第17話「今、ここにある脅威」
恐らくは、世界水準の数十年は先をゆくであろう、タラスグラールと支援メカの技術。
超高性能ソナーをアーリャ・コルネチカに任せて、英友は操縦に専念できる。
目の前の巨大なモニターには、CG補正された深海の景色が浮かんでいた。
「アーリャ、今どれくらいだ?」
「ん、待って……深度900
「しっかしすげえな。まるで軽自動車と変わらねえぜ、操作感覚」
「あら、車の運転したことあるの?」
「……すみません、ないです。でもこれ、小さい頃にマシンダーごっこで何度もやったからな」
そして、首を
常に笑顔、そして優しさと気さくさが最強の武器。
ベッドの真心の前で英友は、誠のお陰でヒーローになれたのだ。
「へえ、美しい思い出って訳だ?」
「まぁな。だから、俺は無個性でも全然気にならねえ! ……そりゃ、『
「それを、思い出したんだ。ふーん……ヒデ、アンタやっぱ馬鹿っぽい。でも、そっちの方がいいわ。きっと、真心先輩もね」
「おう! ……ま、まあ、半分はアーリャのおかげだけどな。さっき、ブルってたしよ」
そして、思い出したようにコンソールをいじり出す。
彼女は無個性でも英友の何倍も頭がいい。マニュアルを片手に、音を拾ってコンピューターで解析し始めた。
「前方、深度150mで強い音源! コンピューターは沈没船だって言ってる」
「他には! 生存者は!」
「待って、静かにして……何かゴボゴボいってる。空気の
「っし、救助すんぞ!」
とはいうものの、何をどうしていいかわからない。
操縦はできるが、それを使いこなせるかはまた別問題だ。
アーリャも必死で、今時ちょっと見ない紙のマニュアルをめくる。
通信が入ったのは、そんな時だった。
『ヒデ君っ、来てくれたの? ありがとっ! マリンアーク、すっごく助かっちゃう!』
声の主は真心だ。
画面の
だが、その中で操縦している真心の顔は出てこなかった。
そして、鋼鉄の子宮にケーブルで縛られる少女は、最強ヒーローとしてタラスグラールを完璧に演じている。
『ヒデ君、
「凍結魚雷? 凍る……そうか! 海を凍らせんのか!」
『うんっ! 一定範囲の海中を凍らせるから、それにぶつかって
「お、おう……あのな、真心。その……あんまし
『ほへ? それは……あっ! やだもぉ、ヒデ君のえっち!』
通信が切れると、突き刺さるような冷たい視線を感じた。
隣のアーリャが、フラットなジト目で
「
「あ、ああ! 撃ってくれ!」
「りょーかい。フンだ、ったくヤんなっちゃう! ほら、行って! 全門発射、行って行って!」
軽い振動と共に、前面のCGモニターへと魚雷が吸い込まれてゆく。
そして、たちまち見えなくなって……短い沈黙のあと、衝撃波が襲ってきた。ソナー用のヘッドホンをしていたサーリャは、瞬時にシャットアウトされた轟音からはみ出した音に顔をしかめる。
レーダーで見ても、前方に巨大な
その上に落ちて、沈没船の沈降速度が下がる。
『ナイスだよっ、ヒデ君! じゃあ……私と合体、しよ? いくよっ! ……変な意味、ないからね? まっ、まだ、ヒデ君とは合体……できない、けど。けど、でも、んと』
「いいからさっさとやれよ!」
『う、うんっ! ドッキングセンサー! レーザー同調っ!』
不意に目の前に、タラスグラールの背中が降りてくる。
肩越しに振り向く鋼鉄の乙女は、ポニーテイルを逆立てながら笑った。その笑みは英友へとウィンクして、そして前を向く。
タラスグラールの背中へと、変形したマリンアークが合体した。
軽く揺れたあとで、コントロール系が全てタラスグラール側の真心へと移る。
こうなれば英友とアーリャは、ただ背負われて見てるだけだ。
『よーしっ、行くよっ! 鉄魂勇者タラスグラール……鋼の乙女はっ、無敵なりっ!』
猛スピードで水中をタラスグラールが飛ぶ。
水圧や抵抗を全く感じず、まるで天空を
優雅に泳いで水中の氷山を駆け上がり、その上に横たわる巨大な船へと手をかける。英友が見るに、それは古い
