第22話「最初に守るべきもの」
シドニー市内は
包囲された中で砲火が飛び交い、その全てからヒーローがギリギリで守っている。だが、避難指示が出て警察が誘導しても、市民の混乱は広がり続けている。
そして、先程のヒーロー同士の謎の行動が、パニックに
「何? 何なのよ、もうっ! さっき、同士討ちしてたわ!」
「違うぜ、イージーなミスさ……そ、そうだよな? そうだと言ってくれよ!」
「あのちっこい魔法少女っぽいの、やられちまったぞ! どうなってんだ!」
怒号と悲鳴が入り乱れる中で、
シャオロンこと
逃げ惑う人達の流れに逆行して、黒煙がたなびく公園内へと英友は飛び込んだ。
「シャオフゥ! おいっ、シャオフゥ! 無事か! どこだ……あっ!」
すぐにシャオフゥは見つかった。
そう、
ピンクの衣装は
よろよろと身を起こすシャオフゥは、
突然のことで、驚いたシャオフゥはタブレットケースを落とした。
「あっ、オリジェネレータが……ヒ、ヒデ、君? あ……僕、僕っ」
「しっかりしろ、シャオフゥ! お前はそんな戦い方する奴じゃないだろ! みんなを守る、そのためにヒーローになったんだろ!」
地面に転がるタブレットケースへと、小さな震える手が伸びる。
英友はその手を
ビクリ! と身を震わせ、シャオフゥが大きな
「僕……ヒーローに、なりたくって。でも、『
「ああ、わかってる」
「みんなを、守りたくて……タラスグラール、みたいに……
「それで、お前……でも、真心の言葉、聴いたろ? ちゃんとお前に、響いただろ?」
小さくシャオフゥは
ビッグバンにも匹敵する、莫大なエネルギーを背負わされた少女。そのほんの一部で、
だから、日頃から
タラスグラールの高機動がもたらすGや、求められる反射神経と判断力……あらゆるものを努力で手にし、維持してきたのだ。
「シャオフゥ、お前の気持ちもわかる……それに、俺は間違っていた」
「ヒデ、君?」
「俺が信じたマシンダーを、お前も信じろ……確かに俺はそういった。けど、今は! マシンダーを信じる俺を! 俺達を信じてくれ!」
驚きに目を丸くするシャオフゥに、尚も英友は言葉を
今、語るべきは自分の言葉。
それは、己の意志と気持ちで産まれるものだ。
マシンダーは確かに心の支え、尊敬すべきヒーローの中のヒーローだ。だが、その
こんなにもシャオフゥが
「シャオフゥ、すまん! 俺が間違ってたんだ……だから、俺を信じてくれ。もう、オリジェネレータを使っちゃダメだ!
「で、でも……僕も、ヒーローに……それに、マシンダーが」
「マシンダーだってな、誰だって……ヒーローだって人間だ! 外の軍隊連中と一緒だ、間違うことがある。誰だって間違うんだよ、シャオフゥ」
「でもっ! 僕は……僕はみんなを守りたいんだっ!」
泣き叫ぶシャオフゥを、迷わず英友は抱き締めた。
男に戻ってしまったとか、もともと男だとか、そういうことは意識の
「お前は……お前は、みんなは守れねえよ」
「そんなことないっ! さっきは間違ってた、失敗しただけ! 僕だってみんなを――」
「お前には、みんなを守れねえ! 守れて、ねえよ……
胸の中で泣きながら、シャオフゥが泣いている。
「僕、
だが、英友は優しく言葉を選んだ。
今、一番伝えたい自分の言葉だ。
「シャオフゥ、そんなんじゃみんなは守れねえ」
「どうして? そんなことないもん、僕だって」
「お前は、みんなの中の大切な一人……俺のダチを守れてねえ」
「えっ!? そ、そんなことないよ! アーリャ達だって守りたい!」
「いや、守れてねえ……俺の大事なダチ、姫小狐ってマブダチをな。そうだろ? シャオフゥ。自分を大事にしねえ奴には、何も守れねえ……だから、もう無理すんな」
いよいよ周囲の戦闘が激しくなる。
どうやら
