第6話「新しい日常」
それで英友は、朝から
「クソッ、真心め……あの野郎。まあ、野郎じゃないけど」
ようやく訪れた昼休み、英友は机の上に突っ伏す。
授業中ずっと、視線を感じていた。
その渦中にいる英友は、たまったものではない。
最強ヒーロー、タラスグラールのパイロットこと
ぐったりしているとすぐ、
「ヒデ君、大丈夫? あの、お昼だけど……」
「あー、平気だ。よし! 一緒に食おうぜ」
「うんっ!」
男子にしておくのがもったいないくらい、シャオフゥの笑顔は
だが、英友が朝にコンビニから買ってきたパンを出した、その時だった。
不意にトントンと肩を指で叩かれた。
振り返るとそこには、ピカピカオデコの
「ヒデ! ……彼女先輩、来てるわよ」
「……は?」
「は、じゃないでしょ! つっ、つつ、付き合ってるんでしょ! 告白されたって」
「いや、それは一方的に。えっと……うわっ」
思わず英友は変な声が出た。
出入りする誰もが、
そこには、教室のドアにしがみつくようにして中を覗き込む、真心の姿があった。彼女は身を隠しているつもりらしいが、無表情でじっと英友を見てくるのだ。
そして、目が合うとさっとドアに隠れる。
正直、ちょっと怖い。
整った
「おーい、真心! お前、何だ? 用があんならこっち来い! ったく」
「ちょ、ちょっとヒデ! 先輩に失礼よ! だって、タラスグラールの人でしょ?」
「ああ、そうだぜ。んで、俺の幼馴染」
「恋人じゃなくて?」
「だから、そりゃ一方的にそう言われただけだって! あーもぉ!」
ズンズカ英友はドアのところまで行って、ガシッと真心の手を握る。彼女は大きな
何だか真っ赤になってしまった真心を、そのまま教室まで引っ張ってくる。
彼女はもじもじとしながら、小さな声でようやく喋った。
「あ、あの……英友君と、お昼……お弁当、食べようと、思って……駄目?」
「あぁ!? いいに決まってんだろ。こいつらも一緒だ、ちょっと机並べようぜ」
すぐにシャオフゥが机と椅子を持ってきて、どういう訳かアーリャまで並んだ。
彼女の背にはやっぱり、長いケーブルが教室の外まで続いていた。
だが、ここは様々なヒーローが暮らす学園である。普通じゃない人間の方が多いくらいで、ここの標準科の少年少女だけが特別に普通なのだ。
「英友君、これ……お弁当、作ってきたの」
「お、おう。悪ぃな、真心」
「ううん……た、食べて」
「サンキュ、って……また、デケェ弁当箱だなオイ」
真心は「みっ、皆さんも」としどろもどろに
そして、風呂敷包みの中から
真心は人数分の皿を用意して、料理を取り分けてくれる。
「あ、紹介すんぜ。これ、幼馴染の真心だ。こっちはシャオフゥとアーリャ。俺のダチだ」
「よっ、よろしくおねがいしまびゅ!」
「
「あ、あの、瑪鹿先輩……そんな緊張しなくても」
タラスグラールのパイロットの時は、あんなに
だが、彼女は周囲の好奇の視線を浴びつつ、昼食を食べ始める。
そして、よく食べる……あっという間に、重箱の一つが空になった。
「お前……すげえ食うな。何か、病弱なイメージあんだけどよ」
「おっ、お腹、空くから……さっきも、ちょっと、出撃してきたから」
「おう。お疲れさんだな。ま、食え食え」
その頃にはもう、女子力の高い弁当箱を突きながら、シャオフゥが携帯電話をいじっている。この時代、『個性』のない人間が扱える機種はない。なので、随分とクラシカルなガラパゴス携帯である。
一応はネットワークへの接続機能があるので、彼はニュースを検索していた。
「本当だっ、インド洋でタンカーが火災……今、学園はオーストラリアに向かって太平洋だから」
「ちょ、ちょっと飛んで……行ってきました」
「あっ、タラスグラールって長距離や高機動での飛行用に、合体モジュールありますよね!」
「えと、うん……スカイアーク、かな」
「空用のスカイアーク、陸での整備や大量輸送用の大型トレーラー、グランドアーク、あとは出番が少ないようで割りと重要な潜水艦のマリンアーク、ですよねっ! ねっ!」
シャオフゥはヒーローが大好きで、その研究に余念がない。
