズは宝神具バルムンクで空に斬る。すると、そこから光の刃が放たれる。
「来る!?」
ナトは今までになかった攻撃に戸惑いつつも、身体をそらして光の刃を避けた。
……身震いが来た。……冷や汗が背中に張りつく。
「思ってもいなかったな、……能力が発現した。大きな誓いはするもんだな」
ナトは、遠距離攻撃まで手にするなんて、と思いながら、シーズとの戦いを模索する。次の一手を見つけるまで防戦を続けるのであった。
二人の戦いが
「ごひゃくいち、ごひゃくに……?」
冒険者ギルドの館の様子が変わった。ナトとシーズとの戦いに盛り上がっていた観客達が少しずつ静かになってきた。あまりにも空気感がガラッと変わったことで、ラッカは胸騒ぎを覚えた。
ラッカはちからのたねを数えるのをやめ、二人の戦いを見守っていたまほうつかいのアコウと商人のビロウに話しかける。
「どうしたんですか?」
ビロウは頭をかきながら応える。
「追い込まれとるんや」
「追い込まれてるって、お兄ちゃんが?」
「そうじゃ」
アコウは静かに頷くと、ラッカは二人の戦いを見る。アコウの言うとおり、シーズの大剣を避ける一方的な戦いであった。余裕を持ってパンチやキックを繰り出していたナトの姿はどこにもない。
「どうして? お兄ちゃんのフルボッコタイムだったのに?」
「勝利の舞いを踊ったんや」
「……あの男のヒト、勝利の舞いって踊れたの」
「シーズの横にいた踊りコや! あの踊りコが勝利の舞いを踊ったから、ニイチャンは追い込まれとるんや」
「ええ? 踊りを踊るだけで戦いが変わるの?」
「変わるで。
「能力値が上がったから強くなったの?」
「そういうことやな」
「そんなのアリ!? ケンカとかで第三者がスキル使うの!?」
「ナシではないで。魔物との戦闘の仕方をケンカに持ち込んだだけの話や。まあ、そういうのやるのは、あまりにも情けなすぎるからやらんだけで、そういうのやってもええわな」
「どうしてそこまでケンカしたいんですか? シーズは」
「わかるか、そないこと」
ラッカはシュンと俯く。
「……まあ、お嬢ちゃん。仮にもアヤツは、この冒険者ギルドの館でエースなんじゃ。そんなエースに新人からケチつけられたら怒るのも無理はない。最初はあくまで
「アコウさん。どうすればよかったんですか? お兄ちゃんは」
「笑って穏便にしとけばよかったじゃろう。まったく、実力者にたてつくものではない」
「もうどうにもなりませんか?」
「時が経てば、他の冒険者も駆けつける。それまで待つしかないのぅ」
アコウは仕方がないと言わんばかりの表情で応えた。すると、ラッカはスコシ間を置いてから、ふしぎな質問をした。
「お兄ちゃん、何か変なこと言ってませんでした?」
「変なことじゃっと」
「ええ、思考とか心とかそういうマインド的なもの」
「なんじゃ、それは」
「ああ、なんか言っとったわな、あのニイチャン」
ビロウは手を叩いてラッカの質問返事する。
「ホントですか?」
「確か、意識の裏返しみたいなことを言ってたわ」
「ぁぁ、それちょっとマズい」
「わかるんか?」
「お兄ちゃんにはもう武器がないかもしれません。この戦い、止めた方がいいかも」
ラッカは珍しく不安がった。
「ちょっといいかな、妹さん」
二人の戦いを見ていた戦士アダンがラッカに尋ねる。
「武器というのは何をさすんだ? そこらへんに落ちている石ころもか?」
「全部です」
「全部? 全部というと、椅子、テーブル、テーブルクロス、
「戦士はん、幾らなんでもそないな生活品まで武器にできるわけが……」
ビロウは笑いながらそう言うと――、
「そうです」
――と、ラッカはキッパリと返した。
「できるんか!」
「はい」
「どんな思考しとるんや! そんなんもんまで武器として見とるんか!」
「そうか。……やっと、
「何がわかったんか? 戦士はん」
「ああ。あいつの戦い方が」
「戦い方?」
「そうだ。あいつの戦い方は――冒険家だ」
ビロウはアダンの一言に首をちょこっと傾げた。
「冒険家? 冒険者じゃなく?」
「冒険者は冒険者ギルドに登録しているパーティーにいる奴らの総称。冒険家はそれと違って、正真正銘、冒険の専門職だ」
「んなことしっとるわ。ワイが聞きたいんは冒険家の戦いや。冒険家の戦い方いうんは冒険術、サバイバル術とかそういうのか?」
「ああ、もっと言えば、それの応用だ。冒険家はダンジョンの道中で見つけたモノを利用してダンジョンを攻略するだろう? ナトはそのとき思い浮かべるダンジョン攻略の思考術を戦いに転用しているんだ」
「それはなんとなくわかるんやけど、そないなもんが武器になるんか?」
「そうだ。少し大げさに言えば、冒険家の武器はこの世界にあるものすべてだな。そこらへんにある石ころから、相手が持っている武器まで自分の武器にする。アイテムを探し出す“眼力”、それを効果的に使用する“策略”、そして、普通では武器になりそうでないモノを武器へと転用する“並み外れた発想力”が武器となる」
「となると、ニイチャンはだいぶ風変わりなアイテム使いというわけやな」
「
「なんか、ニイチャンがモノごっつヤバい人間に思えてくるけど、それができそうやからめっちゃ困るわ。……でも、そないな思考術だけ戦えるんか?」
