第24話「惨劇の街に沈む」
目の前に今……テラセイヴァーが立っていた。
見上げるその
何より違和感を感じたのは、テラセイヴァーに変身している
「ジョェイ!? なっ、何だぁ!? お、俺がもう一人……新しいヒーローか! 兄弟なのかっ!」
テラセイヴァーも周囲のヒーロー達も、驚きに身を固めてしまう。
ようやく
「ヒデ君っ! 見て! 二体目のテラセイヴァー……よーく、見て」
「ん? あ、ああ……あれは、まさか!」
「うんっ!
よく目を
偽物のテラセイヴァーは、シャオフゥが言った通り機械でできている。ロボセイヴァーというネーミングは言い得て妙だ。そして顔つきも、
身体の
ロボセイヴァーの赤は、もっと黒く濁った血の色だ。
そのロボセヴァーが、周囲を見渡し声を放った。
「ヘシャッ! 大好きな子供達のためっ……今、参上っ!」
そして、再び大地が激震に揺れる。
走り出したロボセイヴァーは、真っ先にテラセイヴァーへと襲いかかった。
衝撃に揺れる中で、
激しい打撃音が響く中、ゆっくりとシルエットが立ち上がる。
もうもうと
「ジャエッ! ぐ、ぐはっ! ……こ、こいつは……偽物だ! 偽テラセイヴァーだ!」
光流の声だ。
そう、やられた方が本物のテラセイヴァーなのだ。
だが、それを
「ヘシェイ! 俺こそが本物のテラセイヴァー!
ヒーロー達は混乱し、動きを止めてしまった。
そして、英友が走りながら叫ぶ。彼の見上げる先で、タラスグラールもしきりに
「タラスグラールッ! 何やってんだ、目付きの悪い方が偽物だ! そいつは――」
言いかけた言葉を飲み込む。
今、マシンダーの名を……
それに、自分もまだ信じたくなかった。
あの、優しかったおじさんが……自分ごと真心を愛してくれた、マシンダーが敵だなんて。だが、彼は言った。最後の出し物だと。それが、偽テラセイヴァー……ロボセイヴァーなのだ。
英友に気付いたタラスグラールが、
「あっ、ヒデ君のえっち!」
「馬鹿野郎っ! くまさんぱんつなんて
「今日はこれ、くまさんじゃないもん! タラスグラールの
「んなこた聞いてねぇ! 前、前見ろ! よく見ろ! どっちが偽物かわかるだろ!」
タラスグラールは驚きに目を丸くした。
「えっ、ヒデ君にはわかるの!? そっくりだよ?」
「あの、目付きが悪くてドス黒い赤のラインが偽物だ、ロボセイヴァーだ!」
「えっと……ど、ぢっちだろ。あっ!」
ロボセイヴァーは次々と、手から光線を発してヒーロー達を倒してゆく。
同時に、よろよろと起き上がる本物のテラセイヴァーから放れない。立ち位置を変えつつテラセイヴァーを攻撃し、
それでも、英友にははっきりとわかる。
まるで、子供向け番組の偽ヒーローだ。
「ヒデ君っ、駄目! 『
「シャオフゥ!」
「無意識の
英友はシャオフゥの言葉を思い出す。
確か、掃除当番中に彼は言っていた。『孤性』、そして『個性』が当たり前になった今、多くの人間が無意識のうちに新しい社会に順応していると。その中で自然と身につけたのが、互いの
次々と仲間のヒーローがやられてゆく中、タラスグラールは
無敵の鉄拳を向けるも、どちらが本物かで中の真心も迷っていた。
「ううう、どっち? どっちが本物のテラセイヴァーなの?」
「今、殴られた方だ! あ、いや、また場所が入れ替わった。
スケールが
最後にロボセイヴァーは、動かなくなったテラセイヴァーを郊外へと放り投げる。遠くで
そして、ロボセイヴァーが不気味な笑みと共にタラスグラールに近付く。
「ヘッシッシ! 最後はお前だ、タラスグラール……俺はよぉ、子供が大好きなんだ……小さなあ! 女の子があ! 大っ、好きっ、なんだよおおおおお!」
瞬時に加速したロボセイヴァーが、空へと逃げようとしたタラスグラールの
ロボセイヴァーは
風圧が舞い上がって、思わず英友はシャオフゥを背に
「くっ、タラスグラール! おいっ、タラスグラール……真心ぉ!」
「うっ、うう……だ、駄目だよ? ヒデ君……正体は、秘密なんだ、から。私は……私はっ!
立ち上がるタラスグラールの
だが、ロボセイヴァーの巨体は難なく左右の拳を跳ね返した。
再合体して、
あっという間に質量差が勝敗を
そう、あまりにも一方的な戦いだった。
ひたすら
「ヘシャアアアア! そう、これだ、これだよ! こういう風に、小さな美少女をなあ……幼女を! いたぶるのが俺は好きなんだあ!」
「まっ、負けない……私が、みんなを……世界を、守、る、から」
「ヘェア! だが……
小さな顔面を片手で
見ているだけしかできない英友は、目を
だが、目を背けてはいけない。
自分が守ると決めた、もう心を決めたのだ。
タラスグラールの、瑪鹿真心の戦いをその目に刻んで、耐える。握る拳の中では、食い込む爪がギリギリと鳴る音が聴こえそうだった。
ロボセイヴァーは哄笑を高鳴らせて叫んだ。
「ヘッシャッシャアアアッ! 小さな小さなタラスグラール、お前は……そのっ、デカい胸が気に入らないんだよぉ! ロリがあっ、小さな女の子がなあ!
パッ、とロボセイヴァーが手を放した。
だが、もう飛んで逃げるだけの力がタラスグラールに感じられない。ゆっくり落ちてゆくその姿は、あまりにダメージを受けすぎた。ところどころひび割れ、あの
「終わりだぁ! テラジュール光線っ! ヘアアアアッ!」
ロボセイヴァーの交差した腕から、
周囲のビル群が、まるでCGのように溶けて消えた。
その中心で落下中だったタラスグラールが、全身を爆発させながら吹き飛んでゆく。
英友は、そして人類は初めて目撃したのだ。
今、あの最強のナンバーワンヒーローが……敗北しようとしている。
それは、グレートポールシフトの大災害を乗り越えた人類の、今の平和な体制の敗北を意味していた。そして、もう英友は知っている。このヒーローが守る
だが、今はタラスグラールのことで胸がいっぱいである。
そんな英友の背を、シャオフゥがグイと押した。
「行って、ヒデ君っ!」
「シャオフゥ、お前……」
「タラスグラールは負けない、負けないよっ! まだ、負けてないっ! タラスグラールの全身は超合金
シャオフゥは泣きながら英友の背をグイグイと押して歩く。
だが、消耗
それでも、シャオフゥは身を震わせて叫ぶ。
「地球圏の、世界の最強ヒーローなんだっ! それは……いつか
その言葉が、真実の
熱く燃える火は、心の奥で
「シャオフゥ……お前は避難しろ。俺は……俺は、真心を助けてくるっ!」
返事を聴きながら、英友は走り出した。
そのすぐ側を、巨大な足音でロボセイヴァーが勝ち誇ったように歩いていた。
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