toward the happy end with AMAKUBO 【1】

7月4日(火) きゅうりをかじりながら

昨日の花畑さん@異世界からの手紙は研究所にセンセーショナルを巻き起こした。

けれど、一番ショックを受けているのは天久保さんに違いない。

だって、転移先での消息をずっと心配していた妹のはるきさんが、魔王と結婚したなんて情報が入ったんだもの。


肩を落として会議室を出て行く昨日の後ろ姿は、とても声なんてかけられる雰囲気じゃなかった。

でも、このまま腫れ物に触るみたいに距離を取るのも嫌だ。

せっかく食事に行って、はるきさんと重ねられているとは言え距離を縮められたんだもの。

こないだはパンフレットの件で助けてもらったし、次は私が天久保さんのために何かしなければ、と思った。


今日の昼休み、研究室を覗いてみたけれど姿がなかったので、吾妻チーム長の畑の方へ行ってみた。

梅雨時とは思えないほど強い日差しの中、木陰をつくるキウイ棚のベンチに、吾妻チーム長と並んで座る天久保さんの姿を見つけた。


近づいていくと、天久保さんと吾妻さんは畑で穫れたばかりのきゅうりをぽりぽりと食べていて、「梅ちゃんも食べっか?」と吾妻さんに差し出された。

吾妻さんがベンチを譲ってくれたので、ドキドキしながら天久保さんの隣に座ると、

「穫れたては抜群のみずみずしさだよ」といつもどおりの穏やかな様子で天久保さんが微笑んだ。


いつもどおりに振る舞おうとしている天久保さん――。


でも、それはきっと無理をしているだけなんだ。


そう思った私は、ぱきっとクリアな音を立ててきゅうりを一口かじった後に切り出した。


「昨日の花畑さんからの情報……。やっぱりお兄さんとしてはショックですよね?」


きゅうりに白い歯をあてていた天久保さんは、口を離して俯いた。

「いきさつがさっぱりわからないし、花畑君の報告だけでは現実感がまったくわいてこないけれど……。はるきが魔王の元で無事なのか、幸せなのか、それが気がかりだよ」

土の上に視線を落としたままでそう言った。


はるきさんのことを、こちらの世界から知る手立てはない。

ううん。手立てがなかったら、作ればいいんだ!

そう思った私の頭に、ある考えが浮かんだ。


「花畑さんあてのDVDに、はるきさんに宛てた手紙を同封してみてはどうでしょう!?」


花畑さんは、リルリルフェアリルの続き見たさに、異世界に散らばって転移したDVDを集めていくはず。

DVDと一緒に入れておけば、きっと花畑さんの手元に手紙が届くだろう。

律儀な彼のことだ、手紙を受け取ったらはるきさんに渡す方法をなんとか考えてくれるに違いない。


私がそう説明するうちに、地面に落ちていた天久保さんの視線がゆっくりと上がり、私と目が合った。

「そうだね。花畑君の一縷の望みを託した手紙はちゃんとこの研究所に届いた。

僕だって何もできないと嘆くんじゃなくて、一縷の望みを託す手紙を書くことくらいはできるはずだよね」


この瞬間の彼の笑顔――。

それは無理に笑った感じじゃなくて、薄茶色の瞳の中にしっかりと希望を宿しているように見えた。


「ありがとう。ひまりちゃん」


そう言ってから、天久保さんは大きな口を開けて、ぱきっときゅうりをかじり、美味しそうにぼりぼりと音を立てた。

その横顔を見ながらドキドキした。


初めて天久保さんに下の名前で呼ばれた!!(//∇//)


いつまでも天久保さんの隣に座っていたくて、吾妻さんに勧められるままにきゅうりを5本も食べた私。


利尿作用で午後はしょっちゅうトイレに立つはめになったけど、おかげで天久保さんの笑顔を隣でしばらく眺めることができたんだもの。


ビバ!きゅうり!!


天久保さんの書く手紙、はるきさんの元に届くといいなぁ……。


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