「冒険家は基本的な格闘術も持ち合わしている。回し蹴り、せいけんづきは勿論、とびひざげり、投げ技、寝技なんかも使えるな」
「お兄ちゃん、いつもパパと組み手していましたから」
「妹さん、お父さんも冒険家なのか?」
「はい。お兄ちゃんはパパから教えてもらった冒険家としての技と心構えをきちんと守っています」
「えーっと、心構えというのは?」
「冒険家で大切なのはとにかく生き残ること。生き残れば負けることはない」
「ほぅ」
「お兄ちゃんはそれを守りながら戦っています。逃げていても、一手一手、できることを考えています」
「なるほどやな。でもー、ニイチャンの策が次から次と破られとる」
「それが冒険家の弱点だな。その場その場で道具を探すから、まったく武器が出ないときもある。せめて殺傷力のある武器がこの館の中にあれば、勝ちが見えてくるが」
「戦士はん。冒険者ギルドの館でそないなもんあるんか?」
「商人、売り物の武器とか持ってきているか?」
「宿屋に預けてもらっとる。そんな重いもん冒険者ギルドの館まで持ってくるわけないやろう。ここに来たんは手形と帳簿の確認なんやから」
「俺の武器ははがねのつるぎだ。でも、あいつの戦いを見たら、これはけっこう不利な道具だな」
「ジャックナイフみたいなのがお似合いやな、ニイチャンは」
「えっと、わたし、お兄ちゃんからどうのつるぎ預かっているんですが」
「んなもん武器にならんから嬢ちゃんに預けたんやろうな」
「……ですよね。ハハハ」
ラッカは愛想笑いし、口を閉じた。
「しかし、どうしてニイチャンは勝ち目があると思って、ケンカを買ったんやろうな」
「相手はランクAAの冒険者で実力者のシーズ」
「エリクサー、
「どうあがいても負けは見えているな」
「でも戦士はん。不思議とニイチャンが負ける姿は見えんやろ」
「ああ、不思議なことに」
「ワシもじゃな。まだ策を隠している気がするわ」
「大魔導師はんもか。しかし、冒険者ギルドの館を見渡してもそんないい武器が何処にも」
「お兄ちゃんの武器は、わたし達からは見えないモノだと思います」
「見えない?」
「はい。いつもお兄ちゃんは心とか言いますから、もしかすると、そこに――」
「そないなものが武器になるわけ……、いや、ニイチャンなら……」
「心を武器にね。そういう青クサイの、俺は、好きだね」
ビロウとアダンはそれぞれ思ったことを口にする。
「……お嬢ちゃんや、少し質問してよいか?」
「それはいいんですけど……」
ラッカは二人の戦いの方をちらちらとよそ見する。
「大丈夫、すぐに終わる。もしかすると、お主の想いが助けになるかもしれぬ」
「えっと、わかりました。お願いします」
アコウはラッカを近くの椅子に座らせ、自分も真向かいの席へと座った。
アコウはラッカと目をあわすと、質問を始めた。
「さて、今、兄さんは強敵と戦っている。強敵はありとあらゆる術を使い、兄さんに襲いかかっている。お嬢ちゃん、兄さんならどうやって敵を倒す?」
「……術を封じたい」
「封じたい?」
「お兄ちゃんなら強敵の懐に入るマネはしません。確実に術を封じてから、相手を追い込んでいきます」
「封じ手か。兄さんなら考えるのぅ」
アコウとラッカの会話を横からビロウを覗く。
――助産術とはやるな、ジイさん。
助産術とは真理追究の問答法、相手の矛盾を指摘し、相手の無知を見つけ出す方法である。
しかし、助産術の見方も考えれば、相手の思考を再構築させ、そこから相手の考えを取り出す方法でもある。
――ニイチャンの頭見るのなら、ニイチャンのことをよく知っている妹はんに聞くのが一番やな……。さて、冒険家のアタマん中、見せてもらうで。
アコウはそう思いながら二人の問答を見守っていく。
「相手が使う術は3つある。相手を斬り倒す剣術、自分の能力を向上させる踊り、自分のキズを癒やす全回復、兄さんならどれから封じたい」
「踊りです」
「踊り? それはなぜじゃ?」
「能力の差で負けているのなら、そっちから封じた方がいい」
「なるほど、でも、攻撃を封じれば安全じゃよ。回復を封じれば相手にダメージが届く」
「攻撃を封じても安全ではありません」
「それはなぜじゃ?」
「攻撃を封じたら、相手が怒って後で攻撃するかもしれません」
「後で攻撃……、それは復讐ということか?」
「はい」
「なるほど、それも封じたいのじゃな」
「はい。だから同等の条件で戦うのなら攻撃よりも補助スキルを封じたいです」
「なるほど、……見えてきたの。兄さんの心が」
「えっと、それは……」
「落ち着くのじゃ。お主と兄さんは他人同士、しかし、心を重ねれば見えるものが出てくる。それをきちん伝える、これがお嬢ちゃんにできる“ちから”となる」
「ちから?」
「いわば、心で生まれる武器、つまり、“ちからのたね”となるのじゃ」
「それがお兄ちゃんが見えている武器ですか?」
「そうじゃ。……わかったか」
「はい」
「では今、アヤツが欲しいもの、勝つためにいるものはなにと思う?」
「ルール」
「ルール?」
「シーズとまともに戦えるルールです。いくらお兄ちゃんが自由でも、まともなルールがないと勝ちが見えてません」
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