彼のキラキラした笑顔に、グイグイと押されて真心がどもりっぱなしだった。だが、すっかり仲良くなったみたいで少し嬉しい。シャオフゥがノートをめくりながら話し、真心も一生懸命答えている。心なしか先程より、緊張感がいくぶん
そんな二人を見やっていると、アーリャが
「……で? ヒデ、どこまで進んでんの?」
「は?」
「瑪鹿先輩との関係よ。幼馴染で最強ヒーロー、しかも超美人……ちょっと変な人だけど。このスペック、太刀打ちできない感じ」
「いや、昨日再会したばっかだから。進展もなにも……ってか、そもそも恋人同士じゃねーし」
瞬間、カランと真心が
その目が、真顔のままみるみる
「まっ、まま、待て真心! 泣くな、違うんだ! ほら、俺が言いたいのは、あれだ! まだ恋人同士っぽいことしてねーなって。な? なっ?」
「……うん。してない。じゃあ、今日は……一緒に、帰る、ことに、する」
「あ、ああいいぜ! バッチコイだ! ……ふぅ」
それで真心はホッとしたのか、
英友もお手製弁当に
「あ、そう言えば……あの、瑪鹿先輩」
「ん、えと……真心、でいい、よ? 真心って、呼んで」
「いいんですか? じゃあ、真心先輩っ! あの、教えてください……真心先輩の『
確かに、シャオフゥの字がびっしりなノートで、そこだけが
ヒーローの『孤性』も、一般人の『個性』も、タイプがある。自身に作用して身体能力や五感を上げるタイプ、物理法則を無視して火や雷を発生させるタイプなどだ。他にも、三年の
だが、確かに英友も知らない。
幼い頃は毎日一緒だったのに、真心の『孤性』を知らないのだ。
「私は……えと、ちょっと、珍しい、みたい。これが、必要な……力、だって」
真心は、足元から赤いケーブルをそっと拾い上げる。
ずっと教室の外まで続く、恐らく今もタラスグラールに接続されているであろうものだ。太さは3cm程で、
それは、制服の下で肉体に直接接続されていると彼女は語った。
「へえ、何だろう……真心先輩は強化タイプなんでしょうかね。タラスグラールの操縦って、激しいGがかかるし、高い反応速度も求められるし」
「ん、そこは、ちょっと……えと、秘密、です」
「あ、ごめんなさい! 僕、嬉しくてつい。でも、いつもタラスグラールに憧れますよ。かわいいし、格好いいし……僕もあんなヒーローになれたらなあ、なんて」
にっこり笑うシャオフゥに、照れたように真心が
二人共、全く別種のかわいさがあって、思わず英友も頬が緩む。それは隣のアーニャも同じようで、珍しく優しい表情をしていた。その横顔を見詰めていると、気付いた彼女はツンと澄まし顔を作る。
「な、何よ……ちょっとヒデ、ニヤニヤしないで
「いやあ、委員長もそういう顔すんのな。いいぜ、いいんだぜ……へへっ」
「これは、その! ほら、シャオフゥが、ちょっと、えと……お、おねショタみたいで……いいなあ、って」
「ん? 何だ、そのおねショタって」
「なっ、何でもないわよ! ほっといて!」
プイとアーリャはそっぽを向いてしまった。
何が何だか、と苦笑してると……真心がじっとりと視線を注いでくる。
「あ、あの、英友君……その子……ヒデ、って」
「ああ、それな。俺ぁ前から仲間内じゃヒデだけど……真心?」
「えと、アリャリャさん?」
「アーリャです! アーリャ・コルネチカ」
「ご、ごめん……ええと、アリャマーさん」
「……瑪鹿先輩、わざとですよね? 狙ってますよね!」
「ごめん、なさい……でも、ヒデって。何か、仲良し、っぽい、なって」
英友は思った。
地球圏最強ヒーローの、その中の人は……どうしようもないポンコツだと。そして、思い出す。いつもベッドでぼんやりしてて、ずーっと無感動で無表情。そんな彼女の家で遊ぶのが、英友は好きだった。そのことを今、はっきりと思い出した。
もじもじする真心に、思わず
「お前もそう呼べばいいじゃねえか」
「う、うん……じゃあ、ヒデ、君」
「おう」
「ヒデ君」
「ああ」
「ヒデ、君っ!」
「だから何だよ、お前なあ」
彼女だ恋人だのは、正直よくわからない。だが、再会した真心は昔のままの、物静かでちょっと変で、感情表現が壊滅的に下手で……そして、綺麗な女の子なのだった。
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