toward the happy end with AMAKUBO 【3】
7月14日(金) こえだちゃんより大切な存在
何から書けばいいのかわからないから、とりあえず順を追って書くことにする!
この一週間、私は蛇の生殺し状態だった。
先週の金曜日に、「妹としてじゃなく、私と向き合ってほしい」って天久保さんに伝えた私。
けれど、天久保さんからはそれについて特に何の返事もなかった。
折しも先週の木曜日に群馬県内で発生したゲリラ豪雨で老人が異世界転移したらしいという情報が入り、天久保さんのいる災害転移研究チームはにわかに忙しくなっていた。
テレビや新聞の取材も押し寄せて、取次役の私も調整に追われてたし、とても天久保さんに返事を催促できる状況ではなくて。
それでも、こえだちゃんを使って転移の状況をマスコミに解説する天久保さんを見る度に、不安と緊張と恥ずかしさと期待がごっちゃになって押し寄せてきていたたまれなかった。
そして、告白から一週間が経った今日──。
異世界の花畑さんから、二回目の手紙が届いた!!
今度は県内の高荻市にある幼稚園の砂場から発見されたということで、幼稚園からの連絡を受けて谷田部さんが直接取りに行ったみたい。
今回は群馬の転移事件のことでも慌ただしいため緊急会議は行われず、私も手紙の内容はよくわからないままなんだけど、夕方に突然天久保さんに休憩コーナーに呼び出されて。
大切な話があるから、今晩時間を空けて欲しいって頼まれた。
告白の返事なのか、はるきさんに関することなのかわからなかったけど、笑香との約束はドタキャンさせてもらい、天久保さんと会うことにした。
先週のように、自転車は駐輪場へ止めたまま、天久保さんの車に乗る。
食事の前に話がしたいとのことで、
山の中腹にある夜景スポットへと向かう道すがら、天久保さんから、今回の花畑さんからの手紙にはるきさんからの手紙が同封されていたことを聞いた。
夜景スポットに車を停めた天久保さんに手渡され、花畑さんが代筆したという手紙を読ませてもらった。
なんていうか……。
わずか5歳で異世界へ転移したはるきさんは、もはやあっちの世界の人になっていた。
自分の家族も、生活も、やるべきことも、すべて
「
それは僕や両親にとってとても残酷な事実だけれど──
それでも、はるきと連絡が取れて、彼女が自分の足で幸福な人生を歩んでいることがわかって安心した。
ひまりちゃんが手紙を書くことを勧めてくれたおかげだよ。ありがとう」
そう言って微笑む天久保さんに、なんて声をかけていいのかわからなかった。
黙っていたら、天久保さんは封筒から紙をもう一枚取り出して、「これが今のはるきだそうだよ」と私に見せてくれた。
そこに描かれていたのは、鉛筆のようなもので描かれたモノクロの女性の肖像画。
確かに私と同い年くらいに見えるけれど、凛として美しい貴婦人の佇まいをした大人の女性が微かに笑みを浮かべていた。
「当たり前だけど、全然違うよね」
天久保さんの苦笑いの意味がすぐにはわからなかった。
「大人になったはるきを想像できなくて、僕が勝手に作り上げたイメージをひまりちゃんに重ねていたことに改めて気づかされた。
迷惑だったよね。本当にごめん」
頭を下げられて、慌ててしまった私。
「でも、そのおかげで天久保さんとお話するきっかけができたし、それはそれでラッキーでした!」
フォローのつもりが、告白のダメ押しみたいなことを言ってしまった!!Σ(゚д゚;)
次の言葉が出てこなくて焦っていると、天久保さんは穏やかに微笑んで。
「過去にいつまでも囚われていては、運命を受け入れてしっかりと人生を歩んでいるハルキに取り残されてしまうからね」
って。
そこからどんな話の展開になるのか見当がつかず、心臓の音が爆発しそうに響く中で待っていたら……
天久保さんはおもむろにポケットからピンクこえだちゃんを取り出した!!
その謎行動が理解できなくて固まっていると、こえだちゃんをフロントガラス越しの夜景にかざして愛おしそうに眺める天久保さんはこう言った。
「次に手紙を書くときには、このこえだちゃんを同封してハルキに返そうと思うんだ」
それを聞いて、ようやく「大切にしてたのに、いいんですか?」って言葉が出た。
天久保さんは、こえだちゃんから私に視線を移す。
「いいんだよ。僕にはもっと大切な存在ができるような気がするから」
その言葉に続いたのは──
「ひまりちゃん。僕とお付き合いしていただけませんか」
心臓を貫かれたかのような衝撃を受けた!!!!!
「喜んで」って言おうとしたのに、込み上げてきた涙に邪魔されて声が出せなくって。
頷いた私の頭を天久保さんは「よろしくね」って優しくぽんぽんと撫でてくれた。
私の涙と気持ちが落ち着いてから、山を下りて市街へと戻った。
車の中で天久保さんから、私の言葉を受けてこの一週間考えていたことを伝えられた。
私をはるきさんのイメージと重ねていたのは、年齢や名前の漢字が同じだとかそういうことではなかった、私に対して少なからず好意を持っていたその理由を無意識にそこに当てはめていたんだ、って。
「好きになるのに理由なんかいらないはずなのに、自分自身に説明がつくようにわざわざ理屈を当てはめるあたり、僕も頭が固いよね」
そう苦笑いする天久保さんに「こえだちゃんを使って転移メカニズムをわかりやすく解説したり、吾妻さんの畑でボーッとしたり、農作業のお手伝いしたり、そういう天久保さんの固くないところが私は大好きです」って伝えたら、「ありがとう」って手を握られたっ!(//∇//)
手を繋いだままドライブした後、市街に近い場所にあるイタリアンで食事をした♡
次はデートでどこに行きたい?なんて話をしながら、夢のような時間を過ごし、地に足が着かないまま自宅まで送ってもらった。
こうして、最高に幸せな一日を終えようとしているわけだけれど──
最後に彼女に伝えたい。
ハルキさん
どうか安心してください。
あなたが
いつか私もあなたに手紙を書きたいと思います。
あなたが誇りに思えるほど素敵なお兄さんのこと、いっぱい伝えますね♪
ハルキさんも、愛するひとといつまでもお幸せに!
(toward the end with AMAKUBO おわり)
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