第13話「特訓!瑪鹿真心の決意と覚悟!」
同級生のアーリャ・コルネチカを背負って、
赤いケーブルはするすると、高級住宅が並ぶ
「ね、ねえヒデ……その……お、重く、ない?」
「ん? いや、軽い軽い! お前さ、ちゃんと飯食ってんのか? 軽過ぎだろ」
「しっ、失礼ね! ……い、いろいろあんのよ。女の子には」
「めんどくせーな、女はさ! っと、どっちに行った?」
周囲は皆、庭付きの
この区画は、巨大とはいえ土地が限られている
真心のケーブルは、ここにたどり着く直前に見失ってしまった。
「えっと……参ったな」
「とりあえず、下ろして。歩くだけなら平気だから」
「おう」
ゆっくりアーリャを背から下ろして、英友は周囲をキョロキョロと見渡す。
はっきり言って、落ち着かない場所だ。
英友は
逆にアーリャは、全然気にせず進もうとする。
そんな時、不意に英友は聞き覚えのある声に振り返った。
「ヒデちゃん? ヒデちゃんよね。やっぱ実物見ると……すっごく、イイ男になったじゃない!」
二人の背後には、散歩中の犬を連れた一人の
「あたしよ、あたし! ほら!」
美女は胸に引っ掛けていたサングラスをかけて、それを
そして、サングラス姿を見てアーリャもようやく理解する。
「がっ、学園長っ! あ、あの、すみません!
「そうです、あたしが
大きなシベリアンハスキーを連れた巫琴は、ニヤリと笑って英友に迫ってきた。思わず気圧され仰け反れば、肘でうりうりと小突かれる。
「ヒデちゃん、やるじゃない。何? どっちが二号さん?」
「……は?」
「いいのよ、そういうのって男の子の
「な、何言ってるんですか! アーリャはそういうのじゃないですよ、真心だって」
「あらぁ? ほんとにー? 二号って結構いいのよ? 二号ロボや二号ライダーの方が強いでしょ、アニメでも特撮でも」
どこまで本気なのか、意味深な笑みで巫琴は楽しそうだ。
いじられまくっている英友は、助けを求めるように視線をアーリャへ向ける。だが、アーリャは耳まで真っ赤になってそっぽを向いてしまった。
「とりあえず、うち来る? あがってきなさいよ」
「え、じゃあやっぱりこの大豪邸って」
「そうよ、昔いたあの町から引っ越してきたの。さ、こっちよ、こっち!」
軽快な足取りで、巫琴は巨大な門の方へと進む。
おずおずと英友達が続けば、開門の音が響いた。
「お茶くらい飲んできなさいよ。だってぇ……ヒデちゃん、あたしの息子になるかもしれないんだし? あ、それとも……真心のお父さんになるって手もあるわよぉ?」
「え、いや、それは」
「ま、こんなおばさんじゃ嫌よね」
「ってか、あの、おじさんがいるんじゃ……あの日から行方不明だって」
「そ、お陰であたしも
どこまで本気の言葉か、まるでわからない。
あうあうと半分パニックになっているアーリャを連れて、
まるで別世界だ。
そして、堂々と巫琴は犬をメイドに預けて歩き続ける。
「三年前、グレートポールシフトで地球の地図はガラリと変わっちゃって……あの時は何億人も死んだわ。あの人も……
瑪鹿誠、それが真心の父の名だ。
英友の心のヒーロー、マシンダーその人である。
そして、そんな地球圏の
「そだ、ヒデちゃん。役に立ったでしょ? マシンダーの教え、マシンダーロボの操縦ごっこ!」
「ええ、まあ……あ、そうだ! あの、聞きたいことが」
それに巫琴が乗るので、アーリャと一緒に続いた。
エレベーターは地下へと、音もなく静かに降りてゆく。
「あの、おばさん……真心って本当に『
「んー、どして?」
「タラスグラールも、それを支援するメカも……『
チン! とベルが鳴って、地下深くでエレベーターのドアが開く。
その先には、今までの
まるで秘密基地……行き交うメイドこそ上と同じ服装だが、メタリックな壁や天井が何かの研究施設を思わせる。恐らくタラスグラールや各種支援メカを整備する場所なのかもしれない。
