6月15日(木) 天久保さんが泣いた
天久保さんが泣いた。
あの反応は予想外すぎて、私はどう返したらいいのかわからなかった。
出張から戻ったはずの天久保さんに会いたくて、意味もなくトイレに立つ振りをしては、研究棟までお散歩に行って。
ようやく研究室から休憩に出てきた天久保さんに偶然会ったフリをして、挨拶をして。
久しぶりの天久保さんスマイルに逸る気持ちを押さえつつ、自販機コーナーまで一緒に歩いて。
ソファに座った天久保さんに、こえだちゃんの話を振った。
「週末に家の片づけをしたら、私が小さい頃に遊んでいたこえだちゃんと木のおうちが出てきたんです! 私のこえだちゃんも、天久保さんのと同じピンクの髪のこえだちゃんだったんですよ!」
そう伝えただけだったのに。
座ったままで私の顔を見上げた天久保さんの目尻に涙が浮いて、ひとすじ流れた。
「そうだよね。梅園さんは、“ピンクこえだ” の世代だよね」
鼻をすすってそう微笑んだ天久保さんの端正な顔は、嬉しそうな、悲しそうな、なんとも表現しがたい表情に崩れていた。
「今度ゆっくり話をしてもいいかな?」
天久保さんの誘いに頷いて、「はい」と言うだけで精いっぱいだった。
それ以上は触れちゃいけない気がして、会釈をして立ち去った。
あの涙は一体なんだったんだろう……。
今度ゆっくりする話って、一体どんな話なんだろう……。
私はこえだちゃんの話を振ってよかったんだろうか。
天久保さんのお誘いに、「はい」って答えてよかったんだろうか。
天久保さんとこえだちゃんの話で盛り上がって、ウキウキする自分を想像していたのに。
ゆっくり話したい、なんて言われたら天にも昇る気持ちになったはずなのに。
こんなモヤモヤした気持ちになるなんて、全く予想してなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます