第9話「今日の事件と、あの日の惨劇と」
朝の往来を、
同じ寮に住む友人、
「クソーッ! バスが止まるなんてな! 何だよこの
「
「ずりーぜ、そいつはよぉ!」
登校に使っている通学バスが、突然の大渋滞で止まってしまったのだ。それで今、英友は全力疾走でシャオフゥと走る。できれば遅刻は勘弁して欲しいし、先程から何やら胸騒ぎがおさまらないのだ。
無論、『個性』を持つ予備科の面々は皆、次々と英友達を追い抜いて消えた。
クラクションが鳴り止まない大通りを、二人は照り始めた太陽の中で走る。
「ん? 何だありゃ……あの能天気な色したデカブツは」
学園へと向かう英友の視界に、巨大な車両が目に入った。
それは、
これが渋滞の原因かと思った、次の瞬間にはシャオフゥが嬉しそうに叫ぶ。
「あれは……グランドアークだーっ! 見て見て、ヒデ君っ! グランドアークだよっ!」
「何だそりゃ? どっかで聞いたような……」
「
その、グランドアークとやらに並んだところでシャオフゥは脚を止めた。もはや彼にとっては、学校への遅刻などどうでもいいらしい。
やれやれと思いつつ、
そして、高い位置にある運転席あたりから、見知った少女が顔を出した。
「あっ……ヒッ、ヒデ君。お、おはよ……今日も、暑い、ね」
「おう、真心! お前の車かっ! 邪魔になってんぞ、大渋滞じゃねーか!」
「わっ、私じゃ、なくて、その、えと……この先で、事件……」
「あ? ああ、悪い! また
「あ……と、とりあえず、乗って? シャオフゥ君、も……顔、見られると、困る、から」
そそくさと
それで英友は、夢中で携帯のカメラを向けるシャオフゥを呼ぶ。乗れと言われたことを伝えたら、シャオフゥは一発で恋する
そこは、車の中とは思えぬ光景が広がっていた。
通常のトレーラーで運転席にあたる部分、そこには確かにハンドルを備えた座席が真ん中にある。だが、運転席というよりはむしろ、操縦席だ。広い内部は、どちらかというとアニメや漫画に出てくる秘密基地だ。
「ヒデ君……とっ、とりあえず、適当に座って? シャオフゥ君も」
「おう、つーかすげえ車、だ、な……? って、すげええええええ! 真心、お、おまっ!」
真心の声に振り向いた英友は、絶叫してしまった。
しかし、もはや二人を二人の世界に置き去りにして、シャオフゥはメカに夢中だ。車内を無邪気に撮影しまくっている。
そして、英友の前には……あられもない姿の真心が立っていた。
恥ずかしそうにもじもじしているのには、これには訳がある。
「真心っ、何か着ろ!
「でっ、でも……これ、パイロットスーツ……だから。一応、今日は学園じゃなく……家から出撃、で……着替える、余裕、あったから」
「だーっ! 着てるうちに入らねええええ!」
今、真心はすらりと長身のグラマーなスタイルが、全て丸見えだった。
だが、はっきり言っていかがわしい。
ぴっちり肌に張り付いた、タラスグラールと同じトリコロールカラーの
たわわな胸の
「……あ、うん……ヒデ君、ごめん。……そう、だよね。そうだった、かも」
「あ、いや、俺こそすまん! と、とにかく上に一枚、何かを――」
「ヒデ君も、着る? ……おそろい、ペアルック……」
「着るか、アホォ!」
「一応……男子用も、ある、のに……しゅん」
表情に変化はないが、英友には彼女の
だが、落ち込まれようがガッカリされようが、断じてノォ! である。
そんなピッチリスーツを男が着れば、股間の
そう思ってつい、真心の股間に目がいってしまった。
思わずゴクリ! と
だが、まるで移動司令部みたいな車中でシャオフゥはゴキゲンだ。
「えっ、真心先輩! それ、格好いいですぅ! 一枚、一枚だけっ」
「う、うん」
「あー、いいです、凄くいいですよぉ! あ、目線お願いしまーす!」
「は、はひっ!」
「それじゃーラスト、決めポーズで! いつもの決め台詞でっ!」
「え、えと、んと……
おいおい、何で疑問形なんだよ……思わず英友は心の中で突っ込んだ。
顔を真赤にしつつ、おどおどしながらも写真撮影が終わる。真心は後部のカーゴスペースに着替える場所があると教えると、シャオフゥはスッ飛んでいった。
プシュッ! と
真心はとりあえず、司令官っぽい座席においてあったカバンからジャージを出して肩にかけた。だが、隠されるとますます英友は意識してしまう。
「とっ、とりあえず、どんな事件だ?」
「この先、ジャスティス
「ああ、あの馬鹿デカい川のとこか」
「ヴィランの二人組が、
「……すげー迷惑な話だ。この通勤通学ラッシュの、混雑する朝によぉ」
「うん」
ついつい、ちらちらと真心を見てしまう。
そして、長身を丸めるように小さくして、
恐らく後部のカーゴスペースには、タラスグラールが搭載されているのだ。
「私は、今日は……出番、ないかも。待機、だし……で、でも……」
「でも?」
「ヒデ君の、
「あーっ、待て! 待て待て! そんな顔するな! 俺は無事だ!
「ホント? うん……ホント、だね」
真心の視線が、無理に笑う英友の顔から下へとスライドする。
慌てて英友は、学生服の股間を押さえて背を向けた。
「うっ、うるせえ! お前が
「……えと、大丈夫、だよ? 私、理解ある方……ヒデ君、男の子だもん」
「おい馬鹿やめろ、優しい目で俺を見るんじゃない」
そうは言っても、気遣う彼女の表情を読み取れるのは英友だけだ。
そして、自然と二人きりの沈黙が静けさを呼ぶ。
外のクラクションの音だけが、まるで遠くの祭のように響いていた。
「あ、そうだ……真心! おじさんは元気か? ほら、マシンダーの……
「え、あ、んと……元気、だと、いいなあ、って」
「何だそりゃ」
「行方不明、なの。……三年前の、あの日から」
「三年前……ああ、じゃあ俺と一緒だな」
それは、三年前の
たびたび宇宙怪獣や異星人に襲われ、地球圏にもヴィランがのさばっていた。
それが、グレートポールシフト……地球の
地震と津波、そしてその後の荒廃した世界での動乱。
「俺もさ、両親が……でも、一緒に生き残って、生き延びた仲間がいたから。あと、マシンダー! おじさんの言葉がさ、俺には支えだった」
「うん……パパ、すっごくヒデ君のこと、かわいがってた……ずっと、
「オイオイ、違うだろそれ……おじさんはさ、真心のことをずーっと大事にしてきたじゃねえか」
「そう、かな? ……そうだと、嬉しい」
「そうだ! マシンダーってさ、お前のためのヒーローだったんだぜ?」
「……そう、かも。じゃあ、パパがいつも……マシンダーを、ヒデ君にやらせたのって……ポッ」
「いちいち
「うん……うんっ! だから、私……守るの。世界のみんなを、あらゆる全てを」
その時、また扉が開いてシャオフゥが戻ってきた。
彼も真心と色違いの同じスーツを着てたが、なんというか……ピッチリピチピチゆえの股間はあまり目立っていない。時々、本当に同じ男なのか疑わしくなってくる。
「真心先輩っ! 女子用のサイズなら、ぢょうどいいのありましたっ!」
「う、うん……よ、よかったら、あげる、よ?」
「本当ですか!? わーっ、じゃああとで、ここ! ここにサインしてくださいっ!」
シャオフゥが胸を指差し突き出した、その時だった。
車内に通信らしき音が響いて、すぐに真心は緊張感を
映ったのは、
『おはよう、真心君。こちらはサスライダーのゼオンだ』
「おはようございます、ゼオン先輩」
『至急、タラスグラールを発進させてくれ。必要かどうか微妙だったから、待機要請してたけど』
「は、はい……だから、今日はグランドアースに、載せてきました。アシストにもサポートにも、回れ、ます」
『助かる! 謎のヴィラン二人組の喧嘩が……ジャスティス大橋自体を
変身し終えているゼオン・F・アイゼンシュタットが、仮面の瞳を僅かに輝かせる。
そして、英友は見た……頼りない幼馴染の無表情が、鉄魂勇者へと変わるのを。
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