遠くから戦争が近付いてくる。
だが、その爆音と絶叫が、英友の意識から遠ざかった。
今、抱き寄せるシャオフゥが何よりも大事だから。
「みんなのためにってお前が無理しても……俺を含めたみんなの一人、大事なお前が救われねえ。そんな人間はもう、あいつだけでいいんだ」
「……真心、先輩?」
「ああ。そして、今の俺にはわかる……お前や真心みたいな人間、みんなを守りたいと思う者達を……俺は、支えたいんだ」
突然、背後で金属音が高鳴った。
振り向けば、そこには巨大な人型兵器が銃を構えている。
不気味な頭部のメインカメラが、
とうとう戦争が全てを飲み込んだ。
その中で英友は、胸の中のシャオフゥを守ろうとする。
そして、声が走った。
「ヒデ君の言う通りだよっ、シャオロンちゃん! 今、君が本当に大事に守らないといけないもの……それは、君自身だぞ? そしてっ!」
舞い降りたタラスグラールが、放たれた
確か、モビルトルーパーとかいう兵器だ。その、いかにも軍隊といった雰囲気の無骨さが、向けた銃に
鋼鉄の
「そしてっ、私は! 世界の全てを守って戦うっ! 鉄魂勇者、タラスグラールッ!
他のモビルトルーパーも近付いてきた。
そして、タラスグラールに
その足元で、英友はシャオフゥを抱き上げ立ち上がった。
そして、ぱんつが丸見えのタラスグラールを見上げる。
「真心、いやっ! タラスグラール! シャオフゥは俺が守る、守る俺ごと、守り切るっ! だからお前は……本当のお前の戦いをしろっ!」
「ヒデ君……」
「みんな、人間だ! 人間はみんな、守るんだろ? だから……間違った道具や手段があるなら、それを壊すんだ! 人間がその手に染めた悪そのものを、
「……うんっ! ありがとっ、ヒデ君!」
身動きできないシャオフゥを
すぐ目と鼻の先に、森林がある。この公園は緑地帯でもあるので、
それに、こんな小さな人間二人を、あの馬鹿でかいロボットで攻撃など難しい
そしてタラスグラールは、そんな非道な武器を使わせる
「ヒーローのみんなっ! 聞いて! 私にいい考えがあるの……みんなは街を守るのに専念して! 人命第一っ! そしてっ!」
防戦一方だったタラスグラールが、大地を
激震に揺れる中で、どうにか英友は森の中へと駆け込んだ。全身の筋肉が加熱して、腕も脚もパンパンだ。崩れ落ちるようにしてシャオフゥを降ろし、振り返る。
タラスグラールは、素手で鮮やかに格闘戦へと持ち込んでゆく。
無手の格闘術で銃やナイフをいなし、頭部だけをパンチやキックで
そんな彼女の背後に、隊長機らしき
「危ねえっ! 後だ、タラスグラール!」
英友の叫びに、瞬時に真心の操縦が反応する。
後ろから
彼女はどこか鈍重な敵機の、その腰を抱きかかえるように両手をクラッチする。
「中の人っ、耐ショック防御! お願いします! 武器は、兵器は……それだけは、破壊させてもらいますからっ!」
そのままタラスグラールが、自分より一回り程大きく
そして、その反動で逆さまのままタラスグラールは空へと飛び立つ。
スカートが
だが、それが彼女の狙いだった。
「コクピットだけを外して……戦闘能力を奪うからっ! はああっ、全機ロックオンッ! いっけぇ、フォトンッ、クラスタアアアアアアアアアッ!」
空中で逆立ちするように舞い上がる、その姿は
そして、クルクルと
あちこちで小さな爆発が起こって、どんどん敵の攻撃が弱まっていく。
英友は何が起こったのか、一瞬わからなかった。
背後で声が響く、その瞬間まで。
「ほう、敵のセンサー系や武器のみを攻撃……成長したな、真心」
その声を、覚えている。
忘れる筈がない。
振り向く英友の前に……
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