こういう古い船を集めて、そこに身を寄せ合う人々の
「おいおい、真心! まさかお前っ」
『うんっ! 持ち上げる! ん、はぁ! ……ンギギギッ! ねりゃああああっ!』
奇妙な掛け声と共に、タラスグラールがフルパワーを振り絞る。
水中用の支援メカであるマリンアークが、
徐々に古い航空母艦が、持ち上がる。
恐るべきはタラスグラールの力……そして、そのエネルギー源である真心の『孤性』だ。この人知を超えた奇跡の力でさえ、真心の持つ力の数億分の一なのだ。
「よしっ! アーリャ、周囲のヒーロー達にスピーカーで呼びかけろ!」
「オッケー、ヒデ! ゴホン……あーあー、本日は晴天なり」
「いいから早くしろって! あまり長くは浮いてられねえぜ!」
「引き上げた沈没船の内部に生存者アリ! スケール
一段落して、英友は長い長い溜息を吐く。
気付けば
それを
だが、マリンアークを海面に残して分離したタラスグラールが戦いの空へと浮かんだ。
そう、戦場。
大洋は今、逃げ惑う船団の頭上に空中戦を広げていた。
「な、何だっ!? こりゃ、いったい」
「見て、ヒデ! あそこ、テラセイヴァーが!」
「おおっ、
どうやら難民船団は攻撃を受けたようだ。
そう、空に巨大な浮遊物が唸りを上げている。
ジェットの爆音とも違うし、何かしらの推進装置も見られない物体。
それが乗り物であるとするならば、
完全に遠近感が狂った光景だった。
それは、黒光りする円盤……
UFOとは
「くそっ、また来たのか!
「もぉ、今度は何星人なのっ! 今年に入って三度目よ!」
そう、ただの異星人だ。
毎度
一説には、宇宙怪獣も全て異星人が送り出しているとも言われているのだ。空に浮かぶ城のような円盤は今も、小型の戦闘機タイプを吐き出し続けている。
テラセイヴァーが、サスライダーが、そして多くのヒーロー達が戦っていた。
その戦列に、レスキューを終えたタラスグラールが並ぶ。
「クソッ、何か援護しねえと。ん? 通信? ……ゼオン先輩か!」
『こちらサスライダーだ。マリンアーク、聴こえるか? ……ん? 君か、英友君』
「うす、お疲れ様っす! 俺達に何かできませんか?」
「サストライダーは飛行形態だとどうしても火力不足だ! 俺は引き上げた船の船内捜索に回る。ミサイルで援護してくれ!」
すぐにサスライダーから座標が転送される。
すぐにアーリャがデータをリンクし、
「っしゃ、
「垂直発射システム、対空ミサイルよし! 1番から12番まで、発射っ!」
ビリビリと震えるマリンアークから、真上に向けてミサイルが次々と飛び立つ。小型のUFOをそれぞれにロックオンし、逃げ惑う航跡の先へと喰らい付く。
次々と爆発する空では、タラスグラール達も小型UFOの対処に追われていた。
そして、この光景は何も珍しいことではない。
今、地球圏は異星人に狙われているのだ。
合流しながら陣形を立て直し、難民船団が戦域外へと逃げようとする。
だが、その時……親玉の超巨大UFOから光が伸びる。
一隻の古びたタンカーが、その輝きの中に
「おいおい……マジかよ!」
『いけないっ! また人間をさらう気ね……そんなのっ、私が! このっ、タラスグラールが許さないっ!』
「さらうって? おいおい真心!」
『異星人は人間をさらうの。さらわれた人がどうなるか……それは、まだ、わからないけど。でも、希望を持って今は助けないと!』
まるでデキの悪い特撮映画を見ているように、数十万トン級のタンカーが宙に浮く。まるで光の中だけ、無重力になったかのようだ。
タラスグラールを始めとするヒーロー達が、必死でその周囲に集まろうとする。
だが、小型のUFOが捨て身で襲いかかった。
――そして、
『みんなっ、お待たせっ! 僕に……このっ、
誰もが声のする先を振り返る。
モニターを切り替え拡大して、英友とアーリャも見た。
遥か
それは、間違いなく英友達の同級生……女装した
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