第21話「最後の敵は」
結局、
先程全員で掃除したカタパルト・デッキを、青く光るプラズマの輝きと共に
何とか
そして、無数の敵意が空を埋め尽くす。
「な、何だありゃ……おいっ、真心っ!」
「わかってわ、大丈夫っ! みんなっ、協力してまずはミサイルの迎撃だよっ!」
「……やっぱ、乗るとキャラが変わるのな」
真心は今日は制服姿のままだが、相変わらずタラスグラールのコクピットに収まると快活な言葉が弾む。
しかし、それをマイクに向かって
タラスグラール自身が、同じ造形美の顔立ちを表情豊かに
そして、英友の目にもはっきりと見えた。
全面360度のモニターに、無数のミサイルが尾を引いている。
「いっくよぉ! アルティメットォォォォォ、ビィィィィィムッ!」
タラスグラールが、突き出した人差し指で空を差す。
たちまち指先に熱量が膨れ上がって、光の
テラセイヴァー達周囲のヒーローも、それぞれ光線技やアイテムで空を薙ぎ払った。
無数の爆発が連鎖して、装甲越しにもビリビリと爆音が英友の肌を
『我々は、
シドニーを包囲するように、周囲の荒野から何かが近付いてくる。砂煙を巻き上げるそれは、無数の戦車や装甲車。そして、タラスグラールと同じ
大きさはタラスグラールと同程度だが、
驚く英友に、マイクを切った真心が無表情を向けてくる。
「なっ、これが……学園がオーストラリアまで来た理由か?」
「そう。あの人達は……三年前の惨劇で、ヒーローと一緒に災害出動して頑張った、軍人さん。でも、ヒーローによる地球圏防衛の制度が始まって、多くの人は、納得して退役したの。でも」
「まだ軍人でいたい奴がいるんだな? 戦いたいだけの奴がっ!」
真心は無言で
そして、かつての軍人達の大軍は今、物騒なテロリスト集団として迫っていた。
『今まで国家に尽くし! 平和に貢献し!
三年前、グレートポールシフトで世界中が滅茶苦茶になった。
その直後、各国は復興のための予算を確保するため、互いに向け合う軍事力を同時に手放した。予算を食うばかりの軍事力は、互いに向け合わない、所有しないという前提で一斉に消滅したのだ。
大規模な軍縮、そして軍備廃棄の末に……あらゆる危機と戦うヒーローの時代が到来したのである。
『デュア! タラスグラール、どうする?』
『シドニーの街もろとも攻撃をかけてくる! 情報通り、このオーストラリアに全兵力が集結しているらしい』
『だが、どうやって世界中から
『中央司令部! 指示を! 学園長、俺達はどうしたらいい!』
ヒーロー達は知らされていた。
オペレーション・スーパーヒーローウォーズ……それは、集結の動きを見せる過激派を
だが、ヒーローは大半が十代の少年少女だ。
人を救って悪とは戦えても、戦争をすることは難しい。
再び真心はマイクをオンにすると、座席の後ろに回るように英友を視線で促す。
「みんなっ、ここで
『甘いぜ、タラスグラール! このままじゃ、市民が……良い子の子供達が!』
「軍人さんだって、昔は小さな子供だった! そして、子供を持つ親だっているから……だから、お願い! テラセイヴァー! みんなも!」
そして、ヒーロー達は防衛に専念して守りを固める。
シドニーを襲うミサイルや砲弾が、何度も空中で爆発された。
だが、街に侵入しようとする敵には、身を立てにして道を塞ぐしかできない。スケール
だが、あまりに相手の数が大過ぎた。
皆が
『みんなっ、お待たせ! 僕も協力するよ!』
「あなたは……
やはり彼も、見ていられずに飛び出してきた。自ら劇薬オリジェネレータを服用し、『
だが、彼女が加わってもヒーロー達の
真心の座るシートにしがみつきながら、加速のGに耐えつつ英友は
「クソォ、無茶苦茶だぜ! ヒーローを戦わせるのが非人道的とか言いつつ、そのヒーローを攻撃してんじゃねえか!」
「みんなっ! 西側が手薄になってる。私がカバーするから、注意して! 仲間との連携が大事だよっ」
