第26話「激闘!今こそ合体の時!」

 満身創痍まんしんそういで震えながらも、タラスグラールが立ち上がる。

 そのコクピットの中で、天地英友アマチヒデトモ瑪鹿真心メジカマコロと向き合っていた。

 今、自分が守りたい少女がいる。

 世界を背負ったそののために、自分の全てを使いたい。

 無個性むこせいな上に訓練も受けていない、弱くて非力でも覚悟だけは確かだ。


「ヒデ、君……」

「助けに来たぜ、真心! お前は世界とみんなを守れ! そんなお前を、俺が、守るっ! お前の中でだけは、俺がヒーローだ!」


 涙目でうなずく真心が座った、操縦席のシートが上後方へとスライドする。

 持ち上がった座席の下から、もう一つの操縦席が現れた。

 もともとタラスグラールは、複座ふくざだったのだ。真心の母、瑪鹿巫琴メジカミコトからたくされたデバイスが、腕で光っている。コクピットに座れとうながしてくる。

 丁度真心の脚の間に座る形で、英友は現れた座席へと腰掛けた。


「わかる……わかるぞ、マシンダー! やっぱりマシンダーロボと同じだ」

「ヒデ君、タラスグラールのダメージが」

「おう! 何か奥の手があんだろ! アーリャを助けて、あの偽物にせものをブッ壊す! やれるな、真心! いや……やるんだよ! 俺とお前と、二人で!」


 肩越しに振り向けば、スカートの中身が丸見えだ。

 あわてて股間こかんを押さえながらも、真心が強く大きく頷く。

 そしてコクピットのハッチが閉じると、ひび割れたモニターに映像が投影される。右手に握ったアーリャ・コルネチカを突き出すようにして、偽テラセイヴァー……ロボセイヴァーが近付いてきた。

 迷わず英友は、タラスグラールにファイティングポーズを取らせた。

 タラスグラールは全高17.5m、スケールミドルのヒーローだ。

 対して、テラセイヴァーと同質量のロボセイヴァーは、スケールラージ、二倍以上も大きい。


「真心! 使える武装はあるかっ!」

「ん、えと……今すぐ、なら、一つ、だけ」

「よし、まずはアーリャを取り返すぜ!」


 見据みすえるモニターでは今、ロボセイヴァーの手でアーリャが苦悶くもんあえいでいる。

 このままでは彼女は、圧死してしまうだろう。

 すぐに後の真心が、すっと深呼吸して……タラスグラールそのものへと変わる。


「さあ、行くわよ悪党あくとうっ! 鉄魂勇者てっこんゆうしゃタラスグラール……世界の平和を守るため、私は決して負けない!」

『ヘィア! ククク……それだけ壊れてもまだ! 動くのかあ? 新しい属性に目覚めそうだぜえ! ヘッシャッシャッシャッシャ!』


 操縦は今、英友が掌握しょうあくしてフルコントロールしている。

 そして、その全てを真心が後でサポートしてくれた。

 すぐに武装のコントロールがセレクトされ、照準マーカーがモニターに浮かぶ。

 迷わず英友は、タラスグラールを押し出すと同時にトリガーを引き絞った。

 どんな武器が出るかも聞かずに。

 そして、真心の絶叫がほとばしる。


「奥の手、いくわよっ! ブルンバスッ、ミサアアアアアアアイルッ!」


 思わず英友は「へ?」と目を点にする。

 自分が放った攻撃、それはブルンバスミサイル……流体金属りゅうたいきんぞくでたゆゆんといつも揺れてる、タラスグラールの豊かな胸の双丘そうきゅうが突然鋭角的えいかくてきとがった。

