第25話「彼女の中のヒーロー」
激しい振動に
巨大なロボセイヴァーの一歩が、街を破壊し、アスファルトを
だが、
見上げる
上から声が降ってくる。
「ヒデッ! 急いで! そいつは、アタシが
空から真っ逆さまに、巨大な戦闘機が急降下してきた。
それは、タラスグラールの支援メカ、スカイアークだ。そして、その
「アーリャなのかっ!? 何でそれに乗ってる!」
「無個性だって動かせるなら……
スカイアークからビームの
それでも、鬱陶しそうに両手を振ってはたき落とそうとする。
ロボセイヴァーの脚が止まったあとも、英友は走り続けていた。
「ヘナァ! カトンボがよぉ……邪魔してくれるんじゃ、ねえええええっ!」
再びロボセイヴァーの手から、
半分オートで飛んでいるから、スカイアークは
悲鳴が響く中でも、アーリャの無事を祈りながら英友は走る。
胸が焼けるように痛い。
出入りする空気が
それでも、英友は歯を食いしばって、駆ける。
その向かう先に、見るも
「タラスグラール……
ゆっくり両手を地に突き、タラスグラールが立ち上がろうとする。
あちこちから
どろりと
「大丈夫、だよ……ヒデ君、さがって、て……私は、みんなを……世界を、守ら、なきゃ」
「もういいっ、真心! このままじゃ、お前が」
「ううん、平気……これが、私の……
「お前……まさか」
「……うん。そう、だよ? 私が……私の、『
だが、自慢の装甲はひび割れ砕け、あちこちで小さく爆発の炎があがっている。タラスグラールはもう、立てそうもない。
そして、
迷わず英友は、その真下へと駆け寄って見上げる。
そこには、制服姿のままの真心が座っていた。
相変わらずの無表情で、
だが、英友にはわかる。
英友だけには、
彼女は今にも泣き出しそうだった。
「ヒデ君、逃げて……私は、大丈夫、だから」
「いいや、逃げねえっ! そしてもう、お前は大丈夫じゃねえ!」
「ううん、駄目……ヒデ君は、逃げて。逃げては、いけない、私の、
「お前っ!」
そして、あちこちモニターの割れたコクピットの中から、学園長の声が響いた。それは、真心の母親である
『真心、立ちなさい! 特訓を思い出すのよ』
「待ってくれ、学園長! いや、おばさんっ! もう真心は――」
『ごめんね、ヒデちゃんは黙ってて! ……いい、真心。
そこには、英友が踏み込めない母子の
コクピットで真心は、手早くダメージをチェックして手を動かす。視線を走らせ数値を読み取りながら、彼女はなんとかタラスグラールを立たせようと必死だった。
そして遠くで爆発音が響く。
英友が振り返ると……
思わずアーリャの声を叫べば、空中にパラシュートが広がる。
目を
響く悲鳴を醜悪な笑い声が塗り潰した。
「ヘッシャッシャア! お前ぇ、いいまな板だなあ……そう、平らだ!」
「なっ、何よ! 失礼ね! っ、ああああっ!」
「ほぉら、握り潰しちゃうぞぉ? 育ち切っちゃってるババァだが、その平らな胸はいい……
「う、ああ……や、やめて……たっ、助けて! ヒデッ!」
「
もはや一刻の
だが、真心の努力も
そして、表情を
「……駄目、再起動……でき、ない」
『
「ママ、でも……も、もう、動けない」
『駄目よ……真心、貴女は自分で選んだ。たとえ
「でも……私は、この身体に、秘められた、エネルギーしか……身体は、普通の」
『だから、一緒に特訓したわ! 自分を信じて! そして……パパとママが作ったタラスグラールを信じて! どうしてタラスグラールが人型なのに、手持ち武器がないかわかる? タラスグラールの手はね、真心! 平和を
「……ママ。うん……私、頑張る。やって、みる、けど」
見上げる英友の方を、まっすぐ真心は
英友もまた、そんな真心を
「真心、どうすればいい? 俺は、お前を助ける! 支える!」
「ヒデ、君……」
「急がねえと、アーリャがやべぇ! けど……まず、お前だ」
「えっ?」
「ヒーローってな、
無力な自分をわかっている。
一度、巫琴に「娘を支えてほしい」と言われ、
自分が弱かったからだ。
真の弱さは、能力の有無ではない……気持ちが、心が弱かったのだ。
だから、逃げた。
でも、今は違う。
何ができるとは言わない、何もできないかもしれない……それでも、真心に伝えたい。お前は一人じゃないと。ナンバーワンが
「ヒデ、君……わ、私……」
足音が徐々に近付いてくる。
握るアーリャの悲鳴を連れて、接近してくる。
「私……あの、ね……ヒデ、君。私、みんなを……世界を、守る、から」
ぽたりと
身を乗り出してハッチから、真心が見下ろしてくる。
その
「全部を守る、私を……守っ、て……ヒデ君、が……ヒデ君、だけ、は……私を、守って」
「おうっ! 任せろ!」
「……ヒデ、君」
「当たり前だろ? 俺は……俺はっ、天地英友は! お前の、瑪鹿真心の!
その言葉に、真心が大きく
だが、どこまでも伸びる
コクピットからぶら下がった真心は、手をのばす英友の上で止まった。もう少しで手が届くのに、宙ぶらりんで真心は泣いている。
そして、巫琴の声が悲鳴に変わった。
『真心! ヒデちゃんを
だが、手が届かない。
そして、タラスグラールは真心の背中に
手を伸ばす真心が、どんどんコクピットへ戻されてゆく。
飛び跳ね手を結ぼうとする英友の頭上へ、真心が遠ざかっていく。
「ヒデ、君……こ、これ! これをっ!」
コクピットへ連れ戻された真心の手から、何かが落ちてきた。
それを掴んで、思い出す。
あの時、真心の家で巫琴が渡そうとしてきた
迷いはもう、ない。
「っしゃあ、待ってろ真心! 俺が一緒だ、一緒にやるぞ!」
装着、まるで肌に吸い付くような感触。
瞬間、手首のデバイスが機械音声を走らせた。
『
光が、タラスグラールのコクピットへと
そして、ふわりと英友は浮かび始める。
無機質な声に
何を叫べばいいか、知っていた。昔、マシンダーが教えてくれたのだ。そのマシンダーがもたらした災から、真心を守るために今……魂の
『
「うおおおおおっ! 行くぜ真心っ! ヒィィィィィロォォォォォッ! インッ!」
そのまま英友は、タラスグラールのコクピットへと吸い込まれた。
同時に、
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