第14話「湯の音に打たれて」
初恋の
彼女は『
同時に、やはり初恋のままの少女だとも思う。
「しっかし、驚いたな…真心、気合入ってるじゃねーか。いい根性だぜ!」
独り言が
ここは瑪鹿家の風呂場だ。
しかも、
熱めの湯に使って、英友は疲労が溶け消える中で天を
「……あいつ、毎日こんな特訓してんのかな」
最初は、地球圏最強ヒーローという言葉と、必死で
だが、違った。
同時に、同じだった。
瑪鹿真心という少女は、天地英友と何も変わらない人間だったのだ。
「ちょっと、真心に礼を言わねえとな」
「……ホント?」
「ああ。今度なんか、安くて
「うれしい、な……私、沢山食べちゃう、けど」
「腹ペコキャラだもんなー、お前……って、えええええ!?」
振り向けば、すぐ側に真心が立っていた。
全裸で。
申し訳程度にタオルで前を隠している。
恥ずかしくなるくらいに直視してくるのだ。
だが、背後からの声に彼女は振り返る。
「真心先輩、すっごいお風呂ですね……あ、
「ほらほら、アチャチャちゃん、入った入った!」
「ちょ、あのっ!
「んもぉ、
裸体の美女と美少女とが、こっちに向かってくる。
そのシルエットだけでも、はっきりとわかる。
アーリャは確か、東ロシア帝国から来たと言っていた。その肌は白く、ツインテールを解いた金髪は朝日を浴びた
そして、真心の母の巫琴は、大人の色気がムンムンのムッチリボディだ。
突然のことで、英友は思考が停止してしまう。
そのまま彼は、湯船から脱出不能な状態になってしまった。
「って、ちょ、ちょっと! ヒデ、何でアンタがここにいるのよっ!」
「いや、その……スンマセン。って、俺が悪いのか? なあ!」
「オーッホッホッホ、ヒデちゃんも今日は頑張ったから、おばさんからご
「そ、そうなんですか? ……そう、なんだ」
おい待て。
突っ込め、
そんなの伝統でも文化でもない。
あと、お前は旧世紀の
昔から英友はこの、星の海を閉じ込めたような
「な、何だよ……」
「ヒデ君。今日、ありがと……凄く、嬉しかった」
「ああ? 気にすんなよ。へっ、俺もパイロットとしてならヒーローになれるかもな! お前から3本も取ったぜ!」
「うん……
「そっか、そりゃよかった。まあ3勝29敗だけどな、俺ぁ」
「……日課の、トレーニング……楽しかったの、初めて、だよ?」
そう言って、湯船の英友に真心は屈み込む。
自然と英友は、目線の高さに
「ヒデ君、上がって? 私、背中、流したげる、ね。遠慮、しないで」
「いや! いやいやいや! 待て、待つんだ! おいクラス委員長! この馬鹿を止めろっ! ……アーリャ? なあ、アーリャ」
振り返れば、頼りになるクラス委員長の姿はそこにはなかった。
彼女は洗い場の方で、巫琴と女子力の高い会話に花を咲かせている。
「すっごい……シャンプーもボディソープも超高給品です! やだ、ブルジョア……」
「ささ、こっちおいでおいでー? おばさんが髪、洗ったげる」
「あ、いや、それは
「遠慮しないの!
「その、すみません……」
「なーに暗くなってんの! って、すっごい綺麗な髪ね。サラサラ……肌もつるつる」
「ひぁう! ちょ、ちょっと、学園長、あの!」
「だーめ、おばさんて呼ばないと。はい、シャンプーしましょうねー」
何ていうか、湯気で見えないのが逆に……エロい。
そうこうしていると、だんだん英友ものぼせてきた。とりあえず、一時期は
ガシリ! と遠慮なく真心は手を握ってきた。
「こっち……」
「待て、引っ張るな!」
「えっと、ママが……言ってた。日本の、伝統。マットを、
「違うっ、違うぞ真心! それは違う!」
「……わかった。じゃあ、普通に背中、流す」
「お、おう。……って、あれ?」
その時、英友は見た。
真心の白い肌、黒髪が揺れる背中に……はっきりと赤いケーブルがぶら下がっていた。それは風呂場の外の脱衣所へと伸びている。
英友に見られているのに気付いたのか、そっと真心は長い髪をたくしあげた。
「……な、なあ、真心。それ」
「ん、ヒデ君に、なら……見られても、いいよ? これは、私の……私の、生命線」
「お前……え、これ、痛くないのか?」
「大丈夫。触っても、いいよ?」
「え、いや、その」
ほっそりとした
まるで、機械の電源ケーブルである。
肩越しに英友を見下ろす真心は、真顔で
「……触って」
「えっ?」
「ヒデ君は、おっぱいとか、お尻が好きかも、だけど……」
「いや、それは否定できないけどさ!」
「ちっちゃい頃から、ヒデ君……おっぱいが好き。男の子ってでも……でも、こういうのが、好きなん、でしょ?」
「ち、ちげえよ!」
そうは言いつつ、震える手でそっと触れてみる。
やはり、赤いケーブルは
どうにも理解不能だが、これが真心の『孤性』の秘密なんだろうか?
そうこうしていると、不意に鼻がむず
「へっ、へっくし! 湯冷めしちまう……あのな、真心」
「う、うん」
「俺はもう、頭も身体も洗った。全部洗ってから湯船に入るだろ、普通」
「……うん」
「おい、何ですげえ残念そうな顔してんだよ」
ずっと真心は無表情だ。
それでも英友にはわかるのだ。
表情のない真心の顔に浮かぶ、彼女の気持ちを読み取るのは得意である。
「……じゃ、じゃあ、俺がお前を、洗ってやっから、よ。せっ、背中だけな! 背中流すだけな!」
「ホント? いい、の?」
「男に二言はねぇぜ! さっさと洗って湯船に
「うん……うんっ!」
洗い場で椅子に真心を座らせ、そのなだらかな背をスポンジで
真心の背を流しながら、やはり先程のケーブルとコネクタに触れてしまう。
まるで、彼女とタラスグラールをつなぐ血管……いや、へその
「そういやさ、真心。タラスグラールの名前って」
「
「……何か、ちょっとエロくねえか? そっか、じゃあこのケーブルはやっぱ」
「へその緒、みたいな?」
「それより、何でウタラスグラールじゃねえんだ?
「うん……
「まだ? っと、おいおい、何だよ!」
突然、背後から英友の背に泡が触れてくる。
「ふっ、振り向かないで! 振り向いたらアタシ、蹴っ飛ばすからね!」
「アーリャ、あのな。別に無理しなくても」
「むっ、無理してない! 無理じゃ、ない……ア、アタシも背中、流したげるから」
真心の背を流しながら、アーリャに背を流される。
そうしてちょっと離れて湯船に浸かる頃には……勝手に巫琴が夕食を全員で食べるべくメイドに指示を出していた。こうして英友は、アーリャと一緒に瑪鹿家の
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