6月20日(火) 花畑さんがっ!!


 今日、研究所に激震が走った!!




 花畑さんが、異世界転移した!!!




 とは言え、私はその転移の瞬間を見てはいないんだけど、花畑さんの観察が趣味で3階の窓から眺めていたミキちゃんと、駐車場に居合わせた数人が目撃していた。


 ミキちゃんの話を聞くと、いつも通り花畑さんは出勤してすぐに愛車のチェックを始めて、真っ黄色の傘を差したまま白い角張ったセダンの周りをうろうろ回り始めたんだって。


 そこでミキちゃんは、あることに気づいたらしい。

 花畑さんの回り方が、いつもの逆方向だということに。


 いつも時計回りで車の周りをチェックしている花畑さんが、今朝に限ってなぜか反時計回りで歩き始めたんだって。

(ていうか、花畑さんが回る方向までチェックしていたミキちゃんに私は驚くけど)


 そしたら、3周ほど回ったところで、花畑さんや愛車の周りが火花のようにチカチカと点滅しだしたんだって!

 最初は気のせいかと思ったけど、点滅の頻度も箇所も多くなってきて、最後には光の帯のようになって花畑さんと愛車を覆い隠して――


 一瞬ビカビカッ!!って激しく光ったから、ミキちゃんも思わず目をつぶって――



 その直後に目を開けてみたら、花畑さんと彼の愛車が跡形もなく消えていたんだって!!!



 私がバスで出勤してきた時にはすでに花畑さんが転移した後で、駐車場に人だかりができて騒然としていた。

 いろんな研究チームがいろんな計測器を持ち出して、雨の中でいろいろ測定していて。

 まさか、この研究所内で転移が起こるとは誰も予想してなかったみたい。



 と、思っていたら、花畑さんと同じ “特異点解析研究チーム” の谷田部さんが昼休みに松代さんのとこに来て話してるのが聞こえたんだけど……。



 花畑さんは、特異点、すなわちこちらの世界と異世界の時空の接点で起こる異常現象を人工的に作り出すシミュレーションを担当していたから、自分自身の身をもって特異点を作り出していたんじゃないか、って。


 ズボンの片裾を挟んだスクールソックス。

 真っ黄色の傘。

 年代物の白いセダンの周りをぐるぐると回る行為。


 全部、シミュレーションだったのかも、って……




 そこで素朴な疑問がひとつ。

 リルリルフェアリルは特異点の創出と何か関係があったのだろうか。

 あれは花畑さんの単なる趣味だったんだろうか……





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