 そして、火を吹き左右の乳房ちぶさが射出される。

 いわゆる『』だ。

 近距離で放たれたそれは、白煙の尾を引きロボセイヴァーへと命中した。


「なっ、何だ真心! 今のは、何だっ!」

「ブルンバスミサイル! 胸部きょうぶの流体金属装甲は、いざという時はミサイルにもなるの! さあ悪党、観念なさいっ!」

「なんてもんをつけるんだ、よぉ!」


 だが、効果的だったのも事実だ。

 意表をついた武器に、ロボセイヴァーは爆煙ばくえんの中でよろける。

 即座に英友は、強く前へとタラスグラールを押し出す。

 オイルを撒き散らしながら、確かな足取りで巨躯きょく全力疾走ぜんりょくしっそうした。


「アーリャを、返せええええっ!」

「ヘハァ!? くっ、しまった! まな板娘いたむすめが!」


 英友はタラスグラールをジャンプさせる。

 すでにもう、飛行能力を使えない程にダメージが蓄積していた。それでも、ロボセイヴァーの腕を両手で掴んで、その間へと渾身こんしん膝蹴ひざげりを叩き付ける。

 タラスグラールの細い脚線美きゃくせんびが、爆発と共に破壊音を響かせた。

 コクピットに真っ赤な警告が走る中で、真心が即座にダメージコントロールを行う。彼女は光学キーボードを叩きながら、必死でタラスグラールの機能を維持しようとしていた。

 腕への直接打撃で、ロボセイヴァーがアーリャを落とす。

 すかさず地面へと滑り込んで、英友は繊細な操作でそれを受け止めた。


「無事か、アーリャッ!」

『その声、ヒデね? ……も、もぉ! 遅いんだから! ペチャンコになるとこだったわ! しかも……アイツ、アタシのことまな板って言ったのよ!』

「すまん、アーリャ! あと、まな板は酷いよな……ほんのり微々びびたるふくらみがあるのにな」

『……ヒデ、ブッ殺すわよ? ブン殴ってやるから……さっさとアレを片付けて、戻ってきて! 真心先輩と一緒に!』


 アーリャを地面へそっと降ろして、走っていく背中を見送る。

 そして、再び英友はタラスグラールをロボセイヴァーへと対峙たいじさせた。

 今の一撃は、こっちのダメージの方が大きい。

 ロボセイヴァーは激昂げきこうに声を荒げて近付いてきた。


『ヘシャィ! 手前てめぇ……あ? へ、へへ……胸がなくなったら、いいじゃねえかよお! そのサイズ、真っ平らな胸! そして……メカバレしたグッチャグチャな顔!』


 すかさず真心が叫び返す。


「今の私は、この身がどうなろうと戦うっ! さあ、かかってきなさい!」

『言うじゃねえか……そのズタボロな状況で、ヘハァ! じゃあ……楽しませてもらうぜえ!』


 踏みつけるように繰り出される、蹴り。

 それを回避すれば、タラスグラールが先程より何倍も重く感じた。

 動く度にぐらつき、振動の中で自壊じかいしてゆく。

 損傷が激しく、自分が動くことで発生するパワーが自分を壊していった。

 だが、不退転ふたいてんの決意で英友はタラスグラールを操った。

 自分の背に今、守りたい女の子がいるのだ。


「真心っ! 他に何かねえのか! 超必殺技ちょうひっさつわざとか、奥の手とか! 切り札とか!」


 その言葉に答えたのは、小さなウィンドウとなって浮かぶ巫琴だった。

 星立せいりつジャッジメント学園の学園長として、今はサングラスをしている。だが、その奥で母親としての瞳が涙をたたえていた。

 真心には厳しいが、巫琴もまた戦っていた。

 ヒーローと一緒に地球圏を、世界を守るため……多くの人間が今この瞬間も、戦っているのだ。


『ヒデちゃん、真心! こうなったら……!』

「がっ、合体? え、いや、ちょ……おばさん! おっ、俺と真心はまだ」

「了解っ、学園長! ……見せてあげるわ、ロボセイヴァー! 私の真の力を!」

