toward the happy end with GORIEST 【3】

7月14日(金) 消えゆくジャングル臭

この一週間はいろいろあったようでいて、今日まで何も進展しない一週間だった。


天久保さん達災害転移研究チームは引き続きゲリラ豪雨転移の分析や取材対応で忙しそうだったし、私もマスコミの調整に追われていた。

しかも、木曜日に県内の高荻市で花畑さんからの手紙が見つかったと連絡が入り、そこでまた所内が慌ただしくなった。


そんな中、松代さんは先週金曜日の出来事に全く触れることはなく(足の怪我の心配はしてくれたけれど)、おまけに火曜日は珍しく有給休暇を取って仕事を休んだ。

仕事を休んで何をしていたんだろう、加奈子さんと会ったんだろうか、もしかして寄りを戻したんだろうか、なんて良からぬ方向のことばかり考えてしまって悶々とした。


そう。


松代さんが加奈子さんと寄りを戻すのは、私にとって良からぬことなんだ。


この一週間、自分が発した言葉の意味をずっと考えて出した結論。


私は松代さんに好意を持っている。

天久保さんへの気持ちと同じくらいか、それ以上に。


水曜日に出勤した松代さんはいつも通りな感じだった。

ううん。

正確に言うと、いつもと一つ違うところがあった。


あのジャングル臭が弱くなっていたのだ!


さらに二日が経った今日。

ジャングル臭はますます弱くなっていて、森林系コロン本来の爽やかで落ち着く香りがほのかに漂う程度になっていた!!(゚д゚lll)


何!?この変化!!


臭いの変化が松代さん自身の状況の変化を暗示しているようで、私はさらに悶々とした。


そんな中、午後に天久保さんから自販機の並ぶ休憩コーナーに呼び出され、話を聞いた。

なんと、天久保さんは妹のはるきさんにあてて手紙を書いていたらしく、その返信が高荻で見つかった花畑通信に同封されていたとのこと。

花畑さんの代筆で天久保さんにあてられた手紙と、現在のはるきさんの肖像画を見せてもらった。


「当たり前だけど、はるきとひまりちゃんは全然違うよね。

大人になったはるきを想像できなくて、僕が勝手に作り上げたイメージをひまりちゃんに重ねていたことに改めて気づかされた。

迷惑だったよね。本当にごめん」


そう言って頭を下げる天久保さんを見て、はるきさんの代役としての自分の役割は終わったんだな、って感じた。


──寂しい?

天久保さんとそれ以上のつながりが欲しい?──


“これからは、妹としてじゃなく、私と向き合ってもらえませんか”


頭の中に一瞬浮かんだ言葉は、すぐにかき消された。


違う。

向き合ってほしい、私がそう願っているのは、天久保さんに対してじゃない。


「ハルキさん、自分の足でしっかりと人生を歩んでいる強い方なんですね。

私も見習わなくっちゃ!」


代わりにそんな言葉が口をついて出た。


待ってるだけじゃダメなんだ。

ちゃんと伝えなきゃダメなんだ。


仕事上がりに飲みに行く約束をしていた笑香に急遽キャンセルの連絡を入れて、松代さんに話したいことがあると伝えた。


「僕も梅園さんに話があったんだ」って言われて、また良からぬ方向の妄想で不安になったりしたけれど、自分の思いはきちんと伝えようと決心した。


仕事を終え、珍しくマイカー出勤していた松代さんの車に乗せてもらい筑穂山つくぼさんへ。

以前ならば車の中にジャングル臭が充満して窓を開けずにはいられなかっただろうに、森林系コロンの香り漂う車内にまたしても不安が募る。


加奈子さんが体臭ケアでもしてあげたんだろうか(やっぱり柿渋石鹸で!?)。


山の中腹、夜景の見える場所に車を停めて外へ出た。

私が話を切り出す前に、松代さんの方から話し始めた。


まず、加奈子さんの突然の出現で私を驚かせてしまったことを謝られた。

そして、私が松代さんをフォローしたことについて「嬉しかった。ありがとう」ってお礼を言われた。


夢中で言葉にした私の本心は、単なるフォローだと思われているんだ──


そう思ってがっかりしていると、「その加奈子のことなんだけど」と松代さんの言葉が続いた。


火曜日、松代さんは加奈子さんの仕事の休みに合わせて有給を取って都内に住む彼女を訪ね、きちんと話をしてきたとのこと。


やっぱり寄りを戻したのだろうかと絶望的な気持ちになりかけていたその時、思いもよらない言葉が耳に飛び込んできた!


「加奈子には、僕には好きな人がいる、だからやり直すことはできない、ってことを伝えて納得してもらったんだ」


その言葉にハッとして顔を上げると、夜景をバックに松代さんが強ばったような顔で立っていて。


「僕は、梅園ひまりさんが好きです」


はっきりと、まっすぐに、そう伝えられた。


どう答えていいかわからず、一瞬の沈黙。

けれど、自然と出てきた言葉は私の方も直球そのものだった。


「私も、松代純也さんが好きです」


それ以上続ける言葉が見つからなかった。


「先週、梅ぞ……ひまりさんが言ってくれた言葉はすごく嬉しかったけれど、変に期待してはいけないって自分を戒めていたんだ。

けれど、僕のこの気持ちだけは伝えようと決心していた」


その言葉に、思わず涙が溢れてくる。

松代さんが言葉を続けた。


「それを加奈子にも話したんだけれど──

何故か彼女にこう言われたんだ。

“ひまりさんに告白する前に、貴方が毎朝習慣に飲んでいるすりおろしニンニク入りニラネギ生ジュースをやめなさい。

そして三日経ってから告白しなさい” って。

おまじないみたいなアドバイスだなって思っていたけど、そのおかげで僕の気持ちが伝わったのかなあ?」


狐につままれたような顔をして首を傾げる松代さんに吹き出してしまった。


加奈子さん、ありがとう。

心の中でそう呟いてから、私は思いきって松代さんの分厚い胸板に飛び込んだ!


「それは、私がこうすることを加奈子さんが予想したからですよ、きっと」


私の肩を抱きとめた松代さんの太い腕が、躊躇いがちに背中に回ってきた。


「じゃあ、これからもひまりさんとこうしたかったら、すりおろしニンニク入りニラネギ生ジュースはやめた方がいいのかな?」


その質問にくすりと笑いが漏れた私は、松代さんの胸に顔を当てて思い切り息を吸い込んだ。

森林系コロンの香りの中に、僅かに残るジャングル臭を感じて安心する。


「一週間に一回くらいなら飲んでもいいですよ?」


そう伝えると、「じゃあ、週末に二人でジムに行く前に一緒に飲むようにしよう。あれを飲むとスタミナが違うんだ」って嬉しそうな声が頭の上から降ってきた。


ええーっ!?

私までその強烈なドリンクを飲まされるんですか!?


……ってその時は思ったけれど、たまになら付き合ってあげてもいいかもしれない。


だって、少しはジャングル臭が残っていないと私の好きなゴリエストじゃないもんね♡♡♡



(toward the happy end with GORIEST おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転移研究所総務部企画課広報スタッフの私ですが、異世界には転移せずに現実世界で日記を書きます。 侘助ヒマリ @ohisamatohimawari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