巫琴は「こっちよ」と笑って足取りも軽く歩き出した。
「真心は間違いなく、『孤性』を持ったヒーローよ? それも、凄く特別な『孤性』をね」
「じゃあ、なんで……」
足を止めた巫琴は振り向いた。
そして、英智をじっと見詰めて……突然抱き付いてきた。
変な声が出てしまって、アーリャの悲鳴も聴こえる。
「あ、あの、おばさん」
「ああ、これ? これがあたしの『個性』、触れた人の疲労や怪我、病気を治すのよん? もっとも……『孤性』ではないから、せいぜいビタミン剤や栄養ドリンク、
「は、はい……えと、あと……アーリャです。アーリャ・コルネチカ」
学園長だから顔と名前は全員覚えてる、そう言いつつも巫琴の記憶は不正確だった。そして、突然説明されつつ実際に使われた『個性』の仕組み。
この時代、誰もが持つ当たり前の力……それが『個性』だ。
「ま、見てもらった通りあたしの『個性』は
「ああ、変身したりとかしますもんね」
「そそ、他には強力な
再び歩き出した巫琴は、一番奥の部屋へと入っていった。
そこでは、ゲームセンターの
そして、メイド達が見守る中……バシュン! と機械の一つが開く。
中から現れたのは、汗だくで疲れきった真心だった。なだらかな肩を大きく上下させ、荒い呼吸で空気を
「真心、ヒデちゃん達が来てるわよん?」
「……あ、あれ? ヒデ、君……それと、えっと……アクエリアス、さん」
「アーリャです! もぉ、親子
アーリャの声に顔をあげて、ポニーテイルを揺らす真心。大粒の汗がポタポタと、冷たい金属の床に零れ落ちていた。先程ランニングしてた時と同じ格好だが、彼女は立つことができない。
いつもの無表情も、英友には切実なものに見えた。
だが、巫琴は
「で? 真心、どうするの? まだ続ける? ヒデちゃん達が来たから……今日は日課、やめる? どっちでもいいわよ、選びなさいな」
「……やる。ママ、続きを、やるから……ヒデ君と、えと、アリーナさんと」
「わかったわ。久々に若い子と遊べるなんて、ふふ。おもてなし、大サービスしちゃうわよん? じゃ、シミュレーション頑張って
「……うん」
やはり、真心は特訓をしている。
日課というからには、恐らく毎日。あの大型筐体は、タラスグラールのコクピットを再現したシミュレーターなのだろう。
よろよろと真心が立ち上がる。
思わず英友は駆け寄って、自分より長身の少女を支えた。
「ヒデ、君? あ、あのっ、私……今、汗かいてるから。……汗臭い、から」
「いいから、ちょっと休め! お前、ボロボロだぞ?」
「休ま、ない……日課、だから。みんなを守る、ヒーロー、だから」
そっと弱々しく、真心が英友を手で押しやる。やんわり遠ざけられたが、英友は引き下がらなかった。
ケーブルを引きずりシミュレーターに歩く真心に先んじて、その隣の筐体を解放する。やはり、無個性でも動くメカニズムばかりが使われていた。
「真心! お前、どんな特訓してんだ?」
「……
「っし、じゃあ今から俺が相手になってやる! 特訓、付き合ってやるぜ!」
「! ヒデ、君。付き合って、くれるの? 付き合うの?」
「ああ」
「私と、付き合って、くれる……えと、幸せに、してね? 私、元気な子、沢山、産むから。付き合って、最後まで、
「いいからシミュレーターに入れって。アーリャ! ちょっと手伝ってくれよ」
アーリャもメイド達に混ざって、システムの調整やデータの整理を始めてくれた。それを腕組み見守る巫琴の表情は、相変わらず悪戯を
英友はそう思ったから、シミュレーションの相手として
地球圏最強のヒーローロボ、
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