「おい馬鹿、真心っ! なりきるのもいいけど、お、俺は!」

「いくわよっ! てっこんがったい! タラスグラール、フルパワー!」


 叫ぶと同時に、真心が苦しげにうめいた。

 彼女が前屈みに、胸を抑えて震える。

 その背では、まるで生き物のように伸縮しんしゅくを繰り返しながら……あの赤いケーブルがおどっている。まるで、真心の全てをしぼり出して吸い尽くそうとしているようだ。

 そして、タラスグラールにかつてない力がみなぎってくる。

 英友の目にも、表示される数値が全て回復し、通常時を上回っていくのがわかった。


「真心、これは……」

「ヒデ、君……ん、ああっ! はぁ、はぁ……クッ! ぁ……が、合体、しよ? 私と、一緒に……合体」

「……わかった。それで奴に勝てるんだな?」

「うん……グッ! あああっ! は、早く……お願い、ヒデ、君」

「鉄魂合体……このレバーか!」


 かつてない高出力で、タラスグラールがふわりと浮かび上がった。

 そして、英友は合体レバーを全力で下ろす。

 ロボセイヴァーも戸惑とまどう程の、金切り声。悲鳴となげきのように響く駆動音の中、タラスグラールはポニーテイルにっているリボンをほどく。怒髪天どはつてんを衝く黒髪が、炎のように燃え出した。

 そして、三方向から支援メカが飛んでくる。


『ヘァウ!? な、何が……手前ぇ、やらせねえってんだよ! ――!?』


 すかさずロボセイヴァーが襲い来る。

 だが、合体のすきを守るように、光の戦士が立ちはだかった。

 鏑矢光流カブラヤミツル、本物のテラセイヴァーだ。


『ジョア! させねえ! 子供達の未来、そいつを世界ごとタラスグラールが守るってんならあ! 俺が、その合体を守るっ!』


 ロボセイヴァーは恐らく、AIエーアイ制御だ。だから、『孤性ロンリーワン』や『個性オンリーワン』を持つゆえ認識透過能力にんしきとうかのうりょくを持たない。そして、それは木星圏もくせいけん火星圏かせいけんに追いやられた、無個性の棄民きみん達が作った兵器なのだ。

 当たり前のように合体を邪魔しようとするロボセイヴァーが、追いすがるテラセイヴァーを吹き飛ばした。だが、そんな中でタラスグラールの周囲を、グランドアーク、マリンアーク、スカイアークが囲む。


「いくわよっ! ドッキング・フォーメーション!」

「おっしゃあ、合体! ……大丈夫か、真心?」

「私は平気っ! たとえこの身が裂けて、血にれても! 愛する人と一緒に、合体する!」


 真心は顔が真っ赤だった。

 そして、三機の支援メカが複雑な変形をしながらバラバラに分離する。そして、あっという間にタラスグラールを包んで鋼鉄の巨神へと変貌へんぼうさせた。

 ――降臨、正しく戦の女神アテナの化身にも似たその姿。

 二倍近い巨体になって、最後にタラスグラールは手にするリボンを放る。

 それは戦乙女ワルキューレ彷彿ほうふつとさせるかぶとに姿を変え、両手でつかんでタラスグラールが装着。美少女の多彩な表情を破壊された顔を、白いフルフェイスのマスクが包んだ。

 冷却ガスを白く煙らせ、荘厳なるトリコロールの女神像が誕生した。

 巨大ロボットへと合体した姿を見て、ロボセイヴァーが悲鳴をあげる。


『きっ、聞いてないぞお! こっ、これは……なんだっ、お前はっ!』


 英友は迷わず、システムがオールグリーンになるのを確認して叫ぶ。


「これは……こいつはっ! 俺の、俺のぉ! 彼女かのじょっ、だあああああっ!」


 そう、英友の恋人……自分が彼氏であるために、真心を彼女として守りたい。二人の願いが結晶と化した最強の姿がそこにはあった。

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