真心の澄ました真顔も、今日は心なしか苦しそうだ。
無敵の力を誇るタラスグラールでも、数の暴力で押し寄せられると
そうこうしていると、焦りがついに危険な暴発となって浮かび上がった。
『もぉ、こうなったら! 僕が思い知らせちゃうんだから! バスターブルーム!』
不意に、シャオロンが箒を空中へと振り上げる。
あっという間に、箒は伸びて膨らみ、長砲身のカノン砲が現れる。しかも、以前に見たものより何倍も大きい。
浮遊する巨砲にしがみつくようにして、シャオロンが魔力を集中させた。
黒光りする砲口へと、光が集束し始める。
『悪い人には遠慮は無用だよ! これでも
思わず英友は叫んだ。
「おいおい……待てよ、シャオフゥ! それじゃダメだっ!」
『全力全開……んあっ! っあ! んぎぎ……む、胸が……ひぎっ! で、でも……耐えて、僕の身体……悪い奴等を、やっつけるんだああああっ!』
その時、英友の乗るタラスグラールが風になる。
周囲が驚きつつ、自分達もと力を敵へ向ける……タラスグラールはその
彼女を中心に、広がる
そして、シャオロンの向ける大砲の真正面で、真心の声がタラスグラールを絶叫させる。
「駄目だよ、シャオロンちゃんっ! ヒーローの力を、そんな風に使っちゃ駄目っ!」
『どうして……ゴホゴホッ! う、うぐぐ……タラスグラール、そいつ等はヴィランの集まりみたいなものなんだ! だから、やっつけなきゃ!』
「違うっ! 違うよ……この人達だって、『
『でも、んっ、はぁ……誰かがやらなくちゃならないなら、僕が! シドニーの街を守るためなら、しかたないから!
シャオロンの最強の力が解き放たれた。
全てを飲み込み消滅させる光が、タラスグラールへと真っ直ぐに迫る。
英友は思わず、コクピットの前へ出て真心を
二人は一瞬で蒸発してしまうかもしれない。
だが、真心を
そして、胸の中で彼女の叫びを聴く。
「シャオロンちゃん、駄目っ! 誰一人としてっ、殺させない! はああっ、シャイニングッ、スマッシャアアアアアッ!」
タラスグラールのポニーテイルが、
そのまま前へと突き出す両手が、ピンと指を伸ばして開かれた。凝縮されたエネルギーが生まれて、それが苛烈な光条となって放射された。
ぶつかり合うシャオロンとタラスグラールの必殺技。
周囲を真っ白な閃光で塗り潰しながら、永遠にも思える数秒が続いた。
そして、先に消えたのは……シャオロンの大砲から迸る光だった。
「あ、ああ……真心っ、曲げろ! シャオフゥに当たるっ!」
「はああっ!」
瞬時に真心の操作で、必殺の一撃が空へと曲がって消える。
ふらふらと落ち始めたシャオロンは、徐々にピンクの衣装が
まるで全ての力を失ったかのように、彼女は彼へと戻って落ちた。
シドニーの街並みにそれが消えると同時に、タラスグラールが降下する。
「みんなも、聴いて! 確かに、軍人さんは悪いことをしてるわ! でもっ、私はみんなを守る、世界の全てを守るって決めてるの! 軍人さんもみんなの一人、世界の大事な一員だよ! 諦めないで!」
だが、そんなタラスグラールに
直撃弾が
そして、気付けば真心に抱き付いていた英友は、耳元で
「ヒデ君、行って……シャオフゥ君、助けて、あげて?」
「真心……お前」
「あの子には今、ヒデ君が、必要。待ってる、だから」
「ああ……ああ! わかった!」
英友はコクピットを飛び出した。
そっと手で降ろしてくれたタラスグラールが、立ち上がるなり空に戻る。
それを見上げながら、英友は走り出す。
シャオフゥのことが心配で、その焦りが英友にはよくわかる。そして、
シャオフゥはオリジェネレータの力で『孤性』を得ている。その力は限定的なものである上に、副作用がまだあるのだ。
英友は何度でも、親友のために走る。
その先に、残酷な再会が待